第四十一話「それぞれの思い それぞれの決意」

 注意:この話は別スレッド:否定の魔女外伝短編集の「飛燕」を読破する事をお勧めします。

 ■ □ ■

 十年前、世界大戦真っ只中で「皆殺し」と称される残酷で大規模な惨劇があった。
 複数民族が助け合って生きてきた国を複数の国々が攻め込み、壊滅寸前に陥れるほどの戦いと殺戮を繰り返した悪夢。その終止符を打ったのがよりにもよってモザイク卿による炎なのだから性質が悪い。
 否定の魔女トレヴィーニの存在が発覚しだした事件でもあり、機械反乱事件もあって彼女が誘導したという意見も飛び回っているのだが一番有力なのはモザイク卿を呼び出しただけだという説。つまりトドメこそ否定の魔女の手下が起こしたものであるものの、始まりと過程は全てカービィ達自身が作り上げていったのだ。
 だから当時は否定の魔女の存在なんて誰も知らなかったに等しかったから、彼女に思いをぶつけて気持ちを晴らす事なんて誰にも出来なかった。失ったものが多すぎて、敵対するものが多すぎて、それ故に彼等は憎しみと悲しみを何処にぶつければいいのか全く分からなかったのだ。
 ダイダロスの軍勢が始めて出現した実質初の否定の魔女一派と対決する事になった九年前の夜明国崩壊事件と違い、この皆殺し事件はまだカービィ同士の殺し合いだったのだから。
 それにトドメともいえる火災については、当時一つの仮説が立てられていたからそれもあってのことなのだから――。

 ■ □ ■

 飛燕は言葉を失っていた。当然だ、自分は飛燕だというのに死んだ妹だと言われてしまえば誰だって訳が分からなくなる。
 一方でナグサは静かな怒りを込めて飛燕を見つめながら再度、口にする。

「聞こえなかったのか、僕の言葉が。ならもう一度言おう。何時までこんなくだらない芝居を続ける気だ、飛流さん」

 その言葉を聞いてハッと我に返り、飛燕は静かにけれども強い怒りを向けてくるナグサに苦笑いしながら話しかける。

「……ナグサ君、君は何か勘違いしてないか? 飛流は僕の十年前に死んだ妹であって、僕は飛燕本人なんだけど」
「ほぉ? それじゃ十年前の皆殺し事件の際、初めてトレヴィーニに遭遇したのは自分自身だって証言できるんだ?」
「……さっきから何を言ってるんだ、君は。それは飛流だって通信記録には残されているし、第一何の根拠も無いんだけど。それとも本能レベルの一般常識さえも忘れたのかい? カービィという種族は無意識のテレパシーで自他共に男・女・間の先天的性別を読み取る事が出来る。だから女がどんなに男になりきろうとも、男がどんなに女になりきろうともオカマやオナベって言われるだけなんだ! 君もナースで思い知ってるだろ?」

 さっきから自分を飛流だと決め付けているナグサに対し、飛燕は呆れ半分憤怒半分でとっても分かりやすく一般常識どころか本能レベルの事を説明しにかかる。そりゃ誰だって自分と死んだ妹が逆転していると決め付けられ、認めろと言いがかりをつけられればこんな事だって言いたくなる。
 生オカマであるナースを題材にされ、ナグサは少々顔を青ざめながら頷く。

「はい。それはもう思い切り」
「ならどうして僕を妹と決め付ける? 君にも僕は飛燕という男性に……」
「質問:現在生存しているのは本当に飛燕さんか。答え:飛燕の皮を被った飛流」

 飛燕がナグサを説得しようとするものの、ナグサはメモ帳を取り出していきなりとんでもない事を口にする。
 その内容に飛燕はわずかに驚くけれど目を険しくし、ナグサの様子を見る。
 ナグサはこれ幸いと言わんばかりにメモ帳のページをめくりながら、その中に書かれているマナ氏への質問とその返答の一部を次々と読み上げていく。

「質問:宣戦布告し、トレヴィーニは僕を愛すると言った際に一つの否定を行った。その時に飛燕さんと飛流さんに関わる記憶が一気に書き換えられた。この場合トレヴィーニが僕にかけた否定は何か。 答え:トレヴィーニはMahouの粉によって超長期広範囲幻術を自他共に出し続けていた飛流の効力をあなたにのみ否定した。だから十年前から行われている植えつけられた偽りの記憶をあなたは本来の記憶に正す事が出来た。それだけのこと」

「質問:十年前の記憶なのにハッキリ思い出してしまうのは何故? 答え:否定の副作用で強く思い出したのか、唯単に蘇った記憶のインパクトがあなたの中で大きかったのか、トレヴィーニがあなたに植え付けたか、のどれかでしょう。一種のご都合主義って奴で納得していなさい」

「質問:飛燕さん死亡飛流さん生存で行くと正体が判明した事はあったのか。 答え:私や大国上層部の内数名、エンペラーにはまずバレてます。研究員の中にも気づいてるものはいるかもしれませんが、その辺の口止めはエンペラーが回している事でしょう。あくまでも彼女の為ではなく私の為でしょうけどね」

「質問:何故飛燕さんはクウィンスと別れた。 答え:全員が彼女を男と思っていても、実際は女同士。共に生きてたらバレるの目に見えてます。深層心理に反応したMahouの粉がとらせた行動と推測します」

「質問:人の心に反応し、人の心を弄ぶMahouの粉は万能なのだろうか。 答え:良くも悪くも万能。ただし長期間の使用実験ができてないのでどうなるかは分かりません。その人の心に従い、力を発揮していくから過剰反応して暴走を起こす可能性があります。これって私の魔力を元にして生み出した代物なんで何やらかすかわかりませんよ?」

「質問:Mahouの粉が所持者・利用者を殺す事はあるのか。 答え:その人の心次第。死亡例は少なかったですが、精神崩壊例は大量にありました。そのレベルは個人差があり、あっさり回復できるのもありました。ただあなたの心配する人物に関しては十年間も擬似人格を演じ続けてきた為、死亡・精神崩壊両方がおきてもおかしくないでしょう」

「質問:マナ氏がMahouの粉で今の飛燕さんを創り出したのか? 答え:半分YES半分NOとお答えしましょう。飛燕という死者を演じている飛流が大部分を演じており、私はその切欠を与えただけにすぎない」

 ここまで読み上げるとナグサは一度メモ帳から顔を離し、呆気に取られている飛燕に口を開く。

「三日月島でマナ氏に質問できるチャンスがあったから、その際にキッチリ全部答えてもらった。まっ、その分含めて自分でエアライドマシン回収する羽目になったけどね」

 ちょっと質問攻めしたぐらいでこんな事するなんてね。そう付け足しながら、苦笑いするナグサ。
 実際は指名手配犯のローレンをこき使って聞かせただけであり、ナグサ本人がマナ氏に直接聞いたわけではないのだがその事実はあえて無視する爆弾愛好カービィ。
 すぐさま表情を真実を伝えるべき探偵を連想させるような真剣ながらも不敵な笑みを浮かべた顔となり、飛燕に更に言葉を並べ立てる。

「マナ氏は一言も嘘をついていないし、嘘をつくメリットは無い。あなたをこれまで覚えていたのはあなたがMahouの粉による人体実験最初の被験者だったからだ。まっ、それさえもあなた自身は記憶操作してしまったようだけど」
「……ごめん、少し頭が追いつけていないんだ。マナ氏とMahouの粉が僕を飛燕に変えたというのか? 僕を飛燕と思い込ませるようにしたというのか? 死んだのは飛流であり、生きたのは飛燕であるということに」

 飛燕はあまりにも信じられないと言った様子で頭を抱え、苦々しい表情でナグサに問いかける。
 しかし奥底の部分をまだ認めようとしていない飛燕の心理を読み取ったナグサは更に顔を険しくして、きつい口調で指摘する。

「聞いていなかったのか、飛流? この過ちを最初に選んだのはあんた自身であり、この状態を一番望んでいるのはあんたなんだよ!! そのせいでブレが生じていて、どいつもこいつも幸せになれない道に進んでいるとも気づかずになぁ!!」

 その表情は怒りに満ちて、けれども悲しみもこもっているやりきれないものだった。
 ある意味ナグサにとってこの思いは当然のものだ。クウィンスとウェザーが崩れる切欠を作ったのは幼い頃に交友があった飛燕であり、憎むべき対象ともいえる。
 ウェザーにも強い怒りを当てられた飛燕だからこそナグサの思いは痛いほど伝わってくる。飛燕がクウィンスを否定の魔女復活犯として連れ去らなければ、クウィンスは狂わなかったしウェザーも死ななかったのだから。
 だから飛燕と飛流の問題はともかく、クウィンスとウェザーの問題ならば飛燕は納得できるし恨みと憎しみの対象になる覚悟も出来ていた。
 けれどもナグサは怒りを無理矢理押さえ込め、荒々しい口調のままで話を続けていく。

「本来なら殴り飛ばしてでも飛流に戻し、あんたが犯した十年分の罪を思い知らせてやりたいところだ。……だけど、あんたにはやってもらわなきゃいけない事がある」
「…………」
「……クウィンスを僕らに対するタワー・クロックに送り込む。トレヴィーニが直々にそう言った」

 クウィンスという名とその目的地を聞き、飛燕は目を丸くするがすぐに細くしてその意味を推測する。
 ナグサの語る「Mahouの粉による入れ替わり」を認めたくないが事実とすると、トレヴィーニの否定も掛け合わせると彼女の目的は何故かナグサと同一のもの。そうじゃなければクウィンスをわざわざ送り込むなんて言いやしない。
 基本的にトレヴィーニという存在は嘘をそんなにつかない。寧ろ自分に正直に動き回ったりする事が多い為、ナグサが今回の物語の愛される者に選ばれた事も含んで信用しても大丈夫な情報だ。
 ナグサの話と二人のチート超えたレベルの魔法使いが関連している事実、そこから察した飛燕は一つの答えを口にする。

「つまり、こういう事か? タワー・クロックで僕ら三人が再び再会する時こそ……ナグサ君の言う幻想の終結であり、十年間にも及ぶ偽りからの開放だと」
「……そんなところ。理解してくれましたか?」
「納得はしていないし、事実としてもあまり認めたくない。……証拠を並びたてられ、絶対なる否定の力さえ無ければ理解しようとしていなかったよ。君、絶対うちに入ったら大活躍できるよ」
「弁護士目指してるんで遠慮しておきます」

 キッパリ言い切った弁護士の卵という名の策士に飛燕はもったいないと言葉をこぼすが、本心ではないのは明らかだ。
 ……何はともあれ、『飛流』と『飛燕』を巡る問題だけでなく、トレヴィーニの手中に落ちてしまったクウィンスとの接触のチャンスが時の神が存在するタワー・クロックにあるという事が判明している為、ナグサと飛燕は北方都市タワー・クロックに行かなければならない事は決定された――。

 ■ □ ■

 バルコニーから眺める夜空は美しく、けれども分厚い雲によって器用に月が隠されてしまっている。まるでこれから不吉な事が起きるのだと言わんばかりに。
 月明かりが無く、星の明かりでは見づらいものの遠めにぼんやりと輪郭は見える。西南の方角に浮かぶ古代王国スカイピアの影は。
 レッドラムを水晶漬けにしたあの最悪と呼ばれた天空王国には既に複数の小隊を送り込んでいるものの、どの部隊も一人として戻ってこない。日にちはそれなりに経っている事から推測すると……全滅した可能性が非常に高い。
 死者を出してしまったのかと悔やむ。今度はその過ちを繰り返さない為にも、己が出なければならない。
 正直言って皇帝陛下の出した作戦を聞いた時は衝撃的過ぎたのだが、トレヴィーニが愛する事を決めるほどの実力者ならば乗ってみる価値はある。
 ルヴルグは己にそう言い聞かせながら、遠くに見えるスカイピアを思いながら呟く。

「……哀れだな。再びこの世に舞い戻り、戦う道を進もうとするとは……」

 八百年前、当時インヴェルトと呼ばれた否定の魔女トレヴィーニと戦い合って滅んだ天使達の王国スカイピア。
 史実では色々と自業自得な部分が判明している為、スカイピアに同情する気は全く無い。寧ろ邪魔立てするのならば、歴史だろうと無視して思い切り叩き潰すつもりでいる。
 だがそれでも思ってしまうことがあるのだ。八百年の歳月が経っていても尚、今も同じ道を突き進もうとする天使達に。
 何故そこまでして地上を支配したがるのだろうか。何故そこまでして己等の存在を知らしめようとしているのだろうか。何故あのような愚かな判断しか出来なかったのだろうか。
 地上の民を皆殺しにしなければ、空に住まう天使達は……。
 そこまで考えたところで、ルヴルグは首を左右に振って振り払うと己に言い聞かせる。

「いや、考えていても何も始まらん。……スカイピアが大国に敵対するというのならば、私は己の正義に従って倒すだけだ」

 それが大国防衛隊六番隊隊長のやるべき使命なのだから。
 ルヴルグが決意を強めたその時、どたどたと大きな足音を立てながらバルコニーへと一体のカービィが走ってくる。
 ルヴルグが振り返ると共に彼……副官のルヴルグは立ち止まり、息切れも見せずに独特な声で元気に尋ねてくる。

「たいちょー! 何処行くか決まりました!?」

 相変わらず元気な副隊長の様子が微笑ましく感じ、ルヴルグはついつい笑みをこぼしながら答える。

「決まったよ、ウォルス。とりあえず私はスカイピアに行き、長を叩き潰そうと考えている」
「んじゃ、オイラもそこにします」
「は? いや、これは隊長と副隊長別々でも大丈夫だった筈だろ」
「……ルヴルグ隊長、あんた自分の方向音痴度がどれぐらいか分かってんの?」

 呆れきったウォルスに指摘され、ルヴルグは何も言い返せなかった。
 実は隊長格、いや、大国防衛隊の中でもルヴルグの方向音痴度はすさまじく最早伝説レベルと言っても過言ではない。行き慣れた道ならばまだどうにかなるのだが、そこから外れてしまえば五分で行ける道にさえもまともにたどり着けなくなるのだから。
 その為、副隊長であるウォルスはルヴルグを迷子にさせないように道案内しなければならないのだ。それがどんな場所であろうともだ。そのせいでかウォルスの探査魔法のレベルがガンガン上がっている。
 ちなみにその方向音痴度の酷さは一般隊員に頼らないと集合場所にたどり着けない程でもある。この事実にはまとめ役のイブシもエンペラーも呆れきっていて、諦めている。

「それよりもウォルス、本当にこっちでいいのか? スカイピアで待ち構えているのは激戦だぞ?」
「しつこいってヴぁ! オイラだって防衛隊の副隊長だし、ルヴルグ隊長を道案内できるのはオイラぐらいしかいないってヴぁ!」
「……向こうは敵陣だから幾らでも壁は破壊してもいいんだがな」
「隊長、それ破壊者の考え。オイラ達、防衛隊だぞ?」
「分かっている。ただ馬鹿にされた気がしたからちょっとな」

 ウォルスに指摘されたルヴルグは苦笑する。ウォルスにはその顔が半ば本気に見えた為、冷や汗を流した。
 その一方でルヴルグは再びスカイピアに体を向けると切なそうな表情を浮かべ、呟く。

「それにしてもスカイピアの天使は哀れだな」
「ヴぁ? 一体どうしたんですか?」
「お前もスカイピアの結末とそうなった経緯ぐらいは知ってるだろ? そこから連想すれば、今回の事件は奴等からすれば惨劇に等しいものだ。それでも同情に身を任せて戦わないという事にはしないが」
「惨劇っちゅーか悲惨っちゅーか……。オイラはもう何を言えヴぁいいのか分かんないってヴぁ。それでも繰り返しちまうのは何で?」
「さぁな。奴等の信念はそれほど揺るがないのか、もしくはそれしか生きる手段を知らないのか……」

 相手が敵である為、叩き潰すという考えには変わりは無い。
 しかしそれでも考えてしまうのだ。八百年前に滅んだ天使達の王国スカイピアの哀れな物語に対して、様々な事を。
 思考こそ褒められたものではないけれど、その誇りの高さはルヴルグが知っている国の中できっと一番だろう。神を信じ、それを貫き通そうとした思いもどこよりも強いだろう。
 だからこそこんな酷い物語に同情をしてしまう。
 スカイピア行き、ルヴルグとウォルスの二名決定。

 ■ □ ■

 思い返すのは、答えを持つマナ氏のもとに集まったときの事。
 己が差し出した一つの問いの答えである世界大戦の最終決戦後、質問はまだ続いていた。それは始めの方で質問し、幸せな答えを得られた人形と違って残酷な答えばかりが得られた。
 彼は肯定してほしくなかった質問に全て肯定して、彼らの思いを一気にねじ伏せていったのだから。
 残酷な真実を答えながら、マナ氏はその偽善者染みた笑みを全く崩さずに答えていった。

『えぇ、大体はその推理で合っています。当時の私はそんな判断しかできなかったんですよ。……後悔なんて全くしていませんよ、この世の伴侶とも言うべき女性に出会えたのですから』
『……あんたが凄まじいぐらいのキチガイだってのは理解した。反省もしていないし、あんたは完璧に狂っているな』
『何を今更。マナ氏が狂っていなかったら、夜明国の生存者は少なくとも一名は増えていたよ。……そういう何でも屋さんも僕と同じタイプなんだろう?』
『部分的に、だがな。だが金の便利さを身をもって知れたからその部分だけは感謝している』
『さすが金銭主義のラルゴ。真実を知っても全く動じない』
『悪いが俺はそちらさん程恨み深く生きていられなかったんでな』
『ならどうしてここに来たんだい? ……豪鉄さんのボディーガードとして来たフー・スクレートさんと違い、自分の意思だろ?』
『……殺人鬼の顔を見たかっただけさ。殺意はとっくに失せているがな』
『解せないね。君の人生を無茶苦茶にした男が目の前にいるというのに?』
『さっきも言っただろ? 俺は恨みを抱いて生きる事は出来なかった。抱けたのは金だった、それだけの話だ』
『本当にそれだけなのかどうか、信じがたいね……』

 滅茶苦茶空気が重かったなぁ、あの時。特にラルゴとケイト。相性最悪って感じでした。
 しかしあの真実は予想もしていたし、フロースから聞いた時点である程度予測はしていた。しかし本当にあれが真実なのだろうか? あの場にはイレギュラーとも言うべき矛盾を司る不揃の魔女も同席していた為、疑問が耐えない。
 ノアメルトだったか? 幼女の姿をした彼女はつかみどころがない飄々とした態度で話をかき乱していた。

『なるほどねぇ。この話が事実だとすれば、そりゃトレちゃんも愛しているんだけど愛してないって答えを出すよ。というかトレちゃんのハードル高すぎ! 高嶺の花になりすぎだよ~!!』
『高嶺の花の使い方間違ってねーか、虹色ちびっこ』
『間違ってないよ~? ただ、トレちゃんの場合自分から高い場所に行っちゃうからどーしても高嶺の花以上になっちゃうの。もーっ、モテモテだからって遊びすぎだよっ。まー、今回の主人公はそのハードルくぐりぬけれるかもね?』
『……どういうことですか?』
『ちょ、男の嫉妬は怖いよ! 抑えてよ! いくらノアが魔女だからって、殺気向けないでよ。八つ当たりやだやだやだぁー!』
『嘘泣きは結構! その言葉の真意を教えてくださらないというのならば……!!』
『ってあんた等、ここで戦闘する気か!? やばい、総員止めろーーー!!』

 戦場になりかけたのは自分達が命がけで止めた。突きつけられる魔力が凄い痛かったけど、惨劇になるのを止めれた分マシだ。
 とにかくあの話し合いである程度の事は分かった。マナ氏とノアメルト、そして集まった面々の事から得られた事は多いが、真実にたどり着けるものは数少ない。
 どうにか得られたヒントの中にあるのは……海底神殿という単語だ。

『……なら、ブルーブルーの海底神殿で真実の更なる真実を追究してみなさい。最も真実をつかみとれるかどうかの話ですけどね』

 世界大戦の真実なのか、それとも否定の魔女の真実なのか。どちらなのか両方なのかは分からないが、エアライドマシンも隠されてある場所である以上、行かないわけにはいかない。
 アンケート方式で行き先を決めるようになった今、クレモトの希望はブルーブルーの一つしかなかった。
 マナ氏が断片的に残していった真実の欠片とノアメルトが語る否定の魔女の本質、そして世界大戦を軸として絡み合う物語を解き明かすには数少ない糸口に特攻するしかない。
 新たなる物語によって全てがうやむやになる前に明らかにしなければならないのだから……。
 センチメンタルな気分になりながらベッドに倒れこむクレモト。
 その時、勢い良くドアが開いて誰かが部屋の中に入ってきた。

「どーもー。クレモトさん、いるっすかー?」

 聞きなれた女の子の声を聞き、クレモトはダルい体を起き上がらせて扉の方を見る。
 そこには苦笑いしながら立っている絵龍の姿があった。
 いきなりやってきた彼女に対し、クレモトは不思議に思って尋ねる。

「絵龍ちゃん? どうしたのさ、こんな夜中に。女の子なのに感心しないよ」
「いや、アンケートの件でお話したくて。でも抜け出したのバレてたから、それに捕まってて遅くなったんすよ……。悪いのクレモトさんなのに、だーれも聞いてくれなくて」

 絵龍は説明しながらベッドまで近づくと飛び乗って座り込む。
 抜け出して捕まったの部分を聞き、クレモトはサザンクロスタウンに行く時の状況を思い出して頷く。

「あ、そういえば思い切り連れ出してたね。その様子だとこっぴどく叱られた?」
「えぇ、そーれはもうねちねちと! お陰で報告書だけでなく、始末書まで書かされたっすよ!!」
「あらまー、そいつはきつい」

 よっぽど担当の医者と上司(注:防衛隊隊員はとんでもない人数なので、防衛隊内部には一~六番隊の中にはそれぞれ中隊・小隊が数多く存在します。なので隊長ご本人ではありません)にねちっこく怒られたのだろう。絵龍がぷんぷん怒るのも無理は無い。
 一旦叫んだので気が済んだのか、機嫌を直した絵龍は本題に入る。

「ところでクレモトさんは何処に決めたんすか? 自分はレクイエムかブルーブルーにしようかなーって考えてるんすけど」
「ブルーブルーの海底神殿に行くつもりだよ。色々と知りたい事が出来たからね。ってかスカイピアはともかくとして、タワー・クロックには行かないの?」
「……自分、極端に寒いトコ苦手なんで。暑いトコならまだ行けるんですけど」
「あー、そういう理由。分かりやすいねー、君って」
「分かりにくくない分マシっすよ。何でも屋のお二人よりマシな性格だと自分は思いますけど?」
「あの二人を題材にしちゃ駄目だよ」

 明らかに何でも屋と通すには性格が社交的じゃない二名に対して、辛口な事を言ってるけど事実なのでどっちも特に気にしてない。
 絵龍は「やっぱり?」と苦笑して誤魔化そうとして、ふとある事を思い出して何気なく尋ねた。

「そーいやずーっと疑問に思ってたんすけど、何でクレモトさんって真実を追い求めてるんすか?」
「今更聞くの、それ?」
「いや、サザンクロスタウンでのドタバタがあって落ち着く気配無かったじゃないですか。ってかそちらさん、三日月島に着いてからは単独行動多かったし」
「あぁ、そうだったね。ごめんごめん」

 絵龍に指摘され、クレモトは自分の行動がどういったものか思い出して苦笑する。
 最早慣れきっている絵龍は特に気にしておらず、勝手にベッドに寝転がって足をバタバタ動かしながら返答を待っている。
 年齢分かってやっているのかなー、と思いながらもクレモトは少し考えてから真実を求める理由を口にする。

「……真実を求める理由。それはね、世界大戦をただの物語として見たくなかったからだよ」
「え? ただの物語って何言ってるんすか? あの時代、生き抜いたんなら誰だって現実のものだって……」
「そう、現実にあった。だけども時が過ぎる事にそれは思い出となり、過去となり、歴史となり、御伽噺となる。真実なのかどうかさえも分からなくなる。……そういうのって好きじゃないからね、だから再度知らしめてやろうと思ったんだ。世界大戦がどれほどまでに残酷で、どれほどまでにくそったれなものだったかを」

 脳裏に蘇るのは、世界大戦の中で奇しくも生き残れた記憶。
 想像を絶するほどの空腹からなる痛み。終わらない戦いの叫び。増え続けていく死者。赤が支配する街。瓦礫によって埋め尽くされた大地。目の前で吹き飛んでいく親しかった人。どんなに走って逃げても、心休まる時がほとんど無かった。耐えかねず、自殺までした者まで存在するぐらいだ。
 ダイダロスの軍勢やら魔女狩りやら、そういった特殊なものが注目されがちだが実際は違う。もっとドロドロしているカービィ同士の大規模な殺し合いなのだ。それを物語だなんて簡単に済まさないでほしい。だから……戦争がどれほど汚れているものか、調べ上げているのだ。そして今、真実の一端をつかもうとしている。

「んじゃー、自分もそれに付き合います」

 その時、絵龍が唐突にこんな事を口にした。
 何時の間にか回想してしまっていたクレモトはすぐさま思考を切り替え、絵龍に驚いた目を向ける。
 絵龍は少々生意気な笑みを浮かべ、得意げにこう言った。

「ここまで来たら乗りかかった船っす! クレモトさんの目的が結構まともだったし、世界大戦を語り継いでいく事には同感っす! 何万人もの死者が出たというのに、物語の一言で済ませたくはないっす!!」

 若者の決意ともいうべきその言葉を聞き、猫男は大きく目を見開いた。そして徐々に納得していった。
 あぁ、だから自分は彼女を連れていくことを選んだのかと。
 世界大戦という過去から目を背かず、否定の魔女という現実から目を背かず、サザンクロスタウンの時も己を保って行動した彼女だからこそ、過去と共に未来へと進んでいく事が出来るのだと。
 見えない角度で小さな笑みをこぼしながら、クレモトは絵龍の頬に触れる。そして思い切りつねった。

「ありがとう。でも一言余計だよ、絵龍ちゃん」
「あだだだだだだだ!!」

 思い切り頬をつねられて涙目になる絵龍であった。
 ブルーブルー行き、クレモトと絵龍の二名決定。

 ■ □ ■

 歌う。歌う。歌う。
 己の記憶の中に眠るメロディをたたき起こし、ただ思いのままにシアンは歌う。
 自分にあてられた部屋の中で小声だから漏れる心配は無いし、結構自由にできるものである。引きこもっていた時はもうちょっと堂々と歌っていた気がするけど、深くは思い出さない。
 その時の事を思い出しても、戻る事なんて絶対に出来ないのだから。
 あぁ、思い返してしまう。
 一瞬にして死霊だらけの悪夢都市と化したサザンクロスタウン。一歩間違えれば仲間入りしていた死霊の群れ。命そのものを嘲笑い、好き勝手に壊しまくった死霊達の王。目の前で殺されてしまった親友とあるカップル。
 漸く休息を得られると思った三日月島では辛い思い出に囚われたと思ったら、反乱軍に誘拐されかけて、再び皆を傷つけてしまった。そして流されるがままに物語の歯車に組み込まれてしまい、親友の歌の真実を知る事になった。
 あぁ、思い返してしまう。
 キング・ダイダロスによって殺されてしまった彼女の事を。大好きで大好きでたまらなくて、一人ぼっちになりかけた自分に手を差し伸べ続けてくれた優しい彼女の事を。シアンの知っている中では誰よりも素敵な歌を歌う演奏家の彼女の事を。シアンの大親友であるシャラの事を。
 会いたい。喋りたい。抱きつきたい。歌を聞きたい。一目見るだけでも良い。
 だけど、どんなに思っても彼女は戻ってこない。死んでしまった彼女は、己の前に現れてはくれない。

「……シャラ……」

 思い返せば思い返すほど、悲しみと切なさが深くなる。
 立場的に逃げ出す事が出来なくなってしまっている今、どうしてもシャラに会いたくなる。けれども、もう会えない。
 どうして自分だけが生き残ってしまったのだろう。どうして自分に歌を押し付けて死んでしまったんだろう。あぁ、どんなに嘆いても彼女には二度と会えない。
 七つの玉を集めてどんな願いでも叶うというのならば、やってしまいたいところだけどカーベルに「そんな都合の良い道具があるか」とバッサリ断ち切られた。
 生と死の絶対なる運命を知らされてしまい、シアンは涙がこぼれそうになるけれども唇を噛み締め、両手を強く強く握り締めて必死に耐える。

「泣いて、たまるか……!」

 このまま閉じこもってしまうのは簡単な事だ。逃げてしまう事も簡単な事だ。
 だけど、それは己の中にわずかに残っていたプライドが拒絶した。生き残ったからという大層な理由ではなく、みっともないという恥ずかしさと自分だけ逃げるという愚かさを飲み込む事が出来なかったからだ。
 シアンは自分がいかに弱いか知っている。泣き虫で弱虫で、誰かがいないと動けない。それなのに口は大層に動いて、素直になる事も中々出来ない。優しい人だと分かっているのに親友じゃない人にはきつく当たってしまう。幼稚なガキンチョだ。
 それでもこのまま逃げ出すなんて真似だけはしたくなかった。護ってもらうだけのお姫様なんかにはなりたくなかった。カーベルの歌を唯一知っていて、その歌の真実に一番近い位置にいながら動かないのは嫌だ。
 だから幼き狐の娘は誓う。レクイエムに行き、カーベルの歌を完成させてモノにさせるのだと。
 人が歌うと魂を操れてしまう力の歌を己だけのものにし、力を得てもう二度と誰にも死なせないようにする。その為には夜明国の魂が眠っていて、尚且つカーベルの歌を完成させる為のヒントがあるレクイエムに行かなければならない。
 力を得る為に、シアンは己の決意を固めていく。そして歌を再び歌いだした。
 だけども彼女は気づかない。その歌に導かれ、一つの魂がその隣にいる事に。

『――――』

 魂は手を伸ばし、シアンの頬に触れようとするけれども通り抜けてしまって触れる事は出来なかった。
 どんなに口をパクパク動かしても、シアンに言葉は届かない。シアンはただ己の歌を歌うのに夢中になっている。
 魂は悲しくなった。今のシアンに悲しくなった。とてもとても悲しくなった。

『――――』

 あぁ、それでも言葉は伝わらない。思いは伝わらない。
 すぐ傍にいるというのに、彼女は気づかない。己は気づかせられない。それがどうしようもなく悲しくて、辛くて、心を締め付ける。
 夜空模様のバンダナをつけた魂の思いは、幼き歌手の心には届かない。
 レクイエム行き、シアンの一名決定。

 ■ □ ■

Cパート「メンバー決定!」

 翌日、玉座の間。
 全てのメンバーが行き先を早くも決め、アンケートをまとめ終わった為に四つのチームが結成された。
 あまりにも早過ぎる為、少々驚きが隠せないものの寧ろ好都合。否定の魔女トレヴィーニ、天空王国スカイピア、反乱軍、不揃の魔女ノアメルトなどの存在がいる以上、行動は早い方が良い。
 飛燕によってまとめられた資料を手にし、エンペラーはチームごとに別けられたメンバーの名前を挙げていく。

「天空王国スカイピア突入メンバー。コーダ、レイム、ルヴルグ、ウォルス、豪鉄、エダム、カタストロ!」

 大国防衛隊五番隊と六番隊の主従四名。及びにサザンクロスタウンの守護担当者とその助手、そして何でも屋につき合わされていた女戦士。大国防衛隊が多い事から中々の強さを誇っている。
 ルヴルグをリーダーとし、空中戦重視にまとめられたメンバーだ。恐らくスカイピアの天使達ともどうにか戦い合えるだろう。
 エンペラーはスカイピアメンバーに対し、威風堂々とした様子で命を下す。

「お主達の任務はとにかくスカイピアを落とす事だ。もしくはレッドラムを元に戻す事。その際、天使達の羽を出来る限り多くもがいてしまえ! もちろん二度と飛べないようにな?」
「尚、不揃の幼女から三日月島で聞いた情報ではアカービィ一番隊副隊長とセラピム五番隊副隊長補佐官の両名がスカイピアにいるようです。その二人の救出も出来る限り忘れないように。まぁ、いたら……の場合ですけどね。彼女、信用してもいいのかどうか全く分かりませんし」

 その横で大国の全体的防衛を任されたマナ氏が補足する。
 行方不明扱いされていたアカービィとセラピムの情報を聞いて驚く者が数名出るものの、思惑が全く分からない中立的立場にいる魔女ノアメルトからのものだから信用できるかどうかは微妙である。
 とにかくこのチームの目的は「スカイピア打倒」「レッドラム救出」「アカービィとセラピム救出」の三つとなる。既に複数の防衛隊隊員がやられている以上、油断は出来ない危険な任務だ。
 そんな中、チームが別れてしまったのを見て残念そうにナースがエダムに話しかける。

「あらー、別チームになっちゃったわね。ざ・ん・ね・ん!」
「……こっちは九死に一生得た気分ですよ」

 ウィンクまでされてしまい、エダムは顔を真っ青にしながらナースから背ける。
 三日月島でやられたアレの事もある為、正直エダムからすれば好意を向けられるという事は恐ろしいとしか言えなかった。
 そんな様子のエダムを見てナースは全く気にせず、寧ろ明るく笑い飛ばす。

「そんな青ざめた顔で照れなくてもいいのよ! それよりも豪鉄はどうして参戦する気になったのよ? あんた、大都市の守護者っていうかなりの貴族でしょ」
「あぁ、それは私も気になってます。別にこれは全員参加でないのですが……」

 ふと疑問に思ったらしいナースの言葉に付け加えるようにコーダが首を傾げる。
 そんな二人に対し、豪鉄は簡潔に単純ながらも当然な答えを口にした。

「自分は自分のやれる事をするだけだよ。……それが人の役目であり、ロボットの役目でもあるからね」

 その言葉を聞き、ナースはキョトンとする。そして理解した。
 目の前にいる存在がカービィという生命体ではなく、カービィをモデルとしたロボットである事を。だからどんなに危険な場所に行く事になろうとも、こんな判断が簡単に出来てしまう事を。
 ぎゃあぎゃあ騒いでいたけどサザンクロスタウンの脱出の要にもなった男でもあるし、根本的な部分はどうも並の男以上なようだ。
 そんな豪鉄に対し、ナースは女性のようなおしとやかさで微笑みを浮かべてこう言った。

「あんた、結構良い男よ? 同じカービィだったら一夜を共にしたいぐらいにね」

 そのまま投げキッスを送る。直後、豪鉄が一瞬にして青に染まり、そのままぶっ倒れた。
 ぶっ倒れた豪鉄に対してエダムとレイムが慌てて支えるのを見て、ナースは失礼だとぷんぷん頬を膨らませる。
 内心で軽く合掌してから、エンペラーは次のチームを発表する。

「レクイエムメンバーはホワイト、タービィ、チャ=ワン、シアン、ソプラノ、ローレン、ツギ・まち、フー・スクレート! 任務は言わなくても分かるだろうが、ドラグーンパーツの回収だ。マナ氏、何処に隠した?」
「地下の大聖堂ですよ。まー、アレは大聖堂というよりもダンジョンそのものですけどね。セキュリティ面も思い切り強化し続けていますし、モンスターも出る仕様にしてますからロールプレイングが楽しめますよ」

 誰もリアルで楽しみたくねーよ!
 スマイルマナ氏の説明を聞き、誰もが冷や汗をかいた。特にレクイエムに突入するメンバーの大半は激しい。ホワイトとフーは特に動揺している様子は無い。ただしフーの両足と帽子の付属品は何故か不自然な汗が流れていた。
 エンペラーはマナ氏をスルーし、レクイエムでの作戦について命令を下す。

「隠密部隊を使ったところ、レクイエムで反乱軍が行動しているらしい。その為、もしも遭遇した場合は連中を叩き伏せろ。反乱へ近づかせないように徹底的に潰せ!」
「承知しました、皇帝陛下。及びに連中の情報も絞り上げます。何しろ反乱軍はここ最近動き出したところだから情報が少ないので」
「頼んだぞ、ホワイト。それと既に屋敷の方に連絡は通してあるから、まずはそこに向かえ」
「はっ!」

 レクイエム唯一の防衛隊隊長であるホワイトが指示を承諾する。
 その隣、最年少であるシアンはエンペラーの物騒な指示を聞いていって感想を呟いてしまう。

「王様さっきから怖ぇ……」
「大戦時代だと相当暴れまくったみたいだからね。その時の血が騒いでるんじゃないの?」
「テレビじゃ良い王様アピールしてるけど、あいつの容赦なさは帝国そのものに響き渡ってるからねー。オマケに利用できるものは何でも利用するから性質が悪い。おかげで僕さま達も行動しづらいよ」

 その呟きにフーが推測し、ローレンが詳しい説明を付け加えていく。
 あまり知りたくなかったトリビアにシアンはちょっとばかり自分の運命を呪った。こんな裏の顔なんて知りたくなかったやい。ちなみにツギ・まちが両手を合わせて自分に向けて合掌しているのは無視した。
 一方でタービィはソプラノの同行に対し、不思議がる。

「そーいや、歌の嬢ちゃんは何でここにしたんだ?」
「あー、ちょっとカチンって来る事があったからね。それをどうにかしようと思って」
「……ヘッドラインで報道されていたアレでござるな」

 チャ=ワンは察しがついたらしく、妙に納得した様子で呟く。ソプラノは笑って頷いた。見ていないタービィは何がなんだか分からず首を傾げる。
 その時、エンペラーが仕切りなおすかのように大声でブルーブルーのチームメンバーを発表する。

「次、ブルーブルー! メンバーはシルティ、ラルゴ、クレモト、黒脚ケイト、絵龍、ダム・K、ミラリム、ちる、ナース!! 目的はレクイエム同様にドラグーンパーツの回収。こちらは海底神殿内部に隠したようだが……」
「面倒なものが神殿に住み着いてました。正直に言うとアレとは戦り合わない方が宜しいですよ。手ごわいとかそういうものではなく、本当に戦うのだけは避けてください。……パーツを得られるまで、必死で逃げ回ってくださいね?」

 任務について補足するマナ氏だが、さっきとは打って変わって真剣みがある。
 大国最強と謳われている無限の魔術師にここまで言わされるとんでもない存在とは一体何なのだろうか? というか、どうしてそんな物騒なのが住み着いている場所に隠したんだ。
 色々とツッコミをぶちこみたいけど、非常な事に現実なのは諦めるしかない。
 メンバー的にも任務的にも無茶苦茶なブルーブルーに絵龍は思わず愚痴をこぼしてしまう。

「うーわー、重苦しい人ばっか……。これならレクイエム選べば良かったかも」
「残念ですが変更はもう出来ませんよ。でもやっぱり分断するんじゃなかったな~……」
『諦めろ』
『あなたが一番諦めた顔してるのは私の気のせい?』

 絵龍の帽子に乗っかっているちるもまた気まずそうな顔をしており、トドメと言わんばかりにダム・Kがため息をつきながら看板を立てる。その横では赤薔薇状態のミラリムが茶々を入れていた。
 まだ話が出来るメンバーがいるだけマシかと思いながら、絵龍はチラリと他のメンバーを見渡す。

「……奇遇だね、同じ場所だなんて」
「お前も真実狙いなんだろ? もっとも粗方はあの猫の推理通りだと思うが」
「その部分は否定しないよ。ただ、あいつが言う真実をこの目で見たいだけさ。そちらさんはお宝狙いかい?」
「そんなところだな。エアライドも重要だが、海底神殿というにはそれなりにある筈だ」
「意地汚い男だね、君は。こんな時までお金なんて性格が悪いにも程があるよ」
「金が無ければ何も出来まい。それに俺はあんたのように自分に正直に生きられるガキじゃないんでな」
「……お生憎様。こちらは金の亡者イコール大人って教えられた事は無かったよ、蛾ービィさん」
「つまらん洒落だな。ちっとも笑えない」

 ケイトとラルゴの空気が何かギスギスしてるんですが。
 シルティ三番隊副隊長は何も言わないし、クレモトも様子見しているだけ。ムードメイカーになりそうなナースはスカイピア側との会話に夢中で気づいてくれない。
 ……ぜ、前途多難だ……!
 絵龍、ちる、ダム・Kの三名はブルーブルーでの冒険が不安になったのであった。
 一方でエンペラーは最後のチームメンバーと任務について発表する。

「最後はタワー・クロック! イブシ、飛燕、零式、ナグサ、ログウ、フズ、ミルエ・コンスピリト、セツ、クゥのメンバーだ。目的はハイドラパーツの回収と魔女一派襲撃阻止! でもって神々との対談もあるので、上手くこちら側に協力させるように。魔女が二人もいる中、使える奴は多い方が良いからな」
「「「承知しました、皇帝陛下」」」

 エンペラーの命を聞き、イブシ、飛燕、零式の隊長格が了承する。
 その一方でクゥは別の三チームの目的と己のチームの目的を比較し、ホッとする。

「今回の件にはイクステオ様もレガナ様も協力するおつもりらしいし、他の場所と比べるとまだ楽っぽいかな?」
「でも何時の間に魔女一派が襲撃するなんて分かったんだ? 僕は飛燕さんにしか言ってないんだが……」
「有益な情報は真っ先に流す人なんだよ、飛燕隊長。だから陛下の耳にも入っているわけ」

 ナグサの疑問にはログウが答える。
 さすがは情報を専門とする部隊。こういう特だね系統は逃さない。こんな感じでナグサは納得した。だがそれがクウィンス絡みだというのも口にしていないし、己の正体に関する事だと知っている飛燕に対しても驚きを隠せなかった。隊長としての立場がそうさせているのか、それともそうしないと崩れてしまいそうなのかは分からない。
 でもナグサはどんな事になろうとも、今回の件を譲る気は無かった。与えられたとは言えど、このチャンスを見逃すつもりなんて全く無かった。
 粗方のチームを発表し終わったエンペラーはそのまま一同を見渡しながら、話を進めていく。

「尚、ブルーブルーチームとレクイエムチームにはこの二人がそれぞれナビゲーターとしてつく」

 直後、エンペラーの両サイドにモニターが出現する。
 左のモニターには1と0の螺旋模様がその身に描かれた白色のカービィが、右のモニターには黒と赤の細長い特徴的な耳を持った赤色のカービィが、それぞれ映っていた。
 白色のカービィがにっこり笑って自己紹介し、赤色のカービィが仕方ないと言わんばかりに続けて自己紹介する。

『どうも、こんにちは。僕はZeO、ブルーブルーを担当させてもらうね』
『民間協力者のアルケーよ。私はレクイエム担当。ZeOに比べると機能は劣るけど、それなりにやれる方だから安心しなさい』

 ZeOとアルケー、両者共にかなり優れた人工知能だ。
 激化する戦いでは解析能力なども重要になる為、うってつけの人材ともいえよう。

 かくしてスカイピア、レクイエム、ブルーブルー、タワー・クロックに向かう準備が出来上がり、新たなる物語の幕が開ける時が来た。
 その狼煙を上げるのはオリジナルカービィ大帝国現皇帝のエンペラー。彼は玉座から立ち上がると杖を一同に向け、獅子の如き圧倒的強さと威圧感を見せ付けながらここに集った戦士達に告げる。



「さぁ、命を賭けて行くがよい! 否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガンを確実に滅ぼす為、二つの剣を確実に手に入れろ!! どんな場所で死にかけようとも……我等オリジナルカービィ大帝国の戦士が負ける事は決して無い!!」



 王の叫びを聞き、戦士達は己の力という剣を持って――旅立つ!





 第四章終了。第五章「スカイピア」に続く。





 ■ □ ■

幕間「魔女達の動向」

 ダイダロスによって埋め尽くされたサザンクロスタウンの地下巨大機械施設。
 そこではディミヌ・エンドの技術とキング・ダイダロスのしもべ達により、機械兵器の大量生産が行われている真っ最中であった。
 疲労の二文字が存在せず、否定の力によって食欲も飢えも無くなった無数の死者達が主の指示に従って単純だけれども重要な作業をそれぞれ分断して繰り返し繰り返し行っている。
 しかし機械系統の管理者であるディミヌ・エンドと死者達の王であるキング・ダイダロスのどちらかがいなければ、この兵力増産という重大な役目は出来なかっただろう。
 その為、この二人は当分サザンクロスタウン内部に缶詰状態となっている。
 現場にて裏方作業に励む二人を他所に、地下巨大機械施設の真上にある魔女一派の本拠地である元空港の城内部では……。

「ぁあ……。トレヴィーニ様……」
「何だ、クウィンス。もうダウンするとは情けないぞ?」
「そ、そんな事申されましても! ひゃうう!?」
「くくく、油断は禁物だ。妾が喋りだしたからって手を抜くと思ったのか?」
「ひあ、あう、や、やめ……。あああああ!」
「なんと心地よい鳴き声だ。しかし何故堪えようとする? 己に目覚めし快感に身を任し、この妾の言葉だけに集中すればよかろう。それとも何か? 恥ずかしくてたまらないのか?」
「だ、だって……こんな、ずるいこと……」
「ずるい? あぁ、自分だけ妾からの快感を与えられて嬉しい反面恐ろしいのだな。安心しろ、こんなもの誰だって行う道だ。それからのいざこざは己自身で対処していけばよいこと」

 二人の女が気持ち良い事、やってました。
 トレヴィーニが攻めて、クウィンスが受けているのはこの会話で分かりますね。あー、とっても気持ちよさそうです。でも二人のいる部屋って防音装備全くされてませんよね?
 ということはさっきの会話、少なくともクウィンスが出した声の方は結構大きかったら外に丸聞こえ。
 だからトレヴィーニが続けようとした次の瞬間、扉がものの見事にバラバラに切り刻まれて塵と化してそこから誰かが入ってくるのはある意味当たり前でもあった。
 トレヴィーニとクウィンスが振り向くと、そこには今まで見たことの無い怒りのオーラを纏ったフル・ホルダーの姿があった。

「何をなさっておられるのでございますか? トレヴィーニ様、クウィンス」

 口調はいつもどおりなのだが、その両手で力一杯鎌を握り締めて今にも切りかかろうとしているその姿は恐ろしいとしか言いようが無かった。というか鎌の持ち手部分にひびが入っているのは私の気のせいでしょうか?
 尋ねられたトレヴィーニはというとクウィンスから離れ、のんきに答えた。

「何って、ただのマッサージだが?」

 こいつの手足、結構こってたから大変だったぞー?
 殺気を漂わせている相手に対してのんきに笑っている花嫁は普通に美麗で、何か腹立ってくるんだけどここまで美しすぎるとどう言えばいいかわかんなくなる。ただその傍で顔を赤くし、息切れして涙目の美人な女性がいる為にやっぱりこの花嫁に腹立ってくる。
 間違いなくただのマッサージじゃないと思い込んでいるフル・ホルダーは怒りの矛先をトレヴィーニに向ける。

「嘘、ですよね? 思い切り嘘ですよね? トレヴィーニ様が普通のマッサージをするわけないじゃないですか。あなた、そういう人ではございませんでしょう?」
「マッサージ自体は事実だ。しかし声を出させるのを主な目的にしている為、貴様の思惑からすれば当たりかも知れんな」
「確信犯ですか!」
「うん、確信犯。それとも何か? フル・ホルダー、貴様は妾と共に妖美な快楽に包まれた一夜を過ごしたいのか? 妾も貴様も汗を流し、心地よい疲労感を得て……な」

 そういいながら花嫁姿の魔女は小さく微笑み、誘うように手を伸ばす。
 その姿を見てフル・ホルダーは困惑し、流されるままにトレヴィーニの言葉の意味を考えてしまう。数秒の沈黙。……あ、真っ赤になってばたんきゅ~って言いながらぶっ倒れた。
 あまりに初心なその反応を見て、トレヴィーニは慣れているらしく小さな笑い声を出す。

「くっくっく、フル・ホルダーは相変わらず初心だな」
「青少年いないからってはっちゃけすぎだろ、トレヴィーニ」

 思い切り女二人で遊んでいるトレヴィーニに対し、ひょっこりと扉が無くなった部屋の出入り口から顔を出して呆れながらツッコミを入れてくるオルカ。
 顔を出してきたオルカにトレヴィーニは不思議そうに尋ねる。

「おや、オルカ。貴様、何時の間にいたんだ?」
「部屋に入ってねぇだけでずっといたぞ、俺は。ったく俺がそっち方面に従順な獣だったらどうしてるんだ?」
「その時は狂乱の宴を共にかわすだけさ。最も妾がノリ気でなければ否定使って無かった事にするけどな」
「……何を無かった事にするんだよ、おい」
「想像にお任せする」

 何でも無に返す事が出来る魔女だから洒落にならないので笑い飛ばせない。
 トレヴィーニとはかなり長い付き合いであるオルカは大して気にせず、何時もの事だと自分に納得させる。
 相当マッサージが気持ちよかったのか、まだ息が整ってないクウィンスの頭を撫でながらトレヴィーニはオルカに尋ねる。

「ところで覗き見するのが貴様の目的か?」
「違う。今後の作戦について聞いてこいってモザイク卿に言われたんだよ」
「で、フル・ホルダーと一緒にここまで来たがクウィンスの声が聞こえちゃったから情事と間違えて襲撃しちゃったってわけか」
「言っておくが俺は止めたけど聞いてなかった」
「まぁ、フル・ホルダーは妾に崇拝してる部分があるからな。で? 作戦について何を聞きたい?」

 少々話がずれてきた為、トレヴィーニは話を戻す。
 オルカはモザイク卿にまとめて尋ねてこいと言われた件を思い出しながら話していく。

「まずは反乱軍だな。何であいつ等は放っておくんだ?」
「手出しする意味が無いからだ。妾の目的は第二次世界大戦への勃発であるが、何度も何度も攻撃仕掛けても意味が無い。それに奴等が戦う手段手に入れないと妾と長い間やりあえんだろ」
「……目的やっぱそれか、お前……。つまりエアライドに関する妨害は俺らからは無し?」
「あぁ。というかマナ氏がしっかりやりこんでるから入る隙が無いってのが本音なんだがな。孔明の罠があってもおかしくなさそうだ」

 エアライドマシン、そこまでして他人に渡したくないのか。
 マナ氏の徹底した防衛手段にオルカは頭が痛くなった。
 一方でトレヴィーニは特に気にした様子も無く、反乱軍に関してまとめあげる。

「とにかく反乱軍に関しては放っておく。ただしディミヌ・エンドが色々と足りないものがあるって嘆いていたから、レクイエムに一人使者を送り込もうと思ってはいるがな」
「それは適当にお前さんが人形作ってどうにかするだろ? タワー・クロック行きのメンバーは決定してるとして、スカイピアに関してはどうするんだ? 全員出すのか?」
「……それこそ愚問というものだ、オルカ」

 スカイピアという言葉を聞いた途端、トレヴィーニの顔つきが変わった。
 先ほどの女と戯れる麗しくも淫らな美女のものから、純白という何者も受け付けない否定を実体にした魔女のものへと。
 声を低くし、閉じ込めていた怒気を少しずつ見せつけながらトレヴィーニはオルカに答えていく。

「過去の遺産にも等しいスカイピアは全力で叩き潰す。ノアメルトによる矛盾で、スカイピアそのものに対する否定はそう簡単にできないだろう。どうせ奴の事だ、色々と付け加えているに決まっている」
「……一個聞くぞ。性格の悪さだとお前とあの子、どっちが上だ?」
「どっちもどっちだ、魔女の性格が悪い事は今に始まったわけではない。……まぁ、スカイピアの件に関してはその性格の悪さでさえも勝つつもりでぶっ潰しにかかるがな」

 オルカの質問にそう答えた後、トレヴィーニはどこからともなく出した扇子を己の口に当てて目を細める。
 それだけの仕草でさえも人を魅了させ、長い付き合いであるオルカでさえも何気ない魔女の行動に惚れ惚れしそうになる。どうにかすぐに我に戻ると、あることを思い出してトレヴィーニに確かめる。

「ちょっと待て。キング・ダイダロスが面倒な事押し付けられたって愚痴ってたのと関係あるか?」
「ははははは、無かったら奴が愚痴をこぼすわけなかろう? ……言っただろ、スカイピアは全力で叩き潰すと」

 軽く笑ってから見せ付けた冷血な瞳は氷よりもずっと冷たくて刃物よりもずっと鋭かった。
 オルカはその瞳を見て、凄まじい悪寒を感じた。例えるならば四方八方、否、方向という方向全てを鋭い刃物によって突きつけられ、逃げ場を失った時よりもずっと絶望的な状況に陥れられるような、そんな感じ。
 それほどまでに否定の魔女トレヴィーニは怒りを感じていた。ノアメルトが勝手に復活させたスカイピアという存在に。

「現在の物語に過去の物語が介入するなどつまらん……! これは妾と大国の連中との戦争なのだ、神様気取りのウロ・コプロスどもが八百年の時を超えたぐらいで粋がるとは愚かにも程がある……!!」

 本来ありえぬ矛盾の存在が介入した事により、トレヴィーニは怒りを隠さない。
 魔女という存在は己の物語が汚される事を嫌う。己の物語がつまらない方向に向かう事を嫌う。物語の神聖さを知っているからこそ、誰も知らない面白さを追求する。
 トレヴィーニはそんな魔女達の中で、誰よりも物語を愛しく思っているからこそ穢される事を何よりも嫌う。
 だからこそスカイピアという過去の遺産を叩き潰す選択を選んだ。

「……ウロ・コプロスってそこまで復活したのが嫌なのかよ、スカイピア……」

 一方でオルカはトレヴィーニのスカイピアに対する怒りに若干引いていた。
 どちらかというと怒りではなく、その際に発した過激な言葉の方にだが。幾らキレているとはいえど、この世で最も美しいといえる純白の花嫁が言う言葉ではない。

 ともかく否定の魔女一派もまた、新たなる物語を進める為に動き出す。


  • 最終更新:2014-05-29 18:39:16