第五十三話「潜むモノ」


 海底神殿の底、大いなる知識の魔女は地下に降り立った戦士達に問う。

「問おう。そなた等は何をもって真実を得ようとする?」

「問おう。お前達は真実を知り、彼女をどうしたい?」

「問おう。真実を知っても尚、お前達は否定の魔女を殺せるのか?」

「問おう。世界を滅ぼす事になろうとも、神である魔女を滅ぼす事はできるのか?」

 知識の魔女を納得させられる答えは、何処?

 ■ □ ■

幕間「トレヴィーニの愛」

 時は世界大戦が終わった直後。世界が平和へと歩みだしている最中。
 それらを無視し、暗い暗い海底に存在するスカイピア――もとい海底神殿の奥深く。そこでは一組の男女がいた。

「我にはつくづく理解できない。真実を知っても尚、平然とするお前の精神が全くもって理解できない」

 女はため息をつきながら、男にそう言った。男はキョトンとした。

「おや、あなたなら理解できると思ったのに」

 その言葉を聞いて女は益々深いため息をついた。やはりこの男は自分の能力について勘違いをしている。まぁ、確かに説明しないと勘違いされやすい能力ではあるのだが。

「勘違いするな。我の能力は知る能力であり、理解する能力ではない。だからお前という人種を知れても、どうしてそうなったのかは理解ができないというわけだ」
「……ふむ、つまり答えは知っていてもそうなる過程は分からない、という事ですか?」
「そんなところだ。まぁ、今回の場合……お前の思考回路が心底理解できないだけなんだが」
「元々分かってもらうつもりはございませんよ。私は私だけが満足できるように動いているのですから」

 男の言葉を聞いて、女は顔をしかめる。
 日常会話のように笑って話すその姿は酷く不愉快だ。否定の魔女が愛する事を認めた人物とはいえど、この性格はどうにかならないものか。この様子だと彼女が人間の姿になって闘った意味を全て理解できているのかすら分からない。
 女はこの世界で新たに得た知識を使って、男に問う。

「その為には少女の心さえも弄ぶというのか」
「はい。だって他人なんてどうでもいいでしょう?」
「なんと清々しい笑顔で外道な事を口にするか。あのまま放っておけば少女は壊れるぞ」
「えぇ、知ってますよ。それを見越して彼女にドラグーンパーツを託したのですから」

 その言葉を聞いて、女は知識として知ってはいたものの驚愕で目を見開いた。その事実にではなく、男の全く悪いとは思っていない本当に日常の出来事のように語る様子に。
 この男は己を慕う純粋で無知な少女をただの便利な喋る道具として見ていないのか。ドラグーンパーツを守ってくれるのに丁度良い人形としか思っていないのか。だから意図も簡単に心を踏みにじるというのか。
 行動理由は知っている。彼がどうして動くのかも知っている。ここに来た理由も知っている。しかし彼のことを理解したいとは思わなかった。こんなにも狂った正気を持った男は初めてだ。

「お前はなんと酷い男だ。我等の中でもお前のような存在は滅多にいない。もうちょっとまともな神経を持っている」
「そりゃそうでしょう。私みたいなのがそんじょそこらにごろごろ転がっていたら、世界はとっくの昔に破滅の道を歩んでいますって」
「笑って言う台詞ではない。……どうしてトレヴィーニはお前を愛しているなどと抜かした?」

 頭痛を感じながらも疑問をぶつける女。
 この人間性に欠けすぎている男を何故トレヴィーニが愛していたのか分からない。あの馬鹿みたいな夢想家とこの男とではどう考えても性格の相性が悪すぎる。食あたりを起こしてもおかしくはないと断言できる。
 しかし男はクスリと女性を軽く落としてしまいそうな微笑を浮かべ、己の感じた愛に関して語る。

「対等に殺し合える相手だからこそですよ。この感情は愛でありながら愛よりも勝る感情、欲情に縛られた恋なんて馬鹿げた感情ではなく生死を賭けた究極の感情……それを感じ取れたからこそ愛していると彼女は言ったのですよ」
「……そういう価値観だけは似てるな、お前等は」

 女はその答えを聞いて益々頭痛を感じながらも、この男と彼女が愛し合った理由を理解してしまった。いや、頭では元々知っていたけれどこの言葉でハッキリしてしまった。
 あぁ、そうだ。そうだった。どっちも戦争狂<ウォーモンガー>だった。性格の不一致とかそれ以前の問題だった。どちらともに生命体が最も高ぶる生死を賭けた戦いを好みすぎていて狂っている数少ない存在なのだ、そんな奴が揃えば問答無用で殺し合うのは目に見えていた。だからこそ執着に近い狂気の愛を互いに抱いていたのだ。
 しかし、決定的に違う部分は存在している。
 その証拠に男は一転して無表情となり、夕日のような黄昏の色をした瞳を女に向けて断言した。

「いいえ、似ていませんよ。似ているのなら、彼女はそもそも人間にならなかった」
「……お前、気づいていたのか?」
「心底彼女の事を愛していましたからね。だから気づきたくない事にも気づいてしまった。それだけの話です」

 彼女の事を責めず、ただ淡々と話すその姿は珍しく哀しみにくれていた。無表情を貼り付けた顔と遠くを見つめる黄昏色の瞳がその悲しみを余計に強めている。
 それを見た女は目を細め、白き蝙蝠の翼と黒き鳥の翼を軽く羽ばたかせて男の顔面スレスレまで近づくと耳元で語りかける。

「役不足だったのさ。お前は魔女の宿敵という役柄には相応しかったが、主人公という役柄には相応しくなかった。それだけのこと」
「……言わないでください。あまり良い思い出じゃないので」
「そうか。なら、簡単にまとめてやろう」

 そこで一区切りをつけると、女は新たに残酷な真実を男に伝えた。

「トレヴィーニがあの姿を見せた以上、無限の魔術師に否定の魔女を殺す権利は今後一切存在しない」

 直後、女の体が爆散した。だけど血も肉も生命を形作るモノは辺りに何一つ飛び散っておらず、ただただ広い空間にいる人数が減っただけだった。
 男はどこからともなく杖を取り出し、周囲を見渡す。その身には少しでも触れてしまえば爆発してしまいそうなぐらいの膨大な魔力を蓄え続けながら。
 誰もいない無人の空間を見渡す中、突然ハッと何かに気づいたのか顔を上げる。
 同時に空中の一部分から白い蝙蝠の翼と黒い鳥の翼がタマゴを包み込むような状態で出現し、ゆっくりと開いていく。その中央には太陽と月をあしらった紋章を描いた帽子を被り、片目に傷跡を持った女がいた。
 男が無表情のまま、睨みつける中で翼を完全に開ききると女は何事も無かったかのように話し出す。

「どんなに瀕死の重傷を負わせる事が出来ても、どんなに戦い合うチャンスがあっても、どんなに無限の魔術師が望もうとも、主人公の権利を失ったお前は彼女を殺す事は出来ない。やれても無駄だ、彼女がその事実を否定する。彼女が究極にくだらない夢想家だって事は、理解しているのだろう?」

 全てを悟り、客観しながらも結局は誰も触れられない孤独な純白花嫁を優先視する女の姿は暗に誰の言葉も許さないし、聞き入れないと語りかけていた。
 男はそんな女の態度に対して苛立ちを感じ、杖の先端を彼女に向けながら重い声で言う。

「頭では理解していても、心が拒んでいるんですよ。あなたが私を理解したがらないのと同じでね」

 聞きたくなかった真実を知らされ、誰よりも愛しく殺してしまいたい黄金魔女を絶対視する男の姿は暗に決定事項を拒絶し、破壊すると語りかけていた。
 女はそんな男の態度に対して感服し、地面にゆっくりと降下しながら言う。

「……よっぽど彼女に惚れ込んでいるのだな。それなら、その事に関してはもう我は何も言わないさ」

 床に足をつけた女は男に顔を向け、話を変える。

「さてと、ドラグーンパーツを預かればよかったのかな?」
「色々と文句を垂れていたわりにはあっさり引き受けますね、あなた」

 杖を突きつけた体制のまま、男は軽く呆れた声を出す。女は手を組み、平然と答える。

「お前の性格が最低とはいえど、行動はある意味彼女の願いを叶える手助けをしているからな。我は愛しい彼女の支えになれればそれでいい」
「なるほど、利害関係の一致ですか。……ってかあなた、もしかして百合ですか?」
「彼女が無自覚に我を百合に陥れてしまった。だから今は彼女限定の百合だな」
「そうですか」

 さりげに女はとんでもない発言をしているのだが、男はさらりとかわした。
 理由は簡単。男も女も愛しているのはどんな存在であろうとも虜にしてしまうほどの美貌と力を持ち、物語の根本である絶対的存在の否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガン。
 己がどんな力を持っていても、どんな知恵を持っていても、彼女と関わってしまえば意味が無い。
 全てを寄せ付けないからこそ君臨する純白の絶対美、何色を組み合わせても完全に再現する事は出来ない真紅の瞳、彼女の精神を具現化させたような無限に広がる黄金の風、そして己が心から望む結末を実現させようとし続ける魔女ゆえの純粋さ。これらを兼ね揃えた彼女に惚れない者なんて存在するのだろうか?
 少なくとも、ここにいる男女――無限の魔術師と知識の魔女にとっては考えられなかった。








 ■ □ ■
Aパート「漢の魂/鏡の魂」

 まず先に仕掛けたのはシルク。勢い良く身体を回転させ、その勢いで長さを伸ばし、先端を巨大化させた尻尾で黒臼を勢い良く叩き潰しにかかる。
 黒臼は避ける素振りすら見せず、ただ黙って尻尾の先端に叩き潰されて予想以上のダメージの大きさに跪く。その姿を見て、シルクは尻尾で何度も何度も彼を叩いていく。一方のゆうは槍の先端を叩かれ続けている黒臼に向けて、何時でも迎撃を可能としている。
 二人ともに相手に攻撃をさせまいと必死で、向こうが何かしらの行動を起こせば待機しているゆうが槍で床に縛りつけ、ゆうが更に大きな一撃を加えて大ダメージを与えるつもりである。
 少々お粗末な作戦であり、よほど腕に自信が無いと成立しない部分もある作戦だが……それは成立しなかった。否、成立する以前の問題だった。
 その理由は簡単。黒臼は一切反撃もせず、防御もせず、ただシルクの攻撃を受け続けていたのだから。
 ゆうとシルクはそんな黒臼に対して困惑し、互いに顔を見合わせながら武装を解除し、不安と不思議を混ぜ合わせた顔で黒臼を見る。
 肝心の黒臼は何度も叩きつけられた傷が大きいのかその場に跪き、俯いた状態で呼吸を整えている最中だ。その頭部からは衝撃によって血が少量ながらも流れており、タオルを赤く染めている。
 だけど彼からは全くもって殺意も敵意も……いや、それ以前に戦意すら感じない。
 あまりに不自然すぎるそれに、徐々に恐怖を感じ出してシルクが震え出す。それを見たゆうは彼女の前に出て、槍を黒臼の前に突きつけながら問う。

「何であんた、反撃しないの? こんなに攻撃されてるのよ? さっきの三人組は遠慮なくやってたじゃないの!」
「何で……? そんなの決まってるじゃないか……!」

 黒臼は力を振り絞り、顔を二人に向けると先ほどの慌てていた様子とは一転して、心の底から真剣だと訴える表情で言い切った。

「幼女の味方が、幼女を傷つけたら意味が無いからだよ!!」

 その言葉はあまりにもこの場に不似合いで、ふざけているとしか思えない。けれども目の前にいるこの男はふざけた素振りなど全く見せず、瞳を歪ませる事無く言い切っていた。
 だからこそ二人の天使は更に困惑する。彼の思惑が全くもって理解できないし、そういう思考回路になる事自体が意味不明だ。だから益々不信感と恐怖心が生まれてくる。
 ゆうは恐怖心を必死に押さえ込みながら、黒臼に向かって怒鳴りつける。

「意味分かんない! 何なの、あんた。馬鹿なの? 変態なの!?」
「両方だ! だからこそ、戦わないんだよ!!」

 黒臼はそこで一度区切ると震える足で再び立ち上がり、出血でふらつきながらも視点だけは二人から反らさず、己の思いをぶちまけた。

「攻撃したいなら何度でもぶつけて構わない。俺はそれを全部受け止める。俺の意地に賭けて……君達の怒りと恐怖を全部受け止める!」
「なら、ここであたしがあなたを殺すような真似をしても反撃しないわけ!?」
「もちろん!」

 半ばヤケクソ染みたゆうの叫びに対しても黒臼は聞いてるこっちが驚くぐらいの速さで即答した。
 あまりの即答ぶり、しかも頭から出血しているというのに妙に清々しい表情で言い切られてしまえばこちらの言葉が出てこない。もう頭が追いついていけない。
 これは、最早狂気の沙汰を超えている。
 ゆうとシルクはゾッと悪寒を感じてしまい、何もかもが意味の分からない黒臼に訴える。

「あんた、狂ってる! 普通、好きな人や尊敬している人が相手でも殺されたいなんて誰も思わないわよ!?」
「そうだよ……。みんな、殺されそうになったら抵抗する筈だよ。死にたくないからどんな人が相手でも抵抗する筈だよ。なのに、どうしてなの? どうしてあなたは受け止められるの!?」

 二人の脳裏に蘇るのは「アレ」を発動したスカイピアの末路。悪夢。地獄。終焉。
 あの時は誰もが死にたくないと叫んだ、生きたいと叫んだ、何もかもを無視して己等はただ一秒でもいいから、死への苦しみから逃れようと必死だった。だから、誰もがそうなんだと思い込んでいた。
 それなのにこの男は何だ? どうしてこんなくだらない事を突き通すことができるのだ? それを突き通すあまり、死んでもいいというのはどうしてだ!?
 耐えぬ疑問、理解できないからこその恐怖、そして無自覚だがわずかに見える何かが、ゆうとシルクの心に湧き上がる。
 問われた黒臼は、脳裏に十数年前の水色の幼馴染の笑顔を咄嗟に思い浮かべ、思わず口元に笑みをこぼしながら、揺るぎない意思を持って断言した。

「……俺はなぁ、幼女の笑顔が切欠で、幼女第一のロリコンになった男なんだよ。だから……それすらも本望だ!!」

 その瞳に宿るのは――漢の意地そのもの。
 どんなに無茶苦茶でも、どんなに馬鹿らしくても、彼はその思いを決して揺るがさない。例えその信念の象徴である幼女に殺されてしまっても、絶対に覆す事は出来ない決意。
 その強い思いに理解こそできないものの、その信念の叫びは――二人の天使の心に届いた。
 そして唯一にして絶対の「この男は、私達を絶対に殺さない」という事をゆうとシルクは信じることが出来た。
 ゆうは槍を消し、観念したようにため息をつく。

「あんた……最高に狂ってる。でも、殺さないって分かったから……見逃すわ」
「ゆう……?」
「シルクも分かるでしょ? こいつ、極度の変態だからこそ私達を殺さないってこと」
「う、うん。でもいいの?」

 確かにさっきまでの黒臼、行動だけ見ればかっこよかったがその考えと言ってる事はロリコンという名の変態だっただけである。
 だからこそゆうは武装解除したし、シルクも尻尾の大きさを元に戻している。
 ゆうは再度黒臼に顔を向けながらシルクを安心させようと答えるものの、別の不安が頭を過ぎる。

「大丈夫よ、こいつの前ならね。……でも他の連中がアレを動かすか分からないし」
「さっきから言ってるけど、アレって何なの? 俺等、何にも知らないんだけど」

 黒臼がさっきから彼女達が言っている「アレ」について尋ねる。
 ゆうとシルクは表情を硬くし、話す事を戸惑う。だがさっきから変態ながらも傷つけないという彼の意思を感じ取った今、信用しても大丈夫だという気持ちが勝り、説明する事を決めた。

「……生命エネルギーを糧とするクリスタルの制御装置の機能を威力も範囲も広大化させる魔法陣の事よ」
「インヴェルトを封印する際、あたし達全てを生贄にした最終兵器。アレのせいで……みんな、殺されました」

 その衝撃的な事実を聞き、黒臼は己の耳を疑った。
 だがゆうとシルクの表情は重く、思い出すだけでも辛いと言っているのが良く分かってしまう。そこからこれは嘘でも、幻聴でもなく、れっきとした事実なんだと分かってしまう。
 そして、その事実から連想できる簡単な答えは、あまりにも残酷で、あまりにも自分勝手で、あまりにも酷すぎるもの。

「魔女を封印する為だけに、国を自分の手で滅ぼしたってことか……!?」

 天空王国スカイピア自身が天空王国スカイピアを殺したということ。

 ■ □ ■

 ふわりふわりと空間上に浮かび続ける無数の鏡。
 上下左右、どこまで続いているのか分からないまるで不思議の国のアリスが落ちた洞穴のように深く、けれども浮遊感のある不思議な不思議な空間。
 その空間の中、不自然に存在するのは大きな蜘蛛の巣に絡まった二人の天使――空樹翼とエージェ。そんな彼等を囲むようにあるのは八つの大きな薔薇。
 十字架に絡まった黒い薔薇の蕾が開き、その中から黒いヘッドドレスを被り、背に漆黒の翼を生やしたカービィ――『黒薔薇』が現れる。

『国を滅ぼしてまで、否定の魔女を封印したかったなんて……あなた達は酷く狂っていたのね』

 口元の前で手と手を合わせ、流し目で二人の天使を哀れむように眺めるその姿は堕天使と呼ぶに相応しい。

 そもそも何故黒薔薇ことミラリムと二人の天使がここにいるのかというと、南通路組はリヴァイアサン襲撃と天使たちの出現から地下への突入を早める為、他者を己の世界に閉じ込める事が出来る魔法の鏡であるミラリムに二人の天使の尋問を任せたのだ。
 彼女の強さは三人とも良く分かっていたし、何よりも万華鏡のように無数の姿を持つミラリムにとっては己<鏡>の中こそがもっとも動きやすい空間なのだから、これほどやりやすい場所は無いだろう。
 だからミラリムは主の命令に従い、目の前の天使達を拘束し、また彼等の真意を探る為に己の中へと戻っていったのだ。
 最もどの行為も“入った時点で終了している”為、今こうしているのは彼等の根本的な考えを確信にまとめあげる為である。

 入れられた時点で終わっている事も気づかず、ただ拘束と尋問目当てであろうと踏んでいた翼とエージェであったが、彼女の言葉に困惑していた。
 自分達は何も話していないというのに、何故彼女は知っているのだろうか。
 翼が困惑した目で黒薔薇を見つめる隣でエージェが厳しい口調で問いかける。

「……どうして知っているの?」
『それなら簡単、ミラリムは魔法の鏡だからかしら!』

 すると黒い薔薇の右隣、バイオリンに絡まった黄色い薔薇の蕾が開き、その中から黄色のパラソルを手に持ち、薔薇のコサージュをつけたカービィ――『黄薔薇』が姿を現しながら答える。
 いきなり出現した黄薔薇に二人は驚いて思わず彼女を凝視してしまう。注目されてる黄薔薇は「かしら♪」と悪戯っ子のように笑いながら何処から出したのか玉子焼きを食べるだけであった。

「な、何なのこれ……」
「彼女の能力だと思うけど、でもこれは……ありえない」

 あまりにもありえないそれに、翼とエージェは愕然とする。頭が追いつかない。理解できない。理解させてくれない。
 そんな彼等を嘲笑うかのように黄色い薔薇の右隣、一本の樹を創るかのように互いに絡み合った翠の薔薇と蒼の薔薇の蕾が同時に開き、翠からは金色の如雨露を持ったカービィ――『緑薔薇』、蒼からは金色の鋏を持ったカービィ――『青薔薇』という対極の双子が姿を現して、己<ミラリム>について交互に話していく。

『鏡はどんなものであろうとも対極に映し出す唯一の存在なのですぅ』
『だから君達がどんなに知りたくないって考えても無駄なんだ。どんなに君達が話したくなくても、鏡の世界ではそれが逆さまになってしまう。僕、ミラリムは君達の隠したいこと全てを知れてしまう』
『まっ、この世界はミラリムという魔法の鏡の中。言ってしまえばミラリムが自由に操作できる世界ですぅ。だ・か・ら今から考えを逆転しようとかしても無駄無駄無駄無駄ァって奴ですぅ。まー、諦めやがれですぅ』
「……それ、ズルくない?」
『『『『『否定の魔女や不揃の魔女とかに比べればずっとマシ』』』』』

 翼がぽつりと呟いたツッコミに対し、緑薔薇と青薔薇だけでなく黒薔薇と黄薔薇、そして新たに出現した五人目が一緒になって返した。
 その五人目の声を聞き、翼とエージェは咄嗟に聞こえてきた方向に振り向く。
 するとそこにはシンプルながらも輝くように美しい真紅の薔薇があり、その中ではケープコートとボンネット状の真っ赤なヘッドドレスを身に着けたカービィ――『赤薔薇』が優雅に腰掛けていた。
 赤薔薇はどこからともなく取り出した紅茶を一口飲んだ後、蜘蛛の巣に引っかかっている二人を見下ろしながら四人の説明に補足する。

『まぁ、私達もある種魔女みたいなもの。だからこんなチート染みた芸当もできるわけなのだわ。……最も否定、矛盾、そう言った世界を破壊するほどの力は持っていないけど』
「……もう少し分かりやすく言ってくれないかな。結局、君達は何なの?」

 ごちゃごちゃと抽象的で理解しにくく、立て続けに変わりながら説明されても全く分からない。
 そもそもこの空間自体が二人にとっては未知そのものであり、目の前に存在するアンティークドールのような彼女達は敵でしかない。そんな中でこんな変な話をされても、すぐに何もかも納得できるわけではない。
 本来ならばここで何かしら短く纏めてしまえればいいのだが、生憎と“ミラリム”はそうできない存在だった。

『力が強すぎるだけの魔法の鏡よ。私も彼女達も同じミラリムという魔法の鏡。ミラリムは万華鏡でもあり、無限に連なり続ける終わり無き写し鏡。永遠の螺旋を描く虚実の世界。けれどもそれは所有する存在がいなければ何の意味も無い』

 そこで赤薔薇が区切ると共に彼女の隣、ぬいぐるみに絡まった桃色の薔薇の蕾が開き、その中から可愛らしいフリルのついた桃色のリボンを身に着けたカービィ――『桃薔薇』が姿を現しながら彼女の言葉を続けていく。

『つまりミラリムはね、願いを叶える魔人のようなものなの! だからね、その姿も性別も何もかもがね、持ち主の心に反応するの。持ち主の思い描く最高の存在に成り代わるの!』
『まっ、今回の場合色々とイレギュラーがありすぎたからね。おかげで僕等は何時も以上に定まっていない存在としてこんな状態で姿を現した。八人故の一人、一人故の八人なんてケース初めてだよ』
『ちなみに理由は事象の化身である魔女が二人いる事、その魔女と同等の力を持つ存在、とか普通じゃありえない連中のせいかしら』

 桃薔薇の後を青薔薇、黄薔薇が説明していく。
 先ほどよりは幾分分かりやすくなっており、ミラリムが「所有者に反応して姿を決める魔人」に近い存在なのは理解できた。それでも否めない部分が大量に存在している。
 彼女(達)の話している事は説明というにはあまりにも抽象的で、天使達とは全く異なっている力の持ち主で、ぽろりぽろりとこぼしていくキーワードも全く持って意味の分からないものばかり。
 彼女の事が理解できないのならば、他に必要で重大な部分に目を向ければいい話。
 そう判断した翼は理解できない故の恐怖を押し殺し、精一杯勇気を振り絞ってミラリムの中で一番話しやすいだろう赤薔薇に尋ねる。

「君達がどういう存在かは分かったよ。でも、これから僕等をどうするつもり?」
『主の命令があるまで、拘束させてもらうつもり。……そして、あなた達の真意を探り入れる』
「真意……?」
『深層心理を見させてもらうということなのだわ。あなた達が存在している理由も元凶も既に読み取ってはいるけれど、心までは全てを見られる事ができないのだわ。だから……ッ!?』

 説明する中、赤薔薇は突然驚愕の表情で上方を見る。彼女だけじゃない、黒薔薇、黄薔薇、緑薔薇、青薔薇、桃薔薇も同じように驚いた顔で上方にある無数の鏡を次々と見ていき、更に驚いていた。
 その理由は簡単、鏡の表面が次々と黒に染まっていくからだ。何も映さないただの漆黒へと染まっていく。万華鏡を閉ざしていく。
 だけども六人の薔薇達はすぐに落ち着きを取り戻し、次々に推測していく。

『……これって、もしかしなくても彼女かしら?』
『でしょうね。彼女の能力と性格を考えれば、私を封じるのは当然の事。彼女からすれば私ほど対処しにくい存在はいないのだから』
『うーわー、ミラリムとした事が全然気づかなかったですぅ……』
『トレにベタ惚れしてる時点で来ている事ぐらい気づけばよかったのー……』
『彼女も魔女の端くれだからね。僕等も万能じゃないし、場所が場所だ。気づけなくてもおかしくはないよ』
『まぁ、彼女の性格から考えると時が来れば封印を解いてくれるでしょう。下僕が死んだら何の意味も無いけど』

 冷静なのか、うっかり者なのか、薄情なのか、彼女等の会話を聞いてるだけでは分からない。というか本当にミラリムという一つの存在なのだろうか?
 まだ蕾を開かせない今にも消えてしまいそうな白い薔薇と水晶に囲まれた紫色の薔薇を含め、八人である彼女をそう認識するのはとても難しい事であろう。こうなってしまったのもとても複雑であり、一人になるのもまた複雑なのかもしれない。
 何故ならばミラリム自体、とてもややこしい魔女であり、魔法の鏡なのだから。そして、“この世界のモノ”というわけでもないのだから。
 もっともそんな事、翼とエージェが知る由も無いのだが。



 ■ □ ■

Bルート「潜むモノ<ヴァルアス・ラリーア>」

 ゆうとシルクが黒臼を信じ、また翼とエージェを自らの中に封じ込めたミラリムが封印されるよりも少し前。
 黒脚ケイト達一行は自らが出した大穴を長い間落下していく中、漸くゴールに近づこうとしていた。ここまでずっと真っ黒な垂直の地下トンネルの先に出口が見えてきたのだ。
 ここまでシートベルトも無しの急落下を体験しており、何時振り下ろされるかひやひやしていたのだがどうやらこちらが手を放す前に間に合いそうである。
 ケイト達を乗せた机はトンネルを抜け、大きな大きな広間へと姿を現した。パッと見渡しても壁が見えないほど、否、果てが全くもって見えない広さと高さ、その床一面には七つの円を中に組み入れた魔法陣が描かれていた。魔法陣全体に描かれているのは巨大な一つの星。その上に輝いているのは七つの輝きを持つ小さな魔法陣、北には時計の魔法陣、北東には鎧兜の魔法陣、北西には交差する二つの拳銃の魔法陣、南東には木々の魔法陣、南西には水の魔法陣、南には十字の魔法陣、そして中央にはカービィを象徴する魔法陣。
 一瞬その光景に目を奪われたものの、机は落下を続けていき、このままだと北東の魔法陣にぶつかってしまいそうだ。ケイトは大怪我を防ぐ為、地面に直撃する直前で影縫いを発動させて落下そのものを食い止める。
 机は空中に静止したのを確認してからケイトは飛び降り、ちるをしっかり握り締めていたナースも降りる。
 ケイトは深いため息をつき、二人に苦笑いしながら謝る。

「……はー、我ながら命知らずな事をしたよ。ごめんね、二人とも」
「寿命がまた縮んじゃったわよ。まー、無事だったからいいけどね」
「わ、私は大丈夫ですよ。トラックの時に比べたらそんなに変わりませんし……」

 あ、そーいやトラックで空飛んでたね。
 サザンクロスタウンでほんの少しだけ話題になった空飛ぶトラックを思い出し、ケイトとナースはちるの言葉に納得していた。
 ふと周囲を見渡してみる。落ちている最中でも思ったが、こうして地面に立って見てみると壁の果てが見えないほどの広さがあり、海底神殿どころか海底都市と同じかそれ以上の大きさを感じる。顔を見上げてみるものの、地下の中とは思えないほど高さも半端なく、自分達が落ちてきた穴なんて目を良く凝らさないと小さすぎて見えないぐらいだ。
 その穴を発見したちるは空いた口が塞がらないのか、唖然として呟く。

「あ、あんなところから落ちてきたんだ……」
「……良く無事だったわね、私達」
「ホントにね。多分他のパーティ以上に危機一髪だったんじゃないかな?」

 実際はどの組も危機一髪状態になってたりしてて、そんなに大差ありません。
 彼等がそんな呑気な会話をしている最中、突如として南西の魔法陣が輝き出す。三人が振り向くよりも早く、魔法陣の輝きはすぐに止んだ。

「……!? これは、転送魔法?」
「みたいだね。そうじゃなかったら階段からこんなとこに飛ばされないし」
『の、脳天打った……!』

 その上には何時の間にかシルティ、クレモト、ダム・Kの三名がいた。前者二名はしっかり着地できているのに対し、ダム・Kのみは頭から地面に落下しているのでタンコブが出来てしまっている。……その手にもつ手鏡と看板は死守している事に関しては良くやったと言わざるを得ない。
 彼等も突然の事態に困惑しているものの、すぐに状況を把握しようと周りを見渡しており、自分達にもすぐに気づいてくれた。
 六人はすぐに集結し、どうしてここにいるのか互いに話し合った。シルティ達一行は現在手鏡状態のミラリムに襲撃者達を任せて、地下の入り口から直接繋がっていた階段を駆け下りていた最中、足元に突然白と黒の翼を描いた魔法陣が出現してここまで飛ばされてしまったらしい。
 ケイト達の事情も話し終わり、互いの情報交換を終わらせた直後、六人の通信機からZeOがいきなり声を上げる。

『エネルギー反応確認! 魔力値・能力値共にトレヴィーニに比べれば低いけど、この反応は……魔女! 発信源は中央の魔法陣、これから出てくるよ!!』

 その言葉を聞き、六人は一斉に中央の魔法陣に身体を向けてそれぞれ能力を発動させられる体勢に入る。
 ダム・Kは手鏡を強く握り、ミラリムに出てきてもらおうと意思を伝える。喋れなくても主の意思が伝われば出てくると彼女自身が言っていたのだ。だから戦力強化の為に出てこいと願った。
 しかし、彼女は出てこなかった。それどころか何時の間にか手鏡の表面は何も映さない漆黒に染まっていた。
 この事実にダム・Kは大きな目を益々大きくしながら見開かせ、驚愕する。
 様子のおかしい彼に気づき、ちるがちらりと手鏡を見てその現状を把握して思わず声を上げる。

「えぇ?! み、ミラリムさんが何かおかしいですー!!」
「安心しろ、一時的に封印させてもらっているだけだ。私と彼女とでは相性が最悪だからな、いきなりで済まないがこの間だけは姿を消していてほしいのさ」

 ちるの言葉に対して真っ先に答えたのは六人の誰でもなく、中央の魔法陣から聞こえてきた誰かの声であった。
 一同がそちらに顔を向けると中央の魔法陣には魔力反応や光とか言った前触れ何一つ無く、ただ一人の女が立っていた。
 太陽と月をあしらった紋章を描いた左右にベールのある帽子を頭に被り、天使を連想させる白銀の蝙蝠の翼と悪魔を連想させる漆黒の鳥の翼を持ち、片目に傷跡を持った女だ。
 女は警戒する六人に体を向け、怯む事も怯える事も無く、堂々とした態度で出迎える。

「ようこそ、己の知恵を得たいが故に禁断の果実を求める我が愛しき否定の魔女の宿敵の協力者達よ。我が名はヴァルアス。知識を司る事象の理念を超えた魔女、ヴァルアス・ラリーアだ」

 ヴァルアス・ラリーア。新たなる「魔女」の称号を持つ者。
 その神秘的な容姿から感じられる魔力は穏やかであるものの、量は異常である。トレヴィーニやノアメルトと比べるとかなり少ない方であるものの、普通のカービィとは比べ物にならないぐらいの強さを秘めているのが良く分かる。
 先ほどの子供の天使達とは比べ物にならないだろう強敵の出現に一同が緊張する中、ナースがぼそりと愚痴をこぼす。

「否定の魔女トレヴィーニに不揃の魔女ノアメルトと来て、次は知識の魔女ヴァルアスって……魔女は一体何人いるのよ」
「XXX人だな。最も全ての魔女がトレヴィーニのような異常な力を持っているわけではないし、我等カービィと同じ姿をとっているわけでもない。そもそもこんな事柄を行っている魔女は極少数であり、ノアメルトを除けばほとんどの魔女は他者の世界――この場合、魔女がいる世界だな――には首を突っ込んだりはしないから安心しろ」

 その言葉を聞き取ったヴァルアスはさらりと人数を答え、補足として簡単に説明する。
 色々な意味で思わぬ返答に六人が驚きのあまり、彼女を凝視する。彼女は視線など諸共せず、先ほどと変わらぬ堂々とした態度で話を続ける。

「さっきも言った筈だ。我は知識の魔女ヴァルアス・ラリーアだと。……信じられぬならば色々話してやろうか? ただしお前等が何よりも知りたがっている真実は後回しだ。サプライズは最後の方が良いだろう?」

 その様子からは戦意が見られない。どうやら戦うつもりはないようだ。
 どうにも信用しきれないシルティは大剣を構えたまま、彼女に問う。

「戦わないのか?」
「我は非戦闘向きの能力を持つ魔女だ。直接戦闘は苦手分野に入るし、元々話し合いの方が好きだからな。……それに、ドラグーンパーツを所持しているのは我だ」
「何!?」
「ドラグーンパーツの所持者って、あなたが!?」
『証拠見せて証拠! 後、ミラリム戻せ!!』

 ドラグーンパーツの言葉を聞いて驚くシルティに続き、騒ぎ立てるちるとダム・K。
 そんな彼等に対してヴァルアスは無言で右手を前に出す。すると少しずつ光が集っていき、八つの雫のような形をした虹色を連想させる水晶へと形を整わせていく。徐々に大きくなっていき、縦の長さだけでいえばカービィと同サイズかそれより少し下ぐらいのサイズとなっていった。
 完全に八つの水晶が姿を現すと同時にヴァルアスは口を開く。

「六年前、わざわざこんなところまで訪れた男から預かった代物……お前達の目的の一つであるドラグーンパーツだ。私でなければ解けないパズルでの封印をしていてな、意地の悪い男だと思ったよ」
「……どんなパズルにしたのさ、マナ氏」
「話しても構わんが日が三回ほど暮れるほどの長話になるぞ?」
「それだったらパス。で、それを渡してくれるのかい?」

 ケイトの質問に対し、ヴァルアスは首を左右に振る。

「その前に色々と話すべき事があるだろう。ドラグーンパーツを引き渡すのはそれからだ」
「話す事? というと……」
『天使に空気にリヴァイアサンかな? でもって色々知ってるなら他メンツの事とかもついでに』
「前者三つについては答えるが、後者に関してはあまりにも図々しいので却下させてもらう。もちろんお前等が何よりも答えを待ち望んでいる真実についてはしっかり答えるから安心しろ」

 ヴァルアスはダム・Kにキッパリそう言うと、一旦ドラグーンパーツをこの場から消して一同に説明する。

「お前等がリヴァイアサンと呼ぶ存在は我とかつて否定の魔女が認めたマナ氏との共同作業で生み出した魔物だ。この神殿内部の空気は我個人の仕業だな、理由はいずれ訪れるであろう者達……つまりお前達が少しでも素早く我に接触する為なのとリヴァイアサンから分離した天使達の行動範囲を広める為だ」
「え? やっぱりリヴァイアサンと天使達って関係大有りなんですか?」
「大有りも何も、天使達の霊の集合体がリヴァイアサンだ。我がドラグーンパーツを通してそのように創作した。……我は戦闘能力は低い方に入る。だから連中を二つの力を使って蘇らせ、リヴァイアサンへと構成させた。最も連中は誰がこうしたのか分かっていないがな。ただ本能が赴くままに侵入者を破壊する事ばかりしているよ。ただ、戦闘テストにマナ氏を突撃させたのは失敗だったな。折角蘇らせた兵隊がごっそり削られてしまった」

 手加減してるとはいえど、アレはやりすぎだ。そう愚痴るヴァルアスを見て、七人は「否定の魔女と互角にやり合える人を送り込むな」と思った。
 だが彼女の言っている事が真実ならば、海底神殿に存在する様々な謎の元凶は彼女である事に間違いないようだ。その行動の理由はドラグーンパーツの死守と言えば分からなくもないが、それにしては何処かが引っかかる。
 その引っかかるモノの一つについてクレモトは尋ねる。

「二つの力っていうのは君自身の力とドラグーンパーツの力かい?」
「いや、我にそんな細かい手段は無いさ。使ったのはドラグーンパーツとカーベルの歌だ。あいつの歌はあいつ以外の者が歌うと亡霊を目覚めさせて、そのまま操るだけの代物になる。歌っている者の指示に従うが、少々扱い方は面倒だけどな。……そこに我とドラグーンパーツの力によって細工をし、今の状態にさせた」
「……肉体があったのはその細工なのかい?」
「リヴァイアサンの副産物に近いな。まっ、そう考えてくれても構わんよ。ところで他に質問は無いのかい?」

 続けて出された質問にあっさり答えた後、ヴァルアスは両手を組んで一同を見渡す。
 その時クレモトの通信機からZeOの音声が出てきて、彼女に尋ねる。

『リヴァイアサンについて引き続き質問だよ。……ラルゴと絵龍の二名はどうなっている?』
「ラルゴという男が余計な事をしており、少々面倒な状態になっている。ただし両名共に真実の一端を得られると我は踏んでいるから、放置させてもらっている。リヴァイアサン自体は行動停止状態、その内部で両名は生きている」
『ありがと。こっからじゃリヴァイアサンの反応とかチェック全然出来なくて困ってたんだ』

 ZeOが得られた答えにホッとしながら御礼を言う隣、とんでもない内容にケイトは顔を引きつらせながら呟く。

「……何したんだ、あいつ?」
「結果的にだが、根本的な真実に近づいている……とでも言っておこうか。話しても構わないけれど、これは容易に口出ししていいことではないからな。トレヴィーニにとっては黒歴史みたいなもんだからな」

 その呟きすら聞き取り、ヴァルアスは答えてしまう。どんだけ地獄耳でお節介なんだ、あんたは。
 しかしそれよりも気になる部分が漏れたのを誰も聞き逃さず、他の誰よりも早くナースが素早く尋ねる。

「あなた、トレヴィーニとどういう関係? さっきから聞いてたら愛しい否定の魔女とかそーいう変態チックな事ばっか言ってるけど、まさかレズビアンじゃないでしょうね?」
「彼女限定で言えばレズビアンだな。我は恋愛など興味無かったのだが、彼女の美しさに負けてしまってな。それ以降、彼女の事しか頭に思い浮かばないほど愛してしまっている。どれぐらい好きなのか口にしても構わないのだがどうする?」
「……いや、その自信満々すぎる態度でよーく分かったわ」

 さも当然の如く、いや、態度がもろ「愛してますが何か?」と言わんばかりの偉そうなものになっている事に気づいてないヴァルアスを見て、ナースは頭痛を感じながらも呆れた声で返す。口には出してないが他のメンツも呆れた顔をしている。ダム・Kだけは看板で「ミラリム戻してよ~」と訴えているけど無視られている。
 そんな中、ちるは疑問に思ったのか素直にヴァルアスに尋ねる。

「でも女性同士で愛って成立するんでしょうか?」
「それこそ千差万別さ。思いが叶う者も叶わない者も大量に存在する。ただ、我の場合は絶対に叶わないよ」

 最後、目を細めて切なそうに呟くとヴァルアスはゆっくりと顔を上げ、脳裏に誰よりも愛しい否定の魔女を連想しながら、ぽつぽつと語り出す。(誰も聞いてないと言っている声が耳に入るものの、彼女には聞こえていない)
 それに呼応するようにヴァルアスと冒険者達の足元に存在する巨大魔法陣がゆっくりと輝き出す。 

「灰色に染まってしまう雪や雲と違い、絶対に穢れる事が無い純白という絶対美の体」

 呼応するのは白銀に輝く北の時計を描いた魔法陣。その上に球体が浮かび上がる。
 その球体を見て、一同が反応する中、ヴァルアスは言葉を続けていく。

「宝石以上の輝きによる美しさを宿し、鮮血のように鮮やかで哀しくも潤んでいる真紅の瞳」

 呼応するのは真紅に輝く北西の交差する二つの拳銃を描いた魔法陣。その上にも球体が浮かび上がる。
 二体目の球体を確認すると一同はヴァルアスが召喚している事を確信する。その当人はまだまだ語るだけ。

「その身を優しく守るように包み込みながらも、彼女に近づくありとあらゆるものを否定する全ての乙女の憧れともいえる花嫁衣装」

 呼応するのは漆黒に輝く北東の和洋混ざった鎧兜を描いた魔法陣。その上にも球体が浮かび上がる。
 三体目の球体は確認しながらもそれぞれが狙いを定めるのはヴァルアス。しかし彼女はそんなもの気にしていない。

「純粋にして残酷、たった一人で様々な壮大な物語を生み出し、それを現実へと変えてしまう黄金の旋風」

 呼応するのは青々しく輝く南西の水を描いた魔法陣。その上にも球体が浮かび上がり、丁度その上にいた一同を魔法陣から弾き飛ばす。
 それぞれ尻餅ついたり、頭打ったり、普通に着地しながらも四体目の球体を確認する。

「そして全てを支配し、全てを解放できる絶対にして何者にも手に入れる事は出来ない大いなる否定の力」

 呼応するのは新緑に輝く南東の木々を描いた魔法陣。その上にも球体が浮かび上がる。

「この全てを余す事無く、完璧に絶対なる美として着飾り、何者も勝つ事は出来ない強さをもってこの世に君臨する否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガンを誰が手に入れる事が出来るというのだ?」

 呼応するのは黄金に輝く南の十字を描いた魔法陣。その上にも球体が浮かび上がる。

「彼女は誰にも手に入れる事が出来ない。誰にも枯らす事が出来ない。永遠の究極と至高の孤独な花嫁。誰もが触れたいというのに、誰もが触れられない高嶺の花。どんなに画家が揃おうとも彼女の美しさは完璧に表現できない、彼女の美しさは己の眼で凝視して初めて理解できるモノ」

 呼応するのは桃色に輝く中央のカービィを描いた魔法陣。ヴァルアスの両隣に二人のカービィが出現する。
 片方は黄色い眉を持ち、青い模様を目の下と足首にある水色の可愛らしい天使。もう片方は前者の色を白黒に変え、しかめっ面を浮かべている事以外はほぼ瓜二つの天使。
 彼女等は何も言わず、ただ目標を一同に向けるのみ。

「それでも――彼女の願いの手伝いだけはしたい。愛する者が幸せになる事を願うのは、魔女であっても同じ事だから」

 ヴァルアスが顔を一同に向け、そう言い切ると同時に魔法陣の上に浮かび上がっていた球体は形をカービィに変える。
 北の球体は半身が雪で出来たカービィ――セツに。
 北西の球体は付け耳のついた帽子を被ったカービィ――ミルエに。
 北東の球体は大きな茶碗を頭に被ったカービィ――チャ=ワンに。
 南西の球体は大きなリボンをつけた半透明のカービィ――スーラに。
 南東の球体は頭から芽が生えたカービィ――ウェザーに。
 南の球体は白い帽子を被り、口に薔薇をくわえたカービィ――マリネに。
 六体共に黄金色の瞳で若干目つきがきつくなっている、身体も若干黒味を帯びており、まるで「影」を具現化したような姿をしている。彼等もまたその場に立ったまま一同を見つめているだけである。
 いきなり出現した八体のカービィ(内、六体は仲間そのもの)を見て、一同は驚きを隠せない。

「な、なんですかこれは~!?」
『違う違う。ここマヨナカテレビ違う!!』
「お嬢にマリネにあの茶碗……。どうしてここにはいない連中ばっかなのよ」
「僕に聞かないでよ、ナース。僕だって頭があまり回ってないんだからさ」
「まっ、分かるのはヴァルアス・ラリーアの能力だって事ぐらいだね。もしくは後に出てきた二人の能力か」
「……何者?」

 クレモトがヴァルアスと二人の天使を見て冷静に分析した後、シルティは再び剣を三人に向けて問う。
 ヴァルアスは何も答えず異なる二つの翼を羽ばたかせ、天井ギリギリと言っても過言では無い高さまで移動すると何かしら呪文を唱えて己の身を太陽と月の紋様が入ったクリスタルで包み込んだ。
 彼女の行動に驚く中、水色の天使はにこりと微笑み、白黒の天使との距離を詰めながら名乗る。

「私はラミーロ・リラっていうの。それでこの子はローミラっていうんだ、喋れないんだけどとっても良い子だよ!」
「君達も天使かい?」

 元気に名乗る少女ラミーロと良い子の部分を聞いて、ちょっと複雑な顔をしているローミラを見てクレモトが尋ねる。
 ラミーロはそれを否定し、己等が何者なのか正直に話す。

「ううん。私達は知識の魔女ヴァルアス・ラリーアによって呼び出された存在であって、スカイピアの天使じゃないんだ。今の状況から説明するとねー、あなた達の心身両方の強さを試す者だよ」
「強さを試す……って事は、この影軍団を出してまでやるのってやっぱりバトルってわけかしら?」
「そうだよ、オカマの看護士さん。ヴァルアス様がそう望んでいるから私達は動くの。ねー、ローミラ」
「(こくり)」

 頷いてラミーロに同意するローミラ。見た目は双子のようにそっくりな少女であるものの、その瞳の奥底に宿る戦意は少女のものなんかではなかった。
 話が一瞬終わったのを見計らったのか、ヴァルアスはクリスタル越しに六人に語りかける。

『本来ならばもう少し話さなければならないのだが……深く説明するには彼女の真実が関わってくる。だから、ここで話し合いの前編は終了だ。だから後編を続けたければラミーロ、ローミラ、そして六体のシャドウ達と戦って勝利をつかみとってみせよ』

 次の瞬間、ラミーロ&ローミラと六体のシャドウが一斉に動き出した。



次回「真実と覚悟」







  • 最終更新:2014-06-15 18:17:01