第二話「奇妙なお屋敷」

麦畑の中のお屋敷


 黄金の風は未だに止まない。
 荒れ狂い、人々に脅威を与え続けていく。
 空を舞うのは本来地上にあった者、物、モノ。黄金の風は不可思議な旋律を奏で、人々を困惑に陥れる。
 けれどもこれは始まりに過ぎない。否定の魔女が目覚めたと言う合図にしかならない。

 どんどんどんどん黄金の風によって上昇していく巨大ツギ・まち。ナグサとミルエは落ちてしまわないようにツギ・まちの背中から生えている棒キャンディもどきをしっかりとつかんでいる。
 今は遥か上空で今何処にいるのかは分からない。あまりにも風が強すぎてしがみつくだけで精一杯だ。そんな時、ミルエがナグサに話しかける。その口調は何時になく焦っている。

「ナッくんナッくん! 墜落けいほー、墜落けいほー!!」
「はぁ!?」

 ナグサが思わず声を上げる。その時、風が少し緩やかになったのを感じた。同時にガクンとツギ・まちの巨体が揺れた。
 いきなり揺れ、ナグサは小さな声を上げる。

「うわ! ちょっと待て、まさか!?」

 風が少しずつ少しずつ緩やかになっていく。徐々に降下していくのが分かる。両手をバタバタと動かすツギ・まちを見て、ミルエはナグサに急いで説明する。

「えとね、まっちんね。風の勢いが弱くなってるのを感じてたの! まっちん、魔法とかそういうの分かるから!! だからね、落ちる事分かったの!!」
「聞きたくなかった答えありがとう! で、どんな風に落ちるの!?」

 片手は棒キャンディもどきを握り締め、もう一方の手で帽子を抑えながらナグサは叫ぶ。
 ミルエは慌ててツギ・まちに顔を向けるも、すぐに顔を真っ青に染めて呟く。

「き、急落下……」

 直後、ツギ・まちの巨体が一気に落下した。

「うわああああああああああああああああああ!!!!」
「きゃああああああああああああああああああ!!!!」
「~~~~~!!!!」

 早い。早すぎる。上昇していく時の心地よさとは違い、全身が地面に押し付けられていく。手を離したら一瞬で空中に放り出されてしまいそうだ。そうならない為に、ナグサとミルエは帽子と棒キャンディもどきを必死でつかむ。
 ツギ・まちは両手を広げ、抵抗を少しでもなくす。確実に地面にぶつかるのは見えている。ならば、やる事はたった一つだけだ。ツギ・まちはごくりと唾を飲む。
 黄金の風がほとんど無くなったのと同時に、ツギ・まちの巨体が勢い良く地面にぶつかった。大きくバウンドし、勢いが止むまでバウンドが続いていく。バウンドしている最中に頭から転げてしまいそうになるものの、ツギ・まちは両手を地面に勢い良く当てて耐え切る。そのままバウンドは止まった。
 ナグサはぜぇぜぇと息切れしながら、心底ホッとした。

「し、死ぬかと思った……!!」
「ジェットコースターもびっくりだー! さすがはど根性まっちん!」
「♪」

 逆にミルエは楽しそうにしており、ツギ・まちを褒める。褒められた事によりツギ・まちは嬉しそうに笑った。この二人の感性を知りたいとナグサは思った。
 ナグサとミルエはツギ・まちから飛び降り、二人が飛び降りた後にツギ・まちも元のカービィサイズに戻る。三人は周りを見渡す。大きな麦畑だ。カービィの身長はたやすく超えてしまう麦で一杯ある。ツギ・まちによってかなり押しつぶされてしまったものの、麦畑は無限かと思うぐらい広がっている。
 ナグサの住んでいた町からは離れたようだ。だが大国城下町とも違う。全く知らない場所だ。

「……何処ここ」
「わかんなーい」
「?」

 ナグサのぼやきにミルエとツギ・まちも首を傾げる。
 この二人も知らない場所のようだ。もっともナグサは最初から期待していなかったが。

「とりあえず、先に進もう。ここでボーっと突っ立てても時間の無駄だし」
「いっきましょー!」
「!」

 元気に手を上げる無邪気な二人に対し、ナグサは自分幼稚園の先生だったっけと思ってしまった。

 ■ □ ■

 無数の麦の中を掻き分け、一秒でも早く抜け出そうと歩いていく。だけども麦は終わらない。どんなに歩いても追っても麦は終わらない。堂々巡りになってきた麦畑に対し、ナグサはイライラする。

「何だよこの麦! 無限ループ出してるの!?」

 すると後ろをついてきていたツギ・まちがとんとんとナグサの背を叩く。ナグサが振り向くと同時にツギ・まちが左右に首を振る。続けてミルエが説明する。

「違うってまっちん言ってるよ。無限ループならまっちん魔力分かるもん」
「うわぁ、それじゃコレ天然モノなの……?」

 あまりにも根気がいる脱出と分かり、ナグサは気が滅入る。
 旅立って早々こうなるとは思っていなかった。ツギ・まちに乗って風任せに飛び出した時点で無謀なのは自覚していたのだがこれは予想できなかった。ナグサは深いため息をつく。
 その時ツギ・まちが何かに気づいたのか、いきなり横道を走り出した。

「まっちん!?」
「あ、何処行くの!」

 ミルエとナグサはいきなり走り出したツギ・まちを追いかける。
 ツギ・まちは何の迷いも無く、まっすぐまっすぐ走っていく。出口を見つけたのか、何か発見したのかは分からない。ただ彼は一心に走っていく。
 二人は必死に走るツギ・まちを追いかけていく。何気にツギ・まち足速い。

「あいつの身体どーなってるんだよ!?」

 ナグサは半分怒った口調で叫ぶ。それでもツギ・まちは聞こえていないのか前を走っていくだけ。
 一方でミルエは平然と走りながらナグサを急かす。

「ナッくん、言ってる暇ないよ! はやくはやく!」
「僕は走るのに慣れてないっつーの!!」

 半分怒鳴るように返すナグサは肩で息をしており、走る速度も遅くなっている。
 それを見たミルエはすぐさまナグサに駆け寄ると手を勢い良くつかみ、そのまま引きずって走り出す。ナグサは突然の行動に困惑する。

「え、ちょ、何々!?」
「ミルエが引っ張ってあげる! だから行こう!!」
「分かった! わーったから引きずるなー!!」

 元気に答えるミルエにナグサは悲鳴に近い声を上げた。
 だけどミルエは前を走っていくツギ・まちを必死に追いかけるだけ。ナグサは少しでもダメージを軽減しようと体勢を整えようとするけれど、ミルエの速さに中々出来ない。
 暫しの間、ミルエとツギ・まちの追いかけっこが続けられる。……ナグサは引きずられた体勢のまま。

「痛い痛い! ちょっとお願いだから、走らせてぇー!!」

 麦がクッションになってダメージは和らぐものの、痛いものは痛い。ナグサ、涙目になってる。
 あぁ、このまま永遠に続くのかと諦めかけたその時、ミルエがやっと立ち止まった。ナグサはミルエが立ち止まったのですぐに立ち上がる。体がややふらつく。
 ふらつく体をどうにか抑えながら顔を上げるとツギ・まちが呆然と立っている。その目線の先にあるのは。

「……お屋敷?」

 大きな大きなお屋敷だった。麦畑には不似合いな洋風の屋敷。不気味な枠の窓に、茨のような模様がついた扉。全体的に薄暗い色になっており、まるでお化け屋敷を象っているように感じる。
 明らかに何かある。この何でもありな世界ならば洒落にならない。
 嫌な予感をひしひしと感じるナグサ。ミルエは立ち止まっているツギ・まちを見て体を傾げている。

「まっちん、どーしたんだろ?」
「き、聞いてみたら? 今なら聞けるだろうから……」

 ナグサが疲れた声で言う。ミルエは「そだね」と返し、ツギ・まちに駆け寄る。
 ツギ・まちは彼女が駆け寄っても屋敷から目を離さないまま。その後、ミルエに話しかけられて漸く二人に気づき、驚きの表情を浮かべた。どうやら置いていっていた事に気づかないぐらい夢中で走ったようだ。
 意味が分からないミルエはツギ・まちに話しかける。

「まっちん、どうしたの? ……え、この屋敷から女の子の声が聞こえる?」
「何だって? ツギ・まちどういうこと?」

 ナグサは不可解な発言に眉間にしわを寄せ、ツギ・まちに問う。ツギ・まちは屋敷を左手で指差し、二人に体を向ける。その表情は何時に無く真剣なものだった。
 ミルエはツギ・まちの顔を見て、顔を青くして問い詰める。

「まっちん、それどういうこと!? 屋敷から女の子の声が聞こえる。……ローレンとカルベチア、それから分からないものが一杯いる。だから助けてって叫んでるって……」
「ローレンにカルベチア!? 狂気の人形コンビじゃないか!! 何でそんな危険人物がこの屋敷の中にいるんだろう……」

 ミルエの通訳を聞き、ナグサが驚きの声を上げる。
 ローレン、カルベチア、両名共に危険人物で大国でも指名手配されている。二人に共通しているのは人形狂いで目的の為ならばカービィも破壊するということ。共に特殊能力者。だが二人共に一箇所にとどまらず、色々な場所を渡り歩いていると聞いている。それならば何故こんな屋敷に……?
 ナグサが記憶を振り絞る中、ツギ・まちと何か話したらしいミルエが話しかけてきた。

「ナッくん」
「何? もしかして、入るの?」
「うん。まっちん、声が気になって仕方が無いみたい」

 ナグサはそれを聞いて少し嫌そうな表情をする。何でわざわざ危険人物が二人もいる屋敷の中に迷い込まなければいけない。確かに女の子の声と言うものは気になるが。
 ツギ・まちに諦めてもらおうと説得を試みようと口を開こうとしたその時だった。

 ――迷子はどなた。迷子はどなた。この世に迷う魂はどなた。

 鈴のように高く、水のせせらぎのように綺麗な声が三人の耳に入ってきたのは。
 三人は声を聞いて慌てて辺りを見渡す。しかしどこにもそんな影は見当たらない。ふとナグサが空を見上げると、そこには見知らぬカービィが飛んでいるのが見えた。

 ――彷徨える魂はここか。歪んだ魔に囚われた子はここか。

 黒い髑髏と角、四対の黒い翼、手に黄金のベルを持つカービィは歌いながら、屋敷のバルコニーへと降下するとその中へと入っていった。
 三人はいきなりの光景に何とも言えず、ただ黙って見る事しか出来なかった。

「……何アレ。思い切り何かあるって言ってるんだけど」
「ファンタジックカービィだね!」
「いや、寧ろ髑髏じゃない?」

 ナグサが呆気にとられて呟き、ミルエが笑って返す。もちろんツッコミ入れました。ツッコミ場所ずれてるけど。
 ふとツギ・まちに目を移してみる。屋敷の門を開けて、入ろうとしている最中だった。ナグサは驚きのあまり思わず声を上げた。

「何やってんだー!?」
「うわ、まっちん早! もー、こういう時だけは早いんだからー!!」

 ミルエは驚きながらも慣れた様子でツギ・まちを追いかける。ナグサも慌てて後に続く。しかしツギ・まちは門をくぐり、中に入ってしまった。ナグサとミルエもツギ・まちを追って中に入り込む。
 結果的に三人は麦畑の中の不自然な屋敷の中へと入っていってしまった。

 ■ □ ■

屋敷の中の奇妙な人々



 エントランスはそれほど広くなく、あるのは一階に続く大きな扉とそれを囲むようにある二対の階段。階段の上にも扉がある。天井を見てみると今にも崩れ落ちそうなシャンデリアがぶら下がっている。地震も何も起きていないというのにグラグラ揺れている。その為か全体的に薄暗く、明らかに何か出そうな雰囲気だ。先ほど謎のカービィが魂についての歌を歌いながら入っていったから尚更。
 それでもツギ・まちは何の迷いも無く、階段を上って二階へと入っていく。ナグサとミルエもツギ・まちを追いかけて二階に向かう。
 扉を開けて入ってきた最初の部屋は色々な絵画が飾られている大きな部屋。アンティーク調の椅子と机、壁に掛けられている沢山の蝋燭立てが青い炎で灯をともしている。床にはたくさんの人形が無造作に置かれている。綺麗なもの、体のどこかが欠けたもの、修復不可能なものなど実に様々だ。だけども部屋とは不似合いな色合いのものばかりで、それが余計に恐怖感を煽る。
 だけどツギ・まちは一心不乱に次の部屋に行こうと扉に近づいている。あまりにも早いツギ・まちにナグサとミルエが止まれと叫ぶ。

「ストップ! ツギ・まちストップ!!」
「まっちん早いってば! 一体何があるのさー!?」

 二人の叫びを聞き、ツギ・まちは慌てて扉の前で足を止めて振り返る。その顔は酷く驚きに満ちている。またしても二人を忘れてしまうほど一心不乱に走っていたようだ。
 ナグサとミルエはツギ・まちに駆け寄り、何があったのか聞こうとした次の瞬間。
 バン。
 大きな音を立てながら勢い良く扉が開いた。それも百八十度。その為、ツギ・まちが壁と扉によるサンドイッチを食らった。

「うわ、何て典型的シチュエーション!?」
「ま、まっちんがサンドイッチまっちんになっちゃったー!」

 ナグサとミルエが目の前の光景に慌てふためく。ツギ・まち反応無し、完璧のびてる。地面からの急落下に耐え切った体だから死んでないとは思うが、それでもこの不意打ちは相当痛かったようだ。

「おや? 何を慌てふためいているのですか?」

 ふと聞こえてきた第三の声にナグサは扉を開けた人物に顔を向ける。
 羽や時計を飾った大きな黒いシルクハットを頭に被った白いカービィだ。包帯で目を隠しており、左半身には不気味な笑みを浮かべた仮面をつけていて、全体的に薄気味悪い印象を与えてくれる。ナグサは彼を知っていた。大国が指名手配した危険人物、操りの道化師カルベチアだ。
 カルベチアはナグサとミルエを見て、ため息をつく。

「先ほどから煩い足音が聞こえていたので見に来たのですが、……明らかに使えなさそうな二人組でしたとはね。戦力が増えても意味が無いんですがねぇ」
「それ、どういう」

 意味。そう続けようとした次の瞬間扉と壁に挟まれていたツギ・まちが思い切り扉を蹴り飛ばし、百八十度元に戻した。
 それによってカルベチアは大きく豪快な音を立てて扉と正面激突した。

「はぐぅ!?」

 激突したカルベチアは勢いと共に閉じられた扉によって奥の部屋へと転がっていった。ごろごろごろと転がっていき、ゴンッと何かにぶつかった音が扉越しに聞こえた。
 扉を蹴って開放されたツギ・まちはというと、顔面を痛そうに両手で抑えている。ミルエがすぐに駆け寄ってツギ・まちの顔を心配そうに覗き込む。

「大丈夫?」
「~!」
「痛かったね。よしよし」

 半分涙目になってるツギ・まちの頭を撫でてあげるミルエ。微笑ましい光景だ。
 だがそれよりもナグサは奥の部屋に吹っ飛ばされたカルベチアの方が心配だった。犯罪者とはいえど、現れてすぐにぶっ飛ばされるのは可哀想だし、痛い音も聞こえたし。
 扉に駆け寄り、ゆっくりと開けて隙間から覗く。カルベチアがガラスの門にも見える大きな窓に頭をぶつけて気絶しているのが見えた。大きなタンコブ出来た頭にお星様がグルグルと回っている。

「うっわ、あのでかさは痛い。滅茶苦茶痛い」

 ナグサは小声で呟き、カルベチアに同情する。ミステリアスな雰囲気と共に登場した途端に吹っ飛ばされてしまえば、いくらなんでも可哀想だ。
 一瞬声をかけるべきかどうか悩むけれど、向こうから戦意は感じられなかった。それにこちらにはクウィンスと同等に撃ち合ったらしいミルエと防御力が見た目より遥かに超えているツギ・まちがいるから、どうにかなるだろう。

「二人とも進むよ。カルベチアに謝罪しないと」
「ほえ? 半分お面のお兄さんに?」
「! ! !」

 ミルエは首を傾げるものの、ツギ・まちは何度も何度も頷く。謝罪するというよりも、女の子の声を突き止めたくて仕方が無いって顔をツギ・まちはしている。
 ナグサが扉を開け、三人は次の部屋に入る。次の部屋も外見・雰囲気は最初の部屋と類似していた。違うのは絵画と蝋燭が無く、扉の傍に電気のスイッチがある事。それから人形の数がずっとずっと多い事だ。大きな窓から光は入っているもののカーテンで締め切っている為、あまり意味が無い。ついでにカルベチアが傍で倒れている。頭のタンコブは大きくて何度見ても痛々しい。

「痛い。これは痛い。うわぁ、何なんだよこのタンコブのでかさ……」
「もうちょっと大きかったら雪だるまになったのに~」
「結構怖い雪だるまだな、それ」
「でもってシロップかけて食べるの! もちろん苺味ね♪」
「カービィは食べれないからね?」
「大丈夫。その時は解剖するまで!」
「駄目だよ! 絶対コレ不味いから!!」
「何でー?」
「思い切り見た目が毒じゃないか。ピ○ミンでも白は毒って言うだろ? それに魔女も白なんだし、白色には注意しないと駄目だよ」
「おっ、つまり白はスーパー不味いってことなの?」
「そっ。だからコレ食べないように」
「はーい!」

 ナグサとミルエが気絶状態のカルベチアを見て、コミカルな会話を意図せずしてやっちゃってます。どっちも酷い発言しすぎではないのだろうか。
 ツギ・まちは放置されている人形を一つ一つ見て回っている。綺麗な人形、ボロボロの人形、修復不可能な何か、不気味に継ぎ合わせている人形、と言った感じに実に様々な種類がある。どっから持ってきたんだと言いたくなるぐらいある。
 確かにこの中から聞こえてきた。助けてって叫ぶ女の子の声。
 ミルエとナグサの二人には聞こえていなかった。だけど自分にはしっかりと届いた。だから、多分声の主は人じゃない。多分自分と同じ生を持った人形だ。
 それは直感。だけどツギ・まちは根拠も無くそうだと決め付けていた。理由は自分でも分からない。
 ただ、今にも泣き出したいぐらい悲しみと辛さがこもっていて、尚且つ悲痛な叫び声を聞いて放っておく事が出来なかったのだ。

『……ここ。ここだよ。お願い、気づいて』

 女の子の声がまた聞こえてきた。今度はすぐ近くからだ。
 少しだけミルエとナグサに目を向けると、まだ気絶中のカルベチアを眺めながら会話を続けている。やはり女の子の声は聞こえていない。
 ツギ・まちは人形の山に視点を戻し、声の主を探す。

『山の中に埋もれているの。お願い、カルベチアが起きる前に出して』

 声に従い、ツギ・まちは人形の山を軽く崩して中に埋もれている人形をあらわにさせる。
 そして彼女を見つけた。小さな人形達の中で一体だけツギ・まちを見上げて驚いている彼女を。

『あ……、あなたが私の声を聞いてくれたのね』

 凄いホッとした顔でツギ・まちを見上げる彼女は予想通り人形だった。茶色のリボンが飾り付けられた青い帽子を被った桃色のカービィ人形。可愛らしいネジと普通にだっこ出来るぐらいの小ささが可愛らしい。
 ツギ・まちはこくりと頷く。人形はパッと明るい笑顔を浮かべた。

『やった! やっと私の声を聞いてくれる人が来てくれた!! 私、ちる。ちるっていうの。あなたの名前はツギ・まち?』
「!!?」

 いきなり名前を言い当てられ、驚くツギ・まち。ちるはクスリと笑う。

『私は人形の心の声が分かるし、人形に言葉を伝える事が出来るの。だからあなたの名前も分かるの』
「~」

 なるほどと納得の頷きをするツギ・まち。
 通りでナグサとミルエには彼女の声が届かなかったわけだ。ふと今二人はどうしているのか気になり、ちると一緒に振り返ってみる。

「ねぇ、これどう? どうかな?」
「な、ナイストーテムポール……ぷ、くくくく、ぷくくく、くふふふ……! そ、そろそろ自重して……!」
「えー? そんなに笑いながら言ってたら説得力無いよ?」
「ってその手に持ってる波○カツラ……どこに置く気?」
「タンコブだよ。ほら、ピッタリ!」
「ぶふぅっ!!」

 人で遊んでいやがりました。何やってんだ、こいつ等。
 ミルエが調子に乗ってやりまくっていて、ナグサはそれを止めようとしてるんだけどミルエの芸術品(素材はカルベチア)の独特さに笑いが抑えきれないようだ。しかも○平カツラにトドメを指されて、腹を抑えて転がっている。声は押し殺しているものの、ドンドンと床を叩いてる時点で意味が無い。

『……あの二人、お笑い好きなの?』

 ちるが困惑した様子で尋ねてくる。ツギ・まちには答える事が出来なかった。
 ツギ・まちはちるを手に持つと未だ気絶中のカルベチアで遊んでいるミルエとナグサに近づき、ミルエの頭をぽんぽんと叩いて振り向かせる。

「ほえ? まっちん、どしたの? あ、可愛い御人形さん!」
「は、はい?」
「しかも喋ったー! ミルエはミルエっていうの。あなたのお名前は?」
「ち、ちるです……」
「ちるちゃんって言うんだ、よろしくねー!」

 明るく元気良いミルエに戸惑い気味のちる。普通に喋れるんだとツギ・まちは思った。

「あの、ところで……」
「なーに?」
「……良くカルベチア相手にあそこまでやれますね。特に波○カツラ」

 と言いながら、横目で見るのは完璧玩具になってるカルベチアと横で未だ床を叩いているナグサ。
 ちなみに現在のカルベチアの状態。

 ①仮面の目に可愛らしいお花を装着。
 ②シルクハットにパーティ用鼻眼鏡を無理矢理かけてる。
 ③シルクハットの上に器用に巨大ぬいぐるみを置いている。
 ④トドメ:タンコブに○平カツラ。

 どっからどう見てもカオスです。ありがとうございました。

「だってシルクハットに眼鏡つけたらナッくん笑ってくれたんだもん」
「笑ってない! 僕は注意しただけだ!」
「えー、うそだー」
「嘘じゃない! そりゃ途中から笑ったりしたけど、僕は決して楽しんでないからね!?」

 爆笑から漸く戻ってきたナグサがミルエに必死に訴えるけれども、あの様子を見てしまった後では説得力があまりにも微妙すぎる。

『何だか兄妹みたいだね』

 ちるがツギ・まちに人形特有の声で話しかけてくる。ツギ・まちも軽く頷いた。微妙に違う気がする。
 そんな時だった。ぬいぐるみと波○カツラが床にポテッと落ち、花の飾りと鼻眼鏡がナグサの後頭部に直撃したのは。

「いた!? ちょ、何?」

 ナグサは後頭部を抑えながら振り返る。そこには怒りのオーラをひしひしと出しながら立っているカルベチアの姿があった。

「君達には……自重という言葉が無いのですか……?」

 何か後ろに真っ赤な炎が見える。怒りの炎が見える。 
 同時にどこからともなく杖と見間違えんばかりの大きさの針が出現し、カルベチアは持ち手の部分をつかむと針をミルエの顔面スレスレに突きつける。

「どうやら一度その身に味あわせる必要性があるようですね」
「ほえ?」

 ミルエはすっとんきょな声を出して、体をかしげるだけ。

「……やっぱり○平カツラはやりすぎた?」
「全部が酷すぎるに決まっているでしょうが! ここまで非常識な連中だとは思いませんでしたよ!!」

 ナグサの引きつった顔での呟きに、カルベチアはすかさず言い返す。そりゃ気絶中に玩具にされれば誰だって怒るとツギ・まちとちるは思った。
 そこでナグサがふと気づき、声を上げる。

「ってか僕も数に入ってる!?」
「「当たり前でしょうがぁ!!」」

 今度はカルベチアとちるのツッコミが同時に入った。しかも両者共に裏手ツッコミ。
 カルベチアは己とハモった声に何か気づいたのか、すぐさま辺りを軽く見渡す。

「今の声はまさか……」

 見渡す中、カルベチアはツギ・まちの手の中にいるちると目が合った。ちるの顔が青に染まり、カルベチアの口が三日月のような笑みとなる。
 カルベチアはミルエに針を向けたまま、顔をちるに向けると不気味な微笑みを浮かべたまま言う。

「そんなところにいたんですか、ちる。ずいぶん探しましたよ?」
「……来ないで」
「そんな言い方しないでくださいよ。今、私の目的は一つだけ。私はローレンのように行うつもりは無いのでご安心ください」

 震えを押し殺しながら冷たく言い放つちるに対して、カルベチアは丁寧に話しかける。しかしそれが余計に恐怖を倍増させる。
 ツギ・まちがちるを守ろうと動こうとしたその時、ちるが大声で叫んだ。



「来ないでっっっ!!!!」



 直後、ちるから大きな衝撃波が円状に放たれた。
 衝撃波によって部屋全体に大きな地震のような揺れが襲い掛かる。人形が一瞬宙に浮き、ガラスもガタガタと震える。いきなりの衝撃波にナグサとミルエとカルベチアは吹き飛ばされそうになるものの何とかその場に踏ん張る。

「またこれか! 話を聞く気は最初から無いと言う事か……!」

 衝撃波を耐え切ったカルベチアがちるを忌々しいと言わんばかりの声と共に睨み付ける。
 その声にちるが怯え、ツギ・まちにしがみつく。ツギ・まちは彼女を片手で覆うように抱きしめるとそのまま元来た扉に向かって走り出す。

「逃がすものか!!」

 カルベチアがすかさず追いかける。すかさずミルエは拳銃をどこからともなく出現させるとカルベチア目掛けて発砲する。銃弾はカルベチアの右頬をかすり、小さな切り傷を作り上げる。カルベチアは急停止し、すぐにミルエとナグサに振り返る。

「邪魔する気ですか!」
「そーだよ。ミルエ、まっちんとちるちゃん傷つけたら許さないから!」

 彼女はキッパリ言い切った。すると拳銃が光に包まれて大きな銃器と化す。もう一方の手にも同サイズの銃器が出現させ、カルベチアに向ける。
 カルベチアが小さく舌打ちし、ミルエに再度針を向ける。それを見たミルエはカルベチアから目線を話さず、ナグサに強い口調で言う。

「ナッくん、外に逃げて! この人はミルエがどうにかするから!!」
「え、でも……!」
「大丈夫! こんなの世界大戦に比べたらずっとマシだよ!」

 自信タップリに叫ぶ彼女にナグサは少し戸惑うものの、すぐに決心して大きな窓を開けて外へと飛び出した。
 ミルエとカルベチアはナグサを追わず、ただ互いに武器を構えている。
 カルベチアは二つの銃器を軽々と持つミルエを解析しながら、一つ確かめてみる。

「銃器に特化した武器型能力……。あなた、あのミルエ・コンスピリトですね?」
「そっ! ミルエはミルエ・コンスピリトだよ!」
「なるほど。それなら……恨みを返すのに全力をかけなければいけないようだ!!」

 ミルエ対カルベチア――開幕。

 ■ □ ■

 窓から入ってくるそよ風に揺られるカーテン。窓の外を眺めてみるとやっと顔を見せだした太陽がある。不幸の象徴でもある黄金の風が吹いた後だが、太陽を見るとホッとする。
 少年が椅子に座ってのんびり眺めていたら、窓の外から突然黄色い何かがゆっくりと入ってきた。

「へ!?」

 いきなり入ってきた不気味な何かに少年は思わず椅子から転げ落ちる。
 黄色い何かは窓の枠に少々つっかえながらも強引に部屋の中へと入り込み、口から大量の息を吐き出して元のサイズに戻って一息つく。

「ひ、久しぶりのホバリングはきつかった……!」

 それはナグサだった。どうやら彼は一階には降りず、三階にホバリングで上がってきたようだ。
 そのまま仰向けに倒れ、呼吸を整えるナグサ。その様子を見ていた少年は恐る恐るナグサに話しかける。

「……お兄さん、誰?」
「え?」

 ナグサは仰向けのまま少年に振り返る。
 白い羽飾りをつけた緑の民族衣装を連想させる帽子を被った黄緑の男の子だ。ただし何故か足は半分透けていて、代わりに光の粒が纏っている。
 ナグサは少年の足を見て、つい思った事を口にしてしまう。

「……幽霊なんて始めて見た」
「ごめんね、幽霊で」
「いや、気にしなくていいよ。アレに比べりゃ何億倍もマシ」

 アレとは言うまでも無く否定の魔女トレヴィーニの事だ。女神の皮を被った極悪魔女に比べたら少年幽霊なんて可愛すぎる。
 ちなみにナグサが少年幽霊を見ても対して驚かない理由はトレヴィーニ出現シーンを見た後だからだけではない。先ほどのツギ・まちバウンドとミルエ作トーテムポールも見た後であり、それらに比べるとあまりにもインパクトが無さ過ぎるからだ。
 まだ半日も経っていないのに変な耐性がついてきてるなぁ。ナグサが複雑な心境になる中、少年幽霊が再度尋ねる。

「あの、ところでお兄さんのお名前は?」
「あ、僕はナグサ。君は?」
「僕はハス。お兄さんと同じでこの幻想屋敷に迷い込んだんだ」
「……何だって?」

 ハスの発言にナグサは思わず聞き返す。「知らないんだね」とハスは呟くと、とんでもない事をナグサに明かした。

「ここは屋敷の姿をした幻想空間だよ。麦畑に入ったら最後、ここから出られないんだ。どんなに走っても最後には結局この屋敷に戻ってしまう誰かが仕掛けた魔法の世界だよ」














「知ってるよ。この空間、多分あの人が関わってる。あの人のアレが関わってるんだ」



  • 最終更新:2014-11-08 18:41:00