第十一話「乙女の小さな願いなの」


 現在本城内部はパニックに陥っていた。
 右往左往に隊員達が走りめぐる。繰り返される放送の下、走り巡る。

『混沌の炎モザイク卿ロスト! ユニコス副隊長及びに一番隊隊員・民間人複数名の反応もロスト!! 繰り返す! 混沌の炎モザイク卿ロスト! ユニコス副隊長及びに一番隊隊員・民間人複数名の反応もロスト!!』

 否定の魔女トレヴィーニによる進撃、混沌の炎モザイク卿の復活、副隊長のロスト、などなどと問題が次々に入ってきているからだ。
 おかげで城内はてんやわんや。元凶である否定の魔女を捕まえようと必死になっている。特に四番隊の面々が副隊長をやられた為か、血眼になって探している。
 そんな中、カタストロ達はどさくさに紛れて廊下を走っていた。皮肉にもモザイク卿の出現が動揺を呼び起こし、彼等の行動を容易にさせたのだ。
 本来ならばセレビィを助けに向かいたかったけれど、距離がありすぎた為に断念するしかなかった。防衛隊に望みをかけたのだが、結果は放送の通りだ。
 放送を聴いたセツは床を滑り(足にスケートがついている為)ながら、顔を俯かせる。

「セレビィさん……」
「まだ死んだって決まったわけじゃない。……否定の魔女に目をつけられているなら、今の段階じゃ尚更な」

 俯くセツに対し、カタストロは元気付けたいのかそう言った。
 だがその言葉はセツを益々落ち込ませるだけに終わる。

「それって、もっと酷く殺されるって事なんじゃ……?」
「……」
「あ、目そらさないでください!」
「と、とにかく進むぞ!!」

 カタストロとセツのやりとりを見て、ウェザーは静かに呆れる。
 だがどちらの気持ちも分からなくはない。カタストロは自分等三人の中では否定の魔女トレヴィーニについて一番知っているし、セツはターゲットであるセレビィと唯一面識がある。
 その為、こんな状況下では少々もめるのは仕方の無い事だ。
 ただこのままでは良い方向に進みにくいのも事実。どうにか話をそらそうと口を開きかけたその時、再び放送が入った。

『あ、それと言うの忘れてた。現在否定の魔女の他に侵入者あり! 何でも屋のラルゴ、悪魔カービィの女に芽が頭に生えた眼鏡、カービィ版雪だるまの計四名!! 面倒だからついでにこれらも捕獲宜しく!!』
「「ついでかよっっっ!!」」
「え、そっちですか!?」

 カタストロとウェザーのダブルツッコミ入りました。セツ、ツッコミ内容にびっくり。
 確かに侵入者として出されたっていうのに、ついで扱いされればつっこみたくなるのも仕方ないだろう。だが今、否定の魔女が出現しているのだ。これもある意味当然の事と言える。
 だがそれよりも重大な事があるのに、三人は気づいた。
 何時の間にか自分達の存在が知られている事、そして捕獲対象にされてしまった事に。
 否定の魔女に夢中でスルーされると思っていたのだが、逆に敏感になっていたらしく、あっさりと見つかってしまっている。しかも別行動しているラルゴまでバレてる。
 この事態にカタストロは舌打ちし、素早く二人に言う。

「チッ! とっとと移動するぞ。牢屋は地下室にあるってラルゴからは聞いている!」
「はい、分かりました!」
「ま、まだ良く分かってないんですけど……はいです!」

 二人が頷いたのを見て、カタストロは翼を羽ばたかせて先に進む。その後ろをウェザーが走り、セツが滑って追いかけていく。
 だがそんなに上手くいく筈も無く、曲がり角に入った時、運悪く防衛隊の隊員達に発見された。

「おい、いたぞ! 侵入者だ!!」

 隊員の一人がそう言うと、彼等は一斉に三人目掛けて走っていく。ざっと数えて六、七人はいる。
 手に持つのは、全員剣。つまり剣士部隊である四番隊だとすぐに連想できた。
 四番隊はほとんどが剣に特化した能力者で構成されている。魔法が使える者はそんなにおらず、完全近接戦闘特化部隊になっている。
 だが、それで立ち止まる三人ではなかった。

「ご、ごめんなさーーーい!!」

 セツが大きく息を吸い込み、勢い良く声を出す。
 謝罪の声と共に氷の息吹が床を凍てつかせていく。その上を走っていた隊員達は「つるん!」と足を滑らせ、転倒していく。
 続いてウェザーが彼等の上空に無数の葉っぱを出現させる。その葉っぱがどのぐらいあるのかというと……ぶっちゃけ隊員達全員が埋まるぐらい。
 隊員達が気づき、慌てて立ち上がろうとするが時既に遅し。ウェザーは無数の葉っぱを彼等目掛けて叩き落とした。
 ぼふっ、という音と共に緑が隊員達を埋める。
 三人は彼等が出てくるよりも早く、葉っぱの上を進んでいく。うめき声が聞こえた+踏んだ感触が少し変だったけど、全部無視。
 葉っぱと隊員達がある為、氷で滑るということはほとんど無く、あっさりと前に進む事が出来た。

「恐るべし融合型……。一応連中、大国の防衛隊なんだけどなぁ」

 カタストロは哀れな四番隊隊員に同情する。
 末端の末端だったからか、それともウェザーとセツが融合型だからかは分からないけど。
 融合型というのは自然と融合した姿かたちを持ち、能力も自然をベースにしている者の事を言う。ウェザーは植物の融合型、セツは雪氷の融合型となっている。
 その能力は強力で、威力面では「勝ち組」とも言われている。ただし体の一部が自然なので、生態系も自然と同じ。油断すると大変な事になるデメリットがある。例えば、体が溶けるとか。
 だけど、それを除いても融合型が強いのは事実。現に今、切り抜ける事が出来たし。
 ホッと安心しながらも、先に進もうとしたその時だった。

「あなた達はとても運が悪いですわね」

 唐突に女性の声が聞こえてきたのは。
 それと同時に三人の周囲を囲むように、黒い穴が次々と出現していき、そこから一体ずつカービィが出現していく。

「なっ!?」
「え、瞬間移動魔法!?」
「違う。……これは暗黒だ! ってことは、通称暗黒部隊の三番隊!?」

 突然の事態に驚く中、ウェザーは顔を青ざめながら推測する。
 暗黒というのはカービィ達が持つ能力とは違う「ヤミ」の力の事。ダークマターが主に使用するけれど、カービィ達も使用可能である。
 その力は多種多様。その万能さは大国防衛隊でも採用されており、敵に回すと恐ろしいと言われている。常人のカービィではよっぽどの事が無い限り、勝てる可能性は低い。
 すなわち、暗黒の力を持つ大国防衛隊“三番隊”の登場は――あまりにも不利。
 だがそうこうしている内に、黒い穴から出てきたカービィ達に囲まれる三人。
 三人の丁度真正面に位置する穴からはリーダーと思われる女性が出てきて、こう言った。

「四番隊は切り抜けられても、三番隊がいたのでは意味が無い。ふふ、そう思いませんかしら? こんな事態に侵入してきたお馬鹿さん達」

 赤い宝石がつけられたオレンジのマント付帽子を被っている。その手には先端が青い杖を持っている。
 紫の体色を持つ彼女とピッタリ一致しており、相手を馬鹿にする言動にも似合っている。
 新たに出現した彼女に警戒する三人。彼女はそれを気にせず、丁寧にお辞儀しながら名乗る。

「私は大国防衛隊、三の字を与えられた暗黒部隊の長ベールベェラと申します」

 顔を上げ、彼女は三人を鋭い目で睨みつける。

「さて、どういたします? 私達と戦い、暗黒に飲み込まれ、人知れず散るか。大人しく降伏し、洗いざらい吐くか。そのどちらかから選んでほしいのですけれど、いかがでしょうかしら?」

 杖の先に黒色の力が宿っていく。
 どうやら完全に敵と見なしているらしく、ベールベェラの部下達も暗黒の力を宿し始めている。
 出来る事ならばどちらも遠慮したいところだが、暗黒の力相手では勝つ可能性が低い。いくら能力の中でも強い分類に入る融合型が二人いるとしても、相手が悪すぎる。
 暗黒の力に勝てるとすれば、特異型ぐらいだ。もしくは最初から暗黒を使わせない事。
 しかし三人組の中に特異型はいないし、暗黒は既に発動寸前の状態だ。オワタ\(^0^)/。

「ど、どうすればいいでしょう……?」
「相性が悪すぎる。戦っても、オチが見える」

 セツがオロオロと怯えるように見渡す隣で、カタストロは簡潔に答える。
 しかしウェザーは残された選択肢を拒絶し、反論する。

「でもここで投降するのはやばいですよ! だって」
「だって、クウィンスさんを助けられなくなるから」

 ウェザーが続けようとした言葉を、唐突に誰かが続けた。
 その声を聞き、その場にいたベールベェラを除く全員が聞こえてきた方向――ベールベェラの後方に向ける。
 動じる様子の無いベールベェラの後ろから、ゆっくりと緑色の男が姿を現す。

「頭を冷やすどころか、その芽が無くなりそうなぐらい燃え上がってるなんて思いもしなかったよ。ウェザー君」

 柔和な微笑を浮かべているけれど、目は全く笑っていない男。
 その男は二番隊隊長であり、クウィンスを否定の魔女復活容疑で連行した張本人の飛燕。
 ウェザーは再び己の前に姿を現した飛燕を見て、あの時の憤怒と悔しさが蘇り、心のままに叫ぶ。

「んなもんどーでもいい!! クウィンスさんはどこだ!?」
「だから頭冷やしなよ。二番隊がそう簡単に重要機密話すと思うかい?」
「なら、力ずくでも聞くまで!」

 ウェザーの周囲に無数の葉っぱが出現する。四番隊隊員を埋めていた葉っぱも浮かび上がり、彼へと集っていく。
 飛燕は心底呆れた様子で、ベールベェラに視線を向ける。ベールベェラは黙って頷き、杖をウェザーに向けた。
 その時だった。

 ズガン!!

 大きな鈍い音と共に、ウェザーが倒れたのは。
 その後ろには巨大な木の十字架を持つカタストロが息切れした様子で立っている。

「ここで喧嘩を売っても、負けるのが目に見えてるだろうが……」
「カタストロさん、無駄です。ウェザー君、完璧ノビてます」

 目をグルグル回して気絶しているウェザーを見て、セツが呟く。
 その様子に対し、ベールベェラは向けた杖を持て余す。その隣にいる飛燕はぱちぱちと一人拍手を送る。

「お見事。とても良い判断だよ、誰にとってもね」

 そう、飛燕の言う通り今の判断は最善策だ。
 ここで戦っても誰の得にもならない。カタストロ・ウェザー・セツは言うまでも無く、防衛隊の方も交渉次第でどうにかなる相手に力を使うのは勿体無い。
 それに今は否定の魔女が城内にいるのだ。そんな緊急事態時に無駄な戦いをするのは、愚の骨頂。
 その為怒りに身を任せ、飛燕に攻撃しようとしたウェザーを気絶させたのは正しい判断なのだ。
 飛燕は拍手をすぐにやめて、カタストロとセツに話しかける。

「さてと、カタストロちゃんにセツ君。ここから取れる選択肢は一つしか存在しない、君達は従う? それとも抗う?」
「従うよ。隊長格二名相手じゃ、まずこっちがやられるからな」
「えーと……はい、そうします」

 二人ともあっさりと従う方を選んだ。
 ベールベェラは拍子抜けしたらしく、飛燕を恨めしそうに見る。そりゃ部隊を持ち出して、意気揚々と戦う体勢だったというのに飛燕があっさりと片付けてしまった為、なんともいえない気持ちになるのも無理は無いし、そんな目で見たくなる。
 否定の魔女の関係者という可能性もあるというのに、飛燕は何を考えているのだろうか。
 相変わらず自分についてのことは全く表に見せない男だと、ベールベェラは思う。
 その時、飛燕が思い出したようにベールベェラに言ってきた。

「あぁ、それとベェラ。安心しなよ、この三人は君が考えているような存在じゃない」
「!? ……どういう意味で?」

 ベールベェラは驚くものの、すぐに冷静を取り戻して尋ねる。答えは何となく読めているが。
 飛燕はクスクス笑って答えた。

「僕の集めた情報を整理した結果だよ」

 答えはベールベェラが予想していたものだった。

 ■ □ ■

 大罪人クウィンスは現在、地下の奥深くにある灰色の鉄部屋の中に閉じ込められている。
 出入り口は小窓が一つしかない鉄扉。小窓はガラス張りになっており、外側からは開け閉め可能となっている。もちろんカービィが出入りできる程の隙間じゃなく、せいぜい食事を入れれる程度だ。
 そんな中、クウィンスは情けとして与えられた本を黙々と読んでいる。

「否定の魔女が来襲したっていうのに、すっごい落ち着いてんね。あの人」
「ここまで冷静だと逆に不気味だぞ」

 見張り役に抜粋された二人は、小窓からクウィンスを見て関心半分呆れ半分となっていた。
 本来ならば見張りなど一人で十分なのだが、彼女は否定の魔女復活容疑で捕まえた罪人。尚且つ否定の魔女が侵入している現在、下手に一人でいるとどうなるかは分からない。
 先ほどの全体放送により、四番隊副隊長ユニコスもやられているのが判明した。しかもその際に一緒にいた防衛隊隊員・民間人も行方不明の状態。
 その原因は混沌の炎モザイク卿。モザイク卿を追おうとした一番隊副隊長アカービィ、六番隊副隊長ウォルス率いる部隊は現在空中に吹き飛ばされている。
 言ってしまえば、かなり不利な状況。一気に副隊長三名が削られ、新たなる危険人物が増えた今、少しでも油断をすると殺されてしまう。
 防衛隊であろうとも、気が狂いそうな状況下だ。それなのに、罪人は酷く落ち着いている。

「ううん、話しかけるのは原則禁止されてるんだよねぇ。どうしよ」

 クウィンスの様子を見ていた見張りの一人がため息を着きながら、赤と黄色で色づけられた大きな帽子を整える。
 もう一人の見張りが彼女に答える。

「放っておくしかないでしょ。くっそ、飛燕の野郎、何もこんな任務につかさなくてもいいだろうに」

 ものすごい爽やか笑顔で『見張り任せたからね!』と言ってきた飛燕を思い出し、もう一人の見張りは手を振るわせる。めっちゃ殴りたいようだ。
 それを聞いた見張りは目を丸くして驚き、声を荒げる。

「えぇ!? ちょっとちょっと、飛燕隊長って呼び捨てにしていいもんちゃうっしょ!? というかジャガールさんって、二番隊じゃん!」
「あいつとは戦争前からの付き合いだから良いの! あんな腹黒鬼畜野郎なんか、意地でも隊長と呼んでやるもんか!」

 ジャガールと呼ばれたもう一人の見張りは、顔を膨らませて言い切る。怒ってる、というよりも意地になっているのがまる分かりだ。
 見張りはその様子を見て、困ったように苦笑する。
 ジャガールとは仕事の関係上、何回か会っており世間話も多々している。しかしこんな様子を見るのは初めてであり、どう反応すればいいのか分からない。
 しかしこーいうタイプはネットで見た事がある。「一見ツンツンしているようで、実は……」なアレに似ている。
 見張りは気になってしまい、つい尋ねてしまう。

「……ジャガールさんって、ツンデレっすか?」
「先に言っておくが、飛燕は婚約者いたぞ」
「うええ!? ちょ、何でそんな話題に!?」
「アホか! ツンデレの意味ぐらい分かっているし、何言いたいのかすぐに分かったわっ!!」
「あだーーー!!」

 ジャガール、ゲンコツ入れました。見張り、タンコブ生えました。
 見張りは出てきたタンコブを涙目になって抑えながら、ジャガールに反論する。

「だからって殴らんでもいいじゃないっすか!」
「何でもかんでも萌え属性に結び付けようとする絵龍が悪い」

 キッパリと言い切られ、見張りこと絵龍はへこむ。
 これが戦争を乗り越えた兵士と、戦争後に入った兵士の違いなのだろうかと思う。それとも唯単に年季の違いなのかとも思ったが、こればかりは口にする勇気が無い。二度もゲンコツはごめんだ。
 絵龍が黙り込もうとしたその時、元気な女の声が割り込んできた。

「絵龍ちゃーん、ジャガりーん! あっそびにきったよーん!」

 見張り二人が声に気づいて、振り返るとそこには二人の女性が立っていた。
 一人は小さな先端が七つついている白い帽子を被った、薄桃色の体と薄黄色の足を持つ活発的な女性。
 一人はハートの飾りがついた水色のバンダナを巻き、カービィ族には珍しい茶色の髪を三つ編みにくくっている目が大きく、少女と大人の中間地点にいる女性。その背には白い羽が生えている。
 ジャガールは即座に敬礼し、絵龍は慌てふためく。

「レイム副隊長にセラピム補佐官!」
「ご、五番隊のトップ二名?! あ、えと、何用でございますか!?」

 反応が全く対照的な二人を見て、活発な女性――五番隊副隊長のレイムは笑い飛ばす。

「あっはっは! さっき言ったじゃん、遊びに来たって!」
「正確には容疑者クウィンスの様子見だけどね。本当ならフズ君にお願いしようと思ったんだけど、いなかったからわたし達が代わりに来たの」

 隣でもう一人の女性、五番隊副隊長補佐官のセラピムが補足を入れる。
 容疑者の様子見ならば一般兵でも十分では? と絵龍は思ったが、否定の魔女が関わってる事を思い出した。否定の魔女は気に入った相手ならば、確実に接触する可能性が高いのだ。自分を復活させた存在の前に、現れる可能性は少なからずある。その為、何かしらの事が起きた時の対処として、副隊長クラスが行くことにしたのだろう。
 しかし、それでは新たな疑問が浮かび上がる。

「でも部隊はどーしてるんすか? 普通は副隊長も指揮をとる筈っすよ」
「あぁ、それならだいじょーぶ! うちの連中、ほとんどが修復活動に行ってるし、戦闘出来る連中は四番隊と一番隊と合同で行動してるのよ」

 レイムはそう言うと絵龍の隣に移動し、座り込む。
 それを見たセラピムは小さく苦笑すると、詳しい説明を入れる。

「本当なら、わたしやレイムが修復活動に行かなきゃいけないんだけど、二人とも実体化能力者じゃないからね。魔女討伐組行きなの」
「なるほど。副隊長は絵の具戦闘、補佐官は絵筆を使った魔法戦闘だからね」
「そういうこと」

 セラピムはレイムの隣に座り込む。
 そのタイミングに合わせてか、レイムは両手を合わせ、声を高くする。

「あー、それにしてもイブシ隊長ったら素敵!」
「へ!? あの説教野郎のどこがっすか!?」
「いや、確かにあの説教地獄はあたしも嫌よ? でもさ、それ以外のところはすっごい素敵じゃない。あの流し目、カービィの筈なのに大きく見える背中、皆を引っ張っていくリーダーシップのかっこよさ! あーもう、イブシ隊長す・て・き~!!」

 目をハートマークにし、両手を振り回すレイム。
 絵龍が反応に困る中、セラピムとジャガールは「またか」と呆れていた。
 レイムはかなり惚れっぽいところがあり、自分よりも強くてかっこいい男の良いところを見るとあっさり惚れちゃうのだ。二度惚れ、三度惚れも何度もある。
 隊長格はもちろん、副隊長にも惚れた事がある彼女。近くにいる方々は完璧慣れっこであり、ターゲットにされなかった隊長格のある種娯楽になっている。(理由:たじたじのターゲットが見れるから)

「でもレイム、そーいうの自重しないといい加減って思われるよ?」
「うわっ、セラピーきつい事言うわね。片思い娘の純粋故かしら?」
「なっ!?」

 レイムの一言に、セラピムの顔が一気に真っ赤に染まる。
 片思いという単語を聞き、絵龍とジャガールも反応する。

「おぉ!? 新しいカップリング誕生のフラグっすか!」
「セラピム補佐官の好きな子? 一体誰誰!?」
「ち、ちょっと食いつかないで! れ、レイムの冗談だから!!」

 必死にセラピムは否定するけれども、顔はまっかっか。いると言っているようなもんだ。
 そんな可愛らしい様子を見せるセラピムに、レイムは笑いを浮かべながら片思い相手の名前を二人に大きな声で教えた。

「アカービィ君だよ。一番隊副隊長の! あの子、年下なんだけどしっかりしてるし、今の状態でもかっこいいからね~! セラピーが惚れるのも無理ないわ!」
「ああああああ!! レイム、そんなあっさり言わないでよ!!」
「いーじゃないの! あたしとセラピーの仲なんだし」
「そーいう問題じゃないってばー! もーっ、誰にも知られたくなかったのにー!!」

 顔を益々赤くして、セラピムはレイムをポカポカ叩く。
 乙女らしい反応に絵龍は顔をにやつかせ、ジャガールは楽しそうに眺めている。止める気皆無だ。
 それを見たセラピムは何を思ったのか、絵龍に向かってこう言った。

「そ、そこの眼鏡のあなた! 前に男性と一緒にいたよね!? 一緒にいるのを見た事ありますよ!!」
「へ!?」

 いきなり話を振られ、絵龍は目を丸くする。
 その話題にジャガールとレイムが食いつき、絵龍に問い詰める。

「え、マジで? 一体どんなの、どんなの?」
「おぉ、君も彼氏持ち!? ちょ、誰誰誰!!?」

 二人の勢いと迫力に押されそうになるものの、絵龍は声を上げて否定する。

「だーーーっ! 彼氏じゃないっす、クレモトさんっすよ! ク・レ・モ・ト!!」

 クレモト。その名前は三人とも聞き覚えがあった。
 本城に時々訪れる謎の人物で、職業・性別・年齢、全てが不明。見た目は動物型に見えるのだが、彼のミステリアスな様子と相まって、益々どういう人物か分からなくさせている。
 それだけならまだ良い。しかし彼の場合、何かしらの無茶な容態を他人に押し付け、強制的に連行することが多々あるのだ。本来ならば処罰が下る行為だというのに、大国は見過ごしている。
 彼自身が実力者だということもあり、逃げる事はまず不可能。捕まったら、己の不運を呪うしかない。
 つまりだ。セラピムが見たのは絵龍の彼氏なんかではなく、隊員達にとっての迷惑なお方って事だ。

「なーんだ。つまんないの」
「あ、アレ、クレモトさんだったんだ……」
「寧ろ同情するわ」

 絵龍がクレモトと遭遇したという事実に、レイムはつまらなそうに顔を膨らませ、セラピムは何処かホッとした表情、ジャガールはキッパリと言い切った。
 絵龍はへこみそうになりながらも、クレモトに捕まった理由について話す。

「前に捕まっちゃって、一緒に三日月島まで行く事になっちゃったんですよ~。何かクレモトさんが言うには「戦争の真実を突き止める」とか言ってましたけど、ぜんぜん意味わかんなくて」
「み、三日月島とはまた遠いところに……」
「ってか、戦争の真実? どういうこと?」

 レイムが唖然とする隣で、セラピムが疑問を浮かべる。
 しかし絵龍が答えるよりも早く、“五人目”が口を挟んできた。 

「そんなもの、どうでもいいではないか」

 同時に、バンッと大きな音を立てて鉄の扉が大きく開き、突風が吹いた。
 四人が振り返るよりも早く、あっさりと地上と地下を繋ぐ階段まで吹き飛ばされてしまう。
 開いた鉄の扉から、白色の美女が外に出てくる。
 対のリボンで飾り付けられた純白のヴェール、ひらひらと舞い動くスカート、傲慢さはアピールせず、美麗さを強める扇子、それらを身に着けたルビーの瞳を持つ者。それが白色の美女。
 白色の美女を目にし、四人は驚愕する。

「う、嘘!?」
「何で!? 何で、こんな唐突に!?」
「ってーかそんなのあり!?」
「そんな痕跡は、全くなかったのに、どうして……!?」

 驚く四人に対し、白色の美女は扇子で身を扇ぎながら嘲笑う。

「貴様等は馬鹿か? 妾は「可能を不可能にし、不可能を可能にする」否定の魔女なのだぞ?」

 白色の美女――否定の魔女トレヴィーニは言葉を続けていく。

「妾が痕跡を否定すれば、痕跡は消える。妾が気づく事を否定すれば、決して気づかない。たったそれだけの事だ。それすらも分からぬのか?」

 そう言う彼女の後ろから、二人のカービィが牢屋から出てくる。
 一人は赤色の紋様を全身に持つ触覚が生えたカービィ。
 そしてもう一人は、

「トレヴィーニ様、彼女達も否定の対象ですか?」

 魔女に魂を売った緑の女。

 ■ □ ■

 会いたかった人がいました。
 悲しいと思う事がありました。
 婚約者の事を憎んでおりました。
 後悔し続けている事がありました。
 もう、後悔しないように生きようと思っていました。
 けれども、女神様は、私を見捨ててはいませんでした。

 ■ □ ■

 クウィンスは、もう手放さないと抱きしめていた。
 彼女が抱きしめているモノは、それほどまでの価値がある存在だから。
 十年前の忌まわしい事件が切欠で、婚約者の裏切りによっていなくなってしまった子供。
 それが今、ここにいるのだから。

「ホロ」

 クウィンスはその子の名前を呟きながら、抱きしめる。
 子供――ホロはただ黙って抱きしめられるだけ。
 そんな牢屋の中の何処か奇妙で微笑ましい光景に、同じく牢屋にいる女は見ているだけ。

「何も知らない者からすれば、感動の光景なのだろう。だが全部知っている者からすれば、どう反応すれば良いのだろうか?」

 女――トレヴィーニは扇子を扇いで涼しみながら、一人ぼやく。
 だけどもクウィンスには聞こえていない。ホロは困った顔をするだけ。
 トレヴィーニはクスクス笑いながら、ホロに語りかけていく。

「分かっているよ、その女はお前が大好きなだけさ。お前の方が年上だとも知らず、子供のように扱っているけど、それでも大好きなのさ。愛しているのさ。狂った戦争と言う世界の中、悲劇の子供という立ち位置で現れたお前を愛しているのさ。病的な程にな」

 トレヴィーニはクウィンスを見る。クウィンスは、先ほどと変わらずホロを抱きしめているだけだ。
 あぁ、これこそがこいつの望みかと魔女は思う。
 魔女と戦争による悲劇によって狂わされた哀れな娘、その願いは小さく、けれども叶わないもの。けれども今は叶っている。
 だからこそ、彼女はホロを抱きしめ続けている。
 トレヴィーニはそこまで理解すると、ホロに話しかける。

「ホロ、お前も不運だな。こんな女に好かれてしまって」
「ぼく、くいんす、すき。でも」

 ホロは言葉を続けず、泣きそうな顔になる。頭についた触覚の先にある灯も暗くなっていく。
 その様子に気づいたクウィンスが、ホロの頭を優しく撫でる。

「どうしました? 何か悲しい事でもありましたか? もしもの時は、私に言うのですよ」

 その口調は不気味なほどに優しくて。
 お姉さんにも、お母さんにも、とれる態度。だけど、それはあまりにも優しすぎる。
 自分が愛する子供だからか、それとも二度と失わない為か。
 理由は分からない。けれども分かるのは、何処かが狂っていること。
 優しすぎるクウィンスの手が、ホロの悲しみを深くする。

「……とれさま、どうなってるの、これ」
「戻ってこない筈の者が戻ってきたんだ。誰だって手放したくないよ」
「どういう、こと?」
「何だ、ホロ。お前はそんな単純な事も理解が出来ないのか?」

 トレヴィーニは扇子を閉じ、クウィンスとホロの傍にゆっくりと近づいていく。

「戦乱の始まりは黄金の風」

 黄金の風が、優しく吹きながら、牢屋の中に広がっていく。

「戦乱は悪夢の具現。戦乱は生命を終端に導く」

 牢屋の壁に、絵が浮かび上がる。

「過去の戦乱で、無数の生命は終端に導かれた」

 この世の地獄ともいえる風景の中、死者達が救いを求めるように手を空に上げていく。

「自我を手に入れた機械人形達による、創造者達への反乱」

 機械として生まれてきた者達と、生命として生まれてきた者達の戦。

「傷を舐めあう為に集った多くの民族達。けれども他者の欲によって殺され、燃やされた」

 色とりどりの民族が無残にも惨殺され、混沌に入り混じる炎で燃やされていく皆殺し。

「無限増殖を繰り返す死者達に抵抗し続けたけれども、結局は同じ者と化した連中」

 感染・増殖を行い続ける死者達による一ヶ月にも及ぶ惨劇。

「魔力を持つという理由で次々と火あぶりにされていく。同じ者同士で、殺していく」

 十字架に貼り付けられ、疑心と狂気の中で同属に殺されていく。

「国と国との合戦、無数の殺戮、誕生してすぐに散っていく幼き命達、絶える事が無かった断末魔」

 壁の色が赤に染まる。赤の下にうっすらと見えるのは子供の影。
 牢屋の中を断末魔が響く。爆音が響く。親を呼ぶ声が、子を呼ぶ声が、誰かを呼ぶ声が、響く。

「問おう。友を、仲間を、家族を、誰かを、亡くさなかった者はいるのか?」

 赤に染まった壁の上に、小さな黒い十字架模様が次々に浮かび上がっていく。
 十や百じゃない。万を超えるぐらいの数があり、戦争での死者がどれほどまでのものかを語っている。
 ホロは壁の絵とトレヴィーニが戦争を語る理由、その両方の意味を理解してしまった。

「……まさか」
「まさか? 何だ、言ってみろ」
「くいんす、だれか、なくした?」
「当たり前だろ。家族揃っている方が奇跡だった世の中だったんだぞ? そうしたのは妾だがな」

 黄金の風を身に纏う純白の魔女は微笑む。
 同時に、壁の絵が変わる。複数の墓に囲まれた緑の娘の絵に。緑の娘は涙を流しており、その下には水溜りが出来ている。
 墓の外には二つの人がいる。一人はフードを被った緑の男、一人は先に球体がある触覚を持つ赤の子供。二人は緑の娘から離れていくように、背中を向けている。

「しかしクウィンスは他の奴に比べて少々不幸だった。一斉に家族を亡くし、新たに作った大切な者達は自分から離れていったのだから。……それ故に、誰かが消えるのを極端に怯えている。もう二度と戻ってこないと思い込んでいる」

 絵を包むように、黄金の風が渦を巻き始める。

「ナグサ達を逃がしたのは、奴等を生かす為なんかじゃない。死ぬとこも、傷つくとこも、自分が見たくないから。そうだろう? クウィンスよ」

 クウィンスは、こくりと頷いた。

「はい、その通りです」
「だが貴様に待っていたのは絶望だった。怖かっただろう? 元婚約者に死刑を言い放たれ、国自体が分かってる癖に濡れ衣を着せられてしまった時は」
「はい」
「ウェザーが飛燕に立ち向かった時は、希望を抱いただろう。だがそれはあっさりと崩れ落ちただろう。実力差がありすぎて、逆に笑えただろう」
「はい」
「……本来ならば、これから身代わりとして死ぬか、ナグサが発見されて彼奴が殺されるか、の二択。だがしかし、貴様の目の前に妾が現れた」

 トレヴィーニはそこまで言うと、微笑を浮かべた。
 聖母の如く微笑むその姿。それは魔女かと言われれば誰もが否定する。この海のように広く深い優しさと青空のように穢れ無き美しさ、言い表せるのは一つだけ。

「女神、様」

 クウィンスが、その言葉を呟く。
 トレヴィーニは優しげな微笑をそのままに、ホロは悲哀の目で彼女を見る。
 二つの視線の中、クウィンスは言葉を続けていく。

「あなたは私の願いを叶えてくれた。私もナグサ君達も生かしてくれると言った。ホロを蘇らせてくれた。誰も与えてくれなかった、希望を与えてくれた」

 そこで瞳を閉じ、ゆっくりと開いていく。
 瞳に宿る光はトレヴィーニ、否、女神様を映している。

「――私クウィンスは、あなたに忠誠を誓いました。誰よりも聡明で、誰よりも美しく、誰よりも強く、誰よりもお優しい女神トレヴィーニ様」

 彼女は多くの小さな願いの為に、女神の皮を被る魔女に魂を売っていた。

 ■ □ ■

 トレヴィーニは、心底可笑しくてたまらなかった。
 全てはほんの気まぐれに過ぎないというのに、こんなにあっさりと手駒が増えるとは思っていなかったのだ。
 ホロを蘇らせた? 皆を生かしてくれる? 希望を与えてくれた? 何を言っている、この娘は!
 ホロは元々死んでなんかいない。大国の連中に封印されていただけであり、トレヴィーニはモザイクと共に封印を解いただけ。
 ナグサ達を生かすと言ったのは、大国に殺される展開はくだらないし、つまらないから。
 そう、全ては恐ろしいほどの偶然なのだ。
 その偶然は、クウィンスにとっては奇跡そのもの。
 トレヴィーニはあえてそれを利用しようと、モザイク達のついでに彼女と接触したのだ。

「貴様の願いを叶えてやろう」

 そう言って、クウィンスの目の前に現れた。
 クウィンスは最初こそ自分を警戒していたものの、ホロを会わせてやったらあっさりと堕ちた。
 そこからはトントン拍子だ。甘い言葉を囁き続けていったら、彼女は抵抗する意思は持っていたものの、意図も簡単に心が揺らいでいく。

「ホロと会わせてやろう」
「ナグサ達を生かしてやろう」
「お前を生かしてやろう」
「妾はお前に希望を与えてやろう」

 とてもとても甘い囁き。
 絶望に堕ちた女の心に与える、優しい毒。
 ぐらぐらと揺らぎ続けるクウィンスに対し、トレヴィーニの決め手となった言葉はこれだった。

「甘えないことを否定しよう。この妾に甘えろ」

 命令口調だけど、優しい優しいそのお言葉。
 何よりも恐ろしい魔女だというのに、どう見てもそれは心優しい母の姿。
 トレヴィーニが、亡くした母と姿が被ってしまう。甘えたくなる。泣きたくなってくる。
 何よりも「否定」の力を使われた事により、クウィンスはトレヴィーニに思いをぶつけてしまう。

「死にたくない」
「生きたい」
「ずっと怖かった」
「ずっと寂しかった」
「ずっとホロに会いたかった」
「ずっと悲しんでた」
「婚約者を愛したかった」
「でも、信じられなかった。突き放された」
「だから、新しく手に入れた大切な者は放したくなかった」
「もう誰にも死んでほしくなかった」
「でも、私には幸せを与えてくれない」
「誰かに、叫びを聞いてほしかった」
「誰かに、救ってほしかった」

 どんどんと溢れていく、心からの叫び。
 クウィンスは子供のように涙を流し、目の前にいる聖母に甘える。
 聖母の姿をしたトレヴィーニは優しく彼女を抱きしめる。魔の笑みを浮かべながら。

「あぁ、可哀想なクウィンス。でももう大丈夫だ。妾がいる、妾がお前を護ってやる。だから――妾に忠誠を誓え」

 クウィンスは、頷いた。
 あまりにもあっさりと、呆気なく、ナグサが慕う女はトレヴィーニに堕ちた。
 それこそが、クウィンスが否定の魔女に魂を売った瞬間だった。

 ■ □ ■

 何でこんな事をした? 何でわざわざ手駒を増やした?
 決まっている! 悪の魔女に立ち向かう主人公達の物語を面白くする為だ!!
 主人公の慕う女性? そんな美味しい存在を調理しないで、何が魔女だ!!
 あぁ、見たい。主人公の顔が、複雑に歪む瞬間を、見てみたい!!
 人形屋敷を終わらせた? 悲劇の娘を救った? それだけで救世主扱い? 笑わせてくれる!
 貴様は知らない! 物語はそれだけじゃ勤まらないことを!
 魔女達による物語がどれ程美しく、どれ程素晴らしく、どれほど貴様を絶望に叩き落とすか!!
 あぁ、ナグサよ!! この物語に立ち向かってみせよ!!
 この否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガンが起こす物語に!!
 期待しているぞ? 貴様が妾に強大なる快感を与えてくれる事を――――。

 ■ □ ■


次回「絶望の魔女。希望の勇者」











  • 最終更新:2014-05-27 23:46:54