第六十六話「フレイム&スナイパー」

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Aパート「フレイム&スナイパー」

 雨が降る。異なりすぎる世界の空から、無限の銃弾が豪雨の如く降り注ぐ。
 いきなりの先制攻撃に対し、零式は黄金の一風代わった翼を大きく広げ、己含めてナグサと飛燕を包み込んで防ぐ。別のキューブに立つセツは己とミルエを包む氷の小さなドームを何重にも張って防ぎ、イブシは目にも止まらぬ速さで刀を縦横無尽に払ってフズとログウも含めて向かっていた銃弾を全て切り落とす。
 飛燕はこの攻撃を見て、すぐさま相手が何者かを察する。

「間違いない。今の攻撃、クウィンスだ! ったく魔女も魔女で嫌らしい采配してくれるよ……!」
「飛燕隊長、その人の能力って……」
「くそ性質の悪い特異型! 絶対回避が不可能に近い魔法とは別の意味で最悪の能力」

 何せ、彼女の銃弾は魔弾そのものなのだから。
 世界大戦時代から良く知っているクウィンスの能力に飛燕は目を細める。皆殺し事件の際、何度も目にしてきた彼女の能力はあまりにも無慈悲で一瞬で優しい代物。だからこそその殺傷力に関しては良く知っている。
 話を聞いていたナグサが口を挟む。

「ならあそこからクウィンスを引きずり出すべきなんだろうけど……」
「……その前にはモザイク卿がいる。生半可に勝てる相手じゃない」

 飛燕がそう告げた事にナグサは頷く。何せ相手は魔女の腹心である邪炎の化身なのだ、生半可な戦い方で倒せる相手なんかじゃない。だからこそ少ないチャンスを見つけ出さなければならない。その上でクウィンスの攻撃さえも阻止しなければならないのだから、苦戦は必須ともいえた。
 だけどもう後戻りは出来ない。強敵を相手に、確実に望む勝利をつかみとらなければならないのだ。やるしかないのだ。

 ナグサが決意を固めたそのとき、銃弾の雨が止んだ。クウィンスの能力が中断されたのだ。

 その隙を見たミルエは逃さず、二丁拳銃で隙間めがけて発砲する。しかし隙間から新たに発射された二つの銃弾によってはじき返され、キューブの断面に兆弾したものがめり込んだ。
 やはりそう簡単に通してはくれないか。図書館での一件を思い出しながら、ミルエは二丁拳銃に能力を蓄えながら考察する。
 そこでモザイクが不特定な体からぼこりぼこりと己と同じサイズの火の玉を三つほど生み出し、パチンと右手の指を鳴らす。すると火の玉は見る見るうちに大きくなっていき、猛々しい炎の鷲へと変化した。
 炎の鷲は各自ミルエ・セツ、イブシ・フズ・ログウ、ナグサ・飛燕・零式目掛けて雄叫びを上げながら突進していく。
 セツは両手を頭上に上げ、大きな雪玉を出現させると炎の鷹目掛けて振り下ろしてそのまま鎮火させる。あっさり終わった事にミルエが軽く拍手を送る。

「セッちゃん、ナイス! でーもー?」

 だがすぐに彼女は拳銃を持ち直し、溶けた雪玉に銃口を向ける。直後、些か小さくなった炎の鷹が復活して再度二人目掛けて突撃してくる。
 驚くセツを他所にミルエは怯まず、バンバンッと発射する。銃弾から発射されたコピー能力「ウォーター」により、炎の鷹は完全に飲み込まれて今度こそ完全に鎮火した。
 ミルエはフッと銃口の先に息を吹きかけてかっこつけてから、セツに注意を入れる。

「こーいうのって大抵生き残るから要注意」
「……肝に銘じておきます。それより他の人は?」

 勇ましい彼女の様子にセツはちょっと呆気にとられながらも、イブシ達へと目を向ける。
 しかしそこに炎の鷹はおらず、代わりに刀を手に持った鞘で収めるイブシと呆気に取られるフズとルグウの姿があった。どうやら向こうも向こうでさっさと片付けたようだ。
 ならナグサ達はどうなっているのだろうと体を向けようとしたその時だった。己の周囲が酷く、熱くなったのは。

『さすがにこの程度は避けきれるか。まぁ、このぐらいは予想してたよ』

 落ち着いたモザイクの声と共に、セツ達とイブシ達、そしてモザイクの乗るキューブをぱっくり飲み込むように炎の壁が全方位に出現して彼等を外界から閉ざす。
 それによって一気に温度が上がっていき、皆の体から汗が噴出す。そりゃそうさ、色が纏まらない炎の中に閉じ込められたんだから。
 元凶である混沌の炎モザイク卿は浮かび上がらせた細い三日月の唇により、顔面を引き裂くぐらいの笑みを浮かべて五人に告げる。

『さぁさぁ、我等が閣下が望むのはたった数名の運命。それ以外の運命なんてどうでもいい。だからこそ、私は浅ましく汚らしく望ませてもらおうか。何よりも美しい絶望を……!!』

 芝居がかった大振りの言動で高らかに宣言する姿は道化か、それとも語り手か。どちらにしても、混沌の炎に相応しき狂喜を見せてくれる。
 悪趣味にも程がある事態に巻き込まれながらも、イブシはモザイクの言葉から取り残された者達と結び合わせて気づく。

「たった少しの運命……だと? まさか――!」
『さすがに、君は気づいたか』

 モザイクの呟きにイブシは己の察した事こそが狙いだと気づき、唇を噛み締める。
 何がなんだか分からない四人は話についていけず、イブシとモザイクを交互に見ることしか出来なかった。
 だがそれはモザイク自身によってすぐさま打ち消される事になる。

『彼等の運命を知りたければ、私という炎を消してみてはどうかな? ――できるものなら、ね』

 何故ならば、混沌の炎がこれから邪魔なものを排除する為に燃やしにかかるのだから。


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 一方零式はすかさず二人の手をとってつかみ、キューブの上空に逃げる形で炎の鷲を避けるものの相手はしつこく彼を追いかける。それに大してナグサが帽子の形を変え、どこからともなく取り出した笛を思い切り吹く。笛からは勢い良く沢山の泡が出てきて、炎の鷲を包み込んでいく。すると炎の鷲はボンッと可愛らしい音と共に、大きな泡に包まれたファイアのコピーの元へと変化した。
 その様子を見てた飛燕はナグサについ尋ねる。

「シャボンコピーって何時の間に覚えたの、君」
「コピー強力化魔道書。徹夜して覚えたよ。まだいくつかお腹に入れてる」

 コピー能力の「シャボン」になってるナグサは武器を軽く振りながら、答えた。そのまま軽く吸い込みを行い、「ファイア」を体内に入れるナグサ。普通コピー能力が発動してる最中は吸い込み自体難しいことなのだが、それも魔道書の威力か何かだろうと飛燕は推測する。
 その時、僅かに開いたままの隙間から二発ほど銃弾が発射されたのを飛燕は見逃さなかった。

「零式!!」
「アイアイサーッ!!」

 零式は素早く了承し、己の背中に金色の魔法障壁を出没させて銃弾を防ぐ状態にしながら急カーブして銃弾の軌道から反れる。しかし銃弾はあろうことか零式を追いかける形で曲がり、それどころか速度を速めていった。
 ナグサと飛燕からその事を聞き、零式は魔法障壁を何重にも展開させながら飛ぶ速度を速める。だが銃弾はそれ以上の速度で追いつき、次の瞬間、脆いガラスを立て続けに割るごとく全ての魔法障壁を貫いて零式の背中に命中した。

「づっ……!!」

 二発の銃弾を喰らい、激痛が全身に迸る。零式にとって幸いだったのは、魔法障壁を複数展開させておいたことによってそれらがクッションになり、銃弾そのものの威力を削ぎ落とした事であろう。
 しかしそれを相手方が見逃す筈が無く、隙間から零式を集中狙いするように銃弾が放射されていく。無数の銃弾はご丁寧に、上下左右に迂回しながら零式から見て前方以外を埋め尽くす勢いで迫ってきていた。
 防御も回避も、間に合わない。
 零式はそう判断するとナグサと飛燕を前方に見えるキューブ目掛け、ぶん投げた。その反動で若干、後ろに引いてしまいながら。

「零式さん?!」
「馬鹿、そんなことしたらっ!!」

 投げられた二人が叫ぶものの、零式はこんな状況だというのに笑みを浮かべて飛燕に大声で伝えた。

「飛燕隊長! 後は任しましたぁっ!!」

 翼を背中から取り外し、二対の剣に変貌させた直後、縦横無尽に攻めてくる銃弾に彼は囲まれてしまった。

 零式は死を覚悟しながらも、もてる限りの魔力を剣に与えて振るう。銃弾を防ぐ為にがむしゃらに振るう。剣の力のおかげでか、翼を解除しても空中に立っていられる事だけが利点であるものの、それでも、辛い。
 頬が削れる、手が削れる、足が削れる、頭が削れる、身を抉る、視界が赤に染まる、体が追いつけなくなる。痛い、苦しい、泣きたい、でも止まらない、止めてくれない。

「終われ終われ終われええええええええええええええッッッ!!!!」

 全力で叫び声を上げる。剣を振るう。あぁ、それなのに雨は止まない。硬い鉄の雨は止まない。一体何時になったら終わるのか、分からない。
 死に物狂いで振るっても終わってくれない。我を忘れそうになるほど頑張ってるのに、雨は途切れない。あぁ、何時になったら終わってくれる!? 止まれ止まれ止まれ! 終わりやがれっ!!
 言葉にならない咆哮を上げて、零式は少ない可能性の中を生き残ろうと足掻く。だから気づくのに遅れてしまった。

 己の目の前に新たなる隙間が開き、三人目の否定の魔女一派――炎に包まれた橙色の球体を触覚にしており、全身に赤の紋様が描かれた橙色の子供と思われるカービィ――ホロがその姿を見せた事に。

 銃弾をある程度防ぎ、偶々正面に目を向けた時、零式はその存在に漸く気づけた。でも、でも、でも、 

「ばいばい」

 無情な一言と共に、零式の両手に一瞬炎が宿る。その熱さと痛みに零式は一瞬だけ動きを止めてしまい、そして、全身を鋼鉄の暴雨によって隅から隅まで削り取られた。

 後に残ったのは、主を失った二つの剣と僅かな肉塊のみ。それらは重力に従って遥か下へと落ちていった。

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Bパート「鷹の目」

 それは、本当にあっという間だった。
 さっきまでしっかりと手を握り、体温を感じていた相手が、瞬く間に塵となってしまった。一人の女性が操る能力と、不意を狙った小さな炎によって、原型が無くなるほどの塵へと変えられた。

「嘘、だろ……」

 あまりにも呆気なく、えげつない殺し方にナグサは口元を手で抑えながら青い顔で呟く。サザンクロスタウンで散々ダイダロス達による悪夢を見てきたとはいえど、こんな至近距離で、こんなあっという間に、終わらせられるところを見てはいなかった。
 体が震える。頭が白くなる。口が閉じなくなる。いや、落ち着け。止めろ。気をしっかり持て!!
 ナグサは己に言い聞かせ、手を放し、深呼吸して息を整える。まだ、いける。どうにか、できる筈だ。ここで倒れてたまるものか!
 しっかりと目を開かせ、ナグサは己を取り戻すとすぐさま隣にいる飛燕に声をかける。

「飛燕さん、大丈夫?」
「……微妙なところだね。でも大丈夫にならないといけなさそうだ」

 部下が無残に殺されて少なからずショックを受けていたものの、飛燕は気を引き締めながら答える。さすがは隊長格というべきか、この程度では揺らがなかった。
 そこにタイミングを見計らったように、二人の前にも隙間が開いてその中から一人の女がキューブの上に降り立つ。それは橙色のリボンをつけた深い森色の帽子を被り、眼鏡をかけた黄緑の体躯の知的印象を与える、拳銃を持った女――クウィンス。
 クウィンスは二人に対し、淡々とした口調で話しかける。

「お久しぶりです、ナグサ君、飛燕。気分はいかがですか?」
「……目の前で部下が殺されて最高だなんて思うカービィはいないよ」
「部下じゃなくても誰かが殺された光景見て楽しいと思うのは、変態だけだ」

 飛燕とナグサは互いに構えながら、低い声でクウィンスに返す。彼女はこの反応を予測していたのか「そうですか」と呟き、銃を持ち直しながら言葉を続ける。

「私個人の意見を言えばナグサ君とは殺し合いたくありません。トレヴィーニ様もナグサ君を主人公と見ておりますし、物語完遂の為にも生きてもらわなければなりません。ですがそれを喰ってしまう存在はいりませんし、私個人としても殺したい存在はいます」
「……それは誰だ?」
「前者に関しては主人公とヒロイン以外。後者に関しては……あなたですよ、飛燕」

 淡々と落ち着いた口調で告げた後、クウィンスは飛燕に照準を合わせ、目を細めながら言った。

「濡れ衣着せて追い詰めておいて、恨まれてないだなんて思ってるんですか?」
「そっちこそ、部下を殺しておいてただで済むって思ってるの?」

 飛燕は人当たりが良くて、だけどどう見ても本心からじゃない微笑を浮かべて言い返す。
 間に挟まれたナグサは二人の間に酷い吹雪があるのを感じながらも、まずい状況になっている事にどうするべきかと考える。何せクウィンス側は大国の恨みと否定の魔女への忠誠、飛燕側は大国側としての使命だけでなくたった今殺されてしまった副隊長の件により憎しみを抱いているのだから。
 一筋縄ではいかないのは理解していたが、予想していた以上にきつそうだ。
 内心ナグサが呟いてる中、飛燕はクウィンスから目線を背けないままナグサに告げてきた。

「ナグサ君、僕はこれからクウィンスを本気で潰しにかかる。救いたいのなら、一人でしてほしい。――零式の敵討ちだ」

 その言葉を聞いたナグサがハッと顔を上げた。直後、二人が動いた。
 クウィンスが近距離で発砲するものの飛燕は正面から喰らった筈なのに、どういうわけか銃弾は彼をすり抜けて空間の向こうへと飛んでいっただけに終わる。
 直後、何時の間にかクウィンスの背後に回っていた飛燕が彼女の背中を両手でつかむと勢い良く大地を蹴って、勢いのままに空中から一気に大地へと共に叩きつける「ニンジャ」の技である「いずな落とし」を喰らわせた。この時ナグサは飛燕の頬が「on!」になっていたのを見逃さなかった。
 衝撃である程度吹き飛んだクウィンスはダメージが大きいのか、中々立ち上がれない。飛燕はそこを見逃さず、己の頬の刺繍を更に輝かせていく。
 するとクウィンスはうめき声を上げ、口を空いた手で抑える。すると彼女は唾や胃液を嘔吐し続け、虚ろな目をしながら発狂したような声を上げ始めていく。
 その光景に何故かニコニコ笑いながらも、懐からナイフを取り出す飛燕に対してナグサはドン引きしながら尋ねる。

「な、何やった……?」
「ん? 口からゴキブリ、ムカデ、ケムシ大量発生って幻覚をぶちこんでやっただけだけど?」
「うっげええええ!! ななななななんちゅうもんぶちこんでるんだ、あんたは!!」

 一般的に気持ち悪い、不気味、近寄りたくない害虫による凄まじい悪夢の幻覚を平気で見せ付けている飛燕にナグサは更にドン引きしながら叫んだ。
 そりゃクウィンスもあぁなるわけだ。自分だってあんなの喰らったら、苦しむ以外の選択肢が見えない。
 新たなるサディストの攻撃を喰らっている彼女にナグサが心底同情しているその時、唐突に二人とクウィンスの間に橙色の文字が宿った炎の壁が出現した。
 咄嗟に距離をとるものの、奇怪な炎の出現に二人は正体を察して警戒する。クウィンスはこんな力を持っていない事ぐらい二人とも知っているし、先ほどモザイクとは異なる炎は目にしているから特に驚きはしない。
 驚いたのは寧ろ、炎の壁の向こうから連続した発砲音と共に打ち出された十を超えた銃弾が間髪入れずに発砲されてきた事の方だ。
 ナグサは咄嗟に飛燕のフードをつかんで後方に引っ込ませると、代わりに己が前に出ると口を大きく開いて全ての銃弾を吸い込むと「シャボン」が消えて、代わりにナグサの手に拳銃が出現する。また彼の眼鏡のフレームが細長いものに変わった。
 攻撃を防ぎきられたと判断したのか、炎の壁が引っ込む。その際に姿を見せたクウィンスはしゃきっとした様子で立っており、さっきまで苦しんでいた様子は微塵も見せていなかった。
 眼鏡のズレを軽く直しながら、クウィンスは武器の変わったナグサに言う。

「コピー能力、ですか。まさか個人の能力をコピーされる時が来るとは思いませんでした」
「……今、この時だけは神の祝福に感謝を送ってるよ」
「トレヴィーニ様に対抗する存在なのですから、それは特別に許しましょう。ですが何故庇ったのですか? 私はナグサ君を殺す気なんてありませんのに」
「そういう特別扱いを受け入れられるほど卑怯者じゃないって事さ」
「そうですか」

 ナグサの言葉にクウィンスは短く返す。瞬間、ナグサの持っていた拳銃が彼の手から弾き飛ばされた。あまりの早業にナグサは反応できず、ただ遅れてやってきた手の痺れと共に目の前のスナイパーを凝視する事しかできなかった。

「だったら無理矢理にでも下がらせます。私はあなたを殺したくありませんので、半殺し程度に抑えますが」

 全く変わらない様子で告げた言葉は嘘偽りが無く、本気なのが伝わってくる。だからこそナグサは理解してしまう。彼女の言動が全く変わっていない、けれどもその内側にあるものは完全に狂ってしまっている、と。
 どうしてこうなってしまった。どうして否定の魔女に心を許し、彼女の下で戦う道を選んだ。……いや、十年前の真実を知った今なら彼女がその道を選んでしまった理由を察する事ぐらいできる。それを知った上でここにいるのではないか、何を恐れるんだ。
 ナグサは少し躊躇したものの、本来の目的を思い返して一歩前に踏み出す。その際、拳銃を己の手に出現させながら。
 その時、クウィンスは唐突に拳銃を高く上げて発砲した。真っ直ぐ飛んでいくと思われた銃弾は途中で大きくUターンし、クウィンスの真横に飛来した。何も無い空間から、割れた刺々しい刃ばかりがついたチャクラムが落ちる。
 いきなりのそれにナグサが驚く一方、クウィンスは飛燕に目線だけ向けて言う。

「幻術と記憶術と魔法のトッピング……ですか。相変わらず、えげつない」
「それを一瞬で看破する君も君だけどね」

 苦笑しながら飛燕はやれやれといった様子で返す。そんな彼に対し、クウィンスは小さくため息をつく。

「二度も同じ手段でやられるほど、私は弱くありませんよ。それともこの程度で私が潰せると本気で思っていたのですか?」
「魔弾の射手をこれで潰せたら楽だなーって思った程度だよ」

 かつての二つ名を口にしながら、飛燕はクスリと笑う。
 するとフードの先端全てが淡い光に包まれ、ふわりふわりと宙に浮かぶ。彼の周囲が湾曲していく。それは彼が見せる幻術という能力からなのか、それとも魔法というものなのか、どちらなのかは計り知れない。

「でも生き延びてくれてよかったよ。零式の痛みを味合わせる為にも、ね」

 温和な顔の裏に潜む、計り知れないほどの黒を纏って飛燕は冷たく言い切った。
 氷のような無表情を貼り付けたままのクウィンスは何も言わず、拳銃を飛燕に向けた。

「クウィンス、飛燕さん……!」

 間に挟まれる形となったナグサが二人を交互に見ながら名を呼ぶものの、二人とも何も答えない。
 どんどん最悪の方向に進んでいく戦況の最中、ナグサは唇を噛み締める。
 甘かった。己の見解が甘すぎた。助け出すと決めていた筈なのに、それ以上に二人の相手を憎しみ合う思いが強くて圧倒されてしまう。揺るぎない意思だからこそ、頃合が分からない。言葉が見つからない。どうするべきか分からない。「主人公」という立ち位置に落とされてしまったせいか、無自覚に思い上がってしまっていた。なんという大馬鹿者だ。
 己の不甲斐無さに自虐しながらも、ナグサは拳銃を握り締める。

 その時、唐突に目の前が真っ暗になった。

「!?」

 何も見えない。何も聞こえない。何も匂わない。ただただ、暗闇の中に放り込まれてしまった感覚。ためしに自分の体をペタペタ触ってみたところ、それだけは微妙に別れた。
 これは一体何だ。いきなり何が起きた。感覚を遮断された? もしくはそういう風にされてしまっている?
 そこまで考えてナグサは誰がこんな事をしたのか察する。それと同時に奇妙な浮遊感と共に、足場が不安定になってこけた。尻餅をつきながらも、何が起きたのか周囲を触って確かめようとするが何も感じない。
 しかし何かを触れているという感覚が残っている為、手当たり次第上下左右を触って理解する。己は宙に浮かべるタイプの球体の中に閉じ込められてしまったのだと。

「おいおいおいおい……! ここまでやるかぁ!?」

 ナグサは益々最悪の事態になっていく事に焦りを感じ、声を上げる。
 己の感覚を遮断し、球体の中に閉じ込めた存在――飛燕の行動に鬱憤を感じながら。


 己等の頭上、ふわふわと浮かぶ半透明の球体の中でナグサが何かを口にしているものの二人には聞こえない。それに答えてもナグサの感覚が遮断されている為、ムダだから。
 クウィンスは飛燕の気遣いに対し、感謝を述べる。

「感謝します、飛燕」
「トレヴィーニの逆鱗をムダに触れるつもりは無いからね」

 飛燕はさらりと返す。それを合図にしたのか、二人は一歩前に踏み出す。

 記憶と幻惑の操り人と魔弾の射手が、ぶつかり合う。





次回「炎の悪魔の願い」













  • 最終更新:2014-06-15 18:29:50