第四十話「いざ、大国へ」






「うー、急がなきゃ急がなきゃ!」

 今、大国防衛隊が迎えにやってくるホテル前まで全力疾走をしているのは大学に通うごく一般的な男の子。
 強いて違うところをあげるとすれば、機械分野に長けているってとこかな。名前はエダム。
 そんなわけでホテルと繁華街の通り道ともなっている公園を横切ろうと走っていた。
 ふと見るとベンチに一人の珍しく衣服を身に着けた黄色い人が座っていた。
 ウホッ! いいカービィ……。
 そう思っていると突然その人は彼の見ている目の前で衣服のボタンをはずしはじめたのだ……!

「やらないか」












 次の瞬間、エダムのハリセンがナースの頭に直撃した。

「い、痛いじゃないの……。ちょっとした悪ふざけじゃない!」

 思い切り叩かれた頭を両手で抑え、涙目になりながらナースはエダムに反論する。
 しかしエダムはハリセンをナースに思い切り突きつけ、サザンクロスタウン脱出時よりも全力で反論する。

「鳥肌立ちまくりましたよ、こっちは! わざわざナース服まで持ってきてるんだからなおさら性質が悪いですよ!!」
「うちの知り合いがこっちに勤務してたから借りてきたのよ。たまにいるのよ、こういう着衣好むカービィ」
「これだけのことにわざわざ借りたんですか、あんたは!? こんなくっだんないネタをする為だけに!!」
「そうよー。それにエダムって結構私の好みだし」
「豪鉄さんの方が弄りやすくて楽しいですよ」
「あ、慕ってる人を生贄にするなんてあんたも結構鬼ね」
「あの人なら新境地に陥っても生きられる図太さがあり、僕にはそれが無いだけです!」

 偶然にもこの時既にホテル前に到着している豪鉄が妙な悪寒を感じてしまうのだが、二人は知る由も無かった。
 ほとんど本気でツッコミを入れていたエダムを他所に、ナースはベンチを飛び降りると借り物である衣服を脱ぎ捨てながら「待ち合わせ場所に行こう」という。
 エダムはそれを聞いて、誰のせいで遅れかけてるんだと怒鳴りたくなったがキリが無いのでやめた。
 そんな時、公園へと入ってきた女の子が二人に話しかけてきた。

「おーい、エダム君ナースさん何してんのー!」

 エダムとナースが振り向くと、そこには特徴的なヘッドホンをつけたソプラノが手を振って立っていた。
 いきなりのソプラノ登場にエダムが顔をやや赤くし慌てふためく隣、ナースがソプラノに答える。

「あ、いや、えと、その!」
「ちょっと遊んでただけよー。あなたも今からホテル前に行くとこ?」
「そっ。ファンに捕まってたから結構遅れちゃったけどね」
「大変だったわね、それは。あ、そんじゃ一緒に行く? 早く行かないとリーダーが怒るかも知れないから」
「そうだね。置いていかれたくないし」

 ナースとソプラノは軽く会話をかわし、そのままホテルに繋がる出入り口へと歩いていく。赤くなってたエダムは置いていかれそうになるものの、慌てて二人を追いかける。

 ■ □ ■

 ホテル前。三人が到着する頃には、既にサザンクロスタウン生還者全員+αが揃っていた。
 エダム達の姿に真っ先に気づいたログウがこっちこっちと手で呼び寄せながら、冗談交じりで呼びかける。

「急いで、お三方ー! それじゃ食い逃げトリオみたいな説教地獄を味わう羽目になりますよー!」
「ナグサのは長いから気をつけろよー!!」
「~~~!」

 それに乗っかるようにタービィとツギ・まちが続けていく。もっとも後者は喋れないので何度も頷く事ぐらいしか出来ないから。
 急かされた三人は走り出し、慌てて一同の中に入り込んでいく。
 その様子を見ていたナグサは軽い頭痛を感じ、ため息をつく。

「僕はそんなに鬼じゃないっつーの……」
「そうだよ。何たって地雷君は鬼じゃなくて爆弾大好きカービィなんだから」
「おいこら待て。何だ、そのあだ名は」
「地雷を踏むどころか機雷を仕掛ける君にはピッタリでしょ?」
「答えになってない!!」

 何時の間にかランクアップしてるあだ名にナグサはツッコミを入れる。ローレンからすれば当然の仕返しなんだが。
 やっと大国城下町ことセントラルタウンに帰れる為なのか、全員がやがやと雑談しながら迎えが来るのを待っている。そんな様子を横目で眺めながらマナ氏は呟く。

「これからが本番だっていうのに自覚が無いのですかね?」
「時間が少ない時ほど人は余裕を持ちたがるものなのですよ」
「そういうことだ。だからこのぐらいおおめに見てやれ、マナ氏」

 呟きを聞き取ったコーダが返し、カーベルが続けて言う。マナ氏はそれを聞いて特に返さず、ただ「なるほど」と呟くだけだった。
 その時だった。一同の目の前に唐突に四色に輝く巨大な魔法陣が出現したのは。
 水晶と思わせる模様をふんだんに取り入れ、古代文字なども組み込んだ如何にも魔法陣と言わんばかりの円の中心には先端に四つの水晶がついた紺色の帽子を被り、目元を仮面で隠したカービィが光と共に現れていた。
 そのカービィの出現に対し、大国防衛隊であるコーダ、ログウ、絵龍、ダム・Kが敬礼する。
 カービィもまた敬礼して挨拶した後、手を下ろして一同に確認する。

「お前達がサザンクロスタウン生還者だな? 私は大国防衛隊「魔法」を担当する六番隊隊長ルヴルグだ」

 ナグサが一歩前に出て、代表者として名乗る。尚、代表者なのは立候補ではなく大半の生還者からの推薦である。

「代表者のナグサです。それにしても隊長自らが迎えに来るなんて……」
「サザンクロスタウン周辺の閉鎖やスカイピアとレッドラム問題で人員が足りなくなってきていてな。お前達とは重大な話をしなければならないから、私が直々に来たんだ」
「そうなのですか。それじゃ早速で申し訳ないんですがすぐにセントラルへ戻れますか?」
「可能だ。とりあえず全員……」
「あ、あの~……つかぬ事をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 ルヴルグとナグサが会話を交わす中、恐る恐ると言った様子で絵龍が口を挟んでくる。
 何だろうと見ている何人かが首を傾げる中、ルヴルグはすぐに察しがついたのか絵龍に答える。

「私の転移魔法なら確実にたどり着けるから安心しろ、ウォルスのお墨付きだ。……大方そっち方面の心配をしたんだろ?」
「ぎくっ。そ、そのとーりっす」
「まぁ、あの噂が広まっているから心配されるのも分かってしまうけどな」

 見破られて叱られるんじゃないかと焦る絵龍を見て、苦笑いするルヴルグ。
 その光景を見ていてセツは意味が変わらず、首を傾げる。

「絵龍さん、一体何を心配したんでしょう?」
「目的地にちゃんとつくかどうかだよ。ルヴルグ隊長、伝説クラスの方向音痴だから部下もめっちゃ心配になるんだ」

 丁度近くにいたログウがセツに小声で答える。
 あぁ、方向音痴ならそりゃ仕方ないかとセツは納得する。
 その話が聞こえていたものの、ルヴルグは慣れているのかスルーして本題に戻る。

「それじゃこれから戻るから全員魔法陣に乗ってくれ。詳しい話はそれからだ」

 一同は巨大魔法陣の上へと次々に乗り込んでいく。
 最後の一人が乗り込むと巨大魔法陣は輝きを増していき、ルヴルグの装飾品であるクリスタルも同様に輝いていく。
 三日月島とももうお別れか、と短くも色々あった南の島に名残惜しく感じる。数名か(特にナグサとシアン)は、色々ありすぎてそれどころでは無かった事もあったが。
 ルヴルグが呪文を唱えようと口を開こうとした時、ふと思い出したように一同に振り返って注意する。 

「あ、そうだ。着いたら頭打たないようにな?」
『え?』

 一体どういうこと?
 一部を除き、言葉の意味が分からない一同が不思議がる中でルヴルグは詠唱して魔法陣の輝きを目も開けていられないほどに強めさせると、己も含めて三日月島から大国本城へと転移させた。
 その光景をホテルの屋上から虹色の輪と翼を持つ異形の死人天使であり、不揃を司る目的不明の魔女ノアメルト・ロスティア・アルカンシエルが眺めているとも知らずに。

 何を話していたかは聞こえなかったけれども、魔法陣の展開はハッキリと見えた為にどう動いたかは良く分かる。
 ノアメルトは子供のように無邪気なのに、狂人染みた化け物のように笑いながらこれからの展開がどう動くのかドキドキする。

「これで物語中盤戦が本格的に動き出しちゃうね。トレちゃんやスカイピア、反乱軍はどう動いてくれるかなー?」
「……少なくとも、死人は出るだろう」

 ノアメルトの隣からポツリと低い男の声が漏れる。
 その声を聞いて幼女が振り向き、常に色が変わり続ける可愛らしくも不気味な瞳で黒いコートを身に包んだ男の言葉の続きを待つ。
 急かす視線にも動じず、男はノアメルトに顔を向けて淡々と説明していく。

「これはれっきとした戦争だ。大規模な戦いになってはいないものの、死者は確実に出る。……否定の魔女が関わる物語で死者が出なかった事は一度も無かったからな」
「うわー、それってあなたが言う台詞? ノアね、あなたの方がトレちゃんの物語よりもずっと死者出てたと思うよ? ねぇ、神殺しの罪人さん?」

 狐のような狡賢な口調と笑みを浮かべているのに、何故かその様子はただの幼女にしか見えない。
 これが不揃の魔女ノアメルト・ロスティア・アルカンシエルが当然の如く纏っている矛盾なのかどうかは知らないが、神殺しの罪人と呼ばれた男は小さくため息をついて訂正させる。

「俺は魔女どもと違って、ただ壊しただけだ」
「いるよねー、そういう狂った馬鹿。ワンサイドゲームなんてつまんないと思うのに、自分の快楽の為だけに人も神も世界も何もかも壊しちゃうんだから」
「……俺からすればごちゃごちゃした理屈と思念を掲げて長ったらしい無駄なお話を作る魔女の思考回路が理解できんし、狂っているとしか思えん」
「ありゃりゃ、言われちゃったや。まっ、ぶっちゃけどっちも狂ってるんだよねー」

 のらりくらりとしたノアメルトの態度に男は呆れかえるけれども、こんなのもう今更だ。
 しかし男は疑問に思う。何故、ノアメルトは己を呼び寄せたのだろうか?
 魔女同士では様々なルールを自分達でつけており、ノアメルトも例外ではないのだがこうやって乱入している事は何時もの事なのでまだ良い。しかし決して己のような破壊者を呼ぶということは「つまらなくなるから」という理由でしなかった。
 それなのに今回に限って、ノアメルトは神殺しの罪人である男を呼び寄せた。目的さえ教えず、ただ協力しろと言って。否定の魔女トレヴィーニと戦えるチャンスがあると思って乗ったはいいものの、ノアメルトの不可解な行動の意味が分からない為にすっきりしない。物語がどうとか口にしているが、この矛盾そのものである幼女を信用しても良い事は無い。
 思案する男に対し、ノアメルトは何かに気づいたのか彼の終焉と刻まれた顔に手を触れて微笑みかける。

「フェイン。あなたはノアメルトの保険であり、否定の魔女という物語のとっても素敵なスパイス。……楽しませてよ、ノアメルトと物語に関わる全ての者達をさぁ」

 その微笑みは“魔女”そのものだった。可愛らしくも美しく、多くのものを魅了させる妖<アヤカシ>の笑み。
 フェインはノアメルトの手を乱暴に振り払い、呪われたその瞳で強く睨みつけてけん制する。

「俺はあくまでもお前と手を組んだだけであり、お前を楽しませる為に来たのではない」
「それでいいよ。意図的にやるんじゃなく、偶々が生んだ奇跡の方がずっと面白いんだから」

 それでも不揃の魔女はにかっと笑って答えるだけだった。

 ■ □ ■

 ルヴルグによって大国本城へと転移した一同が目にしたのは、泉だった。
 泉といっても自然の中にありそうな透明な泉ではない。かといってドブのように汚い泉でもない。まるでオーロラを取り込んだような幻想的且つ神秘的な不思議で綺麗な色をしていた。
 泉の中心には大きな受け皿があり、その受け皿が絶えず泉と同色の神秘的な水が流れていく。受け皿の更に上に取り付けられた星マークがつけられた台座があるものの、そこには何も置かれていない。
 台座を囲むように機材も何も無いというのに、複数の水が噴水のように飛び出ていて泉の美しさを強めている。
 まるで人々が持つ純粋な「夢」を泉として現したような、そんな場所だった。
 ナグサは泉の中でしばし見惚れていたものの、ふと我に返って浮遊魔法で泉の上に浮いているルヴルグを半目で見る。

「……ここがすっごく綺麗で、尚且つ滅多に見られないというのは本能的に分かった。でもさ、叩き落とすってどうよ?」
「文句言うな。皇帝陛下直々の指名だったんだ、逆らえるわけがなかろう」

 何考えてるんだ、エンペラー!
 ナグサはこれから協力しようと考えている相手を少したたきたくなったけどこらえた。
 とりあえず全員がどうなっているのか、この広い泉を軽く見渡してみる。大半が自分同様泉の中に落ちているものの、無事だ。翼が生えている者や魔法が使える者の一部は泉に落ちる寸前で飛んだので濡れずにすんでいる。そして約一名、泉の底に頭打って気絶してるのを見てしまった。とりあえず合掌を送った。

「夢の泉、ですか。……確かにここならマスコミとかそういう余計なものも無しに対話が出来ますね」
「おい、マナ氏。スターロッドはどうしたんだ? ここに隠してあるんじゃないのか?」

 マナ氏が独り納得しているのを他所に、カーベルは何も置かれていない台座を見て疑問に思う。
 そんな彼を見て、マナ氏は一瞬キョトンとした顔をするもののすぐにカーベルの言いたい事を把握するとため息をつく。

「やれやれ、冥界そのものという神といっても過言ではないあなたがこんな低脳且つ単純な事実にも気づかないとは。呆れを通り越し、悲しくなってきますよ。あなた、私がドラグーンとハイドラをパーツに別けて面倒くさすぎる条件やら場所やら、そういうのが詰まっているところに隠したのは知っているでしょう? それをスターロッドだけこんな分かりやすく尚且つ博物館のメインと思われそうな場所に置いておくと思いますか? そんな事思わないでしょうが、普通。私との付き合いは長いのですから、スターロッドもそんじょそこらとは違う場所に隠していると察しが普通につくでしょうに。あぁ、思い出した。すみませんカーベル、あなたってついつい考える前に動いてしまって惨事を起こしちゃう事が多かったですよね? 今回もそれと似たようなものだと思っておきますんで、機嫌を悪くしないでください」
「……何であなたは私の前になると、そうやって毒舌になるんだ? 私は普通に尋ねただけだろうが、この大ボケ魔法使いが」
「ボケはツッコミに対してとぼける者の事を言うのですよ。今回の場合、先にとぼけたのはあなたですからボケは寧ろあなたでしょう。ソレに対して私は丁寧且つ論理的、それでもって優しく教えてあげたのですからツッコミです。あぁ、ちなみに毒舌になってしまうのはあなたの気のせいですよ。ただあなたの前だとついつい口が動いてしまうだけで」
「嘘だ。絶対嘘だ! あなたの事だ。私を弄って楽しんでいるだけに決まっている!! あぁもう、どうしてこいつの玩具になってしまっているんだ私はーーー!!」

 それはもう素晴らしい毒舌でカーベルを圧倒するマナ氏。カーベルは何度も食らっているのか、もう嫌だと言わんばかりに叫んでいる。
 その光景を偶々近くにいたフズは顔を引きつらせ、シアンは手と手を合わせて合掌しながら冷静に分析する。

「め、滅茶苦茶弄られてる……」
「林檎飴食ってるの見た時から思っとったけど、あの人って運命的に弄られキャラだね」
「というよりもマナ氏が酷い」
「毒舌にも程があるでござるよ……」

 続けてカタストロが呆れ、チャ=ワンがカーベルに同情する。
 そこからちょこっとだけ離れた場所では黒薔薇状態のミラリムが頭にタンコブ作って気を失ったダム・Kの顔面を連続平手打ちして起こしていた。もちろん真っ赤に腫れているのは言うまでも無い。
 ダム・Kは看板で黒薔薇を怒ったけど効き目無しで、呆れるしか無かった。この子、どういう子なのかわかんなくなってきた。
 黒薔薇はというとダム・Kが無事だと分かると興味をなくしたのか、泉の周囲を見渡そうとして長い帽子の先を無駄に力強く握り締めているフーの姿を見つけた。

『何してるのぉ?』
「あっ、ミラリム。いや、ちょっとしたストレス解消」
『ふうん。まぁ、程ほどにしてあげないとその子潰れちゃうわよ? それとストレスには乳酸菌が一番よ』
「ありがと。今度試してみるよ」

 二人の会話そのものは大した事無いけれども、フーに握り締められている帽子の先ことセンターは口から泡を吹いていた。
 その異常な光景にダム・Kは思わずびびるもののオルカ戦を鏡の中から見てた為にセンターが生きてる事も知ってるので、多分何か失言しちゃったんだろうと推測して内心同情する。
 そんな時、夢の泉から何処からともなく光の板が浮かび上がり、階段を作り出していく。
 体が痛くなるほど高い高い階段が作り上げ終わった時、上からカツンカツンと誰かが降りてくる音が聞こえてくる。それも一人や二人じゃなく、それなりに人数がある。
 誰もが来る人物について察しがついており、階段をただ見つめているだけ。
 徐々にだがその姿が見えてきた。大体十人ぐらいはおり、その大半が誰もが見た事のある人物であった。
 それもその筈。降りてきているのは一番隊隊長イブシ、二番隊隊長&副隊長飛燕と零式、三番隊副隊長シルティ、四番隊隊長ホワイト、五番隊副隊長レイム、六番隊副隊長ウォルス、大国直属占い師ネビュラ、そして大国を統一する皇帝陛下こと通称エンペラーという大物中の大物揃いなのだから。
 一般隊員でしかない絵龍、ログウ、ダム・Kは皇帝+隊長格全員集合に慌てふためく。

「ちょ、隊長格全員来てるの!?」
「し、しかも陛下までいるし……!」
『心臓耐え切れるかどうかわからん!』
「……君達、慌てすぎ」
「大国防衛隊がこの程度の事で慌てすぎだ。ちょっとは落ち着け」

 一方で慣れている隊長二名はそんな隊員達を宥めている。
 初っ端から大物勢ぞろいには各人驚いている中、先頭で階段を下りていたエンペラーが夢の泉に足をつけて一同の下に歩み寄って口を開く。

「悪夢都市から良く帰還した、生還者達よ」

 チューリップに見えなくもない王冠を紐に繋ぐ形で被り、白い毛がついた真っ赤なマントを装着したその姿はシンプルながらも正しく王様そのもの。
 その口から放たれる言葉もまた重く、誰もがごくりと言葉を飲み込んでオリジナル・カービィ大帝国の主の言葉を待つ。
 エンペラーは重々しい口調のまま、ゆっくりと言葉を続けていく。

「こう言っては何だが、サザンクロスタウンからお主達が生還しただけでも私は心底ホッとしている。そしてその中にあの否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガンが新たに愛する事を決めた存在が生存している事も」

 そう言いながらエンペラーはナグサに視線を向ける。
 ナグサは皇帝陛下に注目され、一瞬頭が真っ白になりかけるものの慌てて首を左右に振って無理矢理思い出させるとエンペラーに口を開く。

「僕がその否定の魔女が愛する事を決めた存在であり……、蘇らせてしまった存在のナグサです」

 後半部分は言うのに戸惑ったものの、覚悟を決めているのかすぐに続けていった。
 それを聞いたエンペラーはわずかに目を見開くものの、すぐに戻して話を続けていく。

「飛燕の調査とコーダからの報告で知っていたがお主がか……。本来ならば大罪人として罰を与えるところだが、トレヴィーニに愛される対象に選ばれたという事はお主が物語の主人公として選ばれたことになる」
「はい。それも……思い切り今回の物語で絶対滅ぼすって言い切っちゃいました」
「馬鹿だろ、お前」

 エンペラー、あまりの無謀さにツッコミ入れた。
 大国の皇帝にまで呆れられるってどんだけだよ……。きっとこの場にいた大半がこう思ったに違いない。
 だがナグサは寧ろ開き直り、キッパリ言い切ってから話を変える。

「はい、馬鹿です。それよりも皇帝陛下、幾つか頼みごとがあるのですが……宜しいでしょうか?」
「うむ。コーダの報告でそれを聞いた時には驚いたが、その根性に免じて許そう。隊長達には既に話はつけている」
「ご協力感謝します」

 エンペラーの許しを得て、ナグサは深々とお辞儀する。
 その様子を眺めていたミルエがつんつんとナグサの後ろから指で突付き、振り向かせると小声で尋ねる。

「ねぇ、何する気なの? ミルエ、何も聞いてないんだけど……」
「これから話すよ。ただ、全員協力してくれれば助かるんだけどね」
「ほえ?」

 ナグサの言っている意味が分からず、ミルエは頭にクエスチョンマークを浮かばせる。
 その様子を見て、ナグサはやれやれと言った感じで説明をしようと口を開こうとするのだがエンペラーが間に杖を入れて静止し、代わりに口を開く。

「その話はワシからやった方が良いだろう。……全くお主のようなギャンブラーは世界大戦でも見なかったぞ?」
「僕の場合、無茶なだけですよ」

 エンペラーの呆れた言葉に対してもナグサは平然と返す。大物になりすぎた、と幾数名が思った。
 そのままエンペラーはナグサが話そうとした“ある作戦”について説明を始めた。

 ■ □ ■

 Bパート「大胆すぎだろ、ナグサよ」

 エンペラーが話したナグサの作戦はシンプルだった。
 結論から言ってしまえば大国防衛隊隊長格を含め、サザンクロスタウン生還者をチームにばらけさせて残り四つのエアライドパーツを回収するというものであるからだ。
 ただしレッドラムはスカイピアによって水晶漬けにされてしまっており、代わりにスカイピアをどうにかする為にスカイピア突入チームも思案しなければならない。でなければレッドラムも開放できないだろうから。
 ただしこれは全員の同意が無ければ成り立たないし、そもそも大国防衛隊隊長格を全員使うのはセントラルタウンそのものの防衛を下がらせる事にも繋がる。ナグサはマナ氏を使ってその穴を埋める気らしく、エンペラーもそれに同意した。
 マナ氏が残りのパーツ全部回収すれば最善じゃないか、という意見も飛んだのだが。

「私を顎で使う代わりにパーツ回収に関しては情報を少し与える事以外一切関与しないという条件になってますんで諦めてください」

 ……ということらしい。
 しかも取引を持ちかけたナグサ本人はマナ氏に全部押し付ける気は全く無い、それどころかやってやると気合入っているからなおさら性質が悪い。
 彼のかなり親しい何人かに対してならば答えが分かりきっているとはいえど、サザンクロスタウンを共に生還した人物に対してこれはありなのだろうか?
 当然ナグサもその事は理解しており、人数が足らなければ大国防衛隊の隊員を借りるつもりだと話した。……否定の魔女と戦える勇気ある人物がいるかどうかの問題だと小さく呟いていた為、志願者についてはそれほど期待はしていないようだが。
 だからサザンクロスタウン生還者に関しては己自身の判断に任せる事にしたという結論に達した。正直言って当事者達を置いてけぼりの作戦ではあるものの、一応配慮してくれている分マシだと思おう。
 その後、二日だけ考える時間を伝えてから一同は今日大国の本拠地とも言える城に泊まる事になった。当然何名かは驚愕に満ちていたがエンペラー曰く「これから地獄に行くんだから、ちょっとぐらい天国を味わうが良い」といわれて愕然となった。
 何か、最低でも誰かが死ぬ事前提に聞こえるのは気のせいですか?

 ■ □ ■

 サザンクロスタウン生還者のお迎え+今後の作戦についての簡単な話を終わらせた後、大国防衛隊二番隊隊長の飛燕は一人執務室でデータを整頓していた。
 データ、というのはサザンクロスタウンでの生還者に関してだ。さすがに大国防衛隊隊長&隊員とサザンクロスタウン守護担当の豪鉄と良く国が利用している何でも屋のラルゴに関しては既に知っている為、調べているのはそれ以外の生存者になっている。
 夢の泉で集合したその時に大雑把に全員を見渡していき、何名か有名人が混じっている事も当然知っているのだがその能力まで把握しているわけではないので丁寧に見ていっている。
 データを注意深くチェックしていく中、飛燕はため息をつく。

「銃器狂であり銃の戦乙女であるミルエ・コンスピリトとその相棒のツギ・まちに狂気の人形屋ローレン、アイドル歌手のソプラノに魔法の鏡ミラリム。魔女一派の仲間の容疑がかかっていた雪だるまのセツ、元ドン・ファミリーのナースだけでなく高度な魔法使いのフー・スクレート……。良くもまぁ、こんなに集まったもんだ」

 とんでもない大物や指名手配犯に元マフィア、四体の魔物を従える魔法使いや普通の人ならばまず会う事が無い魔法の鏡などと規格外の人物だらけで一般人が希少な状態になってるデータの山を心底疑いたくなってくる。でもZeOが用意してくれたデータは嘘をついていないし、第一意味が無い。
 とりあえず事実として受け止めながらも、飛燕は引き続きデータをチェックしていきながら現状存在する隊長格と生還者達全員参戦を前提と考え、それぞれのスタンスを纏めていく。


通常型
ナグサ(運が無駄に高いとこを除けば普通の通常型。クゥの魔道書を保持。否定の魔女が愛する対象に選ばれた)
絵龍(クレモトにより、合計七種類のコピー能力が使えるようになった突然変異の分断通常型。防衛隊隊員)
タービィ(四種類のコピー能力が使える分断通常型。コピーの元を使い、他のコピー能力も我が物顔で扱える。夜明国の生き残りの一人)

武器型
ミルエ・コンスピリト(銃火器+コピー能力弾丸を操る特異武器型。ドンの一人娘)
ローレン(巨大鋏を主力とし、サブとして針を使う独特な武器型。指名手配犯)
カタストロ(十字架ならば大小問わず召喚し、振り回している。時折十字架模様の盾も召喚している為、防具型でもある)
零式(二番隊副隊長。剣・弓・翼に変化する「制裁の十字架」を操作する武器型)
ホワイト(四番隊隊長。『斬星刀』『羅神正宗』『黄昏のマント』を身に着けた剣に特化した武器型)

防具型
ツギ・まち(己の身体と体重の大きさを操作可能。炎に弱いでっかいお人形。無駄に漢らしい)
チャ=ワン(頭の茶碗を巨大化させ、盾にする能力を持つ分かりやすい防具型。武器は刀。夜明国の生き残りの一人)

絵描型
フズ(実体化能力保持。マキシムトマトの実体化は出来ないけれど、その穴を埋めるように能力以外での後方支援が得意。防衛隊隊員)
コーダ(五番隊隊長。実体化能力保持。元々の能力値が高いし、何を描いても実体化する為ただの前衛よりはよっぽど強い)
レイム(五番隊副隊長。絵の具から架空生物を創作して操り、ガンガン戦闘するタイプ。本人自体は戦闘能力低め)

動物型
クレモト(種族は猫。何故か他者の眠っている能力を引き出す力を持っている為、突然変異と分類。爪を自由自在に伸ばせる)
シアン(種族は狐。狐に準じた能力が使える筈だけど戦力外。コーダからの連絡によって得られたデータではカーベルの歌を歌える最後の一人)

融合型
セツ(氷・雪を操れる雪との融合型。炎に弱いが、それ以外の場所だと結構強い。大国動乱事件にも深く関わっている)

エネルギー型
エダム(魔法は使えないが燃料として己の武器「アーバル」に送り込んでいる。アーバルは解析保持)
ルヴルグ(六番隊隊長兼伝説レベルの方向音痴。一度に種類がバラバラの複数魔法を一人で発動させられるなどと魔法能力値は高い)
ウォルス(六番隊副隊長兼道を読み取るのはピカ一。魔法を使った格闘技が得意。当然魔法そのものも強い)

特異型
ちる(真空波と衝撃波を操り、人形と会話が可能。コーダからの連絡によって得られたデータを参考にしている)
黒脚ケイト(「影縫い」と「空來凛守」という変わった能力を操る忍び。夜明国生き残りの一人)
ソプラノ(歌を歌う事によって様々な力を発する事が出来る。能力サポートに「トレブル」という人工知能を持ったヘッドホン着用。トレブルは解析保持。人気アイドル)
ナース(回復・毒を自他に注射器から送り込む事が出来る。元ドンの部下で現在は看護士というオカマ。無駄に力は強い)
ラルゴ(ぼったくりの何でも屋。状態異常を起こす粉と魔法を操る能力者)
イブシ(一番隊隊長。剣術をメインとしている為、能力はほとんど使わないように見える。その能力は地味に厄介)
飛燕(二番隊隊長。幻術を操作し、相手を翻弄させて戦意を無くさせている。時折情報を利用したものも扱う)

機械
豪鉄(サザンクロスタウン守護担当。武器は搭載されていない為、専ら壁要因。解析能力保持)
ログウ(防衛隊隊員であり、錬金術に準じた能力を扱える。ロボットなので防御力があり、壁要因。解析能力保持)

暗黒
ダム・K(暗黒と突起を操る遠距離攻撃タイプ。運は低すぎるけど悪運はある。ミラリムの契約者。防衛隊隊員)
シルティ(三番隊副隊長。範囲が狭くなればなるほど強力な暗黒を操作する事が出来る)

不明
フー・スクレート(四体の魔物を従える魔法が得意な何でも屋。本人はエネルギー型と言っているが?)
クゥ(神々の使い。魔法を操るらしいが、それ以外の能力に関しては不明)

規格外
ミラリム(何故かサザンクロスタウンにあった魔法の鏡。色々と何でもありの能力保持。契約者はダム・K)
マナ氏(カービィなのに魔女クラスの魔力を持つ世界最強の魔術師。本城と城下町全体の防衛担当)
カーベル(死神達の王であり、冥界そのもの。マナ氏の毒舌説得に叩き伏せられ、本城と城下町全体の防衛担当にさせられた)


 合計三十五名。内二名の人外超えちゃってる人達を除外しても三十三名。
 四グループに分担するとなると一グループ八人前後となる。それに彼らの弱点なども考慮し、場所も丁寧に選んでいかないとならない。否定の魔女が起こす惨劇が増え、スカイピア復活どころか反乱軍まで動き出している今、一刻も猶予は無い。話に聞けばノアメルトという第二の魔女まで現れている始末。
 これなら防衛隊から選抜メンバーを選べばいいんじゃないかとどうも考えてしまうのだが、色々と見逃せない部分を保持しているメンバーが多いからどうにも言えない。
 頭痛を酷く感じながら飛燕は呟く。

「何時からあんなに大胆になったんだ、彼……?」

 少なくとも世界大戦中、保護されてた時はまだ大人しかった筈だぞ。
 否定の魔女復活を行ってしまったのがナグサだと知った時は驚いたものの、それ以上にエンペラー張本人とコーダ越しに取引してOKさせたその大胆さと実力はある意味大国防衛隊隊長を超えている。
 しかも聞いた話では封鎖寸前のサザンクロスタウンの上がっていく橋を利用して飛んでギリギリ入り込んだり、オルカとの一対一でハンデ貰わず逆に挑発しちゃったり、傷だらけになった時にトラックで跳ね飛ばされたっていうのにギリギリで回復が間に合ったり、と色々な意味で強運発動しまくっているらしい。
 ナグサに主人公補正でもかけたのか、魔女ども。と心底突っ込みたくなった。
 とりあえずそんな事を考えている時間は無い為、メンバー分けをする事で強引に忘れる事にしようとしたその時ドアがノックされた。飛燕は振り返り、どうぞと言って入るのを許可する。
 ドアは開き、そこから入ってきたのは、偶然にも飛燕が今考え込んでいたナグサであった。

「失礼します。ちょっとお話いいでしょうか?」
「構わないよ。にしても凄い久しぶりだね、ナグサ君。世界大戦以来じゃないかな?」
「まぁ、こんな形で再会するとは思っていなかったので」

 苦笑いしながらナグサは飛燕の傍まで歩いていく。
 ナグサと飛燕はクウィンス繋がりで世界大戦時代からの知り合いだ。この時ウェザーもいたのだが、まだ幼かった為に彼自身の記憶に飛燕という存在は無かったようだ。
 といっても終戦後はクウィンスに連れられる形でそのまま別れていった為、こうやって再度出会うのは久しぶりともいえる。
 飛燕は久しぶりに会ったナグサに対し、懐かしがっているのか一旦チェックをやめて雑談を始める。

「久しぶりに会ったルヴルグはどうだった? 昔と同じだった?」
「キッチリ公私を別けてましたよ。というかルヴルグさんと僕らはそんなに接点無かったんですが」
「あ、そっか。ルヴルグ、あの時から魔法部隊に所属してたからたまにしかナグサ君会ってなかったんだっけ」
「はい。だから初対面に等しいんですよ」
「それならルヴルグも忘れてるかも。彼女、そんな昔の事まで覚えきれる人じゃないからなー」

 その分どうでもいい恨みは覚えているからきついもんがある。昔、うっかり失言してイブシが魔法食らったのは良い思い出だ。
 ナグサと話しているとついつい懐かしさが出てきてしまい、昔の事を思い出してしまう。だが彼とはもっと違うところを話さなければならないのには気づいている。
 これからの事。物語の歯車に埋め込まれてしまったクウィンスとウェザーの事。物語の中心に存在する否定の魔女トレヴィーニの事。きっとそれについて大事な話をするのだろうと飛燕は考え、ナグサの言葉を待つ。
 飛燕の予想通り、ナグサは一旦黙り込み重く真剣な表情で飛燕と向き合って口を開いた。

「飛燕さん、僕がここに来た本当の理由を話してもいいですか?」
「いいよ。君とは色々と話し合って決めないといけないからね」

 そのまま二人は突入メンバーについて話し合いを始めた。
 天空に位置する古代王国スカイピア(の一部)への突入メンバー、雪に包まれたタワー・クロックの塔を上って神々に会うメンバー、かつてのスカイピアでもある海底神殿が存在するブルーブルーで水に入ってもいけるメンバー、マジで幽霊が行き来しているレクイエムへの突入メンバー、等等と苦労はするものの話し合って決めていく。
 ナグサも加わった為、ある程度の生還者達の意思も加えていく事が出来るので助かる。事前にも何人かに聞いてはいるらしく、その際に得た行く場所の希望もナグサは話す。

「……地雷君以外のとこで、とかナースさん以外のとこで、とか何やったの?」
「後者は知らないけど、前者は聞かないでください」
「地雷君=君だって事は理解したよ」

 その希望を話している内にこんな一場面があったのは内緒だ。
 そんな会話を口々にしながら「一チーム、最低一人でも隊長・副隊長を含める」「スカイピアは大国防衛隊を多めに」「とりあえずセツはタワー・クロック決定」「ブルーブルーにロボット二名は除外」「シアン本人の希望により、レクイエム」と次々に決めていく。といっても全員の話を聞けているわけでもないのであくまでも仮ではあるが。
 その考える時間に二日与えたものの、全員が決意したのならば一日も早く出発したいと思っている。何故ならどの勢力もそんな待ってくれるとは思っていないからだ。
 だから早く作り上げて出発しなければいけない。二度と世界大戦という惨事を呼び起こさない為に。

 そんな最中、ナグサが唐突にこんな事を口にした。

「飛燕さん、話が大幅に変わりますけどいいですか?」
「え? どうしたの?」
「これは、あなたにとって本当に大切な話なんですよ」
「僕にとって?」

 一体どういう事なのだろうか、と飛燕は首を傾げる。
 大国の為とかパーツ集めの為ならまだ分かるとして、どうして自分にとってなのだろうか? クウィンスとウェザーについてはコーダからの報告で知っているし、その事についてはちゃんと話すつもりなのだが……。
 ナグサは考え込む飛燕の表情から察したのか、首を左右に振って否定すると敬語をやめて強い口調で言った。





「何時まで飛燕さんになりきってるんだ、『飛流』さん」







  • 最終更新:2014-05-29 18:33:18