第四十二話「突撃スカイピア!」


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 昔々のお話です。遠い遠い場所、空の上に一つの楽園がありました。



 楽園はとても素晴らしい場所。とても美しい場所。誰もがうらやむ場所。



 地上に住まう誰もが楽園に行く事を望みました。



 楽園に住まう天使達もまた地上に住まう者達を導こうと思いました。



 だけども、それは叶う事が出来ませんでした。



 悲しい悲しい物語が幾十にも重なり合い、楽園は消えてしまうからです。



 その切欠を生み出したのは戦いを求め続け、戦いと契りを交わした純白の花嫁。



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 やや深みを帯びた灰色のレンガが重なり合って出来た古風ながらも何処か幻想的な風格を漂わせる大きな通路の中、唐突に紫色の魔法陣が浮かび上がるとその上に七人のカービィが浮かび上がってその姿を現していく。
 目元に仮面をつけた紫色の帽子を被った女ルヴルグが一同を見渡し、数を確認する。

「全員いるようだな」
「取りこぼしは一人もいませんからご安心を。魔法に関してはマナ氏がミスをするわけないでしょう?」
「頭では理解している。だがどうもあいつは苦手でな、昔から好きになれん」

 同様に数の確認をしていたコーダに指摘されるものの、ルヴルグは気にしてない様子で返す。確かにマナ氏の超自己中心的且つ他者を笑顔で見下す性格を知っていれば、確かに好きになれるタイプではない。
 その一方でエダムがアーバルをスカウター状にしながら暖かくも冷たい矛盾していながらも神秘的な力を宿す壁に触れながら、解析していく。

「これは驚いた。魔法に似てるけど、現代のとは作りが違う。こんな技術が八百年前に存在するなんて……」
「この様子だと魔法展開式がかなり異なっているんじゃないかな? こっちの基本でいうと詠唱、魔法陣、念じるといった形で魔法を多種多様に展開させる事が出来るけど、ここの場合は能力そのものが魔法と混合している可能性が……」
「隠す事には長けてねーみてーだけどな。肌でビンビン感じるぜ、ここ全体からでっけー魔力が感じるの」

 その隣で同様に己の中に内蔵されたシステムで解析し終わった豪鉄が推測していき、ウォルスが付け足していく。
 そもそもスカイピア突入メンバーに抜擢されたルヴルグ、ウォルス、コーダ、レイム、豪鉄、エダム、カタストロの七名は魔法分野に対しての解析能力が他グループに比べると非常に高く、ここの構造も少し解析すれば分かってしまう。
 とにかくこの解析により、七人はスカイピア内部へと転移できた事を理解すると全身に緊張が走っていく。
 今、自分達がいるのは新たに判明した敵陣の本拠地内部。与えられたミッションはたやすいものではなく、けれども達成出来なければこちらが大打撃を食らってしまう。だからどうにかしなければならない。
 リーダー格である隊長格二名と副隊長一名が先頭に立ち、歩みだそうとしたその時、隊長格全員が咄嗟に伏せ、カタストロが豪鉄とエダムの頭をつかんで共に身を伏せた。
 直後、その上ギリギリを紫色の何かが突風を起こすほどの凄い速さで飛んでいき、そのまま通路の奥へと姿を消した。
 突風の化身と勘違いしてもおかしくない速さで飛び去った紫色の何かが見えなくなったと共にそれぞれ立ち上がっていく。

「び、びっくりした……。いきなり押し付けるから混乱しそうでしたよ」
「悪い悪い。ただ言うよりもやった方が早いと思ってな」
「おでこぶつけた……」
「……あんた、ロボットだから大丈夫だろ?」

 エダムと豪鉄が驚きと痛みを隠さず少し放心状態になってる中、カタストロはラルゴのせいで慣れているのか案外平然としている。
 その横ではウォルスが掌にオレンジ色の小さな魔法陣を浮かび上がらせ、即座に飛び去っていった飛行物体が残したエネルギー反応をもとに正体を即座に解析して報告する。

「解析完了。さっきの紫色、アカービィだってヴぁよ!」
「うわっ、初っ端から覚醒モードになってるの!? こりゃ遭遇した時、戻すのが大変そうね……」

 それを聞いたレイムが驚き、そのまま面倒くさいと言った感じで呟く。
 その時、ルヴルグが帽子につけたクリスタルを四つ共に輝かせながらアカービィが飛んできた方向に体を向けながら一同に叫ぶ。

「来るぞ! 総員戦闘配置につけ!!」

 彼女がそう言った途端、七人の前方に通路全体の大きさをもつ緑色の魔法陣が出現して前方から飛んできた複数の小型魔法弾を防ぐ。
 そのまま流れるように魔法陣を緑色から赤色に変幻させると中央部から炎の竜巻を引き起こして魔法弾を発射した敵がいる前方へと飛ばしていく。
 遠くに見える敵目掛けて炎が包み込もうとしたその時、少女の声が耳に入ってきた。

「危ない!」

 その声と共に炎が敵を包み込んだ。しかし燃え上がる音も匂いもせず、炎はただカービィよりも大きいボールを燃やしているように見えるだけだった。
 それを見たルヴルグは仮面の下から炎を睨みつける。すると炎は消滅し、その下で燃えていた物質が明らかとなる。予想通り炎が燃やしていたのはカービィ二人包んだ半透明の球体型シールド。当然中にいる二人とも翼が生えている天使だ。
 桃色の翼を持つ青い帽子を被った天使が指を鳴らし、シールドを解く。同時にもう片方の細長いガラスが複数並んだ翼を持つ灰色の天使が彼女の手をとり、攻撃が繰るよりも早くルヴルグの前まで接近する。
 ルヴルグは動かず、代わりにウォルスが駆け出して勢い良く地を蹴ると鋼化魔法をかけた足で灰色の天使の顔面に蹴りをぶち込む。
 蹴りをぶち込まれた灰色の天使は吹き飛びそうになるものの、薄い翼を羽ばたかせてその場に止まる。顔面に痛々しい痣があるものの、桃色の翼を持つ天使が即座に回復呪文をかけて消す。
 回復した灰色の天使は目の前にいる七人を見渡し、心底うざいと言いたげにため息をつく。

「また害虫か……。あの紫炎の少年が入ってきたという事実だけでもおぞましいというのに、こんなにも増えるとは駆除が大変だ」
「本当ですね。地上を我が物顔で歩いている連中が天使達の聖域ともいえるスカイピアに足を踏み入れるなんて……悪夢そのもの。どこまで己の欲望で汚せば気が済むのでしょうか。それこそが己等の破滅を早める道とも知らずに」

 その隣にいる穏やかそうな女性の風貌を持つ桃色の翼の天使もまた、気持ち悪いものを見る目で七人を眺めてゾッとしている。
 スカイピアではよっぽど地上の民が気に食わないらしい。害虫、いや、それ以下として見ているのは二人の反応で明らかだ。
 あまりに好き勝手言う二人に対してウォルスとレイムが反論しようとした矢先、それよりも早くコーダが口を開いて毒舌を披露する。

「随分と好き勝手に言いますね。それとも天使というのは他者を見下さないと存在意義が発揮できない可哀想な生き物なのでしょうか? あぁ、それならば心底申し訳ありませんね。他者を見下さない限り存在できない羽が生えているだけで粋がっている馬鹿どもの思考回路を私達は全く理解できないんですよ。害虫呼ばわりとかこんな国を聖域と呼ぶとか、馬鹿中の馬鹿としかどうも表現できないんですよ。この国を聖域と呼ぶのであれば、八百年前に魔女の手によって滅ぼされる事なんて無かったんですから。いや、寧ろアレは自業自得というべきなのでしょうか。それ故に魔女自身見限ったとも聞きましたし、やっぱりあなた方は馬鹿中の馬鹿ですね。いいえ、この言い方だと世の中の馬鹿な方々に失礼だ。だからこう訂正しましょう、無知を無知と認識しない大愚者とね」

 何というマシンガン毒舌。しかもターゲットを見事に天使に定めている為、挑発に適している。
 思い切り貶された天使二名の殺気が強まっていく隙にルヴルグは咄嗟に他の仲間に指示を送る。

「コーダ、レイム、ここは任せた! 私達はあの暴走バカを追いかける!!」
「あいあいさーっ!」

 レイムが勢い良く返事をし、コーダと共にルヴルグより一歩前に出る。
 その後すかさずウォルスが体を反転させ、先頭を走る。その後にルヴルグが続く。豪鉄、エダム、カタストロはいきなりの行動に一瞬困惑するものの流されるままに六番隊主従の後をついていく。
 それを見た灰色の天使が左手の上に雷球を出現させ、逃げ出した五名目掛けて勢い良く投げつける。
 コーダはどこからともなく何かしら描かれた紙を取り出し、雷球目掛けて投げる。すると紙は光り輝き、巨大な盾となって雷球を灰色の天使へと弾き返す。
 飛んでくる雷球に対して桃色の翼の天使が前に出てシールドを張って防ぎ、消滅させる。
 そのチームワークを見てコーダは軽く拍手を送る。

「さすがにこの程度は防ぎきれますか。ちょこーっとだけ見直しましたよ」
「黙れ。貴様が天使でないのは先ほどの侮辱で理解しているし、何よりも俺自身が理解したくない」
「私もミゼラブル様と同じです。折角虹のような翼があるというのに、そのような態度ではただの宝の持ち腐れ。……地上で住まうからそのような事態になるのです」

 灰色の天使ミゼラブルも桃色の翼の天使も表情をゆがめ、心底気持ち悪いと言いたげな様子でコーダに返す。
 その態度に対し、レイムは鳥肌が立ってしまい思わずぶっちゃけてしまう。

「うっわ、気持ち悪っ! 潔癖すぎるし、考え方がきしょい!! どう教育されればそうなんの!?」
「この国で教育されたからに決まってるでしょう?」
「あ、なるほど。さすがコーダ隊長」

 次の瞬間、コーダとレイムの間に細長い雷が飛んで会話を強引に切った。
 いきなり飛んできたレーダーにレイムが思わず一、二歩引く横でコーダは全く怯まず、レーザーを放ったミゼラブルに顔を向ける。
 ミゼラブルは両手をクロスさせた後、勢い良く広げて周囲に複数の雷球を浮かせて構える。

「どうやら……何よりも駆除しなければならない害虫は貴様等のようだな」

 侮辱された事による怒りを隠さず、けれどもその表情に大きな変化は無い。天使と呼ぶにはややサイバーチックな姿をしているものの、その気高さは天使としか言いようが無い。
 隣にいる桃色の翼の天使は魔力をその身に貯めながら、ミゼラブルの一歩後ろに引いている。先ほどの防御や回復から見て、彼女が後方援護型なのは明らかだ。
 レイムはどこからともなくカービィサイズの絵の具チューブを取り出し、コーダはその手に愛用の筆「彩筆<いろどりひつ>」を召喚して戦闘態勢に入る。
 コーダは二人の天使に対し、穏やかそうで実際はつかみどころの無い笑みを浮かべてこう言った。

「どちらが害虫か……ハッキリさせましょうか」

 その言葉に続けてレイムが足元に魔法陣を展開させ、絵の具チューブから勢い良く虹色の絵の具を放出させながら叫ぶ。

「幻想空間「終わり無き絵画」発動!」

 次の瞬間、絵の具が勢い良く広がっていって四人を包み込んだ。

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 一方、アカービィを追いかける五人。ウォルスが周囲に小さな魔力モニターを展開させながら先頭を走っている。その後にルヴルグ、カタストロ、エダム、豪鉄と言った順番だ。
 ローラースケートを使って滑っているエダムがちょろちょろ後ろを振り向きながら、ルヴルグに叫ぶ。

「あ、あの二人置いてきてよかったんですか!?」
「大国防衛隊を舐めるな! それよりもお前等は周囲の反応に注意し、何時でも戦える体制に入れ!!」
「え、あ、了解!」

 ルヴルグに怒鳴られるように命令され、エダムは走りながらスカウター状態のアーバルを使って周囲の探索に入る。
 内部機能に搭載された探索装置を起動させながら、足から車輪を出現させて滑っている豪鉄はその様子(実際はルヴルグ)を見て、苦笑する。

「うーわー、相変わらず厳しい隊長さんだ……」
「あの隊長がどういう人なのか知ってるの?」

 豪鉄の呟きを聞き取ったカタストロがスピードを緩め、彼の隣に行って小声で尋ねる。豪鉄は頷き、自分の知ってるルヴルグについて話していく。

「二、三年前にパーティでちょこっと話したぐらいだよ。多分防衛隊隊長格の中じゃ、彼女が一番軍人気質だよ。軍人……というよりは騎士かな。己の意思を貫き通し続けている感じだし」

 なるほど、それならばあの判断力と指示能力にも頷ける。魔力も大国防衛隊六番隊隊長というだけあって高いのは知っているし、この分だとかなり頼れる存在になりそうだ。
 ラルゴと分断された事はカタストロからすれば少々不安であったものの、大国防衛隊隊長格で十分頼りになる人物が出てきたから任せても大丈夫だとホッとする。ちなみにこの時カタストロが「ラルゴに好意をもっているとかそういう問題じゃないからな!」と表情には出さずに内心で自分に言い聞かせたのは内緒だ。
 そこでふと気づく。豪鉄がルヴルグの事を「女」と言った事に。

「…………女? アレ、女?」
「うん、女の子。分からなかった?」
「……中性かと思ってた」

 自分の言えた事ではないが、ルヴルグは女と呼べるような性格には見えない。良くて中性、ぶっちゃけてしまえば男性にしか見えない。
 小声だった為か、幸いにもルヴルグ本人には聞こえていない。聞こえていたらどうなっていたのかはちょっと分からなかったが。
 そのまま自然に会話が終わりそうになったその時、ウォルスが勢い良く立ち止まると顔を若干青に染めて振り返りながら、後ろの四人に声を上げた。

「やヴぁい魔力反応、キャッチ!! こっちに転移してくる!!」
「何!? 数は!!」
「一個だけ! でもこいつ、滅茶苦茶やべーんだってヴぁよ!」

 ウォルスの言葉を聞き、ルヴルグは咄嗟に思考をめぐらせる。
 先ほど現れた二人の魔力は高かったものの十分あの二人で対処できるレベルだ。しかし今から現れるのはウォルスが顔を青ざめるほどの強敵。仮にも副隊長である彼が力だけでここまで焦りを見せるという事は……。
 そこまで考えた結果、ルヴルグは小さく舌打ちしてウォルスに指示を出す。

「チッ! ウォルス、下がれ!!」

 指示されて条件反射的にウォルスは下がってしまい、交代するようにルヴルグが一気に前に出ると帽子についた四つのクリスタルを一気に輝かせながら足元に魔法陣を展開させる。そのまま聞き取れないほどの早口で呪文を詠唱しながら魔法陣を赤、青、黄、緑と次々に色を変えていきながら魔力を高めていく。
 その行動を見て、ウォルスは察しがついたのか己達とルヴルグの間に魔法防壁を張って巻き込まれないようにする。
 直後、ルヴルグの正面に散らばる黒の羽根と共に誰かが現れたのを察知し、五人は一斉に注目する。

「紫炎に身を包みし紛いなる翼を持つ少年を追ってきたら、こんなところで思わぬ遭遇をするとはな。愚劣な地上の民よ、人々が楽園と謳いし偉大なる天空王国スカイピアに何用だ? 貴様等の様子からして服従しに来たわけではなかろう?」

 現れたのは、傷だらけの黒い天使だった。
 傷だらけでありながらも威風堂々と佇まい、呪と描かれた紙を対につけた輪を頭に装着し、その両手に持つのは赤一色に染まった巨大な鎌。大きく広げた漆黒の翼も相まって天使と呼ぶよりは死神に見える風貌だ。その姿に応えるかのように強すぎる魔力をひしひしと浴びせていき、静かな殺意を隠す事無く刃の如く突きつけてくる。
 しかし何故だろうか。対峙したその瞬間、傷だらけの死神のようなこの殺意に満ちた男を天使と思ってしまったのは。
 ルヴルグはすぐさまその考えを否定し、ただ目の前にいる敵を倒すために冷たい口調で言い放つ。

「……他者に名を尋ねる時は自分から名乗るのが礼儀であろう?」

 男は一瞬キョトンとするものの、すぐさま気づいてクスクスと小さな笑い声をこぼす。
 何がおかしいんだとルヴルグが睨みつけるものの、男は怯んだ様子も見せず寧ろ見下すように名乗りだす。

「地上の民が礼儀を知っているとはな。……これから滅ぼすんだ、名前ぐらいは名乗ってやろう。俺はジス、偉大なる天使兵団から選ばれたる『神の為の剣<エデル>』の長にして愚かなる地上の民を断罪する死神だ」
「私はルヴルグ。オリジナル・カービィ大帝国防衛隊の内、六の字を任された長だ。その為……まだ死神に魂をあげる時ではないんでな」

 向こうが名乗った為、礼儀としてルヴルグは名乗り終えると足元の魔法陣と四つのクリスタルを瞬く間に輝かせ、辺りの視界を防ぎながら大声で叫ぶ。

「幻想空間発動!!」

 次の瞬間、ジスとルヴルグの存在した世界が一気に変換された。




  • 最終更新:2014-05-29 18:40:35