第十七話「生き残った者達」
発砲音が響く。独特なその音は聞き慣れていた筈なのに、今は煩いとしか思えないぐらいにやかましい。
けど、どんなに煩いと思っても発砲は終わらない。
何故ならば、ミルエが撃ち続けている相手――ダイダロスは無限大と言っても過言ではないぐらい多すぎるのだから。
ほぼ一瞬の出来事だった。
ディミヌ・エンドの放送と否定の魔女による目玉の投下が合図となり、人々の大半は数分も立たない内にゾンビカービィ、通称“ダイダロス”へと変貌していったのは。
彼らはまだ生きている者達を次々と襲い出し、己の同類に変えていく。始末の悪い時には全てを喰らってしまっている時がある。
そんな悪夢の中、ナグサ一行は必死に進んでいた。何処か避難出来る場所を探して。
「もーっ! これじゃ夜明国の時と同じじゃんかー!!」
いい加減うんざりしてきたミルエが叫ぶ。
その声を聞いて、ダイダロス軍団がこちらへと歩いてくる。もちろんこっちに来る前に一体も残さず右目を撃ち貫き、完全絶命させる。
ちるの真空波を吸い込み、カッターをコピーしたナグサが前方にいるダイダロスを攻撃しながらミルエに問う。
「でもミルエちゃん、ダイダロス相手に戦ったんじゃないの!?」
ミルエ本人から彼女が「銃の戦乙女(ガン・ヴァルキュリア)」と聞いている(尚ナグサがこの事実を知らなかったのは、彼女の容姿が九年前とあまりにも違っていたのと大国による情報隠ぺいによるもの)から聞いたのだが、答えは予想の斜め上であった。
「ミルエが忍び込んだのは二、三日だけだよ!」
「へ!?」
「だーかーらー! お金になるもの探しに忍び込んで、邪魔だったからキング倒しただけー!!」
「つまり火事場泥棒!? 火事場泥棒の為だけに!? それ、すごくね!?」
とんでも事実発覚にナグサは驚き、思わず大声を上げてしまう。
もちろんその大声をダイダロスが聞き逃す事無く、前後両方から近づいてくる。しかも建物の中にいた連中も出てきて彼らに向かってきている。走れないのか、ゆっくりと歩いてきてだけど。
やってくるダイダロスを見て、ナグサは顔を青ざめる。人形コンビはツッコミを忘れない。
「しまった!」
「大声出すと反応するのに何やってんの!?」
「~!!」
「ご、ごめん! ついツッコミの本能がー!!」
どんな本能だよ、とツッコミを入れたいところ。だがダイダロス達は空気を読まずに確実にこちらへと「メェェェェェェシイィィィイィィィィィィィィィィイイイイィィィィィィィィ!!」と叫びながら歩いてやってきている。
三人はそこで会話を中断させ、ナグサはカッターを、ちるは衝撃波を何時でも放てる体勢になる。ツギ・まちはミルエに顔を向ける。
ミルエはその両手に持つ二丁拳銃を軽く回転させ、形を変えていきながら先ほどのナグサのツッコミに答えている。
「そっ、かじばどろぼー。でもね、同類すらも喰っちゃうぐらい飢えた連中相手に隠れながら無駄だったんだ。だからね……こういう事に変更したの」
ミルエの目の色が変わった。凶暴な狩人の目に。
回していた二丁拳銃をその手にしっかりとつかみ、彼女は意気揚々とダイダロスに向かって叫ぶ。
「Go to the hell! Die do loss!!(地獄に送ってやるよ! ダイダロス!!)」
ミルエは拳銃を左右に向け、次々に右目を撃ち貫いていく。しかしダイダロスの数は多かった為、全滅には至らない。
しかしそんなものは脅威にならない。今、撃った事によって前方に道が出来たという事実がミルエを喜ばせる。
彼女は走り出し、前方にいるダイダロスというダイダロスを片っ端から撃っていく。ミルエの拳銃は能力で生み出したものゆえ、銃弾に関する心配は全く持って存在しない。だから彼女は目に付く敵を撃って撃って撃ちまくる。
途中、何体かのダイダロスがミルエ目掛けて飛び掛ってくるもののミルエは怯まずに立ち止まり、連中が空中にいる間に素早く右目を貫き、そのまま全身撃ち貫かせてバラバラにする。自分目掛けて落ちてくる肉片は後ろに下がって回避した後、片方の拳銃からファイアの銃弾で燃やし、もう片方は周りから近づいてくるダイダロスの右目を撃つ。
肉片を燃やしたら、周りから近づいてきているダイダロス達を二丁拳銃で撃ち殺し、再び前方に構えながら走り出す。
その後ろをナグサとツギ・まちは走る。ちなみにちるはツギ・まちの頭に乗っている。
「何だよ、あの滅茶苦茶な強さ! 悪魔も泣き出すぐらい凄まじくない!?」
「~! ~~!!」
「え? ツギ・まちと会った時からずっとアレぐらい強いって!?」
「……良く生き残れたな、カルベチア」
ミルエとぶつかり合ったカルベチアの事を思い出し、別の意味で感心するナグサ。
それはともかくとして、今のミルエの攻撃力は凄まじいものがある。あのような状態のミルエは初めてだ。人形屋敷などで戦闘していた時なんかよりもずっと好戦的で、敵をぶっ潰す事しか考えていない。まるで獣のように。
頼もしく思える反面、薄ら恐怖を感じてしまう。このダイダロスだらけのサザンクロスタウン――ナイトメアシティ――に比べれば何千倍もマシなのだが。
ミルエが中央通の十字路を左に曲がり、ナグサ達がその後を続く。
そこでは前方の道が炎で塞がられていた。しかもその横ではサザンクロスタウンの名物の一つともいえる巨大図書館が燃え盛っていた。
だが幸いな事にダイダロスはいない。
「うあああ、一体何なのさ。これー!!」
代わりにぜぇぜぇと息を切らし、図書館の前に座り込みながら叫ぶ飛行帽を被った白いカービィだけがいた。その周辺には動かない焦げた球体が複数あり、燃やされたダイダロスだと理解するのに時間はいらなかった。
ミルエは素早く白いカービィに駆け寄ると強引にその手をつかみ、図書館から離れてナグサ達の下に戻る。直後、先ほどまで白いカービィがいたところに図書館から炎に包まれた材木が崩れ落ちる。
間一髪で助け出したその手馴れた姿を見て、ナグサは呆気にとられる。
「……色々とすごいね、ミルエちゃん」
「昔から色々やってるからね!」
「どーいう色々かは聞かない事にするよ。何か怖いし」
何時ものようなニッコリ笑顔で答えるミルエに、ナグサはそう返すと白いカービィに顔を向ける。
ヘッドホン付の大きな飛行帽子からは大きな耳がはみ出ており、背中には申し訳ない程度の翼と大きなトカゲに類似した尻尾を生やしている。頬の☆マークが特徴的でやんちゃっ子な印象を与えてくれる。
見たところ動物型で、ナグサはすぐに何がモデルなのか推測出来た。
「ドラゴンタイプの動物型?」
「そだよー。僕、ポチ。ドラゴンだよー!」
なんちゅー名前だとツッコミを入れたくなったが、それもすぐに中断された。
何故ならば炎上する図書館の窓が勢い良く割れてそこから二つの影が飛び降りてきたのだから。飛び降りてきたのは緑色の大きな帽子で右目を隠した片耳の猫のような薄茶色のカービィと赤と黄色のカラフルな帽子を被ったピンク色のカービィだ。
前者が後者の帽子をつかんで窓割って飛び降りたらしく、片耳の猫カービィは両足で着地すると同時につかまれていた連れのカービィは背中から地面に落ちる。
「ぐほぉお!!」
もちろん思い切り背中を強打。めっちゃ痛い。
「あ、いける? 多分いけるだろうけど」
「いや、ものっそ痛いんすけど……!」
猫カービィが大して気にかけてない様子で話しかけてくるものの、すぐに自己完結しました。連れのカービィは反論するけどスルーされてしまう。
いきなり落ちてきた二人にナグサは唖然とし、思わず呟いてしまう。
「こ、今度は何だ……?」
その呟きが聞こえたのか、猫カービィはナグサ達の方に振り向くと口に笑みを浮かべて挨拶する。
「こんにちは、銃の戦乙女。はじめまして、その連れの皆様。僕はクレモト、不運にもこのサザンクロスタウンに閉じ込められた者だよ」
「くれもっち久しぶりー」
何とまぁ、得体の知れない人物だとナグサは思った。
ミルエの知り合いらしいクレモトだが、どこかつかみづらい。ローレン達のように狂気に囚われているわけでもない、けれども普通とは何処かが違う印象を与えてくる。
言うなれば自分とは違う世界に生きる者。ミルエやカーベルとはまた別の意味で。
「あ、あの……回復プリーズ……」
その時、背中を強打して痛みに苦しむカービィの声を聞いてナグサはハッと我に帰る。
急いで荷物から元気ドリンクを取り出し、彼女に飲ませた。
彼女はごくごくと凄い勢いで元気ドリンクを飲み干し、生き返ったかのように起き上がる。
「ぷはーーー! あー、生き返った!! サンキューっす、お兄さん!」
「どういたしまして。えと」
「あ、自分絵龍って言うっす。そっちのクレモトさんに無理矢理連れられて、このラクーンシティに閉じ込められちまって……」
「ある意味その表現は間違っていないが、分からない人もいるかもしれないのでサザンクロスタウンと呼びなさい」
「お兄さん、細かいツッコミ入れなくてもいいと思うっすよ?」
「……」
ナグサがツッコミを入れるものの、絵龍に返されて何もいえなくなる。仕方ないじゃん、こんなキャラなんだから。
その横でミルエは体を傾げながらクレモトに尋ねる。
「でもくれもっち、どーしてここにいるの?」
「三日月島に行きたかったんだけど、見事に足止め喰らっちゃってね。どうしようかって話してたら、ダイダロス現象発生しちゃったんだ」
「ミルエ達とおんなじだ!」
「うん、そうだね。だから今はこっから抜け出す方法を探さなきゃいけない」
クレモトはそう言うと一同を見渡して、本題に入る。
「さて、どうする? この陸の孤島の中、何時来るか分からない救援を待ってみる?」
「トレヴィーニがそんなの許しますか?」
「まず無いね。彼女の事だ、僕等自身が力をあわせて悪をぶっ飛ばしてからの内側からの脱出を望んでるだろう。彼女はそういう意味ではロマンチックなところがあるからね」
ということは本城からの救助が来ても、トレヴィーニ自身の手で拒まれるだろう。
先日のニュースを見た時でも大国防衛隊はトレヴィーニ相手に苦戦しており、誰もが予測したように敗北してしまったのだから。
クレモトの言うとおりのロマンチストならば動くべきは自分達。魔女の掌の上で踊らされていながらも、それしか手段が無いのならばやるしかない。
ナグサはそこまで分析すると、今やるべき事を口にする。
「……それなら、人を集めないといけませんね。幸いこちらには別れた仲間が五名ほどいますので」
「五人とも実力者?」
「その内二名は狂気の人形コンビ。ローレンとカルベチアなので、まず戦力になります」
「うげっ! 城下町を騒がせた犯罪者っすか!!」
「なるほど。他の三人は?」
ローレンとカルベチアの名前を聞き、絵龍が露骨に嫌そうな顔をする隣でクレモトは平然と頷き、話を急かさせる。
それに答えるのはナグサではなく、ミルエだ。
「タビタビとチャチャ、強いよー? 何たってダイダロスの軍勢から生き残ったもん!」
「生き残った? ……もしかして夜明国の人かい?」
「うん。どろぼーしている最中に会ったんだよ!」
「って事はタービィさんとチャ=ワンさんは戦力になるね。メンタル面が不安だけど」
ダイダロスの軍勢を人生に二度も相手するというのは中々来るものがある。
経験があるとはいえど、ミルエのように平然としているとは言えないし、何をするのか全く分からない。ナグサが多少話した中では二人ともパニックになるような人ではない。しかしそれは平常の時だけで、このナイトメアシティ状態ではどうなるのか把握できない。
これならもう少し親しくしておけばよかったとナグサが後悔する中、クレモトが話を続けてくる。
「で、最後の一人は?」
「あ、ダム・Kっていう狂気の人形コンビに拉致られた哀れな人です。実力面は知りませんけど、車の扱いが優れているのは保障します」
「ダムさんだって!? あの人、黄金突風で行方不明になってたと思ったら人形コンビに捕まってたのか……」
ダム・Kの名前を聞き、絵龍が驚きの声を上げた後同情の入った呟きを口にする。
実は拉致後、トラックで空飛ばさせました。という事実があるのだが、ここで口にする必要は無いのでナグサは口にしない。
そこでふと気づく。ダム・Kはどこのグループにいるのか。自分達と一緒ではないのだから、恐らく和風コンビか人形コンビのどちらかと共に行動しているのだろう。それなら余計な心配をしなくても大丈夫だと思うのだが、実際どうなんだろうか。
実はダム・K、どのグループにも置いてけぼりにされて警察に捕まってしまっているのだが、そんな事ナグサが知る由も無かった。
「ってかダム・K、実力あるの?」
「二番隊の情報処理事務員っぽいっすけど、ジャガールさんから聞いた話じゃそこそこ戦えるらしいっす。ダークマターついてるから暗黒も出来るらしいし」
「ダークマター? それなら大丈夫だ、ダイダロスにはならないね」
ナグサの質問に絵龍が答えていると、クレモトが横から入ってくる。
ダイダロスにならないという理由にツギ・まちとちるが頭に?マークを浮かべる。夜明国から生き残ったミルエは特に何の反応もしめさない。ナグサと絵龍も何となく意味がつかめたものの、ありなのかと疑問に思う。
クレモトはそれを見て、勝手に理由を話す。
「ダークマターみたいな一つ目はダイダロス化の法則に当てはまらないんだよ。ダイダロスは二つ目以上じゃないとならないからね。ただし完全な餌に見られて喰われるけど」
「喰われる対象に見られるなら、危険なのに変わりは無いと思うのですが……」
「(こくこく)」
クレモトの説明を聞いてちるが半ば呆れたように呟き、ツギ・まちが頷いて同意する。
どっちにしろダム・Kにとっちゃ不運でしかない。いや、黄金の風に飛ばされた時点で不運だったに違いない。本当に色々な意味で。
内心ダム・Kに同情しながらも、ナグサは話を変える。
「それよりもそろそろ安全な場所でも探しに行かない? ここで立ち往生していたら、ダイダロス達が何時やってくるかわからないし」
「うん、そうだね。何時向こうから来るかわかんないし、立てこもり用の建物を探してみようか。コンビニ辺りがいいかな?」
「ですね」
「オーケー。それじゃ行こうか。他の皆もそれでいい?」
クレモトが確かめるとミルエ達は頷き、同意する。
ナグサ一行・クレモト&絵龍とは直接関係無いポチもついていく気満々のようだ。と言っても、こんなところに一人で放置する気は全く無かったし、好都合とも言える。
■ □ ■
現在地はサザンクロスタウン北エリアと西エリアの境目。クレモト達曰く北エリアに立てこもりに使えそうな場所があるらしく、とりあえずはそこに向かう事になった。
道中どんだけいるのとツッコミたくなるぐらい、ダイダロスが襲い掛かってきたものの先ほどと同じでミルエが善戦。後方では間接攻撃が使える者がミルエの取りこぼしを倒していく。
ここで発覚したのはツギ・まちやちる等の人形系もダイダロス化はしないということ。いくら意思があるとはいえど、生命体とは似て非なる存在なのである意味間違ってはいない。でもだからと言ってゾンビ相手に全力ラリアットかましていい理由にはならないと思う。ナグサは正直それを見た時、あまりの漢らしさに拍手してしまった。
それ以外にもポチの火炎放射が予想以上に激しかったり、絵龍が意外にも魔法格闘家だったり、クレモトが近接戦闘専門と言って観戦一直線だったりと、それなりにあったのだがここでは割合する。
そんなこんなで北エリアを進む中、先頭を歩いていたミルエが立ち止まる。
後ろに続いていたメンバーも彼女に合わせて止まってしまう。
「どうしたの、ミルエちゃん」
「……ハンターが出た」
ミルエの呟きを聞き、ナグサが前を見てみると全身を包む黒茶色のローブをつけたカービィがいた。顔自体もローブで隠されており、体の色すら分からない。分かるのは自分達を鋭く睨みつけてくる殺気のこもった目だけだ。
こちらに歩み寄ってくる事も「メェェェェェシイィィィィィィ!!」と叫びながら襲い掛かってくる事も無い為、さっきまで相手にしていたダイダロスとは違う存在だろう。
どちらにせよ、自分達の敵である存在に変わりは無い。それぞれ戦闘態勢に入る。ナグサはカッターを構え、ツギ・まちと絵龍は格闘体勢に。ミルエは銃器を向け、ちるは体内に魔力を貯める。唯一クレモトはそのままの体勢だが、その目線はハンターだけを見ている。
そんな彼らを見て、ハンターは口を開く。低い男の声だ。
「やっぱりディミヌに聞いておいて正解だったぜ。他の連中が来るよりも早く、メインディッシュがいただけるんだからなぁ?」
ハンターはそう言って、ローブを手にとって空に放り投げる。
そこにあったのはダイダロスでは無かった。ダイダロスと同じぐらいに奇妙でありえない姿形を持っている男があった。
顔を中心として全身がひび割れており、その左目も歪んだ形をしている。何よりも目を引くのが右上部に見える灰色の物体だ。その部分だけ体が無く、代わりにカービィの中身かもしれない不気味な物体が出ている。アクセサリーなどはつけていないけれどそれが余計に男の青い体を注目させてしまう。
明らかに普通のカービィではない。こんな姿、死者じゃない限りありえない。
そのあまりに異様な姿に対し、ナグサは過去にテレビで見たのを思い出してその名前を叫ぶ。
「まさか、オルカ!? 連続殺人で指名手配されたあのオルカか!?」
「その通り! 俺はオルカ。殺し合いだけを求めるくそったれな戦闘狂さ!!」
ナグサの驚愕した叫びを聞き、オルカは勢い良く答えながらその手に武器を召喚する。
召喚された武器はカービィよりもずっと大きく長い槍だ。あまりにも尋常ではない大きさのそれはカービィが扱える代物ではない。
だがオルカは両手を使い、頭上で槍をグルグル回すと勢い良く一同に向ける。
「俺の目的はただ一つ! トレヴィーニが気に入ったっていうナグサって野郎と戦り合う、それだけだ!」
直後、オルカとナグサ達の周囲を電撃で出来た細かい網目の半球型フィールドが包み込む。
いきなり出没したフィールドに一同が驚く中、クレモトは冷静に分析する。
「電磁フィールドからは魔力感知無し。って事は機械関係だろうから、ディミヌ・エンドがやったと見ていいかな?」
『は~い、ご名答ですよ~』
クレモトの分析に答えるのは、ややノイズが入ってるけれども緊急放送を行ったディミヌ・エンドの声。 同時にオルカの横に当たる空中にモニターが出現し、ディミヌ・エンドが顔を出す。
『オルさーん、言われた通りにやりますけどバレても知りませんよ~?』
「バレたところでどーにもなんねぇよ。気にするのは魔女マンセーの死神女ぐらいだ」
『我侭です、オルさん。ちょっとはモザさん見習え』
「変態になる気は無い」
『むぅ。後で見てろです~』
ディミヌ・エンドはモニターの中で頬を膨らませながらも、作業を続けていく。
電磁フィールドは複雑に形を変えていき、オルカとナグサ以外のメンバーを隔離させながらもその範囲を広げていく。
やがてフィールドはある程度の範囲で収まる。中心にオルカとナグサが対峙し合う形となっており、ナグサの後方には仲間達が小さな電磁フィールド内に閉じ込められている状態となっている。
「え、何!? 一種の決闘空間!?」
「ちょっと煩い」
「あでっ! ちょ、殴らないでくださいよ!」
「……あくまでも目当てはナグサ君一人、か。僕等はお邪魔のようだ」
「スルーすなー!!」
閉じ込められパニックになる絵龍を軽くどつきながらも、クレモトは状況を冷静に判断する。絵龍の正論に関しては全てスルーしている。
その横でちるが不安そうにナグサを見ながら、ミルエとツギ・まちに尋ねる。
「ナグサ君一人で勝てますか!? 口ならともかくとして!」
「……わかんない。ナッくん、サポート多かったし」
「~! ~~!!」
「も、もしもの時は自分がフィールド乗り越えて助けにいく!?」
「まっちん、漢だ……!」
「下手な男よりも漢らしいよ、ツギ・まち!」
ツギ・まちの漢らしさにミルエとちるが思わず絶賛してしまう。何やってんだ。
その様子を見ていたオルカはくっくっくと含み笑いし、矛先をナグサに向けながら話しかける。
「大丈夫かい、ナッくん? あの人形みたいな漢らしさは見せれるのか~い?」
「さぁね。ツギ・まちみたいな漢らしさは出なくても、あなたと戦うぐらいの勇気は健在ですよ」
「へぇ、自信があるんだな。だがそれで終わったらつまんねぇ」
オルカはそう言って指を軽く鳴らす。
するとナグサの周囲にコピーが入ったシャボン玉が三つ出現する。中にはそれぞれ「トルネイド」「ソード」「ミラー」が入っている。
多分ディミヌ・エンドのプログラムが出したのだろうと推測しながら、ナグサは尋ねる。
「これは?」
「俺からのハンデだ。カッターだけじゃ俺と戦うのは不便だろう?」
確かに全部強いコピー能力で、使っても損は無い。
通常型のナグサからすればありがたいプレゼントである。
しかしナグサは三つのシャボン玉を見るだけで一つも触れる事無く、オルカに言う。
「それはありがとう。けど、いらないよ」
「……何?」
「そんなのは戦いにならない、ただのお遊びだ。そんなのはフェアじゃないだろ?」
ナグサは挑発めいた様子で勝気な笑みを浮かべる。
それを見たオルカは一瞬ぽかーんとするものの、すぐに嬉しそうな表情をして狂った笑い声を上げる。
「くく、ヒャーハッハッハッハ!! そうだ。そうでないとなぁ! 敵の情けに甘えるバカヤローなんて、戦う権利なんて無いもんなぁ!! どうやらテメェは期待を裏切らない野郎っぽいなぁ!?」
オルカが片方だけの目でナグサを睨みつけ、避けてしまいそうなぐらいに口に笑みを浮かべ、本当に楽しみで仕方ないと言った様子で再度槍を構える。
ナグサもその手にカッターを取り、目の前に立ちはだかるオルカに向かって叫ぶ。
「勘違いしないで。僕はお前が邪魔だから倒すだけなんだから!!」
ナイトメアシティ第一回戦ナグサVSオルカ――START!
次回『VS戦闘狂オルカ!』
「クウィンスがミルエ・コンスピリトをミルエ・コンスピリトと気づくのに遅れた理由は複数ある」
「例えば?」
「まず、ミルエの容姿が九年前と全く違う事。当時の彼奴はグリーンのベレー帽と☆のペイントだったそうだ。トレードマークともいえる耳は終戦後からつけたそうだ。もっとも情報が限りなく少なかった、というのもあるだろうがな」
「なるほど。で、それだけ?」
「名前だ、名前。図書館に来た当初「みるこ」と名乗ったらしい。本名を名乗ったのは銃撃戦の直後、だったそうだ」
- 最終更新:2014-05-28 00:07:36