第四十八話「スカイピア崩壊」


 崩れ落ちていく。天使が、壁が、クリスタルが、何もかもが、海へと落ちていく。
 けれども黄金の風はそれを許さず、壊れた飛行機共々大部分はそのまま空中に留めさせている。しかし、黄金の風は刃となって、ひび割れた部分と外側から徐々にスカイピアを侵食して、支えを失わせて海に落としていく。
 しかしそれに抗うかのようにスカイピアの中心部にて、不揃の魔女ノアメルトが魔力を使って一気に崩れ落ちるのを防いでいる。その為、細かいのはともかく大きな瓦礫はまだ空中に保たれたままだ。
 しかし特に被害が甚大だったのは飛行機が直撃し、木っ端微塵となった下部。そこだけは原型も無く、ノアメルトも見放したのか瓦礫が次々と落ちていく。その中には柔らかいものもあったかもしれないが、誰もそんな事を気にしない。
 ノアメルトはこの事態に対し、怒りのままにトレヴィーニの名を叫ぶ。

「トォォォォオオオオオォォレェェエエエェェェヴィィィィイイイイイィニイイイイィィィィィィ!!!!!!」

 その様は醜き鬼そのもの。先ほどまで人々を惑わし続けていた可愛らしい姿はどこへいったのか、そう思わせるほどに彼女の怒りは深いもの。
 だがそれを嘲笑うかのように黄金の風から、否定の魔女の嘲笑う声が響いてくる。

『気分はどうだ、ノアメルト・ロスティア・アルカンシエル卿。貴様の王国はたった今、破壊された。矛盾を使ってはいたものの、妾の否定の強さに負けてしまっては意味が無いなぁ?』
「黙れェェェェッ!! テメェ、そんなにスカイピアが、ノアが、私が、俺が、憎たらしいか! こいつ等を破壊する為に、そんなでっけぇもんをぶちまけたってのかぁ!?」

 その笑い声を聞き、ノアメルトは幼女の姿からは連想できない醜く低い男の声で反論する。
 けれども黄金の風を通して聞こえてくるトレヴィーニの声はそれすらも笑い飛ばし、捻り潰すかのように言い切った。

『魔女はとっても我侭で残虐で自分本位なのさ。それは貴様もよく知っている事であろう? だから否定の魔女のシナリオを邪魔するものをぶち壊してやったまでのことよ!』

 トレヴィーニの強き言葉を聞き、ノアメルトは益々表情をゆがめる。
 そう、魔女にとって一番大切なのは自分の思い通りに動く事。それがどんなものであろうとも、邪魔するものは許さない。己の物語にこだわりを持っているトレヴィーニは特にだ。だからこそ無差別に引っ掻き回すノアメルトを許さず、スカイピアに飛行機を激突させて墜落させるという暴挙に出て破壊した。
 あぁ、そうだ。どんな魔女であろうとも、どんな目的をもっていようとも、邪魔なモノは全力で破壊にくる。相手がどんなに対策をかけようとも、魔女はそれを破壊にくる。例え相手が同じ魔女であろうとも同じ事。

『くく、さぞ悔しかろう? 折角蘇らせた貴様の兵隊も、ほとんどが妾の否定で木っ端微塵になってしまったのだからなぁ?』

 トレヴィーニの声と共に、黄金の風が吹き荒れる。それによってスカイピアだった瓦礫が、飛行機だったモノが、やわらかいモノが、ノアメルトの周囲を無造作に飛び回る。焦げていたり、汚らしいモノがくっついていたり、人を形作るモノの一部だったり、原型をなくした羽だったり、実に様々なモノがノアメルトの視界に入ってくる。
 壊された。己の数少ない“玩具”が、ぶち壊された……!
 ノアメルトの怒りが強くなり、彼女の顔に複数もの血管が浮かび上がり、その瞳も燃え上がる炎の如くゆらめき動く。それに呼応するかのように、彼女が支えていたスカイピアの壁のように大きな瓦礫の一つが一気にひび割れてバラバラになり、瓦礫に引っかかっていた天使が支えを失って海へと落ちていく。
 黄金の風を通して見えているのか、トレヴィーニは哀れむような声色で言う。

『……矛盾とは難しいものよ。妾の否定同様万能性はある。しかし否定と違い、矛盾は強くてもろい諸刃の刃。あまりにもあやふやすぎるが故に何時崩れ落ちてもおかしくない。だからどんな力にも打ち勝つ矛盾であろうとも……わずかなほころびは存在する。それゆえ、妾はその間から鉄槌を下させてもらった』

 悪びれも無く言い切った否定の魔女に対し、不揃の魔女は憤怒の悪魔と幼稚な子供の二つの形相をグチャグチャに混ぜ合わせた顔で皮肉をぶつける。

「相変わらず容赦が無いねぇ、トレちゃんは……! あぁでも、ノアの玩具をぶっ壊す為に、自分の部下ごとやっちまうんだから今更だったなぁ!? くけ、くけけけけけけ!! さすがは鬼畜と謳われた否定の魔女だ!!」
『下僕もろとも? ははははははは! 妾がそんなヘマをすると貴様は思っていたのか、ノアメルト卿』

 しかしトレヴィーニはそれを笑い飛ばし、黄金の風で彼女の頬を撫でる。するとノアメルトから見て右斜め上の空間に隙間が出来、クパァとゆっくり楕円型に開いていく。徐々にその内側が見えていくにつれ、その隙間に入っている者の姿が見えてくる。ノアメルトは目を見開いた。
 理由は簡単。呆れたように己を見下ろすオルカとフル・ホルダー、笑い声も上げずホッと一息ついているジョーカーと死んだと思った筈のトレヴィーニの配下が隙間の中にいるのを見つけてしまったからだ。
 愕然とするノアメルトに対し、オルカは呆れた表情のまま言って、黄金の風から得意げな声が続けられる。

「勝手に殺すな、発狂ロリゾンビ」
『するわけないだろうが、戯け』

 そんな、どうやって? 一体、何時の間に? あんな攻撃から、どうやって逃げ延びた?
 大体の想像はついてしまう。だけど、そんなこと、やられてしまったなんて認めたくない。理解したくない。だけど、だけど、ここにいるこいつ等が何よりの証拠。
 認めようとしないノアメルトに対し、トレヴィーニの声は追い討ちをかける。

『つくづく頭が悪いな、貴様も。……こやつ等が避け切れなかった時の為に事前にこっそり魔法をかけていた事ぐらい、すぐに察する事が出来るであろう? それとも不揃の魔女は口調だけでなく、知能さえも変動するのか?』
「黙れ、クソババァ!! 折角、折角ノアメルトが蘇らせた兵隊をぶち壊しやがってェェェェェェェ……!!」

 ノアメルトの言葉を聞き、声が低くなる。それでも鳥のさえずりのように美麗で魅了させる声ではあるものの、静かな重い怒気が確かに乗せられていて、弱者ならばこの声を聞いただけで全身の震えが止まらず、寿命を削られた錯覚に陥るだろう。

『……蘇らせた兵隊だと? 何を抜かした事を言っている。見捨てたとは言えどかつては妾のモノ、何時貴様のモノになった? 何時貴様に譲った? 何もかもを横取りするつもりだからといって馬鹿げた勘違いをされては困るのだがな』

 トレヴィーニはノアメルトが言い返すよりも早く、低い声のまま断言する。

『貴様の真の目的は既に見切った。――それ故、貴様は全力で排除させてもらう』

 直後、ノアメルトが矛盾を使って支えていた元スカイピアの瓦礫全てが黄金の風で包まれる。
 その様を見てノアメルトが咄嗟に防ごうとするも時既に遅し。次の瞬間には黄金の風は全て消滅し、瓦礫は全て原型無き塵へと変貌していた。その塵も黄金の風に飲み込まれ、姿をすぐさま消していく。
 一瞬にして、一部分を除いて、スカイピアが滅び去った。
 あまりにも圧倒的なその光景を見て、避難できていた三人は口々に感想を漏らしていく。

「うーわー、トレヴィーニ容赦ねぇ……」
「スカイピア復活によっぽどお冠のようでしたが、まさかここまででしたとは」
「トレヴィーニが慈悲深い女だったら、最初から改造済み飛行機なんてぶつけねーよ。こりゃ城にいた連中、全員死んだな」
「でも幻想空間発動してた女いたぜ?」
「アホか。んなもん、トレヴィーニの本気魔法の前じゃ無力だ。一緒に死んでるのがオチ」
「もしくは黄金の風に飲み込まれて消滅したか……ですね。どっちにしろよっぽどの奇跡が無い限り、幻想空間にいた者は死したと見てよろしいでしょう」
「さすがはチート魔女……。でもさ、その黄金の風でも一個潰せてねーんだけど」

 ジョーカーの言葉を聞き、オルカとフル・ホルダーは彼の視点の先を追う。
 ノアメルトよりも隙間よりも上の空、ぽつんと浮かび上がっているのは半透明の赤い幕に覆われた塔の一部。先ほどまでノアメルトの一人がいた最上部に位置する場所。
 女神を模した大きなスタンドガラスは粉々に割れており、その代わりと言わんばかりに浮いているのは、上から赤・黒・赤と並びたてられた禍々しい色でありながらも神々しさを共にする巨大な六枚の鳥の翼を広げたジスであった。
 両布に書かれた「呪」の文字、左手の甲に書かれた「屍」の文字は紅に染まり、黒い螺旋を纏わりつかせた柄と紅に煌く刃が特徴的な鎌を右手に持ち、トレヴィーニのような真紅の瞳でノアメルトを見下ろしているその姿は、先ほどまでの彼とは大いに違っていた。
 無傷で存在する大天使の姿を見て、トレヴィーニは興奮したように声を上げる。

『これはすごい! 妾の否定を打ち破り、己も女も無傷でこの場にいるとは!!』
「……お前の否定の打ち破り方は、知ってるからな。丁度そこの腐れ外道のおかげで貴様等への殺意が高ぶっていたところだったんだ、おかげで貴様に殺されずに済んだ」
『くくく。そういう時に見せる貴様個人の面が一番素敵だ。赤と黒に染め上がった孤独の戦天使カマエル・ジスよ、光栄に思え。今の貴様はとても猛々しく、妾なんかよりもずっと輝いている』
「そんなものどうでもいい。インヴェルト……いや、トレヴィーニよ、お前だけは俺がこの手で殺す。スカイピアを散々踏みにじり、俺達の闘いすら無かった事にしようとするその精神、断罪する!」

 孤独になろうとも、天使達の誇りを乗せてカマエル・ジスは黄金の風に鎌を向けてハッキリと断言した。
 あぁ、これだ。これなのだ。妾がこの天使を愛する切欠になったのは。
 黄金の風の向こう、サザンクロスタウンにいるトレヴィーニは全身の震えが止まらなくなる。
 異常とも言える誇り高さ、狂った王国スカイピアへの忠誠心、何よりも己を滅ぼす事に対する決意――! それこそが八百年前、ジスがトレヴィーニに愛された理由!!
 心がわきあがってくる。八百年前に捨てた筈の愛しいという思いが蘇ってくる。再び闘いたいという願いが出現する。この男にも殺されてしまいたいという気持ちが再び芽生えてくる。
 そんな時、黙って話を聞いていたノアメルトがカマエル・ジスの正面に飛んでいき、彼に誘いをかける。

「素敵……素敵だよ! そうだよ、悪いのはトレちゃん! 否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガン!! あの女さえいなければ、この世界はこんな運命を辿ってなんかいなかったんだよ。だからさ、ノアと一緒に……」

 開き直ったように笑いながら誘うノアメルトを、紅の鎌が一刀両断した。
 縦一文字に真っ二つになったノアメルトに対して、カマエル・ジスは心底汚らわしいと言わんばかりに彼女の存在を真っ向から否定していく。

「馬鹿げた事を口にするな。穢れに満ちた何よりも愚かしく、欲望に満ちすぎた魔女にすら値しない地上の民が可哀想になるぐらい下劣な存在よ。己の事しか考えない、絶対的に堕ちた心を持った存在に誰が手を貸すものか。不揃の魔女と抜かしていたようだが、そんなものありえるものか。貴様が魔女であったら、トレヴィーニは一体何になる?」

 感心してしまうぐらいポンポンと罵倒するカマエル・ジスに、ノアメルトは二つに別れたその身を一つに戻すように再生しながら醜い形相で睨みつける。
 その様子を眺めていたのか、トレヴィーニの声は上機嫌でカマエル・ジスに語りかける。

『そうだ。貴様はそうでなくてはならない。こんな馬鹿と手を組むようだったら、妾は最初から愛していないのだからな』
「……何だ。まさか今になって、また俺を愛するなぞほざく気か? 悪いがこちらはもうお前を愛していない」

 あの真実を知ってしまった以上、否定の魔女を愛する事なんて出来ない。
 あまりにも大規模で馬鹿馬鹿しくてとんでもなくて、コレまでの事を何もかも吹き飛ばされそうな真実。それを生み出したのが全ての美を一点に凝縮させたと錯覚させる純白の花嫁だと知ってしまえば無理は無い。
 カマエル・ジスがもう話す事が無いと決め付け、翼を羽ばたかせようとしたその時だった。

『ヲオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!』

 海の中から虹色の輝きを持つ七枚の羽を背に生やした水色の巨大な龍が雄叫びを上げて、出現したのは。
 夕暮れ色の瞳を殺意と怒気だけに染め、黄金に満たされた空間をバックにして存在する様は正に龍神と呼ぶに相応しきもの。カービィをいっぺんに何体も一口で食べれてしまいそうな巨大さをもち、見るものを圧倒させる。今にも襲い掛からんばかりの迫力で、カマエル・ジスとノアメルトを睨みつけながら唸る様子は、常人からすれば恐怖のあまり思考が追いつけなくなるものだ。
 突如として現れた龍に対し、カマエル・ジスはわずかに目を見開きながらも構える。一方でカマエル・ジスが護った塔の中にいたルヴルグは龍を見て驚愕する。

「コーダ!? あいつ、何であんな……!?」
「お前の知り合いか、太陽の瞳の娘」
「仲間だ。本来なら奴はカービィなんだが、どうしてあのような……。それにサイズがありえん、普通だったらもっと小さかったのに!」
「トレヴィーニの魔力で何かしらの悪影響を受けたのだろう。あの衝撃だ、俺達が生き残っているだけでも奇跡に等しい」

 カマエル・ジスがルヴルグにそう告げると同時に、龍――コーダドラゴンは大きく口を開けてノアメルトとカマエル・ジスを飲み込まんと噛み付いてきた。
 ノアメルトは咄嗟に瞬間移動してコーダドラゴンから離れ、カマエル・ジスは左手を前に出して正面にコーダドラゴンの顔面と同等のサイズの赤と黒の魔法陣を出現させて攻撃を防ぐ。
 それでも魔法陣越しから伝わってくる無数の力は強く、カマエル・ジスはもちろんのこと、後方にいるルヴルグにさえ、その余波が伝わってきて、塔全体が激しく揺れ動いてるような錯覚に陥りそうになる。

「理性を失っているな、このコーダとやらは」
「それは見て分かる! 性格がどんなに悪くても、無差別に人を襲うような奴ではないのは知っているからな」
「なるほど。……さてと太陽の瞳の娘よ、幻想空間は出せるか?」

 カマエル・ジスからの突然の質問に対して、ルヴルグは彼が何を言いたいのかすぐに察して答えた。

「出せるぞ。しかし化け物二体を閉じ込めるのは初めてだからな、時間がいる。数分程度止めてくれないか?」
「その程度ならお安い事だ」

 そう言うとカマエル・ジスは魔法陣を輝かせ、見えない衝撃波でコーダドラゴンをある程度吹き飛ばす。衝撃波の余波により、黄金の風が大いに揺らめき、その合間から空が見える。
 その余波を感じ取った黄金の風は何を思ったのか自ら消滅する。もちろん幻想空間の隙間も閉じている。そうした事により、黄金の風の外側にいた報道ヘリの多くにカマエル・ジスとコーダドラゴン、ノアメルトが目撃される。それも丁度生放送しているからテレビの方にもしっかりと映されている。
 しかしコーダドラゴンは口に魔力を貯めると、カマエル・ジス目掛けて白銀に輝く破壊光線を発射する。
 カマエル・ジスは六枚の翼を羽ばたかせ、避けるどころか自ら破壊光線に近づいて直撃する寸前で鎌を片手で回転させて、破壊光線を切り刻みながら防ぎきる。
 切り刻まれた破壊光線の余波はありとあらゆるところに飛んでいき、哀れなヘリコプターの一部が直撃して墜落していく。酷い場合にはそのまま消滅しているものもある。
 いきなりのとんでもない光景に報道陣は各自で逃げ出した方がいいんじゃないかと揉め出していく。この戦闘を映せば特大ニュースにはなるだろうが、そんな事よりも自分の命の方が大事だ。こんなところにいたら確実に散ってしまう。
 困惑に満ちていく彼等に対し、ノアメルトは何を思ったのかまだ無事なヘリコプターの前に行ってカメラに映ったまま忠告する。

「逃げた方がいいんじゃな~い? 今のあいつ等、絶対君達の事頭に入ってないからさ。だから不揃の魔女ノアメルト・ロスティア・アルカンシエルは退散するよ」
「え、魔女!?」
「うん、魔女だよー。でもさぁ、今はノアに驚いてない方が良いと思うよ?」
『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!』

 驚くニュースキャスターにノアメルトが無邪気な笑顔を浮かべると同時に、コーダドラゴンの悲鳴が響き渡る。
 ノアメルトが振り向くとコーダドラゴンの全身は黒と赤の無数の羽に刺されて痛々しいものとなっていた。頭上には何時の間にかカマエル・ジスが立っていて、その手に持つ鎌は巨大化していてコーダドラゴンの首元に刃が突きつけられていた。このままカマエル・シズが鎌を引けば彼の首を切り取れそうだ。
 しかしコーダドラゴンはその身を発光させ、羽と鎌を泡が弾けるように消していった後、カマエル・ジスを魔力だけで弾き飛ばす。そのまま身をくねらせ、カマエル・ジスを睨みつける。
 直後、カマエル・ジスの四方八方から複数の杭が出現して彼の身を串刺しにする。天使が吐血し、全身から血飛沫を上げる。
 コーダドラゴンは今度こそ逃さないと言わんばかりにカマエル・ジスの正面に移動し、再び白銀の破壊光線を放とうと口を開く。
 しかしカマエル・ジスは勢い良く六枚の翼を羽ばたかせ、全ての杭を消滅させて自らの傷を全て自己再生で消滅させるとその手に紅の鎌を召喚し、柄の先端をコーダドラゴンに向けて魔力を貯めていく。
 その様子を眺めていたノアメルトは両者の異常な魔力凝縮に気づき、何が起こるのか察して再び忠告する。

「ほらぁ、早くしないと否定の魔女が生み出した化け物に殺されちゃうよぉ? 次ばかりはみーんなみーんな死んじゃうかもねぇ……?」

 クスクス笑いながら話す不揃の魔女と二体の化け物から感じられる異常なまでの魔力に畏怖を感じたのか、報道陣は一斉に逃げ出すようにその場から離れていった。
 その様子を見送ってからノアメルトもガラスのように薄く滑らかな翼を小さくしながら、己もその場から消えた。
 カマエル・ジスとコーダドラゴンはそんな事一切気にせず、両者共に莫大な魔力がこもった破壊光線を放とうとしたその時だった。

「運命を導くのは吹き荒れる風、命を生み出すのは慈悲深き水、生を与えるのは豪傑なる土、力を与えるのは猛々しい火、この四つが合わさりし時、我等は導かれる。空よりも広き世界よ、海よりも深き世界よ、汝、我に力を貸せ。我に集え、風よ、水よ、土よ、火よ。その力にて、我は世界を生み出そう。幻想を超えた幻想、箱庭に凝縮された小さく儚く、けれども何よりも巨大な我だけの世界をここに!」

 塔の中、最大限まで魔力を高めていたルヴルグが詠唱を終わらせたのは。
 カマエル・ジス、コーダドラゴン、ルヴルグのいる塔を囲うように複数の魔法陣が空中に出現する。炎を象った赤い魔法陣、水を象った青い魔法陣、風を象った黄色の魔法陣、土を象った緑の魔法陣と種類は様々でそれぞれ回転しながら淡く光っている。
 己の帽子につけてある四つのクリスタルもそれに呼応するように意思を持ったかのようにカタカタと振るえ、激しく輝いている。
 ルヴルグはカマエル・ジスとコーダドラゴンをしっかり見据えながら、足元に展開させた滑らかに色を変え続ける巨大な魔法陣を目が開けないほどに輝かせながら呪文を唱えた。

「幻想空間<小さき新世界>発動!!」

 全ての魔法陣が輝き、三人を四色の光が包み込んだ。それは彼等が幻想空間へと転移したという証拠。










 そして、誰もいなくなった。











生存者
ルヴルグ
ジス
コーダ
――計三名、幻想空間「小さき新世界」に転移。

オルカ
ジョーカー
フル・ホルダー
アクス・ダイダロス
アカービィ
セラピム
ミゼラブル
ノルム
スカル=ホーン
――計九名、魔女一派の幻想空間に避難した事により生存。

ワルツ
フリージア
コクハ
一般天使兵百数名
――ノアメルトの人形兵隊化。

死亡者
大国側
ウォルス
レイム
豪鉄
エダム
――計四名

天使側
シエル
スィン=ヴァロ
アスター
フロスエリス
ゼロ
一般天使兵数百名
――計数百名

詳細不明
カタストロ
フレラレナイ
こあめ
一般天使兵十名
――計十三名




第五章「スカイピア」終了




  • 最終更新:2014-05-29 18:47:20

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