第四十六話「クリスタル開放戦線」

Aパート「クリスタル解放戦線①」

 天空王国スカイピア地下七階こと最深部。
 そこは円状の大広間となっており、他の階と違って高さも二階分ある。中央部には床と天井を繋ぐ強大な柱がある。その柱は血管を連想させるグロテスクなモノが幾つも表面に出ており、度々脈を打っている。柱の根元には表面から浮き出たように存在するこれまた趣味の悪いモニターと、ご丁寧にモニターとマッチするように形作られたキーボードがある。
 一方で壁と屋上の表面は半透明のクリスタルが隙間無く埋め尽くしており、それだけならばまだ幻想的と思えたかもしれない。だがそのクリスタルの中にはカービィが入っているのが否応無く確認できてしまう。それも一人や二人じゃない、壁と屋上のほぼ全てのクリスタルに無数のカービィが閉じ込められている。
 クリスタルが淡く輝くごとに、柱は脈を打つ。その際、閉じ込められているカービィ達の表情が苦悶に満ちる。
 そのとんでもない光景に一同は目を丸くし、呆然としていた。

「何だ、これ……」
「こいつが天空王国というものを維持させている物体さ。他者の生命エネルギーを無理矢理吸い取り、それを多大な魔力に変換させて落下しないように防いでるわけ。連中の侵略手段の一つでね、この部屋を通してクリスタルを色々なところに出してるわけ。原材料は知らんが尽きる事はねーらしい。その気になりゃ、レッドラム以外のとこにも落とせただろーけど、アカービィ暴れさせて注意は必死にそらしたからまだレッドラムしかやられてない」

 この中で唯一見慣れているオルカが最深部について説明する。
 なるほど、これは厄介だ。死ぬまで生命エネルギーを吸い取り続けるクリスタルを使い、地上を己の思うがままに養分にしていくのは驚異的。八百年前、スカイピアが地上全体に勝利できたのもこの方法を使ったからに違いない。
 豪鉄は冷静にクリスタルを分析しながら、その使用方法についてオルカに尋ねる。

「ならクリスタルはその為の媒介というわけだね。レッドラムもこれにやられたみたいだけど、どうなの?」
「それならまだ大丈夫だ。クリスタルから吸い取ったエネルギーは対象がすんげー近くに無いと使えない。……まっ、あのコンピューター越しなら色々出来たみてーけどな」
「そうか……。なら、こちらの得意分野だ」
「ってかあんた、良くそこまで知ってるわね。ここに攻め入った時に知ったの?」
「いや、後始末の時に偶々生き残ってた奴から聞いただけだ」

 豪鉄が似合わぬ勝気な笑みを浮かべる隣、レイムがオルカに尋ねてくる。オルカは昔の事を思い返し、簡単に返す。
 後始末と聞いて、一体何があったんだと数名思うものの今は関係ないので考えない事にした。考えたら結構怖くなりそうだったのでやめたというのも理由にある。
 とにかく今はこの部屋のクリスタル操作システムをどうにかして、レッドラムをスカイピアの手から解放するのが先決だ。幸い、まだ天使達が来ていないから今の内だ。
 そう判断したコーダがすかさず指示を出していく。

「豪鉄さん、操作できますか?」
「コンピューターと同じシステムならば、掌握するのは容易い事だよ」
「それなら僕も行きますよ、豪鉄さん!」
「そうですか。では豪鉄さんの護衛はエダムさんとカタストロさんにお願いします。それ以外のメンツはこれから来るであろう天使達の殲滅を頼みます。尚、ウォルス副隊長は天使達の探査を怠らないように」
「「了解!」」
「分かった」
「あいよ。……さて、どんな連中が来る事やら。どうせならジス出て来い、ジス」
「オルカ、殺る気満々じゃねーか! アヒャヒャヒャヒャ!!」

 意気揚々と敬礼する副隊長二名に続き、カタストロが頷く。その横でオルカが久々の戦闘でいきり立っており、ジョーカーがそれを見て何時もの狂った笑い声を上げる。
 そうと決まればエダムとカタストロが豪鉄と共に柱へと向かって小走りで向かい、それ以外のメンツが唯一の出入り口である階段に体を向けてそれぞれ戦闘態勢に入る。
 しかし唯一人、オルカは柱へと振り向くとその手に持った百戦錬磨を柱目掛けて投げつけた。百戦錬磨はそのまま柱目掛けて飛んでいくのかと思いきや、その途中で見えない何かに弾き飛ばされてまったいらな床に落ちていった。
 いきなりのオルカの行動に数名驚く中、オルカは百戦錬磨が弾き飛ばされた空中を見ながら笑う。

「……おぉし、出てきたか」

 直後、オルカが見つめている空中にカービィと同等のサイズの球体が様々な色で輝きながら出現する。球体からは身近な手足が生えていき、その背中からは妖精を連想させる薄く半透明の翼が生える。光が徐々に失われていく中、球体の頭には彼(彼女?)の翼を小さくしたような羽飾りをつけた青い帽子が宿る。
 やがて光が止み、病的な程に白い体をあらわにするとクリスタルの守護者はゆっくりと瞳を開けて、何重もの人々が重なり合った声で呟く。

『天使に歯向かいし者を、確認しました』

 その呟きは広間全体に伝わっていく中、クリスタルの守護者――スィン=ヴァロはゆっくりと右手を上げる。
 すると彼を中心にして目に見えない衝撃波が円状に広がっていき、一同の全身に強すぎる衝撃を激しく叩きつけて数メートルほど吹き飛ばしていく。
 コーダとカタストロは自分の翼で羽ばたいて空中で受身を取り、ウォルスとエダムは持ち前の高い運動神経で所定の位置からかなり離れた場所に着地し、その際にウォルスは吹き飛んできたレイムを、エダムは吹き飛んできた豪鉄を、それぞれ両手で受け止める。
 ジョーカーが巨大化させたトランプをクッションにして着地する隣、オルカはどういうわけか吹き飛ばされずに飛んできた百戦錬磨を片手でつかみとって構え直す。
 カタストロは両手で持ちきれないほどの巨大な十字架を召喚しながら、スィン=ヴァロに警戒する。

「何だ、あいつ……? 生気が無い、ただ殺意ばかりぶつけてくる」
「そりゃそうだろ。あいつはクリスタルが生み出したカービィそっくりの化け物スィン=ヴァロ。ぶっちゃけるとこの部屋の自動セキュリティシステムみてぇなもんだ。柱に危害が加えられそうになると出てきてな、そして……」

 オルカが説明の途中で切り上げると同時、大広間の空中の至るところに複数の歪みが発生する。その歪みから湧き出てくるように兵装した天使達が我先にと出現し、剣や弓矢、魔法の杖を一斉に構える。ザッと見て四十は超えており、常人ならば多勢に無勢としか考えられない状況だ。
 その中には幹部クラスと思われる天使達も複数混ざっていた。
 鍵穴のついた大きなベルトで両目を隠した三対の翼を持ち、その頭に浮かぶ輪には半透明の布が飾られており、他の者よりも一層神秘さのある黄金色の天使――フロスエリス。
 オレンジと黄色のチェック模様が特徴的な大きな帽子を被った緑の瞳と桃色の体を持つ少年天使――アスター。
 どちら共に灰色に近い黒と白の翼を持ち、両手を使って鎌を持つのは雨雲を連想させる灰色の天使――ゼロ。
 右に白い鳥の翼と黒い矢印、左に黒い蝙蝠の翼と白い矢印、対照的な白と黒を所持するのは左半身を包帯で纏った緑色の天使――フレラレナイ。
 他の天使達に比べると一回り小さく、片方の翼が奇形となっている十にも満たない幼い天使――こあめ。この子だけ翼が羽ばたいておらず、自分を包むように風を吹かせて浮いている。
 そしてウォルス達と何度も対立した女天使シエル。ウォルス達四人は彼女を見て、「 ま た お ま え か ! 」と一斉に思った。いい加減しつこいよ、彼女。
 一気に集まった天使達を見て、オルカは大して驚かずに一同に説明する。

「無数の天使どもに襲われているってメッセージが自動的に送られる。こっから先は言わなくても分かるよな?」
「とっても分かる。……でもさ、いっぺんに来すぎじゃない?」
「この行動力だけは尊敬するってヴぁよ……」

 副隊長二名はものの数秒で集結した天使達を見て、顔を引きつらせる。彼等は知らないがルヴルグの時も相当な人数が対処しており、ウォルスの言うとおりこういう事態の行動力だけで言えばスカイピアの方が上だ。
 一方で天使達はというと、わずか八名の侵入者を見下しながら戦力を分析している。その内の一人、ゼロは八百年前に戦ったオルカを見て勝手に考察して納得している。

「連中、インヴェルトと手を組んでいたか。それなら瞬間的に移動できるのも納得できる」
「というかあの水色とまた戦うの……? 僕、あいつに殺されてるんですけど!」
「それはシエルも一緒よ! でもここで降参するなんてちょーダサいし、スカイピアの天使失格なんですけどー? そんでもって、あいつ等だけはここで潰したいの!!」

 アスターは八百年前に殺された事を思い出して青ざめる隣、シエルは幾度となく自分を傷つけた四人を順番に睨みつけながら闘志を燃やす。
 そんな二人の台詞を聞き、フレラレナイが小さく笑って宥める。

「それにあの赤い子がいないから、一斉に殺される事は無いよ」
「ひとり、のこらず、やっつける」
「…………」

 半笑いのこあめが可愛らしい声で言い、フロスエリスがそれに同感するように頷く。
 一般兵である四十人の天使達が黙って戦闘体勢にで何時でも突入する状態に入り、クリスタルの守護者であるスィン=ヴァロはその身に力を蓄えて戦闘に備えている。
 明らかに殺す気、それもオーバーキルする気満々の天使達を見て、わずか八人しかいない大国と魔女一派の連合は最初こそ怯み、戸惑いを隠せなかったものの、誰もが覚悟を崩さなかった。
 コーダは彩筆の先端を魔力で虹色に輝かせ、天使達を見上げながらも一同に作戦開始と叫ぶ。



「作戦は続行します! 命を何度捨てようがレッドラムは絶対に救出!! その際、障害となる天使気取りの過去の亡霊は全て叩き潰します!!」



 その言葉が、戦線の合図となる。

 ■ □ ■

Bパート「クリスタル解放戦線②」

 大激闘が、始まった。
 まず、スィン=ヴァロが巨大な衝撃波を使ってコーダ達を天使達の方へと吹き飛ばす。
 だけどもジョーカーはその状況を寧ろ利用し、巨大トランプを二十枚近く一斉に天使の周辺に出現させ、パチンと指を鳴らして一斉に爆発させる。
 天使達が爆煙によって包まれて視界を封じられた中、スィン=ヴァロで吹き飛ばされた一同の内、豪鉄は飛行機モードに変形するとエダムを抱えて柱目掛けて飛んでいく。彼ら以外の六人はそのまま吹き飛ばされたまま、各自ですぐ近くにいる天使目掛けて攻撃する。
 一部の天使達が豪鉄達を追いかけるものの、コーダが彼等の前に立ちはだかると彩筆を勢い良く横に振って、空中に一筋の線を描く。すると線は独りでに巨大な半透明の虹色の壁となって天使達を遮る。当然彼等は急には止まれず、壁にぶつかって地面に落ちてった。
 オルカは衝撃波の勢いで吹き飛ばされていたウォルスを踏み台にして、コーダの生み出した壁を乗り越えて天使達の群れへと自ら入ると百戦錬磨をぶんぶんと大きく回転させて、無差別に攻撃していく。百戦錬磨はカービィが持つにしては長すぎる槍だ。落下しながらでも、大勢の敵の中で素早く回転させていけば嫌でも当たってくれる。
 一方でオルカに踏み台にされたウォルスは床に落ち、涙目且つ赤くなった顔で見上げる。そして咄嗟にその場からジャンプして横に回避する。
 次の瞬間、ウォルスがいた場所目掛けて鎌が上から振り下ろされる。鎌が床に刺さる直前で、持ち主は止まると横から飛んできた火の玉を飛んで避ける。そのまま彼は鎌を持ち直し、一気にウォルスまで接近して今度は横から切りかかる。
 ウォルスはシールド魔法で己の身を包んで間一髪防ぎきると、両手を前に出してシールドを膨大な風圧に変えて相手を吹き飛ばす。しかし相手は己の正面に真っ黒な穴を出現させ、風圧を飲み込ませて防いだ。
 それを見て、ウォルスは相手が暗黒型に類似した能力だと分析する一方、天使――ゼロは鎌を向ける。

「消え失せろ、穢れる事しか知らない大地の者よ」
「……ハッ! 消え失せるのはテメェの方だってヴぁよ!!」

 ウォルスの魔力がこもった拳とゼロの巨大な黒い鎌が、ぶつかり合う。

 一方でその上空。
 コーダの描いた翼で空を飛ぶレイムはどこからともなく巨大絵の具チューブを出現させ、両手で抱きしめて中身を噴出させる。絵の具が滝のような勢いで噴出していく中、その絵の具から次々と飛び出していくのは架空の生物を象ったレイムの召喚物。

「五番隊副隊長レイムの底力、見せてやるわ!!」

 レイムが力強く言い切ると同時に、彼女から生み出された者達は一斉に天使兵団へと襲い掛かる。
 火の精霊イフリートが炎を吐いて天使達を燃やし、水の精霊ウンディーネと風の精霊シルフが水を纏った竜巻を巻き起こして天井や壁にたたきつけ、土の精霊ノームがそれに追い討ちをかけるかのように岩をぶつけていく。
 思ったよりも大量に天使兵団を倒せるかと安心した矢先、突如出現した黒い矢印が精霊四体を貫いて、全員消滅されてしまった。その際に炎、水、風、岩も消滅し、天使達が一斉に自由となる。
 己が実体化させた存在達の無効化にレイムが驚きを隠せずにいると、己が吹き飛ばした天使の中にいた一体が背中の歪な翼をめきめきと音を立てながら大きくしながらも触手の如く伸ばして、彼女目掛けて襲い掛かる。
 触手がレイムに届く寸前、カタストロがその手にもつ巨大十字架全体を刃に変幻させて勢い良く投げる。全身刃と化した十字架は触手を切断してレイムの危機を防ぐ。
 カタストロは翼を勢い良く羽ばたかせてレイムの前に駆けつけながら、戻ってくる十字架をキャッチしながら触手の先を睨みつける。
 そこには両脇の一般兵に支えられながらも、不気味な半笑いを浮かべる子供の天使――こあめの姿があった。巨大化した翼は元に戻っていく中、彼の表情は痛みなんて感じていないと言わんばかりに半笑いのままだ。
 その時、ふと上に殺意を感じたカタストロとレイムは同時にその場から左右に離れる。直後、二人がいた場所を上から大きな黒い矢印が落下していった。
 黒い矢印が床に突き刺さると共に、天井付近から声が聞こえてくる。

「……普通なら、これで死んでいる筈なのに。しぶといのは嫌いだよ?」

 ぼそぼそと普通ならば聞き取りにくそうな声だっていうのに、どうしてか嫌に耳が入ってくる声だ。
 カタストロとレイムが見上げると、左半身を包帯で覆った白:黒の翼と黒:白の矢印を持つ緑色の天使――フレラレナイがクリスタルにぶつかった衝撃で傷つきながらも、二人を見下ろしているのが確認できた。
 それだけじゃない。フレラレナイとこあめの周囲にいる天使達、合わせて十二名程がカタストロとレイムをターゲットにしたらしく、攻撃態勢に入っている。
 あまりの敵の多さにレイムは思わず叫んでしまう。

「ったくこいつ等、女の子を傷つけるって事がどんだけ酷い事か分かってるわけ!?」
「分かってないからやってるんだろ? とにかく……片付けるぞ!!」

 カタストロはその手の巨大十字架を構えなおすと、十二体の天使の中へと突っ込んでいく。

 一方でオルカはウォルスとは少し離れた場所に着地する。ある程度の天使は百戦錬磨と持ち前のパワーで片付けたとはいえ、それでも二桁は無いだろう。その証拠に己やレイムが吹き飛ばして壁や天井にぶつかった天使達の中で気絶しているのは五、六人ぐらいだ。ほとんどの者が戦意を捨てずに闘いの中に投じていっている。
 しかしオルカはそんな事気にせず、柱と柱に向かっていく豪鉄とエダムの方へ体を向ける。

「さてとスィン=ヴァロを潰しに行くとするか。あいつ等だけじゃ、死ぬのが目に見えていやがる」

 走り出そうとしたその矢先、突然丸い影に己の身が覆われた。オルカは咄嗟に百戦錬磨の矛先を上に向け、そのまま振ってくるモノに対して突き刺す。
 突き刺された何かはそのまま止まってしまったのか、それ以降動きは無い。
 オルカは相手が行動するよりも早く、百戦錬磨を両手でつかむとそのまま前方へ振り下ろして突き刺されたモノごと天使を床に叩きつけた。
 天使は振り下ろされる中、モノをつかんでいた手を放してしまうものの床に背中から落下してしまい、悲鳴を上げる。

「いった~~~い! その鬼畜なところ、八百年前から変わってないわね!?」
「おいおい、これで鬼畜だったらトレ……じゃなかった。インヴェルトはどーなるんだってーの」

 そう言いながら天使――シエルは起き上がり、オルカを睨みつける。
 オルカはそんなシエルの態度に呆れながらも百戦錬磨を持ち直し、突き刺さったモノことシエルの巨大飴を何度も床に叩きつけて破壊する。
 シエルがそれを見て声を上げるもののオルカは全く気にせず、それどころかその隙にシエルを正面から突き刺した。百戦錬磨を掲げ、突き刺した物言わぬ死体と化したシエルを己の手元へと落としていく。その時、オルカはシエルを見て、ある事に気づく。

「おっ、槍に突き刺したままならスカイピアの中でも蘇らないのか。それならこのまま戦えばいいだけだ!」

 無駄な体力を使わなくて済む。そう笑いながらオルカは柱の方に向かって走る。
 その光景を目の当たりにした残りの天使十八名の内、七名がオルカ目掛けて滑空する。しかしそれよりも早くコーダが先を黒く染めた彩筆を持って彼等の周囲を幾重にも飛び回った後、残りの天使達の前に出て笑う。
 次の瞬間、七人の天使は巨大な黒い箱に閉じ込められる。その黒い箱からは何回にも渡って爆発音が聞こえてきて、中で何が起きているのか嫌でも想像させられる。
 残った十一人の天使達はコーダが同じ手を使う前に潰そうと、一斉に襲い掛かる。コーダは微動もせず、彩筆を持って天使達の前にいるだけだ。
 先頭にいる天使の剣がコーダに突き刺さろうとしたその時、二人の間に巨大なトランプが出現する。否、これだけではない。十一人の天使達の周辺を隙間無く囲うように巨大トランプが次々と出現していく。この攻撃に天使達の表情が一斉に青ざめていく。それに応えるかのようにトランプのマーク全てに不気味な笑顔が浮かび上がった。
 もちろんその次の瞬間にはトランプ内部にいる天使達は一斉に火達磨と化し、誰も彼もが断末魔を上げた。
 断末魔を耳にしながらも笑っているコーダの隣に、トランプに乗ったジョーカーがやってきて笑う。

「アヒャヒャヒャヒャヒャ! お前、これ見て笑えるなんてえげつねーなー!」
「戦争で断末魔には聞き慣れてるんですよ。それに痛みつけるのは好きな方でして」
「なるほどなー! お前、俺等側にいても違和感ねーぞ?」
「それはご勘弁願います。一応大国防衛隊ですので」

 戦場には不似合いな会話を交わしていたその時、幻想的な歌が聞こえてくると共に唐突に天使達を苦しめていた黒い箱とトランプが同時に消滅した。解放された天使達は全身大火傷で再起不能にしか見えなかったが、精神を落ち着かせるような癒される歌が流れ出すと共に彼等の傷が見る見るうちに治っていく。
 コーダとジョーカーが歌の発生源、回復していく天使兵団の後方に控えている三対の翼を持つ鍵穴付のベルトで目隠しした天使――フロスエリスを見る。
 フロスエリスは両手を広げ、十八人もの天使達をその歌で治癒していっている。良く見るとその口元には笑みが浮かべられている。

「アヒャ! また歌使いが相手かよ、めんどくせーっ!」
「そして、二十人近くはいる天使……。雑魚でも多いと手ごわいから嫌いなんですよね」

 ジョーカーが何時ものようにバカみたいに笑い、コーダは一番の貧乏くじを引いたとため息をつく。もちろん二人とも、戦闘態勢を崩さないままだ。

 一方で柱に向かって飛んでいっている豪鉄とエダム。空中で唐突に変形したから速度はそれほど無いものの、他の者達がほとんどの天使達を惹きつけているから追っ手はほとんどいない。
 しかし最大の強敵ともいえるスィン=ヴァロが二人目掛けて物凄い勢いで突撃してくる。
 豪鉄は咄嗟に下降して突撃を間一髪で避けると一瞬下に目を向け、柱までの距離がもうすぐなのを確認するとエダムにこう言った。

「エダム、着地準備はできてるかい?」
「はい。豪鉄さんの方は?」
「してはいるけど、多分できないと思う」

 豪鉄の返答に対して、エダムが思わず見上げてしまう。
 次の瞬間、スィン=ヴァロがはるか上空から落下し、己に重力をかけて豪鉄へと圧し掛かってきた。その衝撃は凄まじく、激しい震動が豪鉄とエダムの二人を襲う。
 豪鉄は表情を歪ませながらも、エダムを抱える手を離して彼を床へと落とす。エダムはいきなり手を離されて一瞬行動できなかったものの、ローラースケートを咄嗟に展開させて両足で床に着地する。
 いきなりの事にワケが分からず、エダムは豪鉄を見上げる。
 その直後、豪鉄の頭部をスィン=ヴァロは握り締めて零距離から衝撃波を放った。すると豪鉄の全身は衝撃に耐え切れず、空中で木っ端微塵となった。

「え……!?」

 エダムはその光景を見て信じられず、大きく目を見開いた。己の周囲に豪鉄を作り上げていた様々な部品が落ちてくるにも関わらず、彼は何が起きたのかすぐには理解できなかった。
 一方でスィン=ヴァロはそれを見逃さず、一気に滑空してエダムの正面に着地すると右手に力を込めて殴りかかろうとする。エダムは反応しきれず、もう駄目だと目を瞑りかけたその時。
 横から長い長い槍――百戦錬磨がスィン=ヴァロの胴体を貫いた。
 寸前で見てしまったその光景にエダムは益々目を丸くし、思わず尻餅をつきながらも槍を持つ人物――オルカに目を向ける。オルカはスィン=ヴァロを突き刺した槍こと百戦錬磨を少しずつ斜めにして、スィン=ヴァロの体も己の下に落下させながらエダムに怒鳴りつける。

「さっさと行けっ!!」
「は、はい!!」

 エダムはローラースケートを滑らせ、柱に向かっていく。
 オルカがそれを見送る中、百戦錬磨に突き刺さったスィン=ヴァロは突如として消滅した。軽くなった百戦錬磨の手ごたえにオルカが違和感を感じた瞬間、己の真横から衝撃波が放たれて数メートルほど吹き飛ばされた。
 途中までゴロゴロと転がっていったものの、すぐさま体勢を整えるとオルカは衝撃波を放った主――何故かピンピンした様子でその場に浮いているスィン=ヴァロ――を睨みつける。

「さすがは化け物。八百年前はホロの野郎に横取りされちまったが、今回は俺が殺してやらぁ……!」

 その目は殺戮を楽しむ狂気に満ちていた。

 ■ □ ■

Cパート「クリスタル解放戦線③」

 エダムはオルカがスィン=ヴァロを惹きつけている間に、柱のすぐそこまでたどり着いていた。
 今は凹んでいる場合じゃない。一刻も早く、クリスタルをどうにかしなければ!
 必死にローラースケートを滑らせ、柱に向かおうとしたその時。唐突に己の正面に天使が出現した。

「こっから先はぁ、通行止めでございまーす!!」

 オレンジと黄色の帽子を被った天使アスターが高らかに宣言すると共に、衝突寸前のところでエダムの姿は消えた。
 消えたエダムに対し、アスターはガッツポーズをして笑う。

「クリスタル解放なんて絶対にさせませんよ! ここは僕が守護します!!」

 そう言って勝利をつかみとったと言わんばかりに笑うアスターを横目で見て、オルカは表情を歪ませる。

(あのガキは確か瞬間移動が一番得意な奴……! 面倒な野郎が柱の防衛に出やがった!!)

 その時、オルカの全身が上からの衝撃波によって床へと叩き潰されていく。
 一瞬アスターに気をとられていた隙をスィン=ヴァロは見逃さなかったらしく、オルカを逃さないと言わんばかりに床へ押し付けて殺そうとする。
 あまりの衝撃、否、重力にオルカはその場に跪きそうになりながらも立ち上がる。己の手元に引っかかるシエルの死体が耐え切れず拡散して、血肉が己の頬に張り付いていくのを感じながらも百戦錬磨の矛先をスィン=ヴァロに向けて、尋常ではない重力をかけられているにも関わらずスィン=ヴァロ目掛けて突く。
 スィン=ヴァロはその矛先を右手で強引につかみとると、空いた左手をオルカに向けて衝撃波で吹き飛ばす。
 オルカはその場に踏ん張り、吹き飛ばされないようにしながら百戦錬磨を片手で力尽くで引き戻してスィン=ヴァロを己の前まで引き寄せると、彼の顔面を思い切り蹴った。
 蹴られたスィン=ヴァロは衝撃で数歩ほど後ろに退いてしまうものの、生気を宿さず、殺意だけを乗せた無機質な目をオルカに向ける。その目を見たオルカは笑みを深くし、カービィより二周り小さな肉塊が辛うじて引っかかっているままの百戦錬磨を持ち直した。

「いいぜ、いいぜぇ! もっともっと殺し合おうじゃねぇかああああああ!!!!」

 一方でアスターによって飛ばされたエダムはというと。
 両手に十字架型の剣を持ったカタストロによって、天使達同様切り刻まれそうになりました。運の良い事に剣の矛先はギリギリ届かなかったものの、いきなり空中に放り出されたのと目の前に迫ってきた剣を見て思わず悲鳴を上げてしまった。

「どわっはああああ!?」
「エダム!? お前、クリスタルはどーした!!」

 カタストロもまた突如として出現したエダムに驚き、思わず攻撃の手を緩めてしまう。
 その様子を見た十人の天使兵団は黙って見過ごすわけが無く、傷ついたその身を震わせながら一斉にカタストロとエダムを取り囲むとその手に持った剣や槍で突き刺しにかかる。
 カタストロは咄嗟に剣の一つを放り投げ、自分とエダムを包み込む球体型の十字模様が特徴的なシールドを出現させて攻撃を防ぐと、エダムの手をつかんだ。
 様々な攻撃がシールドに弾き飛ばされていく中、後方に控えていたレイムが絵の具チューブの先を天使兵団に向ける。するとそこから黒い球体――シンプルなボムが次々と発射されていく。天使達が気づいた時には遅かった。ボムはすぐそこまで迫っており、一斉に爆発した。その光景は言うなれば小型ながらも打ち上げ花火の連発であった。
 シールドの中からその光景を見たカタストロとエダムは思わず顔を見合わせた。

「さっきの精霊もどきでも思ったがあの女も豪快だな……」
「本当に五番隊ってサポート中心の隊なんでしょうか?」
「ラルゴの奴が隊長クラスになるとそんなの関係なくなるって言ってた」
「……なるほど」

 確かにこれはサポートとか関係ないわ。目の前の爆撃を見て、エダムはとっても納得した。
 爆撃が止んで天使達がぼろぼろと床へと落ちていっていく。これでこちら側の敵が大半倒せた為、後は残った二人、幹部クラスだろうフレラレナイとこあめだけになる。
 カタストロがエダムの手をつかんだままシールドを解除し、レイムが残った二体を探そうと気配を探知しようとした矢先、突如としてレイムの全身を黄金の風が包み込んだ。

「黄金の風!?」

 カタストロとエダムは否定の魔女が扱う災厄の風を見て、戦慄する。しかしそれに浸る余裕も無く、二人の周辺にも細い黒い矢印が幾重にも出没して発射されていく。
 エダムは咄嗟にアーバルから電磁波を出没させ、黒い矢印を全て防ぎきる。黒い矢印が消滅していく中、フレラレナイが天井から舞い降りて二人の前に立ちはだかる。

「天使達の結束の力、その身に味わえ……!」

 フレラレナイがそう言いながらその手に持つ白い矢印を輝かせる。すると、下方から白い矢印の足場に乗った十人の一般天使兵達が一気に浮上してくる。どうやら誰一人として逃す気は無いようだ。

 一方で、黄金の風に包み込まれたレイムは下手に動く事が出来ずに防御に出るしかなかった。
 攻撃するわけでもなく、ただ己を包み込むだけの黄金の風はあまりにも不気味でレイムは言葉に出来なかった。彼女は知っているのだ。否定の魔女の力は確かに強大だけれど、その力の一つである黄金の風は模倣できる代物である事を。トレヴィーニに化けたモザイク卿と対峙した時に見たからこそ言える。現にここにはトレヴィーニやモザイクほどの魔力は感じない。あるとすれば何とも言いがたい人の皮を被った悪魔のような気配ぐらいだ。
 レイムは深呼吸して心身を落ち着かせ、カウンター体制に入りながら相手が何者かを分析する。

(あの矢印使いと思われる緑色は多分無い。それならば必然的に残るのは……もう一人の方!)

 襲撃者が何者か察したと同時に、黄金の風の中から歪な羽のようにも見える巨大な手がレイムを背後から握り締めた。いきなりの奇襲にレイムは反応しきれず、握り締められる形となった。その中でもがき、身をねじれさせて振り向くと、そこには左側の翼を巨大化させてレイムを握り締めたまま、黄金の風の力を利用して浮いているこあめがにたにた笑っていた。
 その純粋な、けれども空虚な吸い込まれるような黒い瞳と目が合い、レイムは全身に耐え難い悪寒を感じた。そして悟る。こいつは天使なんかじゃない、純粋すぎるが故の“捕食者”なのだと。

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 レイムは恐怖心からか無我夢中で叫び、火事場の馬鹿力というべき怪力でこあめの左翼をこじ開けようともがく。
 こあめは感じた痛みに顔を一瞬歪ませるものの、己もまた左翼に力を込めて抵抗するレイムを再び覆い隠すと手と手を合わせて、日常の団欒で絶対に聞くであろう言葉を口にした。

「いただきます。……ごちそうさま、でした」

 食前の挨拶から数秒もかからず、手と手を離しながら食後の挨拶を口にする。その時は左翼も元の形となっていた。そこに、レイムの姿形は無かった。
 己の足場を風力で作り上げた後、黄金の風を拡散させてこあめはその姿をあらわにさせる。
 カタストロとエダムは一人だけで出没したこあめを見て、驚愕する。その一方、フレラレナイはまたかとため息をついた。

「な……!」
「レイムさんが、いない……?」
「あ、こあめ。……また地上の民なんか食べたの?」

 フレラレナイの言葉を聞き、カタストロが振り向いて怒鳴りつけるように問う。

「食べた、だと? どういうことだ!」
「文字通りの意味。こあめは少々特殊な方法でコピー能力が使えるんだ。どんなモノからでもコピーできる一方、捕食したモノは絶対に吐き出す事は出来ないけどね」

 フレラレナイが説明し終わると共に、こあめはポンッという可愛らしい擬音と共に巨大な絵の具チューブを出現させて両手で抱え込む。それがこあめの捕食能力を事実だと裏付けた。
 それ即ち、レイムはこのこあめによって捕食<殺戮>されたという事となる。これではスカイピア内部での蘇りは間違いなく通じない。正真正銘の死亡だ。
 豪鉄に続いて二人目の死者にエダムが思わず顔を俯かせてしまう中、カタストロは両方の翼を思い切り開かせ、その手に持った十字剣を軽く振ってからフレラレナイに向けて言った。

「それならば、食われなければいいだけだ。食う気力すらも無くしてしまうほどに傷つけ、痛めつけ、勝利をつかみとればいい話だ」

 その瞳に宿るのは、戦士としての強い覚悟の瞳。
 黒き翼を背負う悪魔の姿をしていても、今のカタストロの姿は戦乙女と言っても過言では無いし、誰も違和感を感じないだろう。少なくともこの場にいる天使達よりかはよっぽど似合っている。
 フレラレナイは剣を向けられていながらも、平然とした様子でカタストロに問う。

「……君に出来るのかい?」
「出来る出来ないじゃない。これからやるんだよ、俺一人でな」

 カタストロはそう答えてから、エダムをつかんでいた手を離した。
 え。とエダムが呟くものの、時既に遅し。彼の身は床目掛けて落下していった。その落下を見て、天使兵団の数名とこあめが絵の具チューブから召喚しようと動き出す。
 しかしカタストロはそれを許さず、己の足元に複数の十字架が紡ぎ合うひし形の魔法陣を展開させて叫ぶ。

「幻想空間発動!」

 するとカタストロを中心として、フレラレナイとこあめを含む十二人の天使達がクリスタルの大広間から一転して、無数の十字架が生え揃う荒地へと転移させられた。
 いきなり場所が変わり、一般兵がうろたえる一方でフレラレナイとこあめはカタストロに目を向ける。
 カタストロは近くにあった大きな十字架に両足を置き、天使達を見下ろしながら呟く。

「ぶっつけ本番だったが、ここまで上手くできるとはな……」

 魔法は不得意だが使えないわけじゃない。どちらかというと能力を使った殴り合いの方が得意だ。それでも、あのままだったら間違いなくこちらが押されてしまうのは目に見えていた。それならば幻想空間を発動し、敵の兵力を少しでも拡散させた方がまだどうにかなると判断したのだ。上級魔法である幻想空間の発動は初めてだったものの、こうやって上手く具象化できた分ホッとしている。しかし本番はこれからだ。何しろ十人近くいる手ごわい天使達を一人で片付けなければいけないのだから。
 レイムから聞いた話が確かならば幻想空間内部ならば、死者は天使であろうとも蘇らない筈だ。殺戮は好きではないが、手段を選んでいられる余裕も無い。
 ふと脳裏に、チーム分けでは別々になってしまった水色の羽を持つ紫色の男が浮かぶ。

(……俺が死んだら、あいつは気にするのかな)

 いや、気にしないだろう。あいつは他人事に関してはトコトン興味が無いし、用済みとなれば即サヨナラするタイプだ。こんな事を考えても無駄なのだろう。ただ、それでも思ってしまうのはこれまで一緒にいたからだろう。きっとそれだけの事だ。
 それに今、やるべき事とは一切関係ない。今は目の前の天使達を一人残らず、叩き潰す事だけに専念せねばならない!
 思考を一気に切り替え、カタストロは両手に新たな黒い十字架型の剣を召喚すると天使達に向かって叫んだ。

「命を賭けてかかってこい!」

 幻想空間:十字墓地にて、黒き女悪魔が理不尽な天使達と戦いを開始する。

 ■ □ ■

Dパート「クリスタル解放戦線④」

 エダムは落下しながらも、先ほど同様上手く両足で着地する。カタストロがいる上空からは大きな魔力を感じながらも、今度は振り向かずにローラースケートで走り出す。
 目指すはクリスタルを統括する柱、唯一つのみ。しかしあそこにはエダムを遮ったアスターと現在オルカと戦闘中のスィン=ヴァロがいる。真正面から行くだけでは再び瞬間移動で飛ばされるのが目に見えている。
 それならば……。

「イーヴァ、返事して」

 エダムはアーバルに内蔵してある人工知能「イーヴァ」に小声で話しかける。その声を聞き、イーヴァはエダムの小声と同じ程度の音量で返答する。

『なんだ?』
「ちょっと無茶な作戦で行く。これが成功しなかったら、何もかもが水の泡になっちまう。構わないかい?」
『別に構わねぇよ。俺はエダムに作られた人工知能イーヴァ、お前だけの命令を聞く者だ。それが何であろうとも、お前の命令であれば受け付けるまでのこった!』
「それはどうもありがとう! んじゃ、一回しか言わないから聞き逃すなよ」

 そう注意してから、エダムはイーヴァに己が思いついた捨て身の作戦を話していく。

 その一方、カタストロが幻想空間を発動した上空とは少し離れた位置、二十人近くはいる最大の激戦区にてジョーカーは両手に複数のトランプを己に向かってくる十人程度の天使達目掛けて投げつける。
 トランプが刺さると共に電流が迸り、天使達に確実にダメージを与えていく。しかしそれでも複数に別けたせいでか、致命傷にはならずに天使達はそのまま突撃してくる。

「アヒャー?! おめー等、しつこすぎるだろー!!」

 ジョーカーが悲鳴を上げるもなんのその、天使達は武器を構えながら彼の周囲を囲むと一斉に突く。ジョーカーは己が乗っているトランプを一気に浮上させて避けると、再び両手にトランプを出現させると一斉に落として指を鳴らす。
 するとトランプは一斉に爆発し、天使達に電流よりも大きなダメージを与えていく。黒焦げになって落ちそうになっていくものの、少し離れた場所から聞こえてくる治癒の歌によって彼等の傷は回復されていく。
 その様を見て、ジョーカーはあからさまに嫌そうな表情を浮かべる。

「うっげー、回復うぜー……。でもま、いっか。俺様が飽きるまで戦い続ければいい話だからさぁ、アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

 すぐさま狂った笑い声を上げ、ジョーカーは天使達の周囲に複数の巨大トランプを召喚させる。巨大トランプは背に翼を生やし、線で出来た手足を出没させる。その手には槍を持っており、その姿は不思議の国のアリスに出てきそうな兵士そのものだ。
 戸惑いながらもどの方向からの攻撃が来ても大丈夫なように構える天使達を他所に、ジョーカーはその手に<Joker>のトランプを持って狂った笑い声を上げた。

「ジョーカー様はリンチされるより、リンチする方が大好きなのさ! アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

 トランプ兵団と天使兵団の戦闘が開催された一方、彼から少し離れた場所にいるコーダは後方援護とは誰も思わないだろう素早さで残った十人前後の天使兵達の間をかいくぐる。
 直後、そのかいくぐった間に空中に描かれていた線が独りでに動き出して天使兵を一纏まりに拘束する。線はそのまま光り輝きだし、天使兵の体力を一方的に奪っていく。その際、彼等が悲鳴を上げるもののコーダは彩筆を持ったまま笑みを浮かべているだけだ。
 すると歌声が聞こえてきた。先ほど流れていた癒しに加えて静かながらも開放感を与えるような歌で、少しずつ扉が開いていくように感じる。それに合わさるように天使達の体力も回復しているのか、顔色が良くなっていっている。
 しかしコーダはそれを嘲笑うかのように魔力を高める。直後、拘束された天使達が先ほどよりも大きな悲鳴を上げて、解放してくれと苦しみのあまり命乞いをしだす。
 その光景に歌声の主、一歩後ろに引いてサポートに徹していたフロスエリスは戸惑ったのか歌を止めてしまう。それに気づいたコーダは彼に振り向くと、ありとあらゆる女性を落としてしまいそうな麗しき紳士の笑みを浮かべてこう言った。

「歌いたければ歌いなさい。その喉が枯れるまで、私は吸い取る限りです」

 その声色も妙に優しげで、それが余計に相手を腹立たしく感じさせる。
 フロスエリスは表情こそ変わらないもののその胴体に吊り下げている鍵を一つ手に取って、それを巨大化させると鍵の形をした剣に変貌させるとコーダに切りかかる。
 コーダは咄嗟に彩筆を前に出し、攻撃を防ぐ。パワーはフロスエリスの方があるのか、コーダの方が若干押されており思わず彩筆を両手で持ってしまうぐらいだ。

「おやおや、これはまた変わった武器だ……! しかし良いのですか?」

 鍵型の剣に押し通されそうになりながらも、コーダは二人の間に小型の魔法陣を展開させてそこから勢いが強い風力でフロスエリスを吹き飛ばして距離を取る。
 コーダは先端の絵の具を溢れさせ、彩筆を包み込むと胴体が太めな剣へと変貌させてからフロスエリスに突きつける。

「世界一恐ろしい夢の国の鼠さんが黙っておりませんよ!」

 フロスエリスは何も言わず、鍵型の剣を向けなおすとそのままコーダへと突撃していった。

 空中で複数もの激戦が繰り広げられる中、ウォルスは己に向かって飛んでくる暗黒の球体を光の矢で相殺しながらゼロに近づこうと横から回り込む。
 ゼロは接近してくるウォルスに対し、己も翼を羽ばたかせて接近すると鎌を横から勢い良く振り回す。
 ウォルスは素早くシールドを発生させて攻撃を防ぐと、そのまま走りこんでゼロの懐に入り込んで至近距離から殴りかかる。避けられずに直撃してしまい、ゼロは数歩ほど後ろに引いてしまう。もちろんウォルスは鎌が己に直撃しないようにジャンプして、鎌の刃に乗りうつる。
 ゼロはそれを見逃さず、刃から暗黒の棘を出現させてウォルスを突き刺しにかかる。突き刺さる間一髪のところでウォルスは己の真下から来た棘からは身を反らすものの、次に背後から来た棘は避けきれずに左手を貫かれてしまい、その棘の大きさに耐え切れずに左手は崩れ落ちてしまう。

「ギャアアアアアアアアアア!!!!」

 そこから繰り広げられる激痛に耐え切れず、ウォルスが悲鳴を上げる。
 ゼロはすかさず暗黒の棘を刃から次々に出し、ウォルスの全身を突き刺していった。棘は彼のありとあらゆるとこを貫かせ、その命を意図もあっさりと奪った。
 ウォルスを突き刺したまま、ゼロは何処の助太刀に向かうべきかと辺りを見渡そうとしたその時、柱に向かって滑り走っていくカービィ――エダムの姿を見つけた。
 ちらりと柱の方に目を向けてみる。そこではシエルの死体をぶら下げた長い槍を持つオルカとスィン=ヴァロがぶつかり合い、柱付近ではアスターが包丁を持ってエダムが来るのを待ち構えている。
 地上の民などに負けるとは思わないが、連中の目的は己等の大切なエネルギー源であるクリスタルに細工をする事。それならば不安要素は一つでも狩るべき。
 ゼロは暗黒の棘を引っ込め、ウォルスの死体を床に落としてから翼を羽ばたかせてエダムへと突撃する。
 エダムは最初気づかずにそのまままっすぐ柱へと向かっていたのだが、徐々に聞こえてくる翼特有の羽と羽が重なり合って羽ばたく音に気づき、目だけをそちらに向ける。ゼロが己目掛けて接近しているのを見てしまった。

「なっ!?」

 ここで戦闘するのはまずい! エダムは咄嗟に判断し、ローラースケートを必死に滑らせて柱に向かう。
 ゼロもそれを見ると己の正面に暗黒の穴を出現させ、自らその中に入り込む。すると今度はエダムの目の前に暗黒の穴が出現し、その中からゼロが出没した。
 エダムは思わずその場で止まってしまい、ゼロはそれに合わせて己の持つ鎌をエダム目掛けて振り下ろす。エダムは咄嗟にローラースケートで後退して攻撃を避ける。

「危なっ……!」
「……ここで倒れれば、あの男のように気楽だったものを」

 ゼロは避けたエダムを見て、淡々とした様子で呟く。それを聞いてエダムはまた一人、天使に殺されてしまったのだと察してしまった。このまま行けば己も同じ運命を辿るのも時間の問題だろう。
 だがエダムはそれを受け入れるつもりなんてさらさら無かった。

「……お生憎様っ! ここで僕まで死ぬつもりは無いんでね!!」

 強い口調で言い切ると、ローラースケートを勢い良く回転させて暗黒の穴の横をかいくぐり、柱へと向かって再び走り出す。ゼロは素早く暗黒の穴を消し、エダムの後を追いかける。
 エダムは速度を緩める事無く、それどころかドンドン早めてゼロとの距離を離していく。
 だんだんと離されていくにつれ、ゼロは表情をあからさまに歪ませるとエダムの行く手を遮ろうと暗黒能力を発動しようとしたその時。

「どっせえええええええええええええええええい!!」

 唐突に横から大声と共に、火の玉が複数飛んできてゼロを吹き飛ばした。
 直撃してしまった為、能力発動は打ち消されてしまい、燃えながらゼロは数メートルほど床を転がってしまう。耐え難い炎の熱さと苦痛に耐えながらも顔を上げ、あまりにもありえない事体に驚愕してしまい、言葉を見失ってしまった。
 ゼロの目線の先――復活した左手を見せつけながら、無傷で立つウォルスは得意げ且つ余裕綽々でこう言った。

「ヴァーーーーカ! ウォルス様は不死身なんだってヴぁよ!!」

 そのまま詠唱も魔法陣も出さずにゼロの翼目掛けて二つの鋭く大きな氷柱を落とし、彼の動きを封じた。ゼロが表情を歪ませ、短くも重い悲鳴を上げ、翼からの流血によって床と氷柱が紅く染められていく。
 ウォルスはあえてそれをスルーし、この形勢逆転に関して心の底からホッとする。

「……ここがスカイピアじゃなかったら、オイラ終わってたってヴぁよ」

 そう、読者の皆様は既に知っているが現在のスカイピアはどうしてか、内部で死んだ者を完全回復した状態で蘇らせてしまう効力をもっているのだ。
 ただし豪鉄のようなロボット、レイムのように丸ごと捕食、シエルのように串刺しのままだと蘇りはしない。ウォルスも最初こそ串刺し状態だったものの、ゼロが棘を引っ込めてくれたおかげで蘇りが通用し、完全回復して形勢逆転が出来たというわけだ。
 しかしまだ戦闘は終わってはいない。ウォルスはゼロを放置したまま、己を風で上空まで吹き飛ばさせてコーダとジョーカーの援護に移る。

 一方でエダムはというと、バランスを崩しそうになりながらも普通のローラースケートならばありえない速度で柱へと向かっていた。いや、もう柱まで目と鼻の先だ。
 途中でスィン=ヴァロが反応したものの、オルカが上手く妨害して注意を反らしてくれた。味方になっている時はつくづく頼りになる男である。
 ここまで来たら障害はただ一人、先ほど己を瞬間移動で吹き飛ばしたアスターのみである。先ほどは普通に走っていたからやられてしまったものの、この速度ならば――!

「うわわわわわ!? ちょ、何!? どうやったらそんなに早くなれんのさー!?」

 アスターの方はというと、ジェットを超えたといっても過言じゃない勢いで迫ってくるエダムに慌てふためく事しかできず、戸惑いのあまり動けなかった。
 それを見たエダムは確信の笑みを浮かべ、頭につけているアーバルを取り外すと柱につけられたコンピューター目掛けて思い切り投げつける。アーバルは鳥形へと自動変形し、投げられた反動を利用してコンピューターへと飛んでいく。
 エダムは止まる事無く、そのままアスターへと自ら突撃していって二人一緒に柱へと激突した。

「グベッ!!」
「あぐっ!!」

 両者共に短い悲鳴を上げる中、鳥状態のアーバルはキーボードの上に着地するとすぐにモニターとキーボードの隙間から中へと入り込んでいった。
 その行動にリンクするかのようにスィン=ヴァロが戦闘中だというのに、柱――正確には中に入り込んだアーバル――に向かって叫び声をあげた。

『ヤメロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!』

 叫び声を聞き、一同が一斉にスィン=ヴァロと柱を見るものの時既に遅し。
 柱に立て付けられたモニターに激しい流れと共に文章が浮かび上がっていく。あまりの速さに誰もが読み取れずにいたものの、スィン=ヴァロだけは体を左右に振って拒絶反応を示す。

『駄目。駄目だ。駄目だよ。駄目です。駄目じゃ。駄目なの。やめて、やめろ、やめなさい、やめやがれ! それ以上、それ以上、するな。しないで。するんじゃない。お前が、あなたが、貴殿が、貴様が、君が、愚民が、私を、僕を、俺を、わしを、天使を、穢すな! 犯すな!! 傷つけるなァァァッッ!!!!』

 言語が無茶苦茶になりながらも、クリスタルと連動しているスィン=ヴァロの様子は明らかに苦しんでいるようにしか見えなかった。
 その様子を見て、誰もが何が起きているのだと混乱する。その一方、察しの良い者達は何が起きているのか気づきだしていく。そして、アーバルを投げた張本人であるエダムは鈍痛に耐えながら力を振り絞り、この場にいる全員に聞こえるように言った。

「レッドラム、返してもらうよ……!」

 その表情と声色は、勝利をつかみとった男のものだった。
 それを聞いた一同は一斉に気づき、確信した。この大勝負、勝者は地上の民である事を。































 直後、凄まじい衝撃とともに、めのまえがまっくらniそmあrrrrrrrrrr







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  • 最終更新:2014-05-29 18:46:09