第十話「困惑の中のクロスロード」

 天空に突如出現した氷の闘技場が割られ、無数の欠片が街全体に飛び散っていく。
 防衛隊の隊員達が、傷ついた住民の治療と避難、損壊した建物の修復へと飛び回っていく。
 豪華絢爛な街は氷の刃でずたずたに傷つけられ、無数の悲鳴をあげている。住民たちは「助けて」と叫ぶばかり。
 そこら中に散らばった建物と氷の欠片を足場にし、人々は地下避難所に向かって走る。
 避難所は城の地下にあり、緊急時になると入り口が自動的に出現する仕組みになっている。人々は我先にと入り口へと走っていく。
 そんな中、入り口とは違う場所を目的として城に向かう影が三つ。ラルゴ、カタストロ、ウェザーのグループだ。
 カタストロはウェザーを抱え、急速飛行しながら愚痴をこぼす。

「否定の魔女の襲撃があるなんて、聞いてないっつーの……」
「それは全員同じ意見だ。文句を言っている暇があるなら飛べ。この騒ぎを利用して、城内に突入するぞ」

 その隣を飛ぶラルゴが冷静且つ的確に返す。
 それを聞いたカタストロは己達の目的地である城を見上げる。
 白と青のコントランスが特徴的で、御伽噺に出てくるようなスタンダードな形をした城だ。とても大きく、その全長は天国に一番近いのではないのかと錯覚しそうなぐらい高い。
 本来ならばクウィンスと遭遇し、粗方の情報を引き出したら真犯人を捕まえるつもりだったのだが、大国の飛燕に先手を取られてしまった。
 その為、二人はウェザーを連れて大国まで数日かけて戻り、クウィンス奪還と城に隠されたモノを見つけ出す為に城へと突入しようとしている真っ最中なのだ。

「で、でもいいんですかね? 本来なら救助を手伝うべきなんじゃ……」

 ウェザーは道中で見かける被害を眺めながら呟く。
 ラルゴはドライに返す。

「防衛隊の仕事に首をつっこまなくていい。俺達は俺達のする事をやるだけだ」
「そうですか……」
「おい、二人ともアレ見ろ。アレ!!」

 カタストロが突然二人を呼ぶ。呼ばれた二人はカタストロの視線の先を見る。
 そこで見たのは小型の竜巻が本城の窓を叩き割り、中へと突入した決定的な瞬間であった。その竜巻の色は、黄金。
 とんでもない光景を見て、ウェザーは大げさに驚きの声を上げる。

「な、なな、ななな、なんじゃありゃーーーー!!!??」
「どう見ても黄金の風だな。しっかしアレは分かりやすすぎないか?」

 一方でラルゴは呆れている様子。
 あの小型竜巻は分かりやすすぎるし、魔女が突入するにしてはあまりにも安易すぎる。進入するならば、もう少しまともな手段を行う筈だ。
 そこまで考えて出てくる結論は一つ。他者を惑わす為の餌だ、それもとびっきりの餌。
 先ほど否定の魔女と氷の鬼神による巨大な戦闘があった。ほぼ全ての人々が観客と化し、ただ見ていることしか出来なかった強大な戦闘。
 その最中、防衛隊の襲来が切欠によって否定の魔女は逃走。その際に氷の鬼神も消滅。その際、氷の鬼神から出てきた「何か」を黄金の竜巻に包み、本城目掛けて飛ばしていった。
 そこまで出てくれば、答えは一つだけだ。

「カタストロ、行くぞ。突入する」

 ラルゴは翼をばさりと羽ばたかせ、竜巻によって破壊された窓目掛けて飛んでいく。

「え? って、勝手に行くなよ!!」

 一瞬戸惑うけれど、自分をあっさり置いていこうとするラルゴに、カタストロは慌てて追いかけていく。もちろんウェザーを落とさないように、頭の芽をしっかりつかんで。

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」

 ウェザー、痛みを訴える。でもカタストロはそれをスルー。
 少年の大きな悲鳴をBGMにし、二人は我先にと破壊された窓から本城へと入り込む。

 外に出ている防衛隊のほとんどが、救出活動に行っているせいか、あっさりと中に入り込む事は出来た。
 最初に三人の目が入ったのは、世界的に有名な穏やかな女性の絵画「モカ・ビザ」だ。ただし、何かがぶつかったらしく、その絵は思い切り破けてしまっている。
 その下に転がっているのは複数の小さな瓦礫と、気を失っているカービィだ。マフラー、手袋、スケートブーツをつけており、上半身が雪になっている。見るからに融合型だ。
 状況的に考えて、このカービィが竜巻の中身と考えるのが妥当であろう。
 すぐさま辺りを見渡す。長い廊下の真っ只中にいる為、左右に人がいるかいないかはすぐに分かる。今は運が良い事に、誰も来ていない。
 あまりにも運が良すぎて、ラルゴはつい笑みをこぼしてしまう。

「本当に運が良い。隊員一人も来ていないとはな」

 その横でカタストロはウェザーを降ろしてから、気絶しているカービィに駆け寄って顔を覗き込む。瞼は閉じられている。ペチペチと頬を叩くも、反応無し。

「……完全にノビてる」
「死んでないだけマシだ。連れていくぞ」
「「はぁ!?」」

 ラルゴの爆弾発言を聞き、カタストロとウェザーは同時に驚きの声を上げた。
 それを見たラルゴは平然と説明する。

「こいつは死んでいない。それに魔女と戦い、結果的にとはいえど引き分けた奴だ。こういうカードは、こちらが持っていて越した事は無い」
「……なるほど。さすがは金の亡者」

 ラルゴの目的がなんとなく分かったのか、カタストロは関心半分呆れ半分で頷く。
 会話に置いてけぼりなウェザーは何が分からず、右往左往するように二人を交互に見るだけ。

「え、えと、ラルゴさん、何を考えてるんで……?」
「色々だ。それよりもとっとと移動するぞ」

 ウェザーの質問をあっさり返し、ラルゴは進むべき方向を決めようとしたその時、彼等から見て右の通路から城内部の防衛隊隊員が複数走ってきているのが見えた。
 それを見たラルゴは小さく舌打ちすると、一同の前に出て翼を広げる。心なしか、その翼は淡い水色に光っているように見えた。

「カタストロ、二人を連れて先に行け。俺は別ルートから行く」
「行くって?」
「お前等はクウィンス捜索だ。俺は、情報をひねり出してから決める」
「分かった」

 カタストロはラルゴに簡単に返すと、気絶しているカービィを抱えて反対方向に走り出す。ウェザーは驚き、一瞬戸惑うものの慌ててカタストロを追いかける。
 ラルゴは横目で見送ると、すぐさま視線を戻す。防衛隊の隊員達が近づいてきている。その手に武器は持っていない。
 好都合だと思い、ラルゴは大きく羽を羽ばたかせる。羽から尋常じゃない強風と、強風に乗って無数の鱗粉が飛んでいく。
 強風は隊員達を飲み込み、彼らの体に鱗粉が纏わりつく。するとどうだろうか。鱗粉を受けた隊員達は次々と倒れていき、起き上がれなくなる。
 強風が止む頃には、全ての隊員がその場に倒れて動かなくなっていた。
 ラルゴは動かなくなっている隊員の下に歩み、その様子を確認する。全員麻痺しており、動きたくても動けない。だがラルゴは大して気にせず、舌打ちするだけ。

「……ちっ、ヒラばかりか」

 さすがに高望みしすぎたか、と思う。
 その直後、ラルゴの後ろで倒れていた隊員の一人が飛び起き、勢い良く回し蹴りを入れた。
 ラルゴが気配に気づくけれども遅く、蹴りが頬に直撃してしまい、そのまま数メートル程吹き飛ばされてしまう。だが吹き飛ばされている最中に翼を動かし、空中に止まる。
 そのまま己を蹴り飛ばした隊員を睨みつける。

「何者だ」
「他人に名前を尋ねる時は、自分から名乗るのが礼儀だって母ちゃんに教わらなかったってヴぁ?」

 いかにも「やんちゃ坊主」と言った感じの少年が、偉そうに言い返す。ちらりと見える八重歯のせいでか、生意気度が倍増されている。ただし声は少々変わっており、「ば」が「ヴぁ」になっている。
 だがラルゴは平然とした態度を崩さず、名乗るだけ。

「それは失礼した。俺はラルゴ、何でも屋のラルゴだ」
「ってお前がラルゴかよ! うっわぁ、こんな奴だったのか……」

 驚き感心する少年に対し、ラルゴは先ほどよりもずっと強く睨みつける。
 睨みつけられ、少々戸惑うものの、意を決して少年は勢い良く啖呵を切る。

「う……え、えぇい! お前なんか怖くねーってヴぁ!! なんたってオイラは六番隊副隊長ウォルス様なんだから!!」

 少年こと、六番隊副隊長ウォルスはそう言ってファイティングポーズを取る。
 その様子を見て、ラルゴは小さなため息をつく。

「俺は情報を手に入れたいだけなんだがな。副隊長ならば、そのぐらい出来るだろう?」
「お前、人をヴぁかにしすぎだろ! それにお前等が重要参考人連れ去ろうとしてたの、しっかり見たってヴぁ!!」

 どうやら先ほどの光景を目撃されていたらしい。
 気配には気をつけていたのだが、こいつはそれよりも一枚上手。もしくは何らかの魔法を使ったということか。
 ラルゴは尚冷静に分析すると、翼を整えながら言う。

「では、どうするんだ? 俺等があいつを連れ去っていくという事実を」
「決まってる! お前等みーんなボッコボコにしてやんよ!!」

 意気揚々と答えるウォルスに、ラルゴは再びため息をついた。
 どうやら、この副隊長は人の話を聞く気が無いようだ。もっとも己も聞く気が無かったので、似たようなもんだが。

 ■ □ ■

 戦闘準備万端なウォルスに対し、ラルゴは何処か面倒そうな表情で呟く。

「それならば……致し方ない」

 翼を羽ばたかせ、ラルゴは移動する。……破壊された窓から外に。
 ウォルスはその移動を見て、びっくり仰天。慌てて窓から身を乗り出す。

「何やってんの、お前!?」
「何って、外出ましたが何か?」

 いや、それは見たら分かる。
 ラルゴのあっさりとした回答に、ウォルスはずっこけそうになった。
 互いに戦い、相手をどうにかするのだと思っていたから、ハッキリ言って拍子抜けだ。
 ウォルスの思い込みを知ってか知らずか、ラルゴは態度を変えずに外から理由を話し始める。

「俺は無駄な体力を使いたくないんでな。お前から情報を聞きだせそうにないと分かった以上、長居するつもりはない」
「な、なんちゅー自分勝手……!」
「それが俺だ。では、失礼する」

 ラルゴはそう言って、降下していく。
 それを見たウォルスは自分も窓から飛び降り、ラルゴ目掛けて拳を振るい落とす。

「だから、逃がすかあああああああ!!」

 その拳に風が集い、ドリルと見間違えんばかりの回転が起きる。
 ラルゴは咄嗟に身をかわし、落ちていくウォルスを見下ろす。しかしウォルスは空中で停止し、すぐさまラルゴを見上げる。
 ウォルスは凄い得意げな顔で、大威張り。

「どうだ、驚いたかー! 空を飛べるのは、お前みたいな翼付だけじゃねーんだぞー!!」
「アホか、お前は。六番隊という時点で、魔法が使える事はとっくに気づいているんだよ」

 だが返ってきたのは、思い切り呆れた言葉。
 ウォルスが言い返すよりも先に、ラルゴは挑発を含めて言葉を続けていく。

「六番隊は別名魔法隊、全員が魔法が使う戦士だからそう呼ばれている。当然副隊長であるお前も、魔法を使える。こんなの一般常識だぞ? そんなので威張ってどうする?」
「うあー! お前、すっげームカつく奴だってヴぁー!!」

 あからさまに見下しているラルゴに、ウォルスはぷんすか怒る。
 だけどラルゴはその様子を鼻で笑い、再び挑発する。

「ここまで言われて、お前は怒るだけか? 副隊長という肩書きは偽りか? 俺を敵と認識するならば、こうやって無駄に喋らずに戦えばよかろう。それすらも出来ないのか、ぼうや」
「! いい加減に……しろおおおおおお!!」

 ウォルスはついに怒りが爆発し、両手に風を纏って猛スピードでラルゴ目掛けて突撃する。
 ラルゴはそれをまともに喰らい、城の壁まで吹っ飛んでいく。壁に撃墜したショックで、一時的に煙と瓦礫が舞う。隊長にバレたら給料を思い切り引かれてしまうだろうが、今はラルゴを倒すのが先決だ。
 しかし煙が晴れた時、そこにあったのは壁が崩れた事によって再び出来た穴だけだった。
 ラルゴはどこにもいない。

「ウソ!?」

 姿無きラルゴに驚くウォルス。
 逃げた、のだろうか? あれだけ散々挑発しておいて?
 そこまで考えて気づく。「無駄な体力を使う気は無い」と言っていた事を。
 あの言葉がそのままの意味だとすれば、最初から戦闘する気は無い。自分を如何にだまして、逃亡する手段を練っていた事になる。
 そして今回使われたのは、攻撃のショックと共に消える事。自分が使ったのは高威力の技、それを喰らったラルゴは壁に激突してその身を煙に包ませた。
 しかし壁に激突して出来た程度で、あんな多くの煙は出来るのだろうか? ラルゴは鱗粉を操る能力者なのだ。目くらましを行うのは容易。
 即ち、これまでの行為は……ラルゴが逃亡する為の芝居。

「……む、ムカつくヤローだってヴぁああああああああ!!!!」

 ウォルスはまんまと逃げられた事実に、怒りを隠す事無く叫んだ。
 この後、騒動と叫びを聞きつけたアカービィに「何やってんだ!」と怒られたのは言うまでもない。

 ■ □ ■

 ドタドタと城内で無数の兵士達が走り回る中、カタストロ達三名は一つの部屋の中に避難していた。
 クウィンス救出に行こうにも、兵士達の数があまりにも多すぎる。その為、見つからないようにいかないとならない。
 カタストロはドア付近にて、兵士達の足音に耳を澄ます。

「まだ足音が聞こえる……。どんだけいるんだよ、兵士達」

 防衛隊はかなり優秀で、人数も無駄に多いと聞いていた。しかし今の状況では、うっとうしすぎる事に過ぎない。
 ここまで活発に動かれると、どうにもできない。
 カタストロは小さくため息をつきながら、ウェザーと気絶しているカービィに目を向ける。

「ちょっと、起きてって!」
「う、ううん……後七分」
「待たないから! 早く起きる!!」

 ウェザーが必死になって、気絶しているカービィを起こそうとしている。
 ベタな台詞をつぶやいているという事は、それなりに回復している証拠だ。否定の魔女と接触しているわりには、かなり幸運な奴だとカタストロは思う。
 その時、ゆっくりと気絶しているカービィの眼が開く。

「あ……れ?」
「! やっと起きた!!」
「あ、え、ど、どうなってるんですか?」

 ホッとするウェザーを他所に、カービィは頭に?マークを浮かべる。
 カービィことセツは今の状況がどうなっているのか分からないのだ。
 トレヴィーニに無数の弾幕を受けた後の記憶がおぼろげで、覚えているのは少しの単語と自分ではありえない筈の力を使った事ぐらいだ。
 彼女に「否定」を使われた後の意識がプツリと消え、目が覚めたら見知らぬ二人組と一緒にいる状態。しかも今いる建物がどういう場所かすら分からない。少なくとも自分の知っている場所ではない。
 困惑するセツに、カタストロが説明する。

「ここは大国本城の中。お前は魔女にここまで吹っ飛ばされて、それを俺等が拾ったんだよ」
「そ、そうなんですか!? ここ、お城の中なんだ……」

 城の中と聞き、驚きながらも部屋の中を見渡してみる。何処か高級そうな独特の雰囲気をもっており、城の中と言われると何となく納得が出来る。

「え、ってことはあなた達防衛隊の人なんですか?」
「いや、ただの乱入者だ。ちょっとした人探しが目的でな」
「人?」
「否定の魔女復活容疑で捕まったクウィンスって女の事だ」

 カタストロはそう説明して、ウェザーに目を移す。ウェザーの表情はクウィンスという名前に反応してか、険しくなっている。
 セツは初めて聞く名前に首を傾げる。

「くうぃんす……? その人が、トレヴィーニを?」
「ボクは絶対違うと断言します。クウィンスさんがそんな事するもんか!」
「明確な証拠は無いので、どちらとも言えない。ただ、俺はその女に話があるから接触したいんだ」

 ウェザーとカタストロの答えを聞き、セツは何とも言えなくなった。
 良く分からないけれど、クウィンスはトレヴィーニを復活させるような人物ではないという事は感じ取る事が出来た。
 しかし、それでは自分を連れてきた理由が分からない。防衛隊のカービィじゃないならば、一体何が目的なのだろうか?

「あの、どうして僕を?」
「別行動してる奴がお前を連れてけーって言っただけで、俺等は何も聞かされてない。……ハッキリ言ってどうしようか悩んでいるところだ」
「えぇ!? そんな無責任な!!」

 カタストロの説明を聞き、セツは焦る。連れてきたのなら、最後まで面倒は見てほしいものだ。
 そんな中、不意にウェザーが尋ねる。

「それよりも、君は一体何者? 否定の魔女に関わりがあるみたいだけど……」
「あ、僕はセツです。そのトレヴィーニとは、色々あって戦いました」
「いや、ボクが聞きたいのは色々の部分だから」
「す、すみません! えと、いきなりトレヴィーニが僕の前に現れて、僕と少し話した後にいきなり友達を生贄にするって言われて、それが嫌だから止めようと思って……」
「……お前、良く生きてたな」

 セツの話を聞き、カタストロが関心した口調で呟く。
 否定の魔女トレヴィーニに喧嘩を売る事はほぼ自殺行為。どんなに強い戦士であろうとも、トレヴィーニの前では手も足も出す事は出来ない。待っているのは死の一文字。
 それなのに、セツは見事に生き延びた。ある意味奇跡だ。本人も自覚しているらしく、頷く。

「僕も途中から死んだと思ってました。ビンタ一撃でもすっごく強くて、次に連続弾幕を喰らって……。でも、負けたら友達が殺される。それが嫌だと思った後、何か力が湧き出てきて……すみません、その後のことは良く覚えてないんです」

 そこで、話を終わらせるセツ。
 その後の事はカタストロもウェザーも知っている。巨大な氷の鬼神が出現し、トレヴィーニと互角の戦いを見せ付けていた。
 彼の話が事実だとすると、セツ=氷の鬼神となる。氷の鬼神が消えた時に出てきた「何か」の中身が彼であるのは、状況証拠で良く分かっている。
 それでも疑問に思う点は複数ある。トレヴィーニがセツに関わった理由。セツの友達を生贄にする発言。氷の鬼神への変化。等の事だ。
 ウェザーは詳しく尋ねてみる事にした。

「……どうして、トレヴィーニが君に関わってきたの?」
「僕も分からないんですよ。最初は「力」とかどうとか言ってて、その後僕から記憶を読み取って、友達のセレビィさんを生贄にするって……」
「セレビィ!? その人、レクイエムの大貴族じゃないか! すっごい人とお友達なんだ……」
「えええええ!! だだだだだ、大貴族!? ぼ、僕そんなのぜんぜん知りませんでした!!」

 確かにお金持ちのようなイメージをしていたが、大貴族とは思ってもいなかった。
 セツは今にして思うと、自分がセレビィと関わった事は非常に凄い事ではないかと思う。それでも友達には変わり無いが。
 それよりも、とカタストロが口を挟む。

「それよりも俺が気になるのは、力の方だ。一体どういう事だ?」
「僕にも分かりません。薄ぼんやりとですが「増倍の魔女の加護を受けた」って言われたような……」
「増倍の魔女? 聞いた事が無いな」

 初めて聞く魔女の呼び名に、カタストロは首を傾げる。
 有名所は粗方知っているけれども、増倍の魔女という存在は初めて聞く。(ちなみに一番有名なのは言うまでも無く否定の魔女だ)
 本来「魔女」という単語は、強い力を秘めた女の形をした悪魔に使用される。だがここ最近では単純に強い魔法使いの女、としても使われている。
 おそらく増倍の魔女という単語もそれに由来しているが、一体何処からなのだろうか?
 カタストロは益々悩む。その一方でウェザーが何かに気づいたのか、セツに尋ねる。

「もしかしてセレビィさんの魔法を受けてます?」
「あ、はい。体が溶け出したのを回復してくれました。その後は元気いっぱいです!」
「……そうか。だから増倍の魔女」

 その答えを聞き、ウェザーは漸く納得する。
 だがカタストロとセツにはまだ理解出来ず、?マークが浮かび上がるばかり。
 ウェザーもそれに気づいたのか、簡単に説明する。

「偶にいるんですよ。突然変異と呼ばれるとんでもない能力者が。多分、セレビィさんは突然変異能力者。その能力は多分、他者の能力を増倍させるもの。……どれ程の能力かは、あの氷の鬼神が証拠となっています」

 突然変異。
 それはカービィ達の中に突如誕生する、強すぎる力を持つ者の総称。
 一見普通の能力者と勘違いされがちだが、その能力の下に強い力が眠っており、ふとした切欠で目覚めるようになっているのだ。
 どういう力になるかは分からない。ただ分かるのは、本来のカービィならば得る事が絶対に無い力。他者の能力を倍増させる力も、その一つ。
 だが、突然変異の能力者ならばその力を持っていても何もおかしくない。
 問題なのは――その力が、どれほどのものか。セレビィの場合、セツを氷の鬼神に変えてしまう程に力を倍増させてしまった。
 否定の魔女トレヴィーニはそれに感づき、セレビィを得る事にした。
 そこまで推理し終わった三人の顔が一気に青ざめる。

「おい、ちょっと待て。それだとセレビィって奴……!」
「やばい! 今の混乱してる状況下、向こう側に行ってる可能性がある!!」
「セレビィさん、まだ街中にいる! このままだと、大変な事に!!」

 その時だった。
 窓の外から見える、城下町の一角が大きな炎が包み込んだのは。
 それを目にした一同は慌てて窓に駆け寄り、炎に包まれた一角を見る。炎にしては色が整わない。赤から紫、紫から青、青から黒、黒から緑、とランダムに色が変わっていく。
 子供の落書き。その炎を一言で言うならば、これだった。あまりにも奇妙でおかしくて、けれども禍々しい、本来の炎とはかけ離れたもの。
 カタストロはこのおかしな炎について、ラルゴから聞いていた。皆殺し事件以降、魔女が出現する所に狂った炎が出現するようになったと。炎は魔女の下部だと。

「嘘だろ。否定の魔女の次は、混沌の炎モザイク卿まで復活したっていうのか……!?」

 その呟きに答えるかのように、炎の勢いが増していった。


 ■ □ ■


 大国防衛隊第四部隊副隊長ユニコスは、分かりやすいぐらいに表情を歪めていた。
 本来ならば自分は黄金の風騒動以降やっと取れた休暇を使って、恋人のセレビィとデートをする筈だったのだが、異常な事態が重なってしまい、それどころでは無くなってしまった。
 突如出現した氷のコロシアム。それが割れた後、否定の魔女と氷の鬼神がぶつかり合い、その余波が城下町全体に響いてきたのだ。
 その被害は大きく、防衛隊のほとんどが出撃する羽目になった。
 その為、急遽ユニコスは指揮を執る事になった。セレビィもこの状況下になった為、自ら協力を願った。本来ならば避難させるべきなのだが、今は猫の手も借りたいぐらいの惨事。彼女の魔法については良く知っている為、今回限りで手伝ってもらう事にしたのだ。
 彼女の回復魔法もあってか、被害者達の避難活動は順調に進んでいた。
 あと少しで終わる。誰もがそう思っていたその時だった。
 ユニコス達を囲むように、混沌とした炎が唐突に辺りを包んだのは。
 火災はどこにも起きていないし、魔法反応も無い。もちろんこんな事態にファイア・バーニングを使った馬鹿もいない。
 本来ならばありえない炎が辺りを包む。
 ユニコスはこの炎が何なのか知っていた。世界大戦時、否定の魔女の腹心として常に共にいた悪しき混沌の炎だと。

「よりにもよって、モザイク卿か……!」
「モザイクって、皆殺し事件の時に出現したあのモザイク卿!?」
「この炎、間違いない! しかし、こいつは封印していた筈……。魔女が蘇らせたのか?」

 驚くセレビィに答えながら、ユニコスは炎の壁を見て推測する。
 同時に、炎の壁が囲む内側に不気味な男の声が響いた。

『その通り』

 直接脳に響き渡る、低音の二重声。
 声の位置が特定できず、閉じ込められた人々が困惑する。中には泣き出している者もいる。しかしユニコスはそれを気にする事が出来ない。
 なぜならば己の正面にある炎の壁から、カービィ大の火の玉が零れ落ちたのだから。
 色が整わぬ炎が燃え盛る。
 炎の壁は赤に、黒に、青に、緑に、紫に、黒に、赤に、橙に、変わりいく。
 同じように火の玉も変わりいく。カービィ特有の小さな手足を生やしながら。不気味な三日月に似た口を浮かべながら。
 赤に、黒に、青に、緑に、紫に、黒に、赤に、橙に、青に、紫に、黒に、赤に、緑に、と不協和に変わっていく混沌の炎。
 それが否定の魔女トレヴィーニの腹心――モザイク卿。

『久しぶりに感じるな、匂いが。外の匂い。剣の匂い。人の匂い。相変わらず、昔と同じで、昔と違う。何年ぶりの目覚めだろう。そして、それを祝福してくれるのは……君か?』

 奇妙で、けれども人を何処か虜にさせるような低音の声が耳に響く。
 モザイクの存在しない目は、しっかりとユニコスを貫いている。
 話しかけられたユニコスはコピー能力のソードを発動し、モザイクに剣を向ける。

「祝福は誰もしていない」
『おやおや、それは哀しいな。折角風が吹いたというのに、哀しいな。何よりも美しくて、何よりも安らかで、何よりも哀しい、風が吹いたというのに』

 風、という単語を聞き、真っ先に思い浮かべたのは否定の魔女が操る黄金の風。
 ある意味言ってる事は間違っていない。が、同意するつもりは全く無い。
 ユニコスが今すべき事は、目の前にいる炎を倒す事だけだ。
 ソードによって出現した剣を握り締めながら、モザイクを強く強く睨みつける。
 だがモザイクは笑みを深くし、おかしな事を口にする始末。

『あぁ、気持ちが良い。とても、気持ちが良い。炎を宿した目、戦意と闘志を宿した目、戦士として正しく燃える目、力強く剣を握り締める姿、愛する女を護ろうとする姿、凛々しくそこに立つ剣士の姿、それ等全てが苦痛に歪み、絶望の海に沈むのだと思うと……この身体に、快感が走るよ』

 途端、ユニコスの全身に悪寒が走った。
 色と形が整わぬ炎は、狂っている。その狂気が整わぬ炎と相まって、恐怖を生み出す。
 灼熱の炎の中にいるというのに、己の体は酷く寒く感じる。灼熱と極寒、両方の中で立っている感覚だ。
 不気味に協和した熱さと寒さの中、モザイクは言葉を続けていく。

『なぁ、教えてくれないか? 君の絶望を。君達の絶望を。魔女の歓喜を。私の歓喜を。君達の身体をもって教えてくれないか? 私は、燃やすしか出来ないんだ。だから、教えてほしいんだ』

 直後、モザイクが完全な火の玉と化し、ユニコス目掛けて突進する。ユニコスは咄嗟に身体をそらし、直撃を避ける。
 幸いにも避けた方向には誰もおらず、モザイクは炎の壁の中にぶつかって同化しただけだ。
 ユニコスは空いてる片手にも剣を取り、どの方向から来ても大丈夫なように構える。
 それを見たセレビィは驚き、戸惑いを隠せない。

「ユニコス、モザイク卿相手に戦うというの!?」
「襲い掛かられた時点で、俺に拒否権なんて無いさ。出来れば民間人を外に出してからが良かったんだけどな」

 ユニコスはそう答えながらも、警戒を崩さない。
 否定の魔女の部下の中でも一番つかみどころがなく、尚且つ集団相手にたった一人で倒せる程の実力者なのだ。
 自分が勝てるかどうかは分からない。でも負ける可能性が高くても、今は戦うしかない。ここで逃げてしまっては、守れる者も守れなくなる。
 二つの剣を握り締める力が強くなる中、唐突にモザイクの声が響いた。

『なら、こういう形がお望みか?』

 直後、ユニコス以外の人々が混沌の炎によって包まれる。
 ユニコスが驚き、振り向く。同時に、混沌の炎は大きなクリスタルへと変貌する。その中にはそれぞれ、人が閉じ込められている。
 クリスタルは空へと飛び出していくと、炎の壁よりも高い位置で固定される。

「これは……!?」
『邪魔者には一時的に退室してもらったのさ』

 モザイクはそう言って、ユニコスの正面の壁から出てくる。
 ユニコスがすぐさま両剣を構えて戦闘体勢になる一方、モザイクは両手を広げて挑発する。

『君が勝てば炎は消えて、みんな助かる! 私が勝てば君は消えて、魔女が助かる! 己の勝利を願うのならば、その剣をもって炎に傷を入れよ! その傷で、この私に絶望を見せてみせろ!!』

 己が勝てば皆が解放され、己が負ければ魔女が皆を利用する。
 その言葉を聞き、ユニコスは己が益々負けられない立場にいる事を理解する。
 だからこそ、その条件を飲んだ。

「良いだろう、混沌の炎モザイク卿! 我が名はユニコス。剣の一角獣<ソード・ユニコーン>ユニコス! その言葉、決して後悔するなよ!!」

 その言葉が、戦いの合図。
 モザイクの体がカービィから巨大な炎渦へと変わり、ユニコスを包み込む。
 灼熱の炎に包まれたユニコスは両剣に氷を宿し、一気に炎を切り刻んで脱出する。切り刻まれた炎は巨大なタイヤに変化し、ユニコス目掛けて猛スピードで突進していく。
 ユニコスはホイール能力を発動したモザイクを素早い身のこなしで避ける。モザイクはすぐさま元に戻り、ユニコスを睨みつける。
 すかさずユニコスは右の剣を天に掲げ、その先から剣の文様が描かれた魔法陣を展開し、詠唱する。

「集え、剣達! 宿れ、氷達!」

 空中に無数の剣が出現し、八方向からモザイクを囲む。無数の剣に、次々に氷が宿っていく。
 炎の中を、魔法の冷気が包み込んでいく。

「狙いはモザイク卿唯一人! 雨の如く吹き荒れ、その身を彼奴に突き刺せ、剣達!!」

 天に掲げた剣を勢い良く振り下ろす。
 それと共に、空中の無数の氷剣が我先にと、モザイク目掛けて突き刺さっていく。
 一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、と体の空いている部分を見つけたら我先にと刺さっていく。もう姿が見えなくなっても、剣達はその上から突撃していく。
 やったか? と一瞬考えるものの、すぐさまその考えを取り消す。
 モザイクの恐ろしさについては情報伝達力に優れた二番隊から知っているし、何よりもこんなに早く倒せるならば魔女の部下とは言えない。
 その時だった。
 強い炎が氷の剣を跳ね飛ばし、大蛇に姿を変えて、ユニコスへと突進してきたのは。

「!!?」

 慌てて両剣を前に出して、盾にする。
 だが大蛇は剣ごとユニコスを飲み込み、彼の体を炎で包み込む。

「アアアアアァァァァァアアアアアァァァアアァァァァァァァアアアアァァァァァアアア!!!!!!」

 全身を炎に包まれ、ユニコスは剣を落として悲鳴を上げる。
 大蛇はユニコスから離れると、モザイクへと元に戻る。
 しかしユニコスに燃え移った炎は消えず、彼はただあまりの痛みと熱さと苦しみに悶え転がる事しか出来ない。
 モザイクは落ちた剣の片方を拾い、苦しみその場に転がるしか出来ない哀れな炎の固まりに近づく。
 ユニコスは気づけず、ただ己を苦しませる炎を消そうと必死だ。その様子にモザイクは言う。

『どうやら、君が教えてくれたのは君自身の絶望のようだ』

 そう言ってモザイクは剣をユニコス目掛けて斬りつけた。
 剣はユニコスの顔左半分を傷つけ、大きな血飛沫を噴き出した。

「うああああああ!!」

 新たなる痛みに悲鳴を上げ、さらに苦しむユニコス。
 モザイクは剣を軽く振って血を飛ばし、切り傷目掛けて剣を突き刺そうと勢い良く刃を落とす。
 同時に、金属同士がぶつかる特有の音が響いた。

『おやおや、これは面白い。まだ戦う気力が残っているとはね』

 モザイクは楽しそうに笑う。
 モザイクの剣を防いだのは、剣に形作られた炎。その炎を持つのはユニコスだ。
 彼を包んでいた炎は消え、代わりに剣に変化している。ユニコスの能力によって、炎を媒介にして剣を作り出したのだ。
 しかしユニコスは無傷ではない。
 全身を大きな火傷に覆われ、顔の左半分は大きな切り傷によって真っ赤な血に染まってしまっているというかなりの重傷なのだ。
 ハッキリ言って、何時死んでもおかしくない状態だ。今でさえモザイクの攻撃を防げたのが奇跡に近い。

「ここで、死んだら、何も、救えない……!」

 今、ユニコスを突き動かすのはクリスタルに閉じ込められた民と恋人を救うという思い。
 だが、モザイクは首を傾げて心底分からないと言った様子で尋ねた。

『救えない? おいおい、何を救えないんだい? もうここには、君と私以外いないんだよ? みーんな、魔女が持っていってるんだよ』
「……え?」

 ユニコスは己の耳を疑った。
 皆、魔女が持っていっている? どういうことだ?
 目線をモザイクから、空に移す。そこには憎らしいほどに真っ青な空が広がっているだけだった。本来ならば、人々を閉じ込めた複数のクリスタルが浮いている筈なのに。

「なん、だ、これ……」

 唖然とするユニコスに対し、モザイクは不気味なほどに優しい口調で、子供に教えるように話す。

『否定の魔女はね、悪の化身なんだよ。だから、他人の事情なんてどうでもいいんだよ。そう、君が必死に助けたがっていた皆は、とっくに否定の魔女が回収しちゃったわけ』

 その事実に、ユニコスは気づいてしまった。
 モザイクの真の目的は己との戦いなんかではなく、ただの足止めだという事に。
 否定の魔女トレヴィーニが望む「何か」を所有する人物を手に入れる為だけの、演劇だという事に。
 全ては、否定の魔女と混沌の炎による遊戯。
 一角獣は哀れな事に悲劇の主人公に選ばれ、弄ばれた。
 たった、それだけのこと。

「あ、ああ……」

 ユニコスの右目から涙がこぼれる。
 弄ばれた事に。手遅れになっていた事に。全てが魔女と炎の策略通りだった事に。
 そして、自分が純粋に遊ばれた事に。
 モザイク程の実力者ならば、ユニコスも閉じ込めて魔女に回収させる事ぐらい容易いだろう。だがそれをしなかった。
 理由は簡単。ユニコスで遊ぶ為。
 あまりにも酷すぎるその答えに辿りついてしまい、ユニコスの心が絶望に染まっていく。
 絶望と全身の痛みが合わさり、目がかすんでいく。目の前に見える炎の輪郭がぼんやりとしていく。
 ユニコスの持つ炎の剣が消滅する。
 モザイクは剣を持ちなおし、ユニコスに向ける。

『さて、そろそろおしまいにしようか。……君も楽になりたいだろう?』

 ユニコスは何も答えない。ただ涙を流すだけ。
 モザイクは無慈悲にも、剣を突き刺し、ユニコスの顔面を割った。
 再び血が飛ぶけれど、炎によって燃え尽きる。

 ユニコスの瞳から、完全に光が消滅した。

 痛々しい全身の火傷を赤黒い色で固まった血と出てきたばかりの真っ赤な血が、包む。左目は真っ二つに割れていて、そこから落ちる血は赤い涙にも見える。
 と言っても顔の中心に剣を立てられてしまっているから、嫌でも剣に目が向いてしまう。
 炎に弄ばれた剣士の瞳からは、透明の涙と赤い涙が浮かんだまま。

『君は少々運が悪かった。たったそれだけの事だよ』

 混沌の炎は、哀れな剣士にそう言った。
 もちろん剣士からの返事は無い。


 ■ □ ■


 色が変わり続ける炎の壁の前に、アカービィがウォルスを連れて到着した。(連れてきた理由:人手不足+現状と関係の薄い戦闘を行おうとした罰)
 炎の壁の前で立ち往生していた隊員の一人が、二人の下に駆け寄ってくる。

「アカービィ副隊長、ウォルス副隊長!」
「現在の状況はどうなっている!」
「わ、分かりません。ただこの中にユニコス副隊長、担当していた一番隊隊員十数名、民間協力者のセレビィさん、避難途中だった民間人複数名が閉じ込められていることを確認しています!」
「ユニコスとセレビィがこの中に!?」

 アカービィは驚き、咄嗟に炎の壁を見上げる。
 獣の鳴き声のような轟音を上げ、燃え続ける色が整わない巨大な炎。
 どっからどう見ても混沌の炎モザイク卿のものでしかない。否定の魔女によって復活したのかどうかは分からないが、今は推測している暇は無い。

「突入は可能だったか?」
「ほぼ思いつく限りの方法で試みたのですが……」

 隊員はチラリとある方向を見ながら、言いにくそうに答える。
 アカービィはその視点の先を辿る。その先にあったのは、青いシーツの上に置かれた真っ黒に焦がれた死体達。中には球体が保てず、ただの黒いクズになっているものもある。
 隊員は涙を浮かばせながら、アカービィに報告する。

「ご覧の通り、壁に触れた者、攻撃した者が一人残らず燃やされました。コピー能力のファイア・バーニング・アイス・フリーズ、全て通用しませんでした。ミラーガードの突入も試みたのですが、結果は同じでして……あ、ああ、あああああ!!」

 そのまま隊員は泣き出してしまう。
 あまりにも呆気なく、仲間の命が散ってしまい、恐怖と悲しみに心が折れてしまいそうなのだろう。
 アカービィは隊員の頭に手を乗せ、優しく撫でる。

「お前は少し休んだ方が良い。ここからはもう、死者は出さない」
「はい……!」

 隊員は頷き、テントの方へと下がる。
 再度アカービィは炎の壁に体を向かせ、どうするかと考えようとしたその時、ウォルスが何かを感知したのか声を上げた。

「!! アカービィ、炎の壁から力が弱まってきてる!」
「何!? ウォルス、どういう事だよ!」
「えと、この感じ……戦闘とかで弱まったんじゃない、自分で元に戻しているっぽい」
「自分で……?」

 その言葉を聞き、ハッとする。
 自分から壁を無くすと言う事は、壁の意味が無くなったということ。それ即ち、モザイクが外に出てくるという事。
 アカービィは大剣を手に取り、すかさず叫ぶ。

「総員戦闘配置につけ! モザイク卿が出てくるぞ!!」

 その言葉に、戦闘員達が炎を囲むようにそれぞれ配置についていく。
 配置につき終わった直後、タイミングを計ったかのように炎の壁が消滅する。
 消滅した壁の内側にいるのは――カービィの姿を模した炎と、剣が突き刺さった死体の二つのみ。

『おやおや、これは素敵な歓迎だ』

 炎、つまりモザイク。彼は笑う。
 しかし防衛隊からすれば、全く笑えない状況下だ。
 閉じ込められた人々が見当たらない。いるとすれば、剣が突き刺さっている死体だけだ。その死体は焼け焦がれ、全身が赤に染まっている。
 だがアカービィとウォルスは見逃さなかった。死体の額から生えている「角」の存在に。
 彼等が知っているカービィの中で、角を生えている人物は一人しかいない。

「ゆ、ユニコス……?」

 ウォルスが戸惑うように、その名を呟く。
 死体のユニコスは答えない。代わりにモザイクが答えた。

『あぁ、ユニコスなら私が殺したよ。最後の涙はとても美しかったよ。己の足掻きが無駄だと気づき、一気に絶望に染まった時のあの顔は……本当に、美しかった』

 うっとりとした口調で、モザイクは笑う。
 その言葉を聞き、一番にウォルスが勢い良く怒鳴りかかる。

「ふっざけんじゃねーってヴぁ! 美しいとかそんなの……殺しておいて……!」
『私は素直な感想を口にしただけさ。そういえば彼女は良く口にしていたな。人は死ぬ間際がもっとも美しい瞬間だとね。そう、最後の灯火こそが何であろうとも美しいと』

 そう言ってモザイクは、ユニコスに突き刺したままの剣を抜く。
 血飛沫が舞う。けれどもそれほどの量は無く、辺りを汚すだけで終わった。
 モザイクはユニコスの頭をつかみ、アカービィ達に見せ付ける。

『君達も、最高に美しい瞬間をこの子のように見せてくれるかい?』

 赤黒く固まった血と大火傷で全身を染め、顔の左半分を大きく斬られ、左目が真っ二つ。そして、さっきまで剣が顔の中央に突き刺さっていたから、大きな空洞が空いている。
 あまりにも悲惨なその姿に防衛隊員は顔を背ける。中には吐き出しそうになっている者もいる。
 だが副隊長の二人は恐れず、モザイクを睨み付けながら叫ぶ。

「生憎見せるつもりはねぇ!!」
「お前が燃え尽きる瞬間は見せてやるってヴぁよ!!」

 アカービィとウォルスの宣戦布告を聞き、モザイクは笑う。

『そうか。ならば……どちらの炎が燃え尽きるか、試してみようではないか!』

 辺りが再び混沌の炎による壁によって覆われる。
 副隊長二人、戦闘員達が一斉に武器を手に取り、中心にいるモザイクに向ける。
 モザイクはユニコスをその場に置き、代わりに両手に炎の剣を生み出す。
 これより、第二回戦が始まる。と思ったその時だった。



 黄金の巨大竜巻が吹き、一気に炎の壁を消したのは。



 あまりにも突然すぎる竜巻に、一同は吹き飛ばされそうになるものの何とか踏ん張る。
 唯一モザイクのみはその場に立っている状態のままだ。炎の剣を消し、吹き飛びそうになったユニコスの死体を片手でつかんでいる。

「一体何がどーなってんだよ、おい!? 今度は否定の魔女か!?」
「オイラが聞きたいってヴぁー!!」

 アカービィとウォルスが帽子を抑えながら声をあげる中、モザイクは冷静に彼女の名前を呟いた。

『トレヴィーニ閣下』

 その言葉に答えるのは、黄金の風に乗ってきた否定の魔女トレヴィーニの声。

『――モザイク卿、目的は済んだ筈だ。今の状態で必要の無い戦いは無用』

 防衛隊員の体がその声を聞き、緊張が高まっていく。
 しかしモザイクは何も変わらない様子で、平然と答える。

『申し訳ない、閣下。久しぶりに絶望を味わってしまい、少々欲張ってしまいました』
『貴様らしい理由だな。第二の戦闘狂とでも名づけてやろうか?』
『それはご冗談を。私はただ美しいものを愛でる一介の炎に過ぎません』

 トレヴィーニの提案を遠慮するモザイク。
 その光景さえ見なければ、良い主従関係の光景に見えるだろう。
 いきなりのラスボス介入に防衛隊が戸惑う中、アカービィが最初にハッと我に帰る。

「待て待て待て待て! 勝手に話進めんな!!」
『ん? あ、その声は確か真っ赤なCKYではないか。どうした?』
「何だ、その変なあだ名は! CKYって超空気読めないって意味か、おい!?」
『その通りだ。折角氷の鬼神と楽しんでおったのに、それを邪魔しおってからに』
「あんな怪獣大決戦止めるに決まってるだろうが! お前馬鹿じゃないの。てか馬鹿じゃないの!?」
『うわ、酷い。トレちゃん泣いちゃう』
「勝手に泣いてろ!! ってーかトレちゃんって似合わねぇっつーの!!」
『しっかしそのツッコミぶり、ナグサとはまた違って乱暴的だな。コッペリア事件の時のナグサは、惚れ惚れするぐらいのツッコミプリンスだったな。さしずめ貴様はツッコミファイアーか?』

 アカービィは「真っ赤なCKY」「ツッコミファイアー」の称号を手に入れた!
 ついでにナグサは「ツッコミプリンス」の称号を手に入れた!

「いらんわ、そんな称号! ってーか何だよ、コッペリアとかナグサとか!!」
『ナグサは新たな好敵手よ。コッペリアは、ある者を愛するばかりに狂ってしまった娘というべきかな? まっ、どっちにしても……貴様がCKYなのには変わらんけど』
「そのネタ引っ張るんじゃねぇぇぇぇぇ!! 今空気読んでるでしょ、俺!? ってーか空気壊しまくってるのぶっちゃけお前でしょ?! さっきまでのシリアス返せよ、ゴールドババァ!!」
『なっ!?』

 トレヴィーニは「ゴールドババァ」の称号を手にいr

『その称号を否定する!!』

 称号がキャンセルされました。

「うわっ! なんちゅーくだらん事に魔法使ってるの、お前!? ってーか、それあり!?」
『やれたんだからありに決まっておろう。これぞ否定の魔女の特権だ』
「こんな事で威張るな! というか使う要所が違うだろおおおお!!!!」
『切れやすいの、貴様は。乳酸菌とってるぅ?』
「お前、銀様じゃなくて金様だろーが! ちなみにとってます!!」
『マジレスおつ』
「ぬがあああああああ!!!!」

 完璧遊んでるトレヴィーニに、ついにアカービィ剣を取る。声と風しかないのに。
 それを見たウォルスと戦闘員数名が慌ててアカービィを抑え付ける。

「HA☆NA☆SE! あのババァだけは、あのババァだけはああああ!!」
「もうやめてください! シリアス度はもうとっくに0ですよ!!」
「落ち着いてください、アカービィ副隊長! ここで暴走しても何の意味もありませんよー!!」
「そんなにキレっと血圧あがっぞーーー!!」

 どう見てもギャグ小説です、ありがとうございました。
 その光景を見て、元凶であるトレヴィーニの声は愉快そうに笑うだけ。
 今まで黙っていたモザイクは何ともいえぬ表情(と言っても口だけでパッと見分からないが)で、トレヴィーニに話しかける。

『閣下、何やってんですか……?』
『真っ赤なCKYで遊んだ。以上』
『とりあえず空気戻してください』
『むぅ』
『むぅ、じゃありません』

 モザイクに注意され、トレヴィーニはやっと本題に入る気になったのか、先ほどのギャグパートとは打って変わった様子でこう言った。

『一通り遊んで気が済んだ、と言いたいところだが今回は予想以上の収穫が多い』

 その声は先ほどの軽口を叩き続けた女の声ではない。
 あまりにも魅力的で、あまりにも残酷で、あまりにも力がありすぎる魔女の声。
 防衛隊員達の空気も変わり、一斉に緊張感が高まっていく。

『漸く人を捨てた人を演じる者と、人魚姫も見つけ出した。そして、新たに駒として相応しい存在も見つけ出した。第二次世界大戦の時は近い。だが、主人公は貴様等ではない。妾が主人公に選ぶのは……誰よりも愛しく誰よりも殺してしまいたいあの男。もしくは』

 そこで区切りをつけ、魔女はゆっくりとその名前を口にする。

『ナグサという、ただのカービィ』

 その名前が防衛隊員の耳に入った直後、黄金の風が吹き荒れる。
 竜巻、というよりも上昇気流というべきだろうか? その風は容赦なく、防衛隊員達を空中へと投げ出だされていく。

『貴様等は鳥と一緒にお空のお散歩でもしていろ。地上に降り立つ頃には、全てが終わっているよ』

 魔女の声は、そこで終わる。
 だけど空に飛ばされた彼等には届かない。
 唯一届いたのはモザイクのみ。けれども彼は声を気にせず、己が持つユニコスを眺めて呟く。

『……ここで、死なせておくには勿体無い。寧ろ君の活躍はここからなのだよ、穢れたユニコーン』

 不気味な三日月笑顔が浮かんだ時には、誰もいなくなっていた。
 モザイクも、そしてユニコスも。






  • 最終更新:2014-11-08 18:47:50