第五十四話「真実と覚悟」


 ■ □ ■

 真実を受け止める覚悟があるというのならば、勝利してみせよ。

 知識の魔女ヴァルアス・ラリーアの言葉が合図となり、六人VS二人と六体の影の戦いが始まった。
 まず先手必勝と言わんばかりに一同の一番近くにいるシャドウスーラが両手を広げ、己の能力を発動させる。
 すると一同はそれぞれバラバラに泡で閉じ込められてしまう。ご丁寧にナースの掌の中にいたちるも小さな泡に閉じ込められている。泡は独りでにふわふわと動き出し、徐々にだがバラバラにされていく。
 しかし完全にバラバラにされる前にケイトが己の能力を発動させた。

「空來凛守! 対象:全ての泡。変更:水素と酸素!!」

 すると泡は跡形もなく消滅していき、六人は解放された。それぞれやや距離はあるものの駆け寄れない位置では無い。
 しかしホッとしている余裕も無く、北西にいるシャドウミルエが二丁拳銃でダム・Kとちる目掛けて連続発砲し、南にいるシャドウマリネがバーニングでクレモトを燃やしながら突き飛ばす。
 ダム・Kは咄嗟に己とちるの前に暗黒の穴を出現させ、銃弾を飲み込ませて防ぎきる。
 しかしバーニングをまともに喰らったクレモトはなすすべなくシャドウミルエの方に燃えながら転がっていってしまう。
 ダム・Kが咄嗟に駆け寄ろうとするものの、ハンマーを取り出したシャドウマリネに殴られてしまい、ダメージを負ってしまってフラついてしまう。
 シャドウマリネはそこに迎撃を加えようとするが、背後からナースによって巨大注射器を刺されてしまい、そのまま毒を注射されてしまって倒れこむ。
 その間にケイトがクナイを五つほど取り出してシャドウミルエ目掛けて投げるものの、彼女は二丁拳銃の一方からアイスを宿した銃弾でクナイを撃ち、凍りつかせてその場に落としていく。その間、彼女は己の下に転がってきた火達磨のクレモトの尻尾を右足で踏みつけ、もう一方の拳銃で彼に狙いを定める。
 しかしクレモトは咄嗟に尻尾を動かして彼女の右足に巻きつかせると素早く立ち上がり、その勢いで彼女のバランスを崩させて地面に勢い良くぶつけさせる。
 そして爪を更に鋭く長く伸ばした両手を大きく振るい、二つの拳銃をバラバラに切り裂く。その勢いでクレモトの身を包んでいた炎が吹き飛んでいく。その身は若干火傷を負っているものの大事無かった。
 クレモトは内心ホッとしながら、何時もの口調で倒れているシャドウミルエに爪を突きつけながら言う。

「あの膜、炎耐性もつけてくれるから助かったよ。さて、それじゃ影遊びでもしようか!」

 その言葉を聞いたシャドウミルエが右手に拳銃を出現させ、至近距離からクレモトに発砲する。クレモトは爪で軽く切り裂いた後、再び尻尾を振り回して彼女をシャドウセツめがけて放り投げる。
 シャドウセツは飛んできたシャドウミルエに驚く事無く、飛んできた方向に雪の壁を作って彼女を優しく受け止める。
 その様子にクレモトとナースが一瞬目線を向いてしまう。その隙をシャドウスーラは見逃さず、二人を泡の中に閉じ込めると魔法で勢いのある風を出してシャドウセツ側へと飛ばしていく。
 それに気づいたダム・Kがシャドウスーラ目掛けて己の身に生えた黄色の葉を次々飛ばして彼女の身を切りつけて攻撃し、妨害させる。喰らったシャドウスーラはたまらず魔法と能力を止めてしまい、身をふらつかせる。
 そこに小さかった故狙われていなかったちるが衝撃波を使って彼女を転ばせる。それに続いてダム・Kがシャドウスーラに駆け寄り、何時の間にか出した看板で勢いをつけて叩いて壁側目掛けて吹き飛ばす。
 それを見たちるは思わずびっくりして声を上げる。

「それ、武器だったんですかー!?」
『気にしたら負け! それより追い討ちかけるよ!!』

 ダム・Kは看板でそう答えた後、ちるをわしづかみにしてシャドウスーラの方へと走りこむ。
 その一方、北東側のシャドウチャ=ワンが駆け寄ってきて間髪入れずにシルティ目掛けて切りかかる。シルティは大剣の刃で受け止めた後、すぐさま彼を押し返して距離をとる。
 そこにケイトがシャドウチャ=ワン目掛けてクナイを投げ、彼が手に持っていた刀を落としてから接近し、彼の顔面に蹴りをぶちこんで吹き飛ばす。
 シャドウチャ=ワンが吹き飛んでいく中、その左右をラミーロとローミラがくぐりぬけていき、息の合ったパンチを同時にケイトにかましてシルティ目掛けて吹き飛ばす。
 シルティは飛んできたケイトを片手でキャッチしてから降ろすと翼を羽ばたかせ、己に接近してくるラミーロとローミラに近づいて切りかかる。
 二人は咄嗟に避けた後、素早く左右に別れてシルティの翼をそれぞれ持つと同時にその場からジャンプする。そして空中で同時に回転しながら勢いをつけ、中央の魔法陣へと陥没させる勢いで背中から叩きつける。
 その衝撃と痛みに耐え切れず、シルティは軽く吐血してしまう。

「ぐがっ!!」
「ふふ、私達を舐めないことだね! 何たって二人は使い魔なんだもーん!」

 ラミーロが得意げに自慢した直後、北西の方向から明るい緑の葉が無数に飛んできてシルティを飲み込み、その葉は鋭い刃となって彼の全身を傷つけていく。――己の場所で待機しているシャドウウェザーの攻撃だ。
 その様子に対してラミーロとローミラは振り向かず、後をシャドウ二名に任せてその場から飛び立とうとした矢先、シルティを埋め尽くす葉が暗黒に飲み込まれて消滅する。
 ラミーロとローミラが思わずその場に残って立っている全身傷だらけのシルティを凝視する。そこにすかさずシルティは剣を大きく振るって漆黒の衝撃波を出しながら叫ぶ。

「暗黒を舐めるなッ!!」

 その声に圧倒されてしまい、ラミーロとローミラは動けなかった為に衝撃波をまともに喰らって軽く吹き飛ばされてしまう。
 シルティは後追いせず、素早く方向転換しながら剣を背後に振るって、何時の間にか後ろに回っていたシャドウチャ=ワンの攻撃をギリギリ防いだ。
 そこにシャドウウェザーによる葉の刃が群れを伴って左右と上方からシルティへと襲い掛かってくるものの、シルティは暗黒の穴を複数展開させて全て防ぎきる。
 そのまま流れるように大剣の空いている隙間に暗黒を宿し、そこから飲み込んだ葉の刃を凄まじい勢いで吐き出させてシャドウチャ=ワンへと猛攻する。
 それを見たシャドウウェザーは咄嗟に葉の刃の群れを消滅させてシャドウチャ=ワンを救出する。シャドウチャ=ワンはというと、咄嗟に頭の茶碗を少し大きくさせて己の身をすっぽり覆わせていたから無傷である。
 だがシルティはそれでも攻撃を止めず、茶碗の中に隠れているのも無視してシャドウチャ=ワンへと暗黒を宿した大剣で切りかかっていく。
 その様子に対し、漸く起き上がったラミーロとローミラが救出に向かおうとする。だが動こうとした矢先、足も翼もその場に縫いつかれたかのように硬直してしまう。
 一体何事だと二人が困惑している中、背後から影縫いで二人を硬直させた張本人のケイトが話しかける。

「君達の翼、ここで切り落としてあげるよ!」

 その直後、ラミーロの右翼とローミラの左翼の付け根にそれぞれクナイが突き刺され、酷い激痛が二人の体を駆ける。
 ラミーロが大きな悲鳴を上げ、ローミラが顔を酷く歪めるけれど、ケイトは無視して二つのクナイを突き刺したまま上下に動かして確実に切り落とそうとする。少しずつ少しずつ両者の羽は体から切られていき、その度に二人は苦痛の表情を見せる。
 その時、毒を食らって倒れこんでいたシャドウマリネが勢い良く立ち上がると驚くほどの速さでケイトの背後に詰め寄り、彼の頭目掛けてストーンで叩き潰そうとする。
 ケイトは寸前で横に転がって直撃を避けた後、素早く立ち上がってシャドウマリネを見据えながらちょっと複雑な表情をしながらも強い口調で話しかける。

「あぁ、そうだったね。君はどういう時でも女の子の味方だったね、マリネ!!」

 シャドウマリネは何も答えず、ストーンから元に戻るとカッターを出現させてケイト目掛けて飛ばしていく。
 ケイトはそれをジャンプして避け、着地する時に片手を床につけて空來凛守を発動させる。するとシャドウマリネとラミーロとローミラの足元の地面が勢い良く波立ち、彼等のバランスを崩す。
 そこをケイトは見逃さず、忍び故の素早さでシャドウマリネとの距離を一気につめると彼の顔面に拳を叩き込んだ。
 シャドウマリネはその衝撃でフラつきながらも、すぐに踏ん張るとケイトが距離をとるよりも早く次々にカッターで切って切って切りまくり、最終的には大きな一撃を上から下へと落下するかのようにぶちかます。
 まともに喰らったケイトは最後の一撃で倒れこみそうになりながらも、両足でしっかり立ってシャドウマリネに狙いを定める。
 相手は攻撃させないと言わんばかりにケイト目掛けてバーニングを叩き込もうとするが、ケイトが咄嗟に発動した空來凛守によって生成された壁に正面から激突してしまう。
 ケイトは激突した瞬間を狙い、空來凛守を発動させて壁の正面から無数の棘を出してシャドウマリネを串刺しにする。
 シャドウマリネはその攻撃に耐え切れず、泡のように弾けて消滅してしまう。
 その弾ける音を聞いたケイトは内心複雑ではあったものの別人だと自分に言い聞かせながら、己が影縫いで縛り続けているラミーロとローミラに体を向ける。

「……さぁ、苦しみの時間を再び与えよう……!」

 その決意に満ちた顔は、とってもサディスティックでした。
 その声を聞いた二人が戦慄するものの、そこに上空からヴァルアスの声が届く。

『すまんな。ちょっと酷いからラミーロとローミラに援護させてもらう』

 するとラミーロとローミラの体が光に包まれていく。突き刺さっていたクナイは消滅し、彼女等が受けていた傷も全回復していく。
 その様子を見て、ケイトは驚愕と軽いショックで目を見開くもののすぐに顔を引き締めて挑発する。

「良いよ、何回でもかかっておいで! その方が苛めがいがある!!」
「何回も……同じ目にはかからないよ!!」

 その言葉を聞いたラミーロが言い返すと同時に二人は振り返り、ケイト目掛けて殴りかかる。
 戦いはまだ、始まったばかりだ。

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 クレモトとナースを閉じ込めていた泡が割れると同時に、シャドウセツは二つの氷柱を出現させてそれぞれ二人目掛けて発射する。
 その攻撃に対してクレモトは両手の爪で切り裂き、ナースは巨大注射器で粉砕して防ぎきってから着地する。氷柱もまたバラバラになって、床へと落ちていく。
 そこで雪の壁から素早く動いたシャドウミルエが両手の二丁拳銃で二人に狙いを定め、連射する。
 クレモトとナースはすぐさま左右に避けて銃弾を回避し、シャドウセツ側に避けたクレモトはそのままの勢いで相手の顔面目掛けて切りかかってくる。
 シャドウセツはその攻撃をまともに受けてフラつくものの、半分雪で出来ているかそれほど堪えていない。
 それどころかクレモトが攻撃を終わらせた直後に素早く手を伸ばして、相手の右手から生えた爪をつかんで冷気で凍らせにかかってきた。
 クレモトがすぐさま爪を引っ込ませようとするが、シャドウセツによる冷気攻撃の方が格段と早く爪どころか右手そのものが凍っていってしまう。
 さすがにやばいと判断し、クレモトは左手から爪を伸ばしてシャドウセツの右目を勢い良く貫いて相手の攻撃を無理矢理止めると、すぐに左手の爪で凍った右手の爪を切り刻んでから軽く跳躍して距離をとる。
 右目を貫かれて苦しむシャドウセツを見て、クレモトは苦虫を噛んだような表情で呟く。

「僕も運が悪い……!」

 猫の動物型である自分と雪の融合型である相手とは相性が悪い。元々猫という存在は寒さに弱く、冬になると大抵が暖かいところで丸くなっているのが基本だ。自分の体もその部分は嬉しくない事に猫と同じなのだ。
 更に自分は接近戦が主であり、突然変異能力も自分には使えないのは証明済みだ。一方で相手のシャドウセツは雪と氷を自在に操り、接近戦も遠距離戦も得意としている強敵だ。勝てる確立は――低い。
 それに右手を凍らされている為、勝てる確立は益々下がっている。相手の右目を潰せたとはいえど、それだけでどうにかなるような相手ではない。
 ならばどうにかできるように突破しなければならない。幸い、相手の弱点は一目瞭然なのだから。
 シャドウセツがよろりと立ち上がり始めたのを確認しながら、クレモトは通信装置を起動させてZeOに話しかける。

「ZeO君、転送装置は使えるかな?」
『やってはみるけど、あまり期待しないでよ。ご注文の品は何?』
「炎タイプのコピーの元」

 クレモトが注文を早口で言って通信を切った直後、シャドウセツが不気味に輝く左目でクレモトを睨みつけてきた。するとクレモトの真下から大きく鋭い氷柱が出現する。
 咄嗟に身を捻らせて避けるものの、氷柱から生えてきた氷の棘が己目掛けて飛んでくる。すぐに左手の爪で切り刻もうとした寸前、己の凍った右手に無数の鋭い棘が刺さって貫く痛みが走り抜けた。
 その激痛に耐え切れず、クレモトが一瞬動きを止めてしまう。それを狙うように氷の棘は彼目掛けて一直線に飛んでくる。クレモトは痛みに堪えながらすぐさま身を反らすものの避けきれなかった為、左頬を大きく削られて裂傷してしまう。
 新たな傷に表情を歪ませながらも、凍った右手を確認する。すると右手を包む氷の内側には無数の棘が生えていて、右手を真紅に染めていた。
 それを見たクレモトはシャドウセツが一体何を行ったのか察する。

「こ、氷なら何でもいけるって……反則でしょ……!」

 カービィ族がいかに様々な能力を持っているとはいえど、彼が氷と認識した氷ならば操れるなんて酷すぎる。
 だがそんなクレモトの文句も知らないと言わんばかりにシャドウセツは地面を凍らせながら滑って体力の減っているクレモトの方に接近し、彼の左手をつかむと勢い良く南西方向へと投げつけた。
 投げられたクレモトは受身の態勢に入ろうとしたその時、己の真後ろから強い勢いの水の音が耳に入ってきた。一体何だと思って、振り向くと――そこには大木と勘違いしそうなぐらい太く強い水流があった。
 その中に見覚えのある黄色い物体と小さな物体が見えたものの、すぐにクレモト自身も飲み込まれてしまった。そのまま水流はシャドウセツ目掛けて向かっていくが、彼は怯む様子も無く能力を発動させる。
 すると極太の水流は唐突として凍りつき、勢い良く地面に落ちた。その震動は広間全体に広がっていき、離れて戦闘を行っていた数名が思わず振り向いて驚愕するほどだった。
 しかしシャドウ達はそんな事一切気にせず、戦闘を続けるのみ。
 ターゲットの内、クレモトを倒したシャドウセツ、ダム・Kとちるの迎撃を返り討ちにしたシャドウスーラは一番近くにいるナースに向かって移動していく。
 シャドウミルエの銃撃を避けるので精一杯ながらもナースは新手二体に気づき、顔を歪ませる。

「ったく、あいつ等何やってんだか……!!」

 愚痴るものの、彼等は待ってはくれない。
 ナースの注意がシャドウセツとシャドウスーラに向いた一瞬を狙い、シャドウミルエが彼女の体目掛けて発砲する。
 ナースはすぐさま巨大注射器を銃弾の前に出して、直撃を防ぐとすぐさま駆け出す。狙いは己目掛けて走ってくるシャドウセツだ。
 シャドウセツはそれに怯む事無く、滑る速さを上げて勢いをつけると跳躍してナース目掛けて回転しながら蹴りをぶちかまそうとする。
 咄嗟にナースはその場に立ち止まると右手を軽く引くと、シャドウセツの足が来た瞬間を狙って思い切り前に出して無理矢理パワーで押し勝って吹き飛ばした。
 吹っ飛ぶシャドウセツに対し、ナースはすぐさま走り出して跳び蹴りを連続で繰り出して追撃を与える。
 まともに喰らってしまったシャドウセツは更に吹き飛び、漸く追いついたシャドウスーラと衝突して共に転倒してしまう。
 ナースはその場に着地するとシャドウミルエの方に向き、両手をぼきぼきと鳴らしながら言い切った。

「ドン・ファミリーはねぇ、能力が何であっても強いのがお決まりなのよ!」

 その勇ましい姿を見ても、シャドウミルエは全く動じずに拳銃を向ける。が、ナースは素早く巨大注射器を出現させると彼女目掛けてぶん投げた。
 シャドウミルエは怯む事無く発砲して、巨大注射器を割り砕いて直撃を防ぐ。欠片が辺りに散らばっていくものの彼女は気にせず、その先にいるナースに銃口を向ける。
 だが向けた先にナースの姿が見当たらなかった。
 何処に行った、とシャドウミルエが考えようとしたその時、己の真上から落下してくるナースが彼女の頭に重い拳をぶち込んだ。
 その一撃にシャドウミルエが耐え切れずにふらつき、倒れそうになる。ナースはすかさず彼女の前に着地すると相手の帽子をつかみ、そのまま顔面目掛けて力を込めて拳を叩き込んだ。
 シャドウミルエはまともに喰らってしまい、顔面が凹んでしまう。するとシャドウマリネ同様泡のように弾けて、消滅してしまう。それを見たナースは半分関心、半分呆れた様子で呟く。

「お嬢の姿とはいえど、何もかもが本人と一緒じゃないみたいね。お嬢だったら避けるか、発砲してたわよ」

 その時、数本の氷柱がナース目掛けて飛んでくる。ナースは素早く体を動かし、全て叩き落としてから氷柱の飛んできた方向を見る。
 そこにいたのは予想通りシャドウセツだ。その後ろではシャドウスーラが呪文を唱える体勢に入っている。
 ナースが再び構えながら動き出そうとしたその時、凍った水流が突如として崩壊した。
 誰かが崩壊した事に反応するよりも早く、凍った水流の中から炎の長い鞭がシャドウセツ目掛けて飛んでいき、彼を雁字搦めにするとそのまま何度も何度も地面に叩きつけ始める。
 ナースがそちらに目を向けると、崩壊した水流から炎の鞭を持ったまま出てくるクレモトの姿があった。その後ろには寒さのあまり体を震わせるダム・Kとちるもいる。
 クレモトは炎の鞭を見て、一見何時もの笑顔だが内心安心したように言う。

「大成功。ちょっと危険なギャンブルだったけど、これは良い収穫になってくれたよ」

 彼がそう言うと共に炎が強くなっていきながら締め付けていき、シャドウセツの体を溶かしていく。
 少々酷い光景ではあるもののダム・Kは寒さの方に負けて、出来る限りクレモトの持つ炎の鞭に近づいて暖を取っている。その一方、ダム・Kの頭の上に乗っているちるが炎の鞭を見て不思議がる。

「あの、でもどうやってそんな能力を? これ、ファイアのコピーの元でしたよね?」
「僕の能力でコピーの元を変異させた。能力を引きずり出す程度だからパワーアップ程度にしか考えてなかったんだけど、まさかコピーの元だとここまで多様性が増えるとは思わなかったよ」
「……ナグサ君並の運の良さですね」
「いや、これは多分ダム・Kの悪運が発動した結果じゃないのかな? 彼、何だかんだ言って土壇場になると運、高くなるから」

 ちるはその言葉を聞いて納得した。ダム・Kは土壇場になると確かに運が上がっていて、生き延びていた。マナ氏とか、ソラとか、ミラリムとか、クゥとか、凄い連中に遭遇してた。今回もそうだと考えると良く理解できる。
 その一方、クレモトが炎の鞭の威力を高める。もうほとんど溶けているシャドウセツに対抗する力など無く、ただされるがままだ。やがて泡のように弾けて消えてしまう。
 ナースはそれを見て、軽くガッツポーズしながらクレモトに話しかける。

「クレモト、グッジョブ! 良くやったわ!!」
「お生憎様、真実を知るまでは死ねないからね。それよりもこちら側、後一体だよ。早く終わらせよう」
「わーってるわよ。さて、守護担当のお力は……」

 ナースがそう言いながらシャドウスーラに体を向ける。
 同時にシャドウスーラの詠唱が終わり、ナースとクレモト達の周囲に複数の水で出来たカービィサイズのゴーレムが出現して彼等を取り囲む。
 その様子を見たナースは好戦的な笑みを浮かべ、クレモトは炎の鞭を持ち直しながら分析する。

「あら、これは本領発揮と見て宜しいみたいね」
「だね。融合型の魔法使い、その得意分野はゴーレム……か。相手に不足は無いって言えばいいかな、この場合」
「水は汚されると弱くなるし、汚くなればなるほど電撃にも弱くなる。物理攻撃に強いのがちょっと面倒だけど、この数だから体力そのものは低いわ。……一匹残らずぶっ潰すわよ!」

 ナースは意気揚々と叫びながら、巨大注射器を出現させて構える。
 クレモトはそれに答えた後、ダム・Kとちるに尋ねる。

「アイアイサー。ダム・K、ちるちゃん、いける?」
『……まだ震え残ってますけど、どーにか』
「が、頑張ります!!」
「そう。それなら、頑張って狩ろうか」

 二人の返事を聞いたクレモトは、見た目こそ優しそうな青年の姿でそう言った。ただしその目は獣そのものだった。

 その一方、ガキンガキンと刃同士のぶつかる音が中心部から響いてくる。
 シルティとシャドウチャ=ワンが互いの武器をぶつけあって戦っているのだ。時折シャドウウェザーによる援護があるものの、シルティはそれを暗黒の力で無効化して防いでいる為、さほど意味が無い。
 だから、これは実質的に大剣のシルティと刀のシャドウチャ=ワンの一対一の戦いなのである。
 シャドウチャ=ワンが刀を振って攻撃するものの、シルティは大剣の刃でそれを防ぎ、弾き飛ばす。
 相手はすぐに受身をとり、再びシルティ目掛けて駆けながら勢い良く一文字に刀を振るう。
 シルティはすかさず面の方を向けて防御するものの、相手の勢いが強くてやや押されてしまう。
 彼はそこを見逃さず、刀でシルティの持つ大剣の間から素早く相手の顔面を突く。シルティはあまりの速さに対応しきれず、一旦大剣を手放して後方に羽ばたいて避ける事しか出来なかった。
 シャドウチャ=ワンは重力によって落下する大剣の重さの衝撃に耐え切れず、思わずしゃがみこんでしまう。しかし大剣共々地についた刀は手放していなかった。
 その様を見て、シルティは感心する。

「……誇りか」

 国は滅びても、心は滅びていない。それを表した彼に拍手を送る。相手が本人ではなく、偽者の影だとしても。
 だが、戦闘ではそんな事関係ない。それにこの戦いは誇りの戦いではない。真実を得る為の戦いなのだ。
 それを証明するかのように、待機していたシャドウウェザーが無数の葉をシルティの周囲に出現させると彼が動くよりも早く、全身に纏わりつかせて動きを硬直させる。
 シルティは葉をどうにかしようと暗黒を発動させようと構えたその時、体勢を立て直したシャドウチャ=ワンが刀を両手で握り締めながら動けない己の下へと切りかかってくる。
 それを見たシルティはこちらの方が危険と咄嗟に判断して、シャドウチャ=ワンの足元に暗黒の穴を出現させて彼を奈落の底へと落下させるとすぐさま閉じた。
 少々自分に合わないやり方であるし、もう少し戦いたかったが仕方が無い。シルティは自分にそう言い聞かせると、暗黒の力を発動させて己の身についた葉を全て消滅させてからシャドウウェザーに顔を向ける。
 シャドウウェザーは怯む事無く、再び己の周囲に葉の吹雪を出現させながら攻撃態勢に入る。

「ごめん、落ちて」

 だけどシルティ、シャドウウェザーの足元にも暗黒の穴出現させて彼も奈落の底に落とした。落としてる最中、悲鳴が聞こえたけどすぐに穴を閉じたので気のせいだと判断した。
 そして己側の敵を排除するとシルティは翼を羽ばたかせ、大剣を拾ってからクレモト達の戦況へと向かっていく。
 その光景を見ていたヴァルアス・ラリーアはぼそりと呟いた。

『ある意味それもありか。……物語的にはどうかと思うが』

 自分にしか聞こえない小声だった為、それは下で戦う者達の誰にも届かなかった。

 止まらない。ラミーロとローミラが繰り出す猛ラッシュが、止まらない。
 ケイトは何度も空來凛守を使いながら防いだり、持ち前の素早さで避けたりしているけれど、相手の攻撃が止む事が無く、反撃の隙が見当たらなくて正直焦っていた。
 先ほどのシャドウマリネと違い、この二人は互いが支えあっての攻防が強い。どちらか片方を狙おうとすれば、もう一方がすかさず攻撃してくるし、そちらに意識を向けた途端に最初に狙ってた方が不意打ちしてくるから性質が悪い。
 どうにかして攻撃の隙を見つけなければ。他のメンバーはシャドウスーラの出した水のゴーレムに手をこまねいていてこちらに来れなさそうだし。
 そう考えた一瞬、隙を見せてしまったのかラミーロとローミラが同時に鉤爪のついた両足でケイトを踏み潰す勢いで蹴り飛ばした。
 ケイトはそれをまとに喰らってしまい、ゴロゴロと勢い良く転がっていく。ラミーロとローミラは追撃を与える為に、翼を羽ばたかせて接近する。
 近づいてくる二人に気づいたケイトは痛む体に鞭を打ち、素早く立ち上がると、二人の真正面に移動した。
 ラミーロとローミラがこれ幸いと殴りかかろうとした直前、ケイトはこう言った。

「……覚悟、してね?」

 彼の左目が包帯の下で不気味に輝き、二人をとらえた。
 その目を見てしまったラミーロとローミラは体が震え出し、その場に倒れてしまう。頭が真っ白になっていく。動けなくなっていく。目の先に見えた、言葉に出来ない恐ろしい何かによって、戦う事を封じられてしまう。
 ケイトはその姿を見て、勝ったと分析すると確実に動けなくする為にクナイを取り出す。
 その時、上空で水晶に包まれていたヴァルアスが大声を上げた。

『戦闘、そこまで! この勝負、汝等の勝ちとする!!』

 ヴァルアスの声に反応したのか、シャドウスーラは泡のように弾けて消える。連鎖するように水のゴーレム達もただの水となって、次々と床に落ちていく。
 突然戦闘を終わらされた六人が見上げる中、ヴァルアスは水晶を消してから中心部に降り立つ。
 ヴァルアスはケイトの前で倒れているラミーロとローミラに顔を向け、優しく話しかける。

「ラミーロ、ローミラ、良くやった。お前達の役目は終わった、今はゆっくり眠るがいい」
「あ、あり、がとう、ござ、います……」

 ラミーロが息を切らしながら礼を言い、その隣でローミラが合わせるように頷く。ヴァルアスはそれを見た後、二人に魔法をかけてこの場から消してあげる。
 そして六人の戦士と一人の魔女だけになった場で、魔女は戦士達を見渡しながら戦闘を終わらせた理由を簡単に話す。

「少々面倒な事になりそうなのでな。本当ならもう少し続けたかったんだが、予定変更だ。お前達の真実を得る為の覚悟は良く分かった、だから……とっとと真実を話す事にした」

 少年漫画的には認めていいかどうか分からない部分も多々あったけどな。
 内心ではそう思っているがヴァルアスはそれを口にせず、話を続けていく事に専念した。六人はこの状況に対し、黙って言葉を待っていた。
 ヴァルアスはそよ風のような優しい声色のまま、重々しく語り出す。

「我がこれから語るのは全て偽り無き真実。それを心に入れておけ。……まずは全ての前提について話そう」

 そこで一度区切りをつけた後、ヴァルアスは「真実」の一つを口にした。









「この世界は否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガンが生み出した箱庭の世界だ」









 彼等は、純白の花嫁の真の願いを知っていく。

 ■ □ ■
Cパート「真実と覚悟」

 いきなり与えられた驚愕の真実に、彼等は言葉が出なかった。
 この世界を生み出したのはこの世界を滅ぼそうとしている否定の魔女本人。そう言われて、誰が納得する? 誰が受け止められる?
 こればかりは予想していなかったのか、ケイトは呆然とヴァルアスの言葉を繰り返す。

「……トレヴィーニがこの世界を、創った?」
「そうだ。この不安定且つ無茶苦茶で秩序と混沌、両方が入り混じった世界は彼女が生み出した」
「何で……?」
「死ぬ為さ。彼女は美しすぎた、強すぎた、絶対的過ぎた、負ける事が無さ過ぎた。……彼女は勝ち続ける事に飽きてしまった、だんだんと魔女を終わらせたくなった。己という存在を滅ぼしたくなった。戦いだけに執着する事が出来なくなった」

 意味が分からない。何故、死ぬ為にこの世界を生み出した? いや、そもそもこの魔女の言葉は真実なのだろうか?
 だけど疑えない。ヴァルアスの言葉には何故か有無を言わさせない重みがある。これを真実だと思わせるほどの強さがある。だから、否応にも彼女の言葉は真実だと考えてしまう。
 ヴァルアスは言葉を続けていく。トレヴィーニがこの世界を生み出した理由についての説明を。

「だけど一々色んな世界を探し回って侵略して、己を殺せる相手を探すなんて面倒くさすぎるし、手間がかかる。だからトレヴィーニは思いついた。己がラスボスとなる世界を生み出し、その世界から生まれるであろう勇者達に自分を殺してもらおうと。己が望む最高の物語の形で、滅ぼしてもらおうとな」
「……ちょっと待ちなさい。それってこういう事? 否定の魔女が自殺したい為だけに、私達を生み出したってこと!?」
「正確にはこの世界だが……まぁ、その解釈で合ってるな」

 ナースがふざけるな、と言わんばかりに怒鳴りつけるもののヴァルアスは静かに肯定するのみ。
 その態度を見て、ナースは益々憤慨する。

「馬鹿言ってんじゃないわよ! 自殺したいんなら、一人で勝手にやりなさいよ!!」
「魔女は己の命を刈り取る事は出来ない。殺してもらう以外に命が消える事は無い。だから彼女はこの手段を選んだ。……まぁ、自殺できたとしてもあのロマンティストな彼女の事だ、この手段を選んでいたと思うが」

 ヴァルアスはナースの怒りなど気にせず、自分で自殺しない理由を話す。
 魔女は自分自身の命を奪えない。だから誰かに殺される以外の道は存在しない。
 あまりにも残酷であまりにも無理難題すぎるソレを聞いて、トレヴィーニに同情しかけたものの、それでも彼女が選んだ手段は決して良いとは思えなかった。
 その思いを抱えながらも、クレモトは問いかける。

「でもそう都合よく行くと、思ってたの?」
「トレヴィーニに滅ぼされるか、相打ちになるか、良くて封印程度のオチがほとんどだった。だから彼女はそうなる度に文明を一度リセットし、新たなる文明を生み出してやった」
「……文明を……?」
「そうだ。己に負けた文明と再び戦っても意味が無い。それならば新たなる文明を創ってやり、そこから生まれた存在と戦った方がマシだってな。この世界に明確な歴史が存在しないのはそれが理由だ。何せ文明が初期化されて再構築されていくのだから、判明させられるわけがない」

 新たなる無茶苦茶な真実を聞いて、彼等は愕然とする。
 そこまでやるのか。己が殺される為だけに、わざわざ世界を創りかえるというのか。何もかもをリセットするというのか。己が滅びる為だけに世界を無茶苦茶にするというのか!
 スケールが大きすぎるし、死ぬ為に力を使い続ける彼女の気が知れない。理解が出来ない。
 そう言いたげな六人の様子を見て、ヴァルアスは静かに呟く。

「死とは永遠の終末。輪廻の終点。物語の結末。魔女の解放。だからこそトレヴィーニは死が与えられるまで続けられるのさ」
「……何だか哀しいですね、それって」
「傍から見ればそうだろうな。でも彼女は最期に与えられる至福を望んでいるから、己を可哀想だとは思わない。だから何度でも何度でも続けられるのさ」

 永遠ともいえる輪廻の事を思い、切なそうに呟くちるに対してヴァルアスは流し目で答える。その脳裏に思い浮かべるのはもちろん気高きトレヴィーニの事のみだ。
 だがつき合わされているこちらからすればいい話では無いな、とクレモトは内心毒を吐きながらも顔には冷静さを宿してヴァルアスに再び尋ねる。

「繰り返したからって毎回毎回勇者が現れるわけじゃないでしょ?」
「彼女もそれほど馬鹿じゃないさ。だから何時も保険を用意していた。他世界から誘拐し、勇者という役割を与えられた存在という保険をな」
「!? ……それって、まさか希望の?」

 この世界に勇者という称号を持つ者。それは世界大戦時に現れ、否定の魔女の手によって否定された希望の勇者「架空 空」しか思い当たらなかった。
 こくりとヴァルアスは頷き、架空 空という存在についても説明する。

「その通り。希望の勇者……架空 空はトレヴィーニが用意した己を殺させる為の最後の保険。常に記憶を改ざんされ続け、自分がどういう存在だったのかさえも忘れてしまい、ただ使命に没頭する正義の勇者として創り出された魔女にとっての都合の良い存在。彼女が選んだ主人公が死んだ時の保険。……まぁ、その保険が使われる段階にまで行った事は皆無だったし、世界大戦時に馬鹿やらかして否定されてしまったがな。だが彼女を滅ぼす為に彼女に賛同している神々はそれを良しとせず、彼が存在していた時空と空間を出来る限り歪ませて、架空の勇者ソラを生み出した。その代償として否定の魔女と愛しい女と長年の相棒の事しか記憶に無かったがな。……だがそのような状態になってしまっても自分が人間だった事にも、この輪廻にも、自分の役割にも気づけないし、知っていない。当然さ、トレヴィーニが知る事も気づく事も否定してるのだから」

 その言葉を聞いて、背筋が凍るような悪寒が走った。
 否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガンの死と物語に対する執着と徹底さと狂気に震えが止まらない。
 己が死ぬ為ならば、一人の人間という存在の全てを歪ませ、勇者という名の人形に仕立て上げる徹底さと残酷さ。
 己が死ぬ為ならば、箱庭の世界を生み出して永遠に戦争を繰り返し、失敗したら何度でも何度でも何度でも蘇る執念。
 己が死ぬ為ならば、どれほど罪を重ねようとも構わない。その分積み重なっていくのならば本望。死をもって罰を与えてくれ。
 真実からつかみとれるそのメッセージに、誰もが畏怖を感じた。理解する事が出来ない狂気を超えたそれ、侵略者でも無い、快楽殺人者でもない、勝利主義の戦争狂でも無い、絶対不滅の魔王でも無い、ただただ死ぬ為に全力を注ぐ魔女の執念に――頭も心も理解を拒み、拒絶する事による畏怖しか感じることが出来なかった。
 純白の花嫁が持つ狂気に負けたのか、ダム・Kは震えながらその場に座り込み、線が歪んでしまいブレてしまったから大変読みにくい五文字が書かれた看板を出す事しかできなかった。

『くるってる』
「そりゃそうさ。そのずば抜けた狂気も彼女の魅力の一つなのだから」

 ヴァルアスは己が褒められたように上機嫌で言い切った。
 直後、今まで黙っていたシルティが大剣の切っ先を彼女の顔面に突きつけた。その刃は少しでも前に出すと彼女の顔面に突き刺さってしまうのは誰の目から見ても明らかだった。
 彼女が睨みつけると同時に、シルティは一言言い切った。

「黙れ」

 包帯で表情が分からないものの、声には確かに重い怒りを乗っていた。短い単語でありながらも、それは普通の者ならば怯ませる事は出来る強い口調であった。
 あれほどまで残酷な真実を知りながらもそこまで気高くあれるのかと感心しながら、ヴァルアスは特に怯む様子も無くただ純粋に疑問をこぼした。

「黙っても構わないが、ベールベェラの事を知らなくてもいいのか?」
「隊長?!」
『あんた、そこまで知ってるの!?』

 自隊の隊長の名前を出されてシルティは思わず剣を下げて驚きの声をあげ、ダム・Kも大きな目を丸くしながら看板で問いかける。
 ヴァルアスは当然だと言わんばかりにこう言った。

「我は全てを知れる者。その者と出会ったその瞬間、その者の全てを理解できる。そして、その者の知っている存在の全てさえも理解できる。それ故に私は全の賢者、知識の魔女と呼ばれている。だからソラ、ポチ、ベールベェラの行方も知っていて当然なのだ」
「……何度も思うけどさ、チート多すぎない?」
「魔女や神は皆チートさ。それ以外の連中にチートって認識があるのなら、この世界観で偶然そのチート能力を持って生まれた人物に文句を言ってくれ」
「あ、マナ様はちゃんとこの世界出身なんだ」
「箱庭世界の中で生まれ出る存在までは彼女でも把握できないよ。彼女に出来るのは土台を作り出し、種をまいて成長を促進させることであって面倒までは見切れないからな」

 ナースの軽いツッコミとちるのホッとした一言にまで律儀に答えるヴァルアス。中々几帳面なようだ。
 しかしシルティにとってはそんな事どうでもよく、大切な隊長がどこにいるのかの方が重要だ。

「どこにいる? 隊長はどこにいる!」
「そこまで話したらつまらなくなるから却下。ただ会える場所だけは伝えておこう、ここより北にあるレッドラムだ」
「……そこはスカイピアの侵攻で現在入れなくなってるんだけど、突破口があるのかい?」

 出発直前にニュースで見たクリスタル漬けのレッドラムを思い出しながら、クレモトは尋ねる。ヴァルアスは首を左右に振る。

「いいや、正確に言うと突破口はもうすぐ出来上がる。私の愛しい愛しい純白の花嫁が導いてくれる。あ、こっから先は禁則事項だ。話したら面白くなくなるからな」
「うん、その言葉で大体何が起こるか察する事が出来たからいいよ。ついでだから僕の質問にも答えてくれないかな?」
「世界大戦の真実か?」
「そうだよ。僕、アレでこっ酷い目にあったからね。……聞くよ、どうして世界大戦は起きてしまったんだい?」

 クレモトは目を細め、声を低くして真剣に尋ねた。
 彼がここまで来たのはかつて多くの命を散らし、無数の苦しみと憎しみを生んだ世界大戦の真実を探り当ててからそれを未来へと繋げていく為だ。確かに否定の魔女を滅ぼしたいとは思っているが、彼にとってこれも同じぐらい重要な事だ。
 だがヴァルアスはあっけらかんとした様子で、あまりにも認めがたい残酷でありえない否定してしまいたい真実を口にした。

「そりゃ“世界大戦の原因が否定の魔女だから皆で協力して否定の魔女を倒しましょう”っていう設定の世界になってたからに決まってるだろ」
「……え?」

 クレモトは、いいや、この場にいる全員は己の耳を疑った。
 目の前にいる知識の魔女は何と言った? 今、箱庭の世界と希望の勇者の誕生理由と同じぐらいかそれ以上に滅茶苦茶で支離滅裂で全く理解できない「真実」を口にしたのか?
 ありえない。ありえない。ありえない! 世界大戦前の記憶はみんな存在しているし、第一年代がつりあわないし、考えれば考えるほどその真実は決してありえるものではない!!
 だがヴァルアスはそれを打ち砕くようにゆっくりと浸透させるように語り出していく。

「だからさっきも言ったとおり、この世界は世界大戦が起こる事を前提として生み出された世界だ。だから起こる事は必然であったし、マナ氏が六年前にここでトレヴィーニの封印を解いた事も必然だ。……もっと言うと世界大戦直前こそがこの世界の真の始まり。それ以前は存在しなかった。お前等が存在していると互いに感じる記憶は世界が生み出した世界の力であって真の記憶ではない。何、どこにでもあるゲームと同じさ。クリエイターが過去があると設定すれば、全ての存在に過去が生み出される。それと同じ事だ」

 その言葉は何一つ嘘をついておらず、真実だとただ一直線に貫かせるものだった。
 けれどもそれはあまりにも酷すぎた。地獄だった。間接的に否定されてしまったも同然だった。
 全ては否定の魔女トレヴィーニが創作した世界。創作した生命。創作した勇者。創作した物語。全てが全て、彼女がたった一人で生み出したあまりにも信じる事が出来ない荒唐無稽の真実。
 だけどもヴァルアスの言葉は真実だと言っていた。彼女の表情は何一つ曇っていなかった。ただ真実をしっかりと伝えていた。それが余計に重く重く伝わり、六人の心にのしかかってくる。
 ちるは体を震わせて信じられないと呟き、ダム・Kは頭を抱えてふるふると横に振り、クレモトは想像していなかった結末に絶句し、シルティは口元を苦々しい表情にしてヴァルアスから顔をそらし、ケイトはただ黙って俯いたままだった。その中で唯一ナースは声を振り絞って、怒鳴った。

「……ふざけんじゃないわよ! 何よそれ、私達の存在を全否定してるようなもんじゃないの!! 全部全部全部トレヴィーニが死ぬ為のお遊戯に用意されたっていうの!?」
「そうだ。彼女は死ぬ為に、神々は彼女を殺す為に、この箱庭世界を生み出した。中には己の記憶を改ざんして参加者に混じった神もいるがな。言っておくがこいつも禁則事項にしている。あまりにも多すぎるネタバレは妬みを買うからな」

 しかしヴァルアスはそれが虚勢だと見破り、その上でただ冷静に答えた。その姿はあまりにも冷たくて、残酷で、余計に心を傷つけてくれる。
 ナースは返す言葉が出てこず、ただ苦虫を噛んだ表情でヴァルアスを睨みつける。握り締める拳からは血が滲み出ていた。
 彼女はそれを無視すると、この漆黒の空気の中であえて尋ねようとする。

「さてと、そろそろこちらから尋ねたいんだが……構わないか?」
「一つ、質問するよ」

 そこで今まで黙っていたケイトが口を開いた。ヴァルアスは不満も何も言わず、ケイトに目を向ける。
 彼はゆっくりと顔を上げ、こう尋ねた。

「この世界の命は、トレヴィーニにとってどうでもいいものなのか?」

 彼の顔は怒っているようにも、泣いているようにも、憎んでいるようにも、恨んでいるようにも、どうとでも取れた。
 しかしヴァルアスはその全てを無視して、ただ尋ねられた質問に石に例えて答えるだけだった。

「……彼女にとって価値があるのは無数の石の中に生まれた少数の宝石だけだ。だからその推測は間違っていない。それに物語を進める為には脇役やモブの死は必然だろう?」

 脇役やモブの死。その言葉を聞いたケイトは頭が動くよりも早く、ヴァルアスへとクナイで切りかかろうとしていた。
 ヴァルアスは己の目の前にバリアーを張って攻撃を防ぎ、ケイトが一歩引いたのを確認してから再び話しかける。

「一応自分を護る程度の力はあるんでな。……私を憎むな、憎むのならばトレヴィーニを憎め。それこそが彼女の望みだ」
「……全て彼女の掌の上だと思うと、それさえも苦痛に感じるよ」

 心底憎いと言わんばかりに睨みつけるケイト。それだけでも十分人を殺せてしまうぐらいの冷たさを宿している。
 だがヴァルアスはそれ以上に冷たい顔で、ただ淡々と話を続けるだけだ。

「無知だったら良かったと言いたいのか? 真実を望んだのはお前等だぞ? ……トレヴィーニの願いを叶えられるのは、真実を知った上で戦える覚悟を持った者だと私は推測している。だから」
「乗り越えろっていうのかい? ……ふざけるな!! みんながみんな、強い者ばかりじゃないんだ。魔女の描く幻想の存在なんているわけがないんだ。その幻想を求める為に、人を勝手に主人公とか脇役とかモブとか決め付けるな。お前達が脇役とかモブとか決め付けた人達は、そうなりたくて死んだわけじゃないんだぞ!!」

 ケイトの脳裏に蘇る複数の死者。
 肉塊と化した父、目の前で殺された母、ダイダロスと化した今と昔で親しくした多くの人々、トレヴィーニとキング・ダイダロスによって非常にも引き裂かれ、命を散らしたマリネとアクス。
 彼等は自分にとって脇役でもモブでもない。ただ、大切な人。だけど魔女にとってはそんなものどうでもよくて、ただのエキストラにすぎなくて、それが余計に腹が立つ。そう言った目の前の魔女が憎くてたまらない。
 だけど目の前にいる魔女はそれはお門違いだと言わんばかりに、ただ冷静に宥めてくるだけだ。

「知っている。だが我に何をしろと? 傷つけたのはトレヴィーニだ。殺すべきはトレヴィーニだ。真実を教えた者をここで殺しても、何の意味は無いぞ。世界大戦で生き残り、この二回目の物語で漸く主要人物になれただけの小童よ」
「トレヴィーニに協力しているだけで、あなたは敵だ」
「どちらかというとお前等に協力しているのだがなぁ……。まぁ、あながち間違ってはいないか」

 キッパリ言い切ったケイトにヴァルアスはちょっと不満そうに呟くもののあっさり認めると、己の右手を前に出す。するとその掌の上に八つの雫が集って出来た尾羽のドラグーンパーツを出現させた。
 それを見た一同は思わず一斉にヴァルアスを凝視する。彼女は悪びれる様子も無く、普通にこう言った。

「時間が無くなってきたんでもう渡してしまおう。お前達の真実を知る為に戦う覚悟は認めたし、真実もキチンと教えたからな。これを渡せば私の役目はとりあえず終わりだ」

 どうやらこの人、こういう仕事は前置きなんて全く気にせずとっとと済ませるタイプのようだ。
 先ほどの展開と違ってどこか釈然とせず、ケイトは受け取るのを躊躇するがシルティが戦闘よりも素早くドラグーンパーツを受け取っていった。
 「そんなにもレッドラムに行きたいのか」と内心ナースがツッコミを入れ、クレモトは「とりあえず目的達成完了したから他のメンバーの回収に行かなきゃならないなぁ」と考えた。
 その一方、とりあえず軽くなってきた空気にダム・Kとちるは漸くホッと一息をつき、この際だからとさっきから気になっていた事を尋ねた。

『時間って、何の時間? &ミラリム戻して』
「そういえばさっきから時間気にしてましたね」
「んーと、リヴァイアサンが食われて爆発するまでの時間」

 さらっと言った爆弾発言にダム・K以外の五人は一斉に「ハァ!?」と声を上げた。





 次回「過去のスカイピア」




  • 最終更新:2014-06-15 18:17:24