第四話「コッペリア」



 ナグサは驚くを通り越して、関心の域に入っていた。ここで探し人マナ氏の名前を聞く事になるとは予想外であったけれど、ついさっきまでのドタバタから開放されたのと思考がかなり冷静になっているからだ。
 ハスは思ったよりも冷静なナグサを意外そうに見る。

「驚かないね」
「これでも結構驚いてるよ? たださっきまでのドタバタで変に落ち着いててね」
「それじゃマナ氏がどういう人か知ってる?」

 ナグサは首を左右に振る。

「そう。まぁ、マナ氏はかなり変な人だからね」

 ハスの言葉にナグサはそこまで変人なのかと疑問に思う。クウィンスから聞いたのはトレヴィーニ封印の第一人者という事だけ。彼がどういう人物なのかは聞いていなかった。秘密主義者というのは知っているが、一体どういう人物なのだろうか。
 疑問に思った事をこの際だからと、ナグサは尋ねてみる事にした。

「マナ氏ってどんな人なの? 魔女を封印させた魔術師って聞いたけど」
「変な人。優しいのか、優しくないのか分からない」
「は?」
「……あの人は中途半端に優しいんだよ。誰かを助けるけど、最後まで面倒を見ない人。凄い気まぐれで、凄い残酷な人。人が好きだけど、結局は自分本位の人。傷を癒して、傷を深める人。凄く矛盾した人」
「何それ」
「彼は戦争の中でしか生きられない人。戦争の中でしか生きる事を許されなかった人。とても、哀しい人。それが僕の知っているマナ氏だよ」

 ナグサは意味が分からなかった。ハスの話の中のマナ氏がどういう人物なのか分からなくなってきたのだ。
 優しいけど残酷で。傷を癒すけど深めて。人が好きで、でも自分本位で。戦争の中でしか生きられないのに戦争を終わらせた。何もかもが矛盾している。
 大戦時代はただ逃げ惑う事しか出来なかった一般人の自分には分からない。戦争終結を行ったカービィがどういう人物なのか把握できない。本当にカービィなのかと疑いそうになる。

「混乱してる?」

 不意に話しかけられ、ナグサは顔を上げる。ハスは先ほどと変わらない無表情のままだ。彼独自の性格なのか、幽霊だからなのかは分からないが自分よりもよっぽど落ち着いている。

「……少しだけね」
「そう。なら覚えておいて。マナ氏の性格の悪さは魔女を超えるってね」

 その一言により、マナ氏に会いたくないと思ってしまった戦争大好き凶悪魔女よりも性格が悪いってサディスティックにも程があるだろ。
 だがどちらにせよ、今はこの幻想空間である屋敷から抜け出す事が先決だ。マナ氏の性格にガックリしている暇は無い。

「話を戻そう。犯人はどういうわけか魔女以上のサディスト大王マナ氏を求めているんだよね?」
「……誰もそこまで言ってないんだけど」
「それじゃ、次は不思議の粉だ。犯人はそれを使って、この屋敷を生み出している。それでいい?」

 ナグサ、ハスのツッコミをスルーしながら確かめる。ハスは黙って頷く。

「そうか。それなら動機と証拠を見つけないとね」
「え?」

 意味が分からず、キョトンとするハス。ナグサは帽子とめがねのズレを整え、日記を再び手に取る。

「僕達が今分かっているのは推測から基づいたもので、しかも少なすぎる情報だけだ。証拠になれるのはこの屋敷が危険だと書いているこの日記と無数のぬいぐるみだけ。だから見つけ出さなきゃいけないんだ。僕らの知らない事を、この屋敷から一つ残らず」
「……でもローレンやカルベチアがいる」
「カルベチアはミルエちゃんが足止めしてる。ローレンについては会ってから考えるよ。逃げ足には自信があるんだ」

 ナグサは不安気なハスに強い自信をもって返すと、ドアノブに手をかけてドアを開ける。
 ドアを開けた先にあったのは、

「やっほー☆」

 シザーマンでした。

「間違えました!!」

 ナグサ、ドアが壊れるぐらいの勢いで閉めました。
 暫しの沈黙が流れる中、ナグサとハスはゆっくりと顔を合わせる。

「……ねぇ、さっきの何?」
「鋏構えたローレン」
「鋏にしてもアレでかすぎない? カービィの身長超えてたよ?」
「僕も知らないよ。ってかどうすんの?」
「窓から逃げる」

 キッパリ言い切ったナグサはそう言ってドアから離れようと一歩踏み出した。
 直後、ドアから鋏の刃が突き出てきた。しかもナグサの真横に。動いてなかったら確実に刺さってた位置だ。手ごたえが無かったからか、鋏はすぐに引っ込められた。

「な、なな……」

 あまりにいきなりすぎるそれにナグサはショックのあまりその場にへたり込む。すると今度は真上から鋏が突き出され、帽子にかすった。

「うわぁ!!」

 ナグサはすぐさまドアから離れ、窓の近くに逃げ込むと何時でも外に出れる体制になる。ドアに再度顔を向けてみる。鋏は引っ込んでおり、二つの真新しい大きな裂け目があるだけだ。
 今度はどうするつもりだとナグサは窓に手を置いたその時、ドアが普通に開いた。

「失礼しまーす」
「ここは学校じゃないでしょうが!!」

 警戒していてもツッコミを入れてしてしまうナグサ君でした。

「……やっぱりお笑い好きなんでしょ、お兄さん」

 ナグサのツッコミを見て、小さな声で呟くのは呆れきったハス。
 当の本人はハスの呟きは聞こえておらず、部屋に入ってきたシザーマンことローレンと向き合っていた。ナグサの顔は平然としているものの、何時でも逃げ出せる状態になっている時点で焦っているのが分かる。だがここで逃げないということは何かを行うつもりだとだうこと。
 ハスはそう推測すると、ポツリと呟く。

「ここは、お手並み拝見かな」

 そう言ってハスの体がどんどんと見えなくなっていく。ちらりとナグサを見てみると目を丸くして自分を見ていた。表情そのものは変えていないが、内心はそうではない筈だ。
 ハスは「頑張って」とウインクする。同時に完全に見えなくなった。
 勝手に消えるなよ、とナグサが思う隣でローレンは不気味な微笑を浮かべながら挨拶する。

「こんにちは、僕さまは狂った御人形屋ローレン。君はだぁれ?」

 ナグサはすぐさまローレンに返し、軽く事情を説明する。

「あ、僕はナグサ。不本意ながらここに迷い込んじゃってね」
「ふぅん。僕さま達と一緒ってわけ」
「達?」

 誰の事かは既に知っているが、ここで変な事を話して警戒されたくはない。だから今は受身で行く。

「あぁ、カルベチアの事だよ。大国から逃げ出す時に出会ったんだ」
「なるほど。大国から逃げ出したって、前にニュースでやってたアレ?」
「そーだよ。隊長格のイブシが出てきた時は焦っちゃった」
「……どこまで暴れたんだよ」
「だってあの悪魔っ子と粉野郎強かったんだもん。色々と反則だよ」

 おかげで目当てのもの取れなかったと頬を膨らますローレン。こういうところはミルエに似てるなと思いながらも、ナグサは話を進める。

「それで逃げ出して、ここに迷い込んだの?」
「うん。三日ぐらい前に気づいたら麦畑の中」
「空から落ちた?」
「違うよ。通りすがりの猪車を襲おうと飛び出した瞬間」
「襲うな襲うな! ってーか猪車襲うってどこ行く気だったんだよ!?」
「グリーンズだけど?」
「色んな意味で凄く運が良かったね」
「は?」
「いや、ホントに」

 何たって怖い能力所持してる方々いるから。
 グリーンズというのは大国六大都市の一つであり、名のとおり緑が多く存在する。ナグサはグリーンズ内部の町に住んでおり、それなりに地元の人々とは付き合いが長い。その為、良く知っているのだ。のどかな街中と反比例して強者達が勢ぞろいしている事を。ちょいと裏返せば銃器だらけの図書館とか、森林自動製作能力保持者とか。
 いくら危険人物でも無事で済むかどうか分からない。

「本当に君は運が良かったよ。うん、良かった」
「意味分かんないんだけど」
「分からなくていいよ。ところでさ、ここに来てからの話をそろそろ聞かせてくれないかな?」
「どーして?」
「抜け出したいからだよ」

 ナグサがそう答えた途端、ローレンの顔が途端につまらなそうな表情に変わった。

「……何で?」
「え?」
「何で抜け出さなきゃいけないのさ? こんなに人形だらけで、怒る奴もいない。邪魔な奴もいない。とっても素敵な場所なのにさぁ。どーして君もカルベチアもそんな事言うの?」

 ローレンは明らかに嫌そうな顔をしている。それを見たナグサは内心舌打ちする。どうやら普通に話してもローレンにはあまり伝わらないようだ。
 状況を早くどうにかしたい。ならば、この男を襲い掛かってくる前に説得するしかない。
 ナグサは内心で覚悟を決めて、あくまでも平然とした顔つきでローレンに答えた。

「飽きちゃうからに決まってるでしょ?」
「飽きる?」

 思わぬ言葉にキョトンとするローレン。
 ナグサは頷くと、怒涛の勢いでほぼ一方的にマシンガントークを繰り出した。

「ちょっと見てきたんだけどさ、ここってシルクハットを被ってるぬいぐるみや召使っぽいぬいぐるみが大半で種類は少ないでしょ? 最初は沢山あるから遊びまくれるけどさ、あんまりにも似たようなのが多かったら似たような遊びしか出来なくないかな? ならそれよりもさ、外に出て他の物を探した方がずっと良いよ! 外の世界にはたくさんの人形があるからさ! ロボット、猫耳っ子、うさ耳っ子、ツンデレ、半魚、魔法使い、眼鏡っ子、奇形っ子、薔薇乙女、コピー人形、などなど! さらにだ。ここで一部お持ち帰りしてしまえば、レパートリーが増える!! 召使はパッと見て地味に見えるが実はメイドさんやらコックさんやら執事さんとかがいるし、この屋敷にはシルクハットの紳士系もたくさんある!! そっち系の材料には困らないし、何よりも失敗してもどーにかなる!! だからこそいっぱいお持ち帰りして、もしもの時に備えようじゃないか!! 備えたら、やる事はたった一つ! 外の世界に飛び出し、人形達を増やしていく事だ!! 無限の可能性と人形を求めて外に出ようじゃないか! さぁ、ローレン! 狂った御人形屋は一箇所に留まるものじゃないだろ!?」
「え、あ、ほえ?」
「さぁ、答えるんだ! 狂った御人形屋のローレンよ、無限の可能性を取るか取らないか!!」

 あまりにも勢いがありすぎて、尚且つ息を切らさずに畳み掛けていく巧みな話術は最早魔法のレベル。聞かされてしまった者は相手のペースに囚われてしまう。
 どんなに言い返したくても相手のオーラに負けてしまい、言葉が出てこない。出来るのは軽い返事だけ。それはローレンも例外ではなかった。

「あ、えと、その……うん」
「ありがとう。それじゃ一緒に行こうか」

 呆然と頷く事しか出来ないローレンを見て、ナグサはすぐに何時もの真面目顔になってドアから廊下へと出ていった。ローレンは呆然としながらも、とりあえず着いていくしかなかった。
 一部始終を黙って見ていたハスは口をぽかーんと開けたまま、二人の後姿を見る事にしか出来なかった。

「く、口先の魔術師……」

 ナグサは称号『口先の魔術師』を手に入れた!

 ■ □ ■



 ローレンを説得(というのか?)したナグサは彼に案内してもらい、三階の突き当たりの部屋の前に立っていた。

「この部屋に色々とあるの?」
「うん。カルベチアが見つけた資料室。何でかここに色々なものが集められてるの」
「ふーん、なるほどねぇ……」

 あの日記の事もあるし、恐らく自分達同様迷い込んだ者が脱出の為の鍵を探していたんだろう。
 ナグサはそう推測するとドアを開けて部屋の中に入る。
 全体的に桃色の部屋には可愛らしいプリンセスベッドが中央に置かれており、ベッドを囲むようにパステル色の可愛らしいぬいぐるみやアンティークドールなどが無造作に放置されている。ふと机や鏡台に目を移してみると、その上には多くのノートや日記、シルクハットを被った人形など様々なものが置かれている。ここだけ部屋とは不釣合いだ。
 あまりにも女の子な部屋にナグサは思わず顔をしかめる。

「うっわぁ、女の子過ぎる。まるでピーチパイだ」
「何言ってるの、ピーチパイなんて無いよ」
「物の例えだよ」

 簡単に返してからナグサは鏡台の前に行き、無造作に置かれている日記を手に取ろうとして気づく。日記の横に様々な事が書かれたメモ帳が置かれている。
 すぐにメモ帳を手に取り、中身を読み始める。

『ある程度の部屋を調べてみたところ、やはり人形しか住民はいない。人形=元カービィ?』
『日記を読んだところ“あのお方(あなた)”に相当ご熱心。=あのお方(あなた)を探している?』
『あのお方(あなた)=シルクハットで強い魔術師=マナ氏の可能性が高い』
『恐らくMahouの粉を所持しており、その力で現在人々を閉じ込めている』
『日記帳を読む時はある意味覚悟がいる』
『ほとんどの人形が小さいが、一階のとある部屋の人形だけはカービィサイズ』
『ベッドを開く時はご用心』

「……何が言いたいんだよ」

 思わずツッコミを入れてしまった。
 前半は既にハスに聞いた部分だが、後半は初耳だ。特に最後のは本当に意味が分からない。ベッドというのはこの部屋のプリンセスベッドの事だろうか?
 ナグサはプリンセスベッドに目を移す。そこではローレンが布団をもぎ取ろうとしている寸前だった。ナグサ、思わずツッコミ叫び。

「何やってんだーーー!!」
「いや、布団の中膨らんでるから何かあるかなーと思ったんだよ。何か人形あるかな~?」

 ローレンはナグサの制止を無視して、思い切り布団を剥ぎ取った。そしてキョトンと呆気にとられた様子で呟いた。

「……女の子?」
「何だって!?」

 ナグサはすぐさまローレンに駆け寄り、布団の上にあるものを目にした。
 それは、生気が無くなった顔で眠る少女。桃色の体色が特徴的で、何も身に着けていないけどその顔にはナグサは見覚えがあった。姿も大きさも違うけれど、先ほど出会った人形のちるに瓜二つなのだ。

「……これは、一体」

 唖然とするナグサ。恐る恐る少女に手を伸ばし、手に触れてみる。氷のように冷たい。ピクリとも動かない。瞼も閉じられていたし、恐らくこの少女は。

「死体……」
「いや、見れば分かるよ」
「君はそうでも僕は違うの。というかツッコミ入れるタイミング読んで」

 ローレンのツッコミに若干真面目に返しながらも、ナグサはメモ帳の『ベッドを開く時はご用心』の意味を良く理解した。そりゃびびるわ。
 少女の死体から手を放し、ナグサはメモ帳の続きを読み出す。

『少女の死体=日記の主と断定』
『少女らしき影が複数発見=少女の霊魂?』
『人形まで発見。一体何がどうなっているんだ、この屋敷は』
『少女はコッペリアになって彷徨っているのか? コッペリアにするとなんともおかしなものだ。男と人形が逆さまだ』
『どちらにしろ、鍵を握るのはコッペリア』

 コッペリア。その名前はナグサも知っている。とあるお話の中に出てくる人形少女の名前だ。さっき呼んだ日記帳に書いてあった「コッヘ」も恐らくコレの事を言っているのだろう。
 このメモから読み取ると例の粉(Mahouの粉というらしい)の魔力は非常に高く、その影響で死体の少女が霊魂もしくは人形になって彷徨っている。それだけならまだ良いものの大迷惑な事に意味不明な屋敷を作り出して、探し人のマナ氏に類似したカービィをどんどん飲み込んでいっている。しかも何が気に食わないのか、ほとんどのカービィを人形に変えていっている。明確な証拠は無いが、一番しっくり来るのがこれしかない。
 だが少女の何がここまでさせているのかが分からない。日記を読む時には覚悟がいるとも抱えていたが、それと関係があるのだろうか。
 ナグサは机へと戻り、日記を手に取って開く。が、すぐに勢い良くバァァァンっと大きな音を立てて閉じた。いきなりの大きな音にローレンがびっくりして転げる。

「ほわっ!? え、どうしたの?」
「……これはひどい」
「へ?」
「ひどい。ひどすぎる。あまりにもひどすぎる」
「意味分かんないよ?」

 頭に?マークを浮かべるローレンに対し、ナグサは黙って日記を大きく開いて見せた。そこに書かれていた内容にローレンは思わず顔をしかめた。

『どうしてあなたは消えてしまったんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは私を見てくれないんですか。どうしてあなたは私を愛してくれないんですか。どうしてあなたは私以外の人を見ているのですか。どうしてあなたは私を愛してくれないんですか。どうしてあなたは私を外に出してくれないんですか。どうしてあなたは私を見てくれないんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは消えてしまったんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは私を見てくれないんですか。どうしてあなたは私を愛してくれないんですか。どうしてあなたは私以外の人を見ているのですか。どうしてあなたは私を愛してくれないんですか。どうしてあなたは私を外に出してくれないんですか。どうしてあなたは私を見てくれないんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは消えてしまったんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは私を見てくれないんですか。どうしてあなたは私を愛してくれないんですか。どうしてあなたは私以外の人を見ているのですか。どうしてあなたは私を愛してくれないんですか。どうしてあなたは私を外に出してくれないんですか。どうしてあなたは私を見てくれないんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは消えてしまったんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは消えてしまったんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは私を見てくれないんですか。どうしてあなたは私を愛してくれないんですか。どうしてあなたは私以外の人を見ているのですか。どうしてあなたは私を愛してくれないんですか。どうしてあなたは私を外に出してくれないんですか。どうしてあなたは私を見てくれないんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは消えてしまったんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは私を見てくれないんですか。どうしてあなたは私を愛してくれないんですか。どうしてあなたは私以外の人を見ているのですか。どうしてあなたは私を愛してくれないんですか。どうしてあなたは私を外に出してくれないんですか。どうしてあなたは私を見てくれないんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは消えてしまったんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは私を見てくれないんですか。どうしてあなたは私を愛してくれないんですか。どうしてあなたは私以外の人を見ているのですか。どうしてあなたは私を愛してくれないんですか。どうしてあなたは私を外に出してくれないんですか。どうしてあなたは私を見てくれないんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは消えてしまったんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは消えてしまったんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは私を見てくれないんですか。どうしてあなたは私を愛してくれないんですか。どうしてあなたは私以外の人を見ているのですか。どうしてあなたは私を愛してくれないんですか。どうしてあなたは私を外に出してくれないんですか。どうしてあなたは私を見てくれないんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは消えてしまったんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは私を見てくれないんですか。どうしてあなたは私を愛してくれないんですか。どうしてあなたは私以外の人を見ているのですか。どうしてあなたは私を愛してくれないんですか。どうしてあなたは私を外に出してくれないんですか。どうしてあなたは私を見てくれないんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは消えてしまったんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは私を見てくれないんですか。どうしてあなたは私を愛してくれないんですか。どうしてあなたは私以外の人を見ているのですか。どうしてあなたは私を愛してくれないんですか。どうしてあなたは私を外に出してくれないんですか。どうしてあなたは私を見てくれないんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは消えてしまったんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは消えてしまったんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは私を見てくれないんですか。どうしてあなたは私を愛してくれないんですか。どうしてあなたは私以外の人を見ているのですか。どうしてあなたは私を愛してくれないんですか。どうしてあなたは私を外に出してくれないんですか。どうしてあなたは私を見てくれないんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは消えてしまったんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは私を見てくれないんですか。どうしてあなたは私を愛してくれないんですか。どうしてあなたは私以外の人を見ているのですか。どうしてあなたは私を愛してくれないんですか。どうしてあなたは私を外に出してくれないんですか。どうしてあなたは私を見てくれないんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは消えてしまったんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは私を見てくれないんですか。どうしてあなたは私を愛してくれないんですか。どうしてあなたは私以外の人を見ているのですか。どうしてあなたは私を愛してくれないんですか。どうしてあなたは私を外に出してくれないんですか。どうしてあなたは私を見てくれないんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは消えてしまったんですか。どうしてあなたは私を捨てたんですか。どうしてあなたは私を好きとも嫌いとも言わなかったのですか』

 何度も何度も何度も繰り返された文章。
 全てが殴り書きだが、細かくびっしりと書き込まれている。それが余計に恐ろしさを感じさせ、日記の主がどこまで狂っていて尚且つ病んでいるのが伝わってくる。
 「あなた」を愛しすぎて、「私」は壊れてしまったのが、分かる。

「ひどいって言った意味、分かった?」
「うん。僕さまも狂ってる自覚はあるけど、こっち方面はあんまり面識が無かったよ。ここまでハッキリとしたヤンデレは初めて」

 ローレンはニィッと口を三日月のような形にして笑う。あまりにも不気味で、気味が悪い。だけども、その仕草は、子供の笑顔は先ほど別れたばかりの女の子と何処となく似ていた。
 だからこそ、ナグサはホッとする。

「……君のノリがミルエちゃんに似てて助かったよ」

 そうじゃなかったら、自分を保てたかどうかも分からないのだから。
 普段ならここまで冷静になれないだろうし、第一こんな事態に巻き込まれたら確実にパニックになっていた。いや、それよりもここに平然と立っている事が奇跡なのだ。
 だって否定の魔女と対峙して言い返せたのは、たまたま出会った彼女のおかげなのだから。
 女の子の前で情けない姿を見せたくなかったのか、良い格好を見せたかったのかどうかは自分でも分からない。ただ、あの時は否定の魔女から守ろうと必死だったのだから。
 そこまで考えてふっと気づき、ナグサは思わず声を上げた。

「って、それじゃ僕がミルエちゃんの事好きだって思ってるようじゃないかぁ!!」
「は?」

 いきなり叫んだナグサにローレンが間抜けな声を出した。
 その声を聞き、ナグサも自分が墓穴掘った事実に気づき、慌てて日記を開いて誤魔化す。

「さ、さっきのページ以外のところも調べないとね!」
「……」

 あぁ、冷たい視線が痛い。
 ナグサはローレンの呆れきった視線から逃れようと日記を眺めていく。

『あのお方といろいろな話をした』
『あのお方から魔法について教えてもらった』
『あのお方の意外な趣味を知った』
『あのお方の好きな料理と嫌いな料理について』
『あのお方から戦争についての恐ろしさを教えてもらった』
『あのお方が元大国直属魔術師だって聞いた時は驚いた』
『あのお方から否定の魔女について教えてもらった』
『何時か、あのお方と結ばれたい』

 ほとんどが熱狂的なラブコールだ。そんなにあのお方の事が好きなのか。
 あのお方はこれまでの話からしてマナ氏に間違いはないのだろう。しかしハスの話を聞いた後では、かなり違和感がある。

「美化してるんじゃないだろうな、この子……」

 そう呟いてしまうぐらいの熱血ラブコール日記。見てて何か胸がきつい。
 パラパラとめくっていくと、ページの中に一枚の写真が挟まっているのを見つけた。ナグサは写真を手に取る。マントのついたシルクハットを被った白色の男性とベッドで体を起き上がらせている桃色の少女が写っている写真だ。男性は社交的な笑みを、少女は心からの笑顔を浮かべている。
 写真に写った少女は死体の少女と瓜二つなところから見て、同一人物には間違い無いだろう。もう一人の男性は話の前後から推理すると、恐らく。

「……この人がマナ氏」

 やっと姿を見る事が出来た、最強の魔術師にしてコッペリアが望む最愛の人。姿だけ見れば何処にでもいそうな魔術師だ。だけど、その表情は何処か儚くて、少女とは別のものを見ているように感じられた。
 何だろう。なんともいえない違和感を写真から感じてしまう。だけど、今は分からない。
 ナグサは何らかの手がかりになるだろうと思い、写真を拝借した。色々と不安だが、多少の危険は覚悟しないとやっていけない。
 ページめくりを再開していく。相変わらず熱血ラブコールばっかりだ。だが、めくっている最中に見つけたあるページで手を止めてしまった。
 そこには、こう書かれていた。

 ■ □ ■


「あなたは、私の相手にはなれない」

 覚えている。しっかりと覚えている。

「私もまた、あなたの相手にはなれない」

 あなたが私の手を振り払った事を。

「私は約束を破ってしまった最低の男」

 あなたが私の下から去った事を。

「あなたは約束を守れない哀れな女の子」

 生まれて初めて、憎いと思った事を。


 ■ □ ■

 真っ赤な文字で書かれているのは、たった数行の文だけだ。
 特に「憎い」という字は何度も何度も強く書かれており、迫力がある。その次のページには最初に開いてしまった「どうして」連呼ページとなっている。
 よほど強く愛していたのだろう。だから、壊れてしまった。

「……」

 ナグサは黙って日記を閉じ、頭の中でこれまでの情報を纏めていく。
 ・少女=コッペリア。ちると類似している理由は不明。もしくはちる=コッペリア?
 ・マナ氏に熱血ラブ。ただしマナ氏が去った事により病んだ。もしくは壊れた。
 ・少女自身は死亡しているが、屋敷内を霊魂が彷徨っているらしい。
 ・Mahouの粉を悪用してマナ氏を探し続けている。
 ・シルクハットの人形はマナ氏と間違われて捕まった元カービィと推測。
 ・ただしその条件に当てはまらない自分達とハスについては理由が不明。
 ・一階のとある部屋にある人形はカービィサイズ。調べてみる価値がある。
 ・屋敷=コッペリア? どういう意味かは分からない為、保留。

「……情報については十分揃った。次は別の部屋の探索だ」

 一番気になるのは一階にあるらしいカービィサイズの人形だ。
 ある程度の情報は揃ったけど日記とメモ帳も念の為に拝借してから、ナグサはローレンに話しかける。

「ローレン、一階に行こう。情報は揃ったよ」

 人形を鋏で切り刻んで遊んでいたローレンが顔を上げる。

「あ、分かった。定期的に移動しないとやばいからね」
「やばい?」
「知らないの? あんまり一箇所に留まってると、くるんだよ」

 来るって何がだ。そう尋ねようとしたその時だった。

『みぃつけた……』

 背筋が凍るような冷たい少女の声が聞こえてきたのは。
 ナグサとローレンが同時に振り向く。そこには青い帽子を被った桃色の少女が窓の近くに浮いていた。体が半透明なところからして、ハスと同じ幽霊なのだろう。そして、姿からして間違いなく。

「……少女の霊魂か」
「うん。直接攻撃は出来るけど、怯ませる事しか出来ないから」

 ローレンはそう言うと巨大鋏をどこからともなく取り出して、少女の霊魂に突きつける。
 少女の霊魂は笑みを浮かべる。何の感情も乗っていない形だけの笑みを。

『あなた達も、あの二人のようにしてあげる。あの女の子と偽者さんと』

 その言葉を聞き、ナグサはハッとする。
 シルクハットを被ったカービィ=マナ氏の偽者だと。これまでの情報から、それがどういう意味なのか、分かったのだ。
 即ちミルエとカルベチアは――――。

「……ミルエちゃんに何をしたああああ!!」

 ナグサが怒りをあらわにして少女の霊魂に向かって叫んだ。

『ふふ、すぐに分かるよ』

 少女の霊魂はただ形だけ微笑んだ。

 ■ □ ■



 さて、第一の戦闘が終わり、第二の戦闘が始まろうとしている一方で人形コンビは何をしているのかと言うと。
 ちるを頭に乗せたツギ・まちが広い屋敷の廊下を歩いている。廊下には多くの絵画が飾られている。部屋も沢山あり、下手に入り込むと迷子になってしまいそうだ。

『そのまま真っ直ぐ進んで。今は大丈夫だけど、下手に寄り道してるとあの子が出てきちゃうから』
「?」

 唐突に出てきた単語に歩きながらも不思議そうな顔をするツギ・まち。ちるは少し戸惑った様子を見せるが、すぐに説明する。

『あ……、えとね、あの子に名前は無いの。ただ皆はコッペリアって呼んでる。大好きな人を求め続けて壊れちゃった女の子』
「~~」
『どうしているのかって? ……ごめん。それは、言いたくないの』
「?」

 言いたくない。それはどういう意味なのかと首を傾げて聞いてみるけれど、ちるは何も答えない。
 何か知っているのだろう。だけどどうして口にしないのだろうか。聞かれたら嫌なものなのだろうか。ツギ・まちの中で疑問が膨れ上がっていく。
 だけど今ちるから聞くのは無理だろう。とりあえず今は何処かに向かい、落ち着いた方が良いだろう。

「~~。~~!」
『え? なら、今は何処に行けばいいか? ……何処が良いかな。今は何処に行っても大丈夫だし』
「??」
『ごめん、言いたくないの。でも、今は大丈夫なのは確かだから。だからツギ・まち、行き先はあなたが決めて』

 そう言って口を閉ざすちる。ツギ・まちは益々首をかしげる。
 助けてほしいと叫んだのは彼女だ。だけどひたすらに何かを隠している。彼女は何者なのだろうか? 自分に何をしてほしいのだろうか? 何も分からない。ただ、ちるは自分に何かを求めているのは確かだ。 
 ツギ・まちは今は口を閉ざし、ただ廊下を歩いていく事にした。
 無言のまま、廊下を進んでいく。有名な絵画がずらっと並んでいる。ぽつりぽつりと床の隅にはシルクハットを被った人形達が転げている。何でシルクハットばかりなんだと思う。

『コッペリアが人形にしちゃったの。コッペリアは大好きな人がいるけど、人形も大好きなの。だからね、大好きな人に似てるけど違う人達を人形にしているの。……シルクハットを被った人形は全部そうだって思っていいよ。その証拠に皆の声、聞こえないでしょ?』

 ちるが心を呼んだのか、説明をしてくれた。ツギ・まちは意識を集中し、声を聞こうとする。だが彼女の言うとおり一言も聞こえない。無音のままだ。
 カービィから人形になったのが原因なのかどうかは分からないが、少なくともツギ・まちの知っている普通の人形では無いのは確かのようだ。
 ちるの言っている事が本当ならばコッペリアはかなり強い魔力を秘めているという事になる。だが、それでは一つの矛盾点が出てくる。それはツギ・まちが魔力を感知出来なかった事。こんな芸当魔法でしか出来ないというのに、どうして魔力を感知出来ないのだろうか?
 疑問は尽きないけれど、今はどんなに悩んでも答えが出てこない。

 ■ □ ■

 暫く進んでいくと、廊下の突き当たりにて一つの頑丈な扉を見つけた。ほとんどの扉が木製だったというのに、そこだけは真っ黒な鉄と赤い鎖で形成されている。
 扉に近づき、ドアノブを押したり引いたりしてみる。扉があまりにも重すぎて動かせなかった。ツギ・まちが力を込めて再び開こうとした時、ちるがそれを止めた。

『無駄だよ。今、コッペリアはいない。だから誰にも入る事は出来ないの』
「?」
『ここはコッペリアだけの部屋。コッペリアにしか入れない部屋。……コッペリア以外が入れるとすれば、あの人だけだと思う』

 あの人、つまり大好きな人の事だろう。
 まったくもって厄介な相手だとツギ・まちは思った。何故かちるはコッペリアがここにはいないと言っている為、多分襲われる事は無いだろうが進めないのでは意味が無い。
 ナグサとミルエもいない今、ここは待つべきかそれとも戻って合流するかも悩み所。どうしようかとツギ・まちは頭を悩ませる。
 その時だった。

「――マナ氏はどんなに望んでもその中には入らない。何故なら彼自身がそう言ったから」

 背後から唐突に声が聞こえてきたのは。
 鈴のように高く、水のせせらぎのように綺麗で、天使を連想させるような声だ。ツギ・まちはこの声に聞き覚えがあった。
 すぐさま振り返ると、そこにいたのは屋敷に突入する前に見たカービィだった。黒い髑髏を頭に装飾し、その頭からは悪魔の角を生やしている。禍々しさと神々しさを合わせた黒の翼を背に生やしており、白い体が全ての黒を引き立てている。その瞳は漆黒で、闇を連想させるほどに深くて、懐かしい。
 ちるは始めて見る彼(彼女?)に警戒している。

『あなた、誰……!』

 何時になく警戒しているちるに対し、彼は無表情のままゆっくりと口を開く。

「私は彷徨える魂達の還る場所」

 母なる闇と漆黒の虚無を感じさせるその姿は、神か魔王か。

「迷い子達を導く死神の長」

 その瞳は全てを見通しているような深淵の闇。

「運命の鐘を鳴らす者」

 リンと鐘が鳴る。その音色は懐かしくて、どこか切ない。

「そして」

 人の姿をした人ならざる強大な何か。

「あなたが待ち望んだマナ氏の代弁者、カーベル」

 そして、世界最強の魔術師マナ氏を知る者。








  • 最終更新:2014-11-08 18:43:19