第四十九話「ダム・Kさん、ブルーブルーの旅!」

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 見える。真実を求める者が見える。傷つきながらも、ここに来ようとする者の姿が見える。
 それは六年前に出会い、不可思議なパーツを任された魔法使いの姿ではない。愚かにも絶対なる力を持った否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガンと戦う道を選んだ複数の者達だ。
 海底神殿の奥深く、天使を連想させる白き蝙蝠の翼、悪魔を連想させる黒き鳥の翼を背に生やし、片目に傷跡のある女賢者がゆっくりと両目を開きながら、やがて現れるであろう戦士達を予知した事から呟く。

「……ここに来るということは、彼女が拒んでいないということ」

 彼女とは、全ての始まりである否定の魔女。強すぎるが故に、誰よりも愛を求めている惨劇の魔女。
 魔女が真実を知らせるのに拒まないという事は、覚悟を決めたということ。この物語で終わらせるという決意をしたということ。
 けれども魔女が望むほど、人は強くない。その証拠に彼に真実を教えた時、彼は魔女の理想から遠ざかってしまった。捨ててはならないものを捨ててしまった。だから魔女は負けなかった。
 魔女は高望みしすぎている。人に幻想を抱きすぎている。力の差を理解しきれていない。だけど、純粋すぎる程に人が生み出せる力を信じるその姿はマリンブルーよりも、いや、どんなものよりも美しかった。

『カービィは全てを無限にする、カービィは全てを切り開く、カービィは全てを在りえさせる』

 シンプルすぎた姿を持っていながらも無限大に広がっていく「カービィ」という存在が導き出す力を、誰よりも魔女は気に入っていて、信じていて、愛していた。
 その時に一度だけ見た儚い笑みは、何よりも切なくて、美しくて、心を奪われた。
 その美しさは薔薇の棘よりも危険なものだと知識はあったのに、一目見ただけでそんなもの吹き飛んでしまった。老若男女問わず、全てのものを魅了してしまう美しさだというのは知っていた。あまりにも美しすぎるが故に誰もが彼女に跪いたことも知っていた。己はそれら全てを知っているから彼女の美しさに屈服しないようにしていた。
 なのに、なのに、なのに、一瞬だけ見せた小さな小さな希望に縋りつこうとする儚くも美しい微笑を見た時、女賢者は否定の魔女に対する敵対心を全て否定されてしまった。神ですら生み出せない至高の果てにある美しさに、負けてしまった。

「……ならば我も使命を果たすまでのこと」

 だから、力を貸す。誰よりも愛しく救ってあげたい孤独な花嫁の為に。
 女賢者は太陽と月をあしらった紋章の描かれた帽子を被り直しながらも、これからここに現れるだろう者達を待ち構える。しかしこの海底神殿には幾つかの不安要素があった。
 中にいる存在達に関しては多分それほど脅威ではない。寧ろこの海底神殿を護ってしまっている存在の方が脅威すぎるのだ。力の無い女賢者にはどうする事もできない脅威、彼等はどう立ち向かうのだろうか。

「我が愛しき花嫁に刃を向ける者達よ、彼女の希望になりたいというのならば……ここまで来てみろ」

 だから女賢者は海底神殿の奥深く、ドラグーンパーツの守護者として戦士達を待ち続ける。





 第六章「海底神殿」これより開幕





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 どうも、こんにちは。世界を救う大冒険のメンバー入りしちゃったダム・Kでござんす。三日月島から帰ってきた際、すぐさまチーム分けして水の都ブルーブルーにやってきました。美しい水路が立ち並び、小型の船を使って進んでいく人が沢山いる中、いまどき珍しいレトロな作りの水路挟んだ道路と民家が魅力を引き立たせており、真夏だというのに素晴らしく美しくございま……あ、泳ごうとして捕まった奴発見。馬鹿だわ、あいつ。
 大国の中でも芸術性が高く、美しき水の都と呼ばれるここを選んだ理由はぶっちゃけ消去法。第一にスカイピア、いくらミラリムがいるからって凶暴天使軍団の輪の中に入る度胸はございません。第二にタワー・クロック、入る隙間が無かったというか……セツ君には悪いけど鬼に踏まれたくない。第三にレクイエム、何かやらかす気満々の人がいたので巻き込まれたくなかった。結構臆病な理由で決まったけど、ここもここで博打なんだよなぁ。海底神殿内部にドラグーンパーツを隠してるんだけど厄介なものが住み着いている。あのマナ氏がマジ顔で気をつけろと言っていた代物がいるんだよね、ここには。うーん、これならレクイエムに行けばよかった? いや、もう決まった事だ。覚悟を決めるしかない。サザンクロスタウンや三日月島みたいに酷い目には多分合わないだろう。
 とりあえず、現状を見直してみよう。自分等はルヴルグ隊長の魔法で、海中都市行きのエレベーターホールFに転移。そこで案内の人と合流する予定だったんだけど、まだ来てないので二、三人に別れて近くをぶらりと見て回る事にしたわけ。案内の人が来ても良いように、観光に興味が無いシルティ副隊長とラルゴさんにお留守番してもらってます。通信役にはナビゲーター役のZeOさん(隊長と呼んでいいか分からんので)がしてくれるのでご安心。その時の為にわざわざ全員分、インカム装着させられたし。
 そういわけでクレモトさんと絵龍ちゃんとちるちゃん、ケイト君にナースさん、自分とミラリムの三グループに別れて短い観光を味わっているわけだ。当然自分と絵龍ちゃんはケイト君心配したし、止めた。でも無意味だった。……彼が綺麗なままなのを祈ろう。

『だむ~、何してるのー?』

 ぐいぐいと自分の手を引っ張るのはミラリム。現在の姿は桃薔薇といって、フリルのついた大きくて可愛らしい桃色のリボンをつけた普通のカービィより一回り小さい幼女姿だ。正直言ってたまりません。かといって襲い掛かる勇気は無い。こいつの強さは知ってるし、何よりもノアちゃんの件で痛い目見たし。トレさんの本拠地に送り込むなんてトラウマどころじゃないっちゅーの。一歩間違えてたらあの世行きだぞ、アレ。
 トラウマが呼び起こされそうになるけど、またも桃薔薇に手を引っ張られたんで意識を戻す。今までに出てきた薔薇シリーズん中だと精神的に一番幼いらしく、ブルーブルーを楽しみたい気持ちで一杯のようだ。
 はいはい、一体どうしたのかな? そう書いた立て札を出して、桃薔薇に尋ねてみる。桃薔薇は可愛らしい笑顔で答えてくれた。

『もも、うにゅー食べたいのー!』
『うにゅー?』
『苺大福のことなのー! さっき美味しそうなお店見つけたのー!』

 おいおい、ブルーブルーに来てまで苺大福かよ。まぁ、飯はもう食った後だし、別におやつなら良いか。……レストランでの店員さんの目が痛かったのは気のせいだ、うん。気のせい。
 とりあえず自分と桃薔薇が手を繋いで、苺大福を求めて歩き出そうとした矢先。

「喰らえ、正義のメガトンキィィィィィィィィィィック!!!!」

 後方から聞こえてきた男の叫び声と同時に、自分、背中に飛び蹴りアタック直撃して吹っ飛ばされて水路に落ちたのは。もちろん警備員さん来る前に水路から上がりましたよ。ってか誰だよ、思い切り両足で蹴っ飛ばしたのは!!
 恨みを乗せた自分のでっかい目をこらして探し、すぐ見つけた。それもその筈、先ほどまで己が立っていた場所にて桃薔薇を口説いてる変人がいたのだから。

「大丈夫かい、お嬢ちゃん。あのヘンテコ目玉に変なことされなかったかい? お父さんとお母さんにすぐ連絡してあげるよ。全く、こんな可愛い子を連れまわすなんて何てふてぶてしい!」
『う、うー……?』
「怖がらなくても大丈夫! お兄ちゃんは君の味方! 君に迫ってくる悪党どもは一匹残らずぶっ潰すさ!!」

 何を勘違いしたのか、自分が桃薔薇を連れまわしている変態と認識していたようだ。いやいや、れっきとした保護者なんですけど。契約者なんですけど。それにね、君よりもミラリムの方が絶対強いから。
 そんな勘違いによって人を水路にぶっ飛ばしやがった野郎の特徴は、我道と書かれたタオル(毛質で分かった)を頭に巻き、片手にバットという感じでまず係わり合いになりたくないものだ。これでドぎついピンクだったらガチで引いてたが、悲しい事に水色だった。
 ……とりあえず制裁を加えにいくとしますか。向こう側、少なくとも変態野郎は気づいていないみたいだからな。
 足元に暗黒の穴を作り出して、自ら落下。もちろん出る先は……この変態の真上だ。穴を通っている最中に出した立て札で、この変態の頭をぶっ叩く! もちろん面ではなく、角でね。

「ぐぇふぅ!? あぎゃあ!!」

 こいつが悲鳴上げてる間に、こいつの上に着地。変態はさらに汚い悲鳴上げました。おっし、ざまぁみろ。

『だむけー、おみごとなのー!』

 桃薔薇も嬉しそうに笑って拍手する。はっはっは、それほどでもないさ。
 とりあえずこいつの頭をぐりぐり踏んでから道路に下りる。警察は……呼ばなくていいか。これ、放置してさっさと苺大福買ってこの場から離れよう。ルート的に大きく迂回するけど、うん、急がば回れだ。
 起きないのを良い事に、自分達は変態ロリコン野郎を置いてお菓子屋に向かうのであった。目撃者はいたかもしれんので、さっさと立ち去るのが得策だ。どうせすぐに海底神殿行くんだし、こいつとはこれっきりだろうから変なフラグは立てたくない。

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 結論から言おう。何時の間にか立っていたフラグが消化されていた。とびっきり悪い方向で。
 ZeOさんの集合合図でブルーブルーのパッと見て唯一近代化しているエリアである海中都市行きのエレベーターホールFに、集まった自分等が見たのは黙っているラルゴさんと何考えているのか分からないシルティ副隊長、でもって……。

「でさー! 俺が折角可愛い可愛い桃色ちゃんを助けようとしたんだけどさ、魔法か能力か暗黒か知らねーけどいきなり上からぶっ叩かれて逃げられちゃったんだよ!! あーもう、あんなに可愛い桃色ちゃんが変態一つ目花お化けに売られていないかどうかが心配だっちゅーの! くっそ、スーラの野郎、こんな仕事を押し付けるなんて何考えていやがるんだー!!」

 一方的に二人に話しかけまくっている、あの時の変態ロリコン野郎。
 待て。ちょっと待て。何でいる。何でいるんだ、あいつ。ロリセンサーでもついてるのか、あいつには。というか二人ともどうしてそんなの聞いてなんともないんだよ。そいつにツッコミとか入れようよ!
 自分が内心ツッコミ止まんない隣、いち早く復活したクレモトさんが変態ロリコン野郎に話しかける。

「えーと、あなたが案内人かな?」
「そんとーり! この俺、黒臼が海底神殿までへの案内人だぜ!!」

 はぁ!? こいつが案内人んんんんん!? 嘘、ちょっとキャンセルしたいんだけど。

「おっし、明るくなりそうな人が来たっス……」
「ちょっと気まずかったもんね、空気」
「うーん、格好が……ちょっとねぇ。もう少し分にあった帽子被れば素敵なのに」
「弄りがいある人なのかな、彼」

 絵龍ちゃん、ちるちゃん、ナースさん、ケイト君は変態ロリコン野郎を見て、好き勝手に言っている。……第一印象は良好っぽいけど、それ絶対すぐに変わる事になるぞ。
 その証拠に黒臼だったか? 変態ロリコン野郎がナースさんの発言を聞き、一歩前に出て無駄に力込めて断言した。

「安心しな! 俺はロリに興味はあっても、オカマに興味はな~~~い!!」

 直後、ナースさんのゲンコツを頭に喰らって沈没した。素早い、動きが見えなかった。思わず拍手を送ってしまった。
 いきなりの光景に絵龍ちゃんとちるちゃんが驚いて言葉も出ない中、クレモトさんがお留守番係の二人に話しかける。

「もしかしてずっとあんな感じだった?」
「あぁ。仕事柄、耐えるのには慣れていたが……何度アホかと思った事やら」
「……同感」

 ラルゴさんもシルティ副隊長も無表情ながらも、どこか呆れた様子で返す。どんぐらい話聞かされてたんだろ、あの二人。
 変態ロリコン野郎のアホさ加減に呆れ半分感心半分といった顔をしてた桃薔薇が、こちらに顔を向けて尋ねてくる。

『だむー。もも、別の子に変わった方がいーい?』
『YES』

 当然即答した。さっきみたいな事はもうごめんだしね。
 解った、と桃薔薇が返事して鏡を出現させる。その時、変態ロリコン野郎が何かに気づいたようにいきなり立ち上がって叫んだ。というか吼えた。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!???? そこにいるのは、桃色のお嬢ちゃんじゃあーりませんかーー!! でもって何でいやがる変態一つ目花お化け!!」

 復活するな。そしてこっちに気づくな。うあ、こっち来た! ゆ、ゆさ、ゆさぶるなー!!
 依然勘違いしている変態ロリコン野郎に花びらつかまれて、前後にガクガク揺さぶられる自分。その隣で必死に桃薔薇が止めようとするけど話聞いてくれない。見かねた絵龍ちゃんとちるちゃんが心配してるけど、それよりも助けてん。クレモトさんは……目線反らしてるって事は見捨てやがったな! ラルゴさんと副隊長は無表情のままだし、ZeOさんは意図的に通信しないし、ケイト君はニコニコ笑って一歩引いてるし! うあああああ、助けてナースさーーーーん!!
 海底神殿に行く前から無駄な体力を使わされている気がする小さな騒動の中、黙って眺めていたケイト君がぽつりと呟いた。

「これは出発前から前途多難だね」

 他人事だからって面白そうって言いたげな顔はやめてくんない?



次回「海底神殿に潜む魔物」



  • 最終更新:2014-06-15 18:13:43

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