第五十二話「子供達の戦い」

 ■ □ ■

 南通路側。シルティが剣を向けて言い切った直後、灰色の天使――エージェは勢い良く右目を閉じ、左目をめいいっぱい開かせる。するとうすぼんやりとした灯は急激に輝きを増し、明るすぎるあまり視力が耐え切れず、咄嗟に目を瞑ってしまう。特に一番大きな目玉を持っているダム・Kは両手で抑えながら悶え苦しんでいる。今にも「目が、目があああ!」って叫びそうだ。口無いけど。
 その隙にもう一方の天使――空樹 翼が己の大きな羽を羽ばたかせ、すぐさま一番正面にいるシルティ目掛けて突撃しながら剣を上から振り下ろす。
 シルティは咄嗟に大剣を上げ、攻撃を防ぐ。
 翼が防がれた事に驚く中、シルティは平然と呟く。

「視界攻撃良し。突撃良し。けれど相手を間違えた」

 大剣の間に暗黒が宿り、そこから四つの触手が生えると翼の両羽に絡みついてギリギリと締め付ける。次に別の二本が新たに生え、彼が持つ剣をつかみとるとそのまま力のままに壁へと放り投げる。
 それを反射的に目で追いかけた翼は声を上げる。

「しまった!?」
「余所見している暇は無い。判断ミスが祟った」
「ひぐぅ!!」

 シルティはそう言うと彼の翼を更に締め付け、左右に引っ張る。その痛みに耐え切れず、翼は情けない悲鳴を上げてしまう。
 しかしシルティはそんなもの気にせず、剣を軽く振り下ろして触手に絡みついた翼を床へと叩き落とす。その反動による痛みから翼がまた悲鳴を上げるものの、暗黒の触手はどんどん増えていって彼の全身を縛り上げて床に縫い付けていく。
 その様子に気づいたエージェが咄嗟に魔法で救出しようと口を開こうとする。
 それに気づいた紫薔薇が床を蹴ってエージェの目の前まで跳んでいくとその手に紫水晶で出来た剣を出現させて正面から切りかかる。
 幸いにも刃は無かったが、鋭い鈍器を当てられてエージェの顔面に大きく浅い傷が出来てしまい、その大きな痛みに表情を苦痛で歪ませてしまう。
 紫薔薇はその隙を見逃さず、剣を持っていない手を前に出して魔法陣を出現させる。すると魔法陣から紫の水晶が複数飛び出し、エージェの両羽に突き刺さって水晶で侵食していく。彼の羽が完全なる水晶となると同時にエージェは床に落ちる。紫薔薇もまた床に着地する。
 エージェが這い蹲った状態で紫薔薇を睨みつけるものの、紫薔薇は見下した状態でこう言った。

『天使如きが魔法の鏡に勝てると思わないで』

 そう言って紫薔薇が相手に背中を見せる。同時に紫水晶がエージェ体の方にも侵食し、口元以外の全てがあっという間に包み込まれてしまった。
 これにより、戦闘は終了した。
 その光景を眺めていたダム・Kは絶句した表情で看板を立て、クレモトは少々呆れ気味に呟く。

『よ、弱ぇぇぇぇ!!』
「スカイピアの兵隊って強かった記録があったんだけど……それ以前の問題だね、これ」
『……こんなに呆気なく終わったの、初めてです』

 戦闘自体はほぼ一瞬でカタがついた為、警戒していたのが何か馬鹿らしく感じてきた。
 戦闘がすぐに終わった理由は複数ある。一つは両者共にシルティと相性が悪かった事だろう。暗黒系統はただでさえ強く、包帯を顔に巻いているシルティには目晦ましが通用しないからだ。それに紫薔薇状態のミラリムもいた為、エージェの援護も間に合わずにあっさり潰された。
 しかし何よりも大きいのはレベル差であろう。先ほどの戦闘では見て分かる通り、ほぼ一撃で戦闘が終わってしまっていた。これが同等のレベルならばもう少し頑張れる筈だ。
 何でこんなのが出てきたんだろうか?
 三人が首を傾げる中、シルティは一人勝手に通信機を起動させてZeOに連絡する。

「向こう側はどうなっている?」
『あー、そっちと同時に決着ついてるよ。黒臼が煩かったけど、ナースがどついて気絶させた』
「……幼女天使?」
『そっ。幼女天使二体が敵だったんだよ。といってもケイトの影縫いで即捕縛完了したけどね。あまりにもあっさりしすぎてて、逆に何か変な技持ってるんじゃないかって用心してた』
「で、結論は?」
『あきれ返るほど雑魚。正直出てきた意味を感じないね』
「……了解。自分達はこれから次の塔に向かう」

 ZeOにそう言って通信を切った後、シルティは暗黒を宿したままの大剣を持ったまま次の塔へと歩いていく。それに従って全身を暗黒の触手でがんじがらめにされた翼が引きずられていく。
 そんな彼に対し、思わず三人はそのまま眺めていたものの途中で振り返られた。ダム・Kのみびくっと反応する中、シルティは一言こう言った。

「天使持って早く行く」

 再び前方に体を向け、子供の天使を引きずりながらシルティは進んでいく。何が言いたいのか察した紫薔薇は鏡をエージェの目の前に出現させ、彼を鏡の中に引きずりこんでから後を追いかける。その後をクレモトが歩いてついていき、最後に慌ててダム・Kが追いかける。
 その時、ダム・Kはシルティに気づかれないようにこっそり小さな看板を出した。

『えげつねぇ……』

 しかし看板と文字のあまりの小ささに誰も気づかなかった。というか出す意味が無かった。

 ■ □ ■

 東通路側のメンバーのケイト、ちる、ナース+気絶した黒臼は南通路チームより一足速く次の塔(全体図から言って北東の塔に位置する)に到着していた。もちろんケイトが捕縛してロープでぐるぐる巻きにしたゆう、シルクの二人も連れてだ。
 中のつくりはほとんど最初の南東の塔と同じで壁に沿った螺旋階段があるものの、置かれているのは本ではなく中央にある大きな机と複数の椅子。そして無造作に転がっている大きなタルぐらいだ。
 ナースは黒臼を適当に放り投げてから手近の椅子に座り、辺りを見渡す。

「最初のところとほぼ同じ作りみたいね」
「タルばっか置かれてますけど中には一体何があるんでしょう?」
「食料かその辺りじゃないの? ……八百年前の代物で、尚且つ海底の中にほったらかしにされてたからもう存在しないでしょうけど」
「あっても食べれそうにありませんね……」

 ちるはそんな会話をかわしながら、机の上に飛び降りる。
 ケイトの方は机のすぐ横にゆうとシルクを座らせた後、彼女達の正面に立って尋ねるのだが。

「さてと、ゆうちゃんにシルクちゃんだったかな? 色々と聞きたい事があるんだけど……」
「アレについてだったら絶対に話さないわよ! ったくこんな拘束無かったらあんたなんか一発で倒せるんだから!!」

 本題に入る前にゆうが強い口調でキッパリと言い切った。しかしその声には若干の怯えもあり、ただの強がりだって事は誰もが看破できてしまった。
 その証拠に隣にいるシルクも押しが弱い口調であるものの、彼女を宥める。

「ゆ、ゆうちゃん挑発したら駄目だよ。あたし達、元は民間人だよ……?」
「民間人は戦えないって決まりは無いわ。それにあたし達だってスカイピアの天使、地上の民に屈したらそれこそおしまいよ」

 しかしゆうはそう言って強気な態度を崩そうとしない。シルクはそんな彼女にどう言えばいいのか不安そうな顔で悩んでいる。
 その様子を見て、ケイトは手を組みながらため息をつく。

「うーん、さすがに子供相手に酷い目を合わせたくないな……。やったら誤解されそうだし」
「というか最初から何か勘違いしてたわよね。アレがどうたらこうたらって」
「アレって何なんでしょう?」

 話を聞いていたナースがあっさり終わった戦闘の事を思い出して呟き、ちるもそのことに首を傾げる。
 その件に関してはケイトも気になっていたところだ。恐らく、というかどう考えてもリビィに尋問という名目で何かを行ったラルゴが原因なのは分かるけれど、何がどうして彼らの言うアレに繋がったのかは分からない。
 そんな中、復活した黒臼が起き上がって三人に話しかける。

「気になって質問しても怯えさせるだけだよー? それがとっても怖いもんなら尚更ね」
「それは私でも分かるわよ。はぁ、ドン・ファミリー時代だったらノリ気でやれたんだけどねぇ……」

 ため息をつくナースの言葉を耳にし、黒臼がその場から勢い良く飛び上がって驚き、着地の際に慌てて彼に詰め寄ってくる。

「はぁぁぁぁぁ!? ドン・ファミリーって、レッドラムのドン?! あんた、ナースじゃなくてヤクザだったの!?」
「元よ、元。今は皆の癒しの天使だから安心なさい」

 ナースは片手を左右に振りながら、パチッとウインクして返す。黒臼は途端に吐き気を感じたが、どうにか最悪の事態は堪えた。彼女達の前でそんな事をするのは許されない事である。
 そんな中、話を聞いていたゆうがあからさまに顔を歪めてナースを馬鹿にする。

「あんた、馬鹿? 羽生やしてないじゃない奴が天使なんて名乗らないでよ」
「あ、これはモノの例えよ。……ってかさ、ちょっと質問していい? あなた、天使と悪魔のハーフじゃないの?」

 ナースはゆうの翼を指差して尋ねる。左の羽こそ白い鳥の典型的な天使のものであるが、右の羽は禍々しい蝙蝠の形をした典型的な悪魔のものである。頭に生えた触角もあって、彼女はどちらかというと悪魔に近い見た目をしている。天使と示せるのは左の羽と触覚についた輪、そして体色ぐらいであろう。
 言った後に更に怒るんじゃないかと考えてしまうが、ゆうは意外にも驚く事無く普通に答えた。

「正確には両方のクォーターよ。それでも私は天使だけどね」
「どうしてよ?」
「天使の条件は簡単。羽を持っていて、穢れ無き魂を持っている者の事だから。あなた達みたいに欲望に満ち、己の事しか頭に無いからこそ滅びの道を歩んだ地上の民とは違うのよ」
「俺は世界中の幼女の事を考えてるよ!」
「ツッコミどころが違う!」

 ゆうの説明を聞いて黒臼が真剣にアホな事を口にするもののナースが即座に頭をどつく。
 口を開いても大丈夫だと判断したのか、シルクが続けてその理由について説明する。

「結構アバウトなんです、その辺。ジスさんやスカル=ホーンさん、コクハさんとかミゼラブルさんとかも変わった羽を持っていますが兵団の中でも凄い強いんですよ」
「……天使であろうともカービィならば何でもありなのは変わらないってわけね」

 話を聞いていたケイトが苦笑しながら呟く。
 科学的にも魔法的にもほとんど解読できないカービィ族は何でもありであるというのが一般常識となっており、無茶苦茶な能力の存在について最早誰も気にしていない。その影響でか、個人の違いに対しても慣用的でそういった差別はあまり起きていない。起きるとすれば、性格上の不一致程度だろう。だから天使の判断基準が酷くアバウトなのも納得できる。
 ふとそこで、ちるが疑問に思ったのかこんな事を呟いた。

「なら、どうして彼等が出てこないんですか?」

 それは単純に「強い人が出てくればこんな事にはならなかったんじゃないか」っていう考えに過ぎなかった。
 だけど、その言葉を突きつけられた天使の二人の表情は一気に暗くなって俯いてしまう。それを見た黒臼が驚きのあまり、奇声を上げながらも大慌てで二人に駆け寄って大丈夫かと答える。

「のぅわあああああああ!!!!??? ちょ、二人ともどうしたの!? 大丈夫!? お腹痛いの?! 苦しいんなら俺に言って! お兄さんが何でもしてあげるから!!」
「やかましい! どう考えてもそういう反応じゃないわよ、アホ!」

 すぐさまナースが怒鳴りつける中、ケイトは少し考えた後に一つの可能性にたどり着いたのか眉をひそめて呟く。

「……まさか、いない?」
「そうよ。誰一人、大人はいないわ」

 それを聞き取ったゆうが顔を俯かせたまま、答える。それに続き、同じく顔を俯かせたままのシルクがぽつりぽつり話していく。

「目覚めた時から、一つになった時から、この六年間ずっと皆で探した。だけど、どこにもいない。誰も起きてない。王様も大臣も兵団も『神の為の剣』もお父さんもお母さんもみんな、みんな、いなかった」

 その口調はあまりにも暗く、悲しく、辛く、震えていた。
 二人の少女の顔に涙が落ちる。静かな空間の中、床に涙が落ちる。だけども、彼女達はそれでも顔を上げる。

「「ここにいるのは、子供だけ」」

 涙で顔が汚れようとも、みっともなくても、それでも己の中にある今の誇りを奮い立たせて、キッと四人を強く睨みつけながら、ゆうは強い思いをぶつけるように叫ぶ。シルクは強い思いを静かに口にする。

「だから、あたし達が出てきてるのよ! もう二度と死なない為に!!」
「私達は苦しみたくないの……。ただ皆で生きたいだけなの……。それなのに、インヴェルトが復活したから、あなた達はアレを発動させようとする。だから、私達が止めるの」

 直後シルクの尻尾が輝き、同時にゆうとシルクの二人の真下にシルクの尻尾と同じ紋様の魔法陣が出現する。
 それを見たケイトとナースが咄嗟に己の武器を出現させて彼女達の前に移動する中、魔力を貯めながらもちるは根本的なすれ違いの原因を問う。

「だからアレって何ですか!?」
「言うわけ無いじゃない! 言ったら、あの時の二の舞になる!!」

 ゆうが力強く拒絶すると同時に、魔法陣が回転しながら紫色に輝く。すると二人を拘束していたロープが散り散りとなり、彼女達は翼を大きく広げて空中に浮かび上がる。その際、魔法陣もまた消滅して同時にシルクの尻尾も輝きを失せる。
 それを見たケイトはすぐさま相手の能力を察する。

「純粋に自他共のパワーを上げる能力か、彼女。……これって特異型、かな?」
「細かい事なんて誰も気にしないわよ。まっ、向こうも操りきれてないみたいだし、一気にやらせてもらうわよ」
「構わないよ。さっきは影縫いの一撃で終わったけど、今度はちょっと面倒そうだから」

 注射器の先端を天使達に向けながら、ナースはケイトに返答する。ケイトは頷き、その手に持った複数のクナイを何時でも投げられる体制に調節している。
 ゆうが触覚の先端から槍を出現させてつかみとり、シルクが尻尾の先端を巨大化させながら、戦意を高めている。
 再び起こる戦闘に対し、三人が行動を始めようとした矢先、黒臼が一同の前に出て静止する。

「おーっと、ここは俺に任せてくんないかな? とりあえずあんたは拘束解いてくんない?」
「……どういうつもりだい?」
「何、ロリが他の奴等に傷つけられるのを阻止したいだけさ。……だから、俺がこの二人をどうにかするってわーけ」

 そう言いながら黒臼はその手にバットを出現させ、クルクル回転させながら天使達を見上げる。
 その言葉を聞いて、天使達がほくそ笑む。一対二ならば余裕と判断したのだろう。そんな彼女達を他所に、ナースは眉をしかめながら黒臼に尋ねる。

「あんた、戦えるの?」
「世界大戦の生き残りだからあるに決まってんだろ。ほら、早くどっか行った行った!」
「そういう意味じゃないわよ」

 黒臼は先ほどの戦いでもあからさまなロリである二人と戦うのを嫌がっていた為、ここで残してもどうにかなるとは思えない。だからナースは彼の言葉に賛成できなかった。
 しかしケイトはそうではなく、ナースの手をつかんでその場からジャンプして机の上に乗っかると己の能力を発動させる。

「空來凛守! 対象:僕等の真下の床。変更:地下への大穴!!」

 そう叫んだ直後、ケイトとナースとちるの乗った机の真下に大穴が出現し、三人は机諸共奈落の底へと落ちていく。
 天使達が気づいて追いかけようとするものの、すぐさま穴は閉じられて元の平らな床へと変わる。黒臼はその上に移動した後、二人を見上げたまま誘いかける。

「おいで、二人とも。俺に、全てをぶつけてこい」

 その様子は正しく子供に優しく話しかける保護者そのもの。だけど、子供の天使達からすればそれはあまりにも偽善者染みていて、心が憎悪に満ちていくのを感じた。

「……っざけんなぁ!!」

 ゆうが叫ぶと同時に、二人の天使は同時に黒臼へと襲い掛かる。

 ■ □ ■

 そこは、龍の体内というにはあまりにも、あまりにも、切なすぎた。

「……何これ」

 絵龍は絶句した。己が今いる場所そのものに。
 あの時、自分はラルゴに一発拳をかました直後にリヴァイアサンの襲撃を喰らって瓦礫ごと奴に食われた筈。それなのに、ここは本当に龍の体内なのだろうか?
 上も下も右も左も、何もかもが少しずつゆらめく今にも消えてしまいそうな淡い輝きを放つので精一杯なカービィよりもずっと小さい光ばかりが集まっていて、生命特有のグロテスクな生々しさは何一つ感じさせない。感じさせるのは不気味さから来る恐怖と刹那さと孤独さだけだ。触っても暖かいのか冷たいのか分からない、ただ心に何かが伝わってくる。
 あたりを見渡すと少し離れた前方にラルゴがいる。彼の正面には、半透明の天使がいた。大きな羽飾りのついた緑色の帽子を被り、足の付け根から翼を生やした水色の子供だ。リビィと比べると彼の方が二、三歳年上だろう。
 天使は両手を広げ、龍の体内を紹介しながら二人に話しかける。

「これが羽をもがれた僕等の末路だよ。こんなところまでわざわざやってきた酔狂な地上人さん」
「いやいや、飲み込まれただけだから! ってかここ何?!」
「何って……ボク等の体内だよ。君達には龍の体内って言った方が分かりやすいかな?」

 絵龍がほぼ反射的にツッコミしながら、その勢いのままに尋ねると子供の天使はあっさり答えた。
 その答えに対し、絵龍は目を丸くした。今、この天使……自分達の体内って言わなかったか? おい、ちょっと待て。ここが本当に龍の体内なら……。
 唖然とする絵龍を無視し、子供の天使は礼儀正しくお辞儀をしながら名乗る。

「始めまして、ボクはスカイピア王国第二王位継承者ルヴィ。この龍を形成する一人であり、君達に対する代表者さ」
「……なるほど。リヴァイアサンはそういう存在か」

 ルヴィの不可解な自己紹介に対し、ラルゴは察する事が出来たのか一人納得している。絵龍は話についていけず、大慌てで二人の下に駆け寄って問い詰める。

「ちょ、何を勝手に納得してるんすか! ってか意味わかんねーんすけど!?」
「……いや、この状況下ならすぐ察せられると思うんだが?」
「誰もが自分と同じに考えちゃ駄目だよ、外道お兄さん。あ、お姉さんはリビィを助けてくれてありがとね」

 呆れ気味のラルゴの呟きを聞き取り、ルヴィは軽く注意してから絵龍にお礼を言う。そのままルヴィは彼女からの返事を待たず、この龍がどういうものか説明する。

「この龍は平たく言ってしまえば、スカイピアの死者が集まって出来上がった怨念そのもの。ただしみんなの意思は残っているし、分離も可能だったりするけどね。外道お兄さんが察したのもこれでしょう?」
「あぁ。リヴァイアサンの言動と体内、そしてあのガキの事も加えれば答えに導き出すのは容易い。原因はドラグーンパーツか?」
「ドラグーンパーツ……?」
「……シルクハットとマントをつけ、趣味の悪い杖を持った白いカービィが六年前に海底神殿、お前達の言うスカイピアに隠した代物だ」
「あぁ、そのお兄さんなら目覚めてすぐ戦う羽目になったよ。どうにか追い返したけど、あんな痛みはもう二度とごめんだよ」

 特徴を言われて当時の事を思い出したらしく、ルヴィは苦笑しながら答える。ただしその表情は苦笑というよりも引きつった笑みに近いらしく、微妙に龍を形成している光達も震えているように見えた。
 マナ氏このドラゴン相手にどんな手使ったんだよ、と絵龍は思ったもののトレヴィーニと一対一で互角の戦いを演じた化け物だった事を思い出したので深く考えるのをやめた。
 ラルゴはその話自体に興味は無いらしく、再びドラグーンパーツについて尋ねる。

「それで? パーツの方は知っているのか?」
「うーん、地下の方から凄い力の代物があるのはずーっと昔から感じてるんだけど……」
「おっし! 間違いなくドラグーンパーツっすね!」

 絵龍がガッツポーズして喜ぶも束の間、ルヴィは前に出して右手を左右に振って否定する。

「いや、二つあるんだけど?」
「へ?」
「だから、凄い力二種類あるって言ってるの」
「……はあああああ!!?」

 絵龍はとんでもない情報を耳にして、驚きの声を上げた。
 てっきりドラグーンパーツのみが隠されているんだと思っていたのだが、まさかここで同じ程度の力が存在するとは思っていなかった。リヴァイアサンさえ突破できれば、サザンクロスタウンよりも楽に攻略できるかもしれないと考えていたのだがどうもそうは行きそうに無いようだ。
 さすがにこれはラルゴも予想していなかったが、冷静さを崩さずにルヴィに詳細を尋ねている。

「片方はドラグーンパーツで間違いないだろう。だがもう一方が気になるな、それまではさすがに分からんか?」
「分からないね。見た事も無いし、二つとも同じ場所でジッとしてる」
「スカイピアの道具って可能性は無いんすか?」
「無いね。場所的に嫌な思い出があるところだけど、あそこは色々仕組みしないと発動しないからし、そういうものがあっても邪魔にしかならないさ。そのこと知らない四人が先走って中に行っちゃったのには呆れたけど」
「はぁ!?」

 ルヴィの呆れた呟きを聞き、絵龍の声が裏返った。
 彼の言葉をそのまま翻訳してしまうと海底神殿内部にいる他の仲間の下に、天使が四人も襲撃していった事になる。人数こそこちらの方が上であるものの、相手の強さが分からない以上どうにも判断できない。スカイピアの兵力については移動中、クレモトから簡単に教えてもらっているからこちらに劣らず強いのも知っている。
 そんな絵龍の不安を読み取ったのか、ルヴィは呆れた様子のまま言った。

「大丈夫だよ。この龍にいないのはね、スカイピアの兵隊さんばっかなんだから」
「え? えーと、それってつまり……」
「『神の為の剣<エデル>』はもちろん、一般兵さえいないって事。オマケに付け足すとこの龍を形成してるのはね、子供ばっか。君達の兵数はリビィを通して知ってるから断言できるよ。君達のお仲間は大丈夫だってね」

 その言葉を聞いて、ラルゴと絵龍は大丈夫の理由を察した。兵隊がいないということは、今分断されたメンバーの相手は……弱小。
 大国防衛隊の中にも子供はいるといえど、彼等はキッチリ訓練を受けさせられているし、自分達の能力の良し悪しについても把握していて、その穴を埋める為に他の技術を学ぶ事だってしている。
 しかしそれ以外の子供は無力といっても過言では無いだろう。よっぽどの例外が無い限り、誰が戦闘訓練なんて行う? 普通は行わないに決まっている。
 だからルヴィの言葉を解読すると、襲撃した四人の天使は弱いという事になる。
 ホッとするものの新たに出てくる疑問を思わず呟く絵龍。

「な、何で子供ばっかなんすか……」
「大人と子供の違いなんじゃないの? 大人は己の宗教に没頭できる。けれど子供はそれに没頭できるほど、完成できていなかった。それだけのことさ」
「……それ、スカイピアの住民が言う台詞っすか?」
「みんながみんな、自分達こそ絶対なる存在って信じてるわけじゃないよ」

 絵龍の言葉にルヴィが何処か冷めた様子で答える。どうやら彼自身はスカイピアに対しての考え方が違うようだ。だから、こんなに話してくれているのだろう。
 この様子なら色々と教えてくれそうだと絵龍が安心した様子で考える隣、ラルゴは根本的な箇所を問う。

「……ところで、貴様等は俺達をどうするつもりだ?」
「決まってるじゃないか。……あなた達をここで殺す為さ」

 ルヴィは目を細めながら言い切った。その言葉に絵龍が驚きの声を上げるものの、ラルゴはそれを無視して黙って魔力を貯めていく。
 羽を羽ばたかせて空中に浮かび上がると、ルヴィはその手にオカリナを出現させて二人を見下ろしながら冷たい口調で言い放つ。

「手段に関しては選ばせてあげる。深海の中に放り出されるか、僕等の中に吸収されるか、ここで肉の塊となるか……」

 それに合わせて、龍の体内を形成する光達も色取り取りに輝いていく。いくつかの光が抜け出て、亡霊のようにふわふわと浮き上がりながら三人の周りを囲んでいく。
 その様子に絵龍がびっくりして飛び跳ねるものの、ラルゴは至って冷静に尋ねる。

「げ、幻光虫?!」
「……大方察する事はできるが、念の為に尋ねておく。どうして殺そうとする?」
「どうしてかって? 簡単だよ。僕達は二度も死にたくないから殺される前に殺すまでの事。……君達はアレについて一握りの可能性だといっても知ってしまっている。だから、また殺される可能性もあるんだ」

 そう答えるルヴィの表情はひどく重たく、子供がもつものとは思えない真剣なもの。
 アレとは一対何か分からないけれど、彼の口ぶりからすると良いものではない。それどころか真逆のものしか思い浮かぶ事はできない。だからこんな行動に移しているのだろう。
 そこまで考えた後、ラルゴは足元に魔法陣を出没させて右手をルヴィに向けながら何時もと変わらない淡々とした声のまま言った。

「それなら、こちらも全力で行かせてもらおうか」

 その言葉を聞いてルヴィが顔をしかめ、絵龍が咄嗟にラルゴに顔を向ける。
 直後、ラルゴは詠唱を唱え、魔法陣を赤色に輝かせながら魔法を発動させた。

「貴様を貫く魔の力は炎。その怒りをあらわにし、我の前にいる愚者どもを吹き飛ばすが良い!」

 するとルヴィと彼等の周りに浮かび上がっていた複数の光を包み込むように一斉に爆発が起き、ラルゴと絵龍の視界を爆発によって生じた光と煙が遮る。
 眩さに思わず目を瞑ってしまうものの、すぐに目を開けて絵龍はラルゴに叫ぶように尋ねる。

「え!? ちょ、戦闘するんすか!?」
「向こうは俺達を殺すつもりだ。先ほどのガキと違って、面倒な状況下にあるんだ。……ここで邪魔するような馬鹿はしないよな?」
「……良心が痛むっすけど、さすがに空気は読むっすよ」
「それなら良い」

 絵龍が答えながら戦闘態勢に入ったのを見て、ラルゴは煙が晴れ出した正面に目を向ける。
 煙の消えた空中、光の大半が消えていたもののその中心にいるルヴィはオカリナを吹く体勢の状態で無傷だ。その姿だけ見れば小さな演奏家だろうが、その瞳は二人を射殺さんばかりに睨みつけていた。
 そのままルヴィはオカリナからメロディを奏で、ラルゴと絵龍の周りにいる光達の形をカービィサイズの甲冑の騎士に変貌させて襲い掛からせる。
 絵龍は咄嗟にコピー能力のトルネイドを発動させて、襲い掛かってきた騎士達を壁へと吹き飛ばす。トルネイドが止んだ直後、ラルゴは己の正面に複数の小さな魔法陣を展開させて炎、水、雷の力を宿した弾幕をそこから発射していく。
 ルヴィは再びオカリナを奏でて己の周辺全体にシールドを張って、弾幕を防ぎきる。弾幕が消えるのを見計らっていたのか、地の役割をしていた光が唐突に揺れ動き、一部が触手となってラルゴと絵龍の足を捕縛する。
 ぐるりぐるりと絡み付いてくる触手に対し、絵龍は嫌そうな顔をして声を上げる。

「げっ! ちょ、触手プレイは勘弁してほしいっす!!」
「捕縛を貫く魔の力は雷。我等の拘束、汝の力によって断ち切る!」

 一方でラルゴは素早く詠唱を唱え、己と絵龍の足を縛り付ける触手に雷を走らせて黒焦げの塵にさせる。しかし触手は再び現れ、またも拘束しようと近づいてくる。
 ラルゴは咄嗟に絵龍の後ろ髪をつかんで羽ばたき、空中に避難する。絵龍が痛いとわめいているが無視だ。
 それを見たルヴィは再びオカリナを奏でようとするものの、ラルゴがすぐさま呪文を唱えてルヴィの真上から雷を落として阻止する。
 雷を食らった衝撃でルヴィは怯み、オカリナを手放してしまう。
 ラルゴはその隙を逃さず、再び魔法を発動させようと己の正面に逆三角形型の魔法陣を展開させる。
 だがそれを阻止するかのように上から光り輝く触手が伸びていき、ラルゴと絵龍の二人を包み込む。触手はそのまま二人を包み込んだまま天井へと戻り、ごくりと飲み込んだ。
 その様子を眺めた後、ルヴィは地に降り立ってオカリナを拾いながら言う。

「ご愁傷様」

 その際、彼の顔は勝利を確信した笑みが浮かばれていた。
 ブルーブルー担当チームがリヴァイアサンと呼んでいるこの龍はスカイピアの亡霊が寄せ集まって出来た魔物。それ故に彼等は己に害を成す者が出現した際、皆が協力して滅ぼしにかかる。それは体内にいても同じであり、相手をより素早く消す為に己の中に取り込んでやっただけのこと。消化には時間がかかるけれど、抜け出す手段なんて連中には存在しないから心配する事でもない。
 自分だけを敵として見ていた彼等は馬鹿だと思いながら、ルヴィは己も皆の下に戻ろうと体を光に包ませたその時だった。

『感謝するぞ、ルヴィ王子殿下』

 どこからともなく、あの紫色の男の声が聞こえてきたのは。
 反射的に二人を飲み込んだ位置の天井を見上げる。直後、逆三角形型の赤・青・黄色の三色が常に変わり続けている魔法陣が回転しながら出現する。それは回りながらも徐々に巨大化し、その下の光達もまた同色に輝かされている。
 その光景にルヴィが呆気にとられる中、リヴァイアサンに取り込まれた筈のラルゴは言葉を続けていく。

『魂は精神、精神は魔力。それ故に、魔法使いにとっては良いエネルギータンクだ。その中に放り込んでくれれば、俺の能力も魔力も格段と上がるわけだ』

 声が続くのに比例しているのか、魔法陣は壁や床にも出現していき、ルヴィが見渡す限りほとんどの場所を埋め尽くしていく。
 消化されるには時間がかかるとはいえ、まさかこんな芸当を起こされるとは思っていなかった。飲み込まれた絶望でもう動けなくなるだろうと思い込んでいた。それなのに、この男はそれを凌駕した。
 魔法陣は一斉に輝きを増し、今にも魔力を放出させんばかりに力を蓄えている。その中でラルゴは重く強い口調で言い切った。

『毒の一族の末裔の力を思い知るが良い。そしてもう一度目の当たりにするが良い、貴様等が酔い溺れて神聖化している悲劇の結末を』

 全ての魔法陣が、能力を発動させた。





次回「潜むモノ」







  • 最終更新:2014-06-15 18:16:08