第二十話「VS空刃の魔女とトランプ使い!」


 ナイトメアシティにて、第二回戦が始まります。
 東エリア第十五番地付近にあるコンビニ上にての戦闘で、一回戦に比べると先が読めません。
 ハンターは「空刃の魔女」「トランプ使い」の二名。
 対するプレイヤーは現在五体。「狂気の人形屋」「操りの道化師」「夜明国の生き残り」「アイドル」「一般人」となっており、前者二名は強者。後者三名の実力は不明。
 ただし後者三名共にダイダロス相手に実力があることは確か。善戦するかどうかは不明。

 ■ □ ■

 広いとはいえないコンビニの屋根を足場とするプレイヤー五人とハンター二人。
 それぞれが武器を構え、互いを睨み合っている。プレイヤー側は特に真剣だ。何せ、己と仲間の命がかかっているのだから。
 真っ先に行動したのはハンターのジョーカー。

「先手必勝! 戦闘空間『神経衰弱』発動!!」

 ジョーカーは叫びながら、両手に持っていたトランプを大きく空中へと投げ捨てる。
 するとトランプは強く光り輝き、万を超えてしまいそうなぐらいの数に増えていきながら空中へと散らばっていく。
 トランプは七人を中心とした形で、丸く包み込む壁と円型の天井を作り上げていく。
 コンビニの屋根にいたはずが足場は何時の間にかトランプで敷き詰められており、ほんの少しだけへこんでいる中央を囲むように斜めになっている。
 簡単に表現するならば無数のトランプによって創り上げられた大きな球体。その中に七人はいる。
 変貌した空間に驚き慌てふためくソプラノに対し、彼女のヘッドホンであるトレブルは至って冷静に返す。

「なななな、何これぇ!?」
『戦闘空間の一種です、マスター・ソプラノ』
「わ、分かってるってば。それよりも解析して!」
『了解。解析開始』

 トレブルが戦闘空間の解析を始める一方、チャ=ワンとローレンは戦闘空間を細かく見渡している。
 日の光も遮られてしまうぐらい、びっしりと万を越すであろうトランプの球内部なのはどう見ても明らか。全てのトランプが伏せられており、数字も絵柄も全く分からない。
 カルベチアが足場のトランプを一枚取ろうとするも足場にピッタリとくっついており、手に取ることは愚か動かす事すら出来ない。
 もしや、と思い針の先で突いてみる。突き刺す事は出来なかった。

「……こんなんで脱出できるわけありませんか」
「こういう空間系統は術者を倒せば消滅するってシアンちゃんが言ってましたよ」
「存じておりますよ。私とローレンは数日前、こんなのよりもずっと面倒な空間から脱出しましたから」

 シャラの説明に対してカルベチアは針を持ち直し、人形屋敷の事を思い出しながら答える。
 その会話を聞いたローレンがニヤニヤ笑いながら、カルベチアに言う。

「そーそー。コッペリアの方がずっと大変だった! まっ、僕さまとしては地雷君と縁が出来ちゃったのがすっごい不幸だったけどねー」
「全面的に同意見です。正直な気持ち、彼と再会したら顔面グーパンチでも入れてやりたいぐらいです」
「僕さまも。だからさー、さっさと片付けて地雷君殴りに行こうよ」
「そうしますかね」

 狂気の人形コンビはおっかない会話をしながら、フル・ホルダーとジョーカーに顔を向ける。
 それに合わせてチャ=ワン、シャラ、ソプラノも動き、戦闘に対する並びを組み立てる。
 近接戦闘メインのチャ=ワンとローレンは前に、攻撃・回復・アシストが出来るソプラノは真ん中に、防御と回復をメインとするシャラとその守りとしてカルベチアは後ろにつく。
 同時にトレブルの解析が終了する。

『解析完了。この戦闘空間はジョーカーの特異能力によるものであり、ジョーカーの意志に従って力を発揮させる特殊結界です。それぞれのトランプに魔力が宿っております。トランプ自体の数は多いですが、属性は四つのみ。威力も僅かながら異なっておりますが、ほとんど同じです。どの位置に立っていても落ちる事は無く、上だろうが横だろうが戦闘は可能。注意すべきはトランプの魔力発動時ぐらいかと』
「スペード、クラブ、ハート、ダイヤの模様と見てよさそうですね」
「んじゃ、威力は数字だね! 結構分かりやすいじゃん、このフィールド魔法!」
「分かりやすくても、攻撃を喰らったら元も子もありませんよ。それに向こうの言うとおり、奴等が有利なのに変わりはありませんから」

 トレブルの解析結果を聞き、カルベチアとソプラノが推測する。
 その様子を黙って見ていたフル・ホルダーが漸く話しかけてきた。(ちなみにジョーカーはフル・ホルダーの後ろで何故か大人しく魔力を貯めている)

「準備は完了したようですね」
「おや、待ってくれたのでござるのか?」
「はい。それが殺す相手に対する最低限の礼儀ですから。それにトレヴィーニ様も言っておりました」

 フル・ホルダーは両手で鎌をしっかりと握り締めながら、トレヴィーニの言葉を口にする。

「……雑魚を潰す時は、余裕を持って遊んでやれ。さすれば雑魚にとって最大の屈辱になると」

 直後、フル・ホルダーはその身を竜巻の如く回転させて一同へと突進してくる。
 シャラがハープを奏でて素早く防御結界を張り、フル・ホルダーの突進を防ぐ。
 しかし相手の回転力と攻撃力の方が強く、防御結界はすぐに割れてしまう。
 回転しながら襲い掛かってくる鎌に、ローレンが鋏を勢い良く振って刃同士をぶつけ合わせて止める。
 その隙にカルベチアは帽子につけていた羽を手に取り、呪文を唱える。背に翼を生やしたカルベチアは片手にシャラを抱え込み、空中へと飛ぶ。
 上の様子をフル・ホルダーが一瞬確認する。
 その一瞬の間にローレンの隣にいたチャ=ワンが素早く懐に入り込み、刀で横から切りつける。
 間一髪でフル・ホルダーは身を下がらせて避けるものの、切っ先が左頬にかする。出来たかすり傷から血が流れる。
 だがフル・ホルダーはそんなもの気にせず、己の足元に三角形型の銀色の魔法陣を展開させる。

「私に宿る魔力という名の切り裂く刃よ、主である私を守護せよ!!」

 三角形魔法陣は輝き出すと、自ら浮かび上がるように刃のブーメランが複数出現してきてチャ=ワン、ローレン、ソプラノ目掛けて飛んでいく。
 ソプラノはその場から動かず、それどころか元気良く歌を歌い出した。その歌は非常に力強く、まるで炎のような熱さを仲間の心に感じさせてくれる。
 すると歌と連動しているかのように、刃のブーメランが次々と炎で燃やされていき塵へと変貌していく。
 チャ=ワンとローレンもソプラノが燃やすのに遅れた刃のブーメランを次々と払い飛ばしながら、フル・ホルダーへと接近していく。
 フル・ホルダーは接近してくる二人に気づくと、魔法陣と刃のブーメランを消すと大鎌を勢い良く振り回す。
 すると鎌の刃部分が取れ、ぐるぐると凄まじい勢いで回転しながらチャ=ワンとローレンへと襲い掛かってくる。
 最初の回転攻撃よりもずっと速度があり、避けきれないとローレンが判断する隣でチャ=ワンが己の被っている茶碗を盾のように前に出して叫ぶ。

「秘儀! 大茶碗!!」

 すると茶碗は見る見るうちに大きくなり、チャ=ワンとローレンの二人を覆うぐらいになって回転刃を見事防ぎきった。
 少々不似合いな防御方法だけど、今はつっこんでいる暇は無い。
 フル・ホルダーは鎌が防がれたのを見ると、すぐさま刃を戻して体勢を整える。
 上空で待機していたカルベチアが片手に持つ針についた二つの糸を使い、フル・ホルダー目掛けて攻撃を入れようと呪文を詠唱しようとしたその時。

「あひゃひゃひゃひゃ! フルハウス、発動!!」

 フル・ホルダーの後方に魔力を貯めながら控えていたジョーカーがいきなり声を上げた。
 同時にチャ=ワン、ローレン、ソプラノを囲むように巨大な三枚のトランプ、空中にいるカルベチアとシャラの左右に巨大な二つのトランプが出現する。
 三枚のトランプにはスペード・ダイヤ・クラブの模様と十の数字、二枚のトランプにはハート・ダイヤの模様と八の数字が描かれている。
 トランプが出現したのに合わせてフル・ホルダーが後方に下がり、代わりにジョーカーが前に出る。

「愉快なクラウン、ジョーカー様によるトランプマジックショー開幕だよぉ!! あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

 ジョーカーが狂気の笑い声を上げると共にトランプの模様が一斉に輝き、攻撃魔法を発生させる。
 空中のハートの八からは八の炎が、ダイヤの八からは八の雷がカルベチアとシャラを襲う。
 地上のスペードの十からは十の氷が、ダイヤの十からは十の雷が、クラブの十からは十の岩石がチャ=ワン達を襲う。
 空中側はシャラがハープを鳴らして、炎と雷が当たる直前に二人を丸く包む結界を出して防ぎきった。

「防御ありがとうございます!」

 カルベチアはシャラを褒めた後、呪文を唱えながら赤と黒の糸を針に巻きつかせていく。

 地上側はというと、氷と岩石はチャ=ワンとローレンが何とか叩き落とすものの、雷は誰にも防ぐ事が出来ず三人平等に襲い掛かってくる。
 チャ=ワンは己の茶碗を使って雷をある程度防御。防ぎきれずに体にダメージがくるものの、軽傷だ。
 ソプラノは持ち前の身軽さで自分に来た雷を全て避けきる。
 ローレンもどうにか避けようとするも鋏に引き寄せられた雷に直撃し、黒焦げになって隅の方へと転がり飛んでいく。

「ローレン殿!」
「い、いまのはきいた~……」
「待ってて! 今回復するから!!」

 ソプラノがすぐさま癒しの歌を歌う。ローレンの傷跡は少しずつ治癒されていく。
 その間に空中で待機していたカルベチアが糸を巻きつかせ、赤黒の巨大槍となった針をジョーカー目掛けて勢い良く投げつける。
 巨大槍は疾風を纏い、速度を高めてジョーカーに防御も回避もさせる暇無く直撃させる。
 直撃直後、槍は内側から光が漏れる。すると槍が勢い良く大爆発を起こし、ジョーカーを勢い良く吹っ飛ばした。

「あひゃああああああああああ!!!??」

 見事に黒焦げアフロとなり、空中へと吹き飛ばされた挙句自分の創った結界の壁に当たって背中を強打してしまう。
 何というか、間抜けだ。
 その間にカルベチアは足場に下り、シャラと共に足をつける。
 下りてきた二人に気づき、チャ=ワンは素早く指示する。

「カルベチア殿、こちらで拙者と共に攻撃を! シャラ殿はローレン殿とソプラノ殿に結界を頼むでござる! 余裕があれば拙者とカルベチアのサポートを!!」
「言われなくてもやりますよ!!」
「分かりました!」

 シャラがハープを鳴らし、シャラとローレンとソプラノの周囲を結界が包み込む。
 カルベチアは右手を前に出し、右手から広がるように針を召喚する。
 チャ=ワンとカルベチアはそれぞれの武器を握り締め、後方に下がったフル・ホルダーに攻撃する為に接近する。
 魔力を貯めているフル・ホルダーはその場から動かず、早く貯めようと己の意識を更に集中させていく。
 隙だらけなその姿に対し、チャ=ワンはギリギリまで近づくとフル・ホルダー目掛けて刀を斜めに振り下ろして斬る。
 さすがにやばいと判断し、フル・ホルダーは咄嗟に後退して避ける。
 すかさずカルベチアが己の周囲に小さな針を浮かべ、フル・ホルダー目掛けて飛ばしていく。

「俺様忘れるなーーーーー!!」

 その時、ジョーカーの叫び声と共に複数のトランプが飛んできて針がフル・ホルダーに当たるのを妨害していく。
 二人はトランプの飛んできた方向に一瞬目を向ける。
 壁にぶつかっていたジョーカーが黒焦げアフロの状態ながらも、必死に立ち上がってトランプを両手に持っているのを確認した。
 その時、フル・ホルダーの後方に先ほどの三倍はあるであろう巨大な三角形型魔法陣が浮かび上がる。

「しまった! 魔法が来るでござる!!」
「あのでかさ、間違いなくとんでもないものですよ!!」
「こらーーー!! ジョーカー様をスルーするなー!!」

 魔法陣を見たチャ=ワンとカルベチアが急いで防御体勢に入る中、ナチュラルにスルーされてしまったジョーカーが怒鳴りつける。もちろん誰も聞いていません。
 その一方、フル・ホルダーは三角形型魔法陣を回転させながら詠唱する。

「我が刃は冬に散りゆく切なき花。花びらの哀しみは冷たい風を呼ぶ声となり、民に苦しみの冬を与えん。冬の冷たさ、それは刃に等しき痛み。冷たすぎる痛みに耐え切れる者、決してありえない」

 戦闘空間の中に冷たい風が吹く。銀色の花びらが舞う。魔法陣が激しく回転する。
 凄まじい勢いで魔力が上昇するのを感じ、チャ=ワンは己の茶碗を巨大化させて自分とカルベチアをすっぽり覆い隠す。シャラもハープを鳴らし、結界の強度を高める。
 フル・ホルダーは鎌を振り上げ、呪文を叫ぶ。

「この地に吹き渡れ、刃の吹雪!」

 魔法陣がどんどんと回転しながら大きくなっていくと共に、舞っていた銀色の花びらが鋭い刃となって吹雪のように空間内部を飛び回る。
 花びらは瞬く間に増えていき、戦闘空間内部を銀一色で埋め尽くす。
 フル・ホルダーとジョーカーを避けるように飛ぶ花びらは巨大茶碗と結界を少しずつ、けれども確実に傷つけていく。

「そのような防具能力と結界能力で、魔女の魔法を何処まで耐え切れますかね……?」

 フル・ホルダーは必死で耐え切ろうとする巨大茶碗と結界を見ながら、妖しい笑みを浮かべる。

 ■ □ ■

 吹雪の如く銀色の花びらが舞い踊り、目の前が見えないぐらいに銀に染まっていく戦闘空間『神経衰弱』内部。
 遠目から見れば綺麗な光景なのかもしれないだろうが、巨大茶碗と結界で防御している五人からすれば相当面倒な状態でしかない。
 結界側ではシャラが必死でハープを鳴らし、結界の強度を上げていく。シャラの表情は強張った状態だ。

「け、結界が追いつきません……!」
「マジ!? やばいよ、ここで結界壊れたらグロテスクなことになっちゃうよ!?」

 それを聞いたソプラノが驚きの声をあげ、焦る。
 結界の外に見える無数の刃が次々と結界を削っていく中、ここで身を出す事は死をあらわすといっても過言ではない。
 だがフル・ホルダーが魔法を止めるまでに持ちこたえられるかどうかは全くもって分からない。
 幸いにもローレンの回復が終わっているソプラノは結界を強める為、シャラに魔力を高める歌を歌う。
 その歌を聞き、シャラもまたハープをどんどん鳴らしていって結界をより強めていく。
 それでも刃は強くなっていく結界をどんどんと削り取り、破壊へと確実に導いていく。

「こんだけでっかい魔法なら、そんなに長い間はしない筈……!」

 それまで持ちこたえられるかどうかが、最大の問題!
 ローレンは鋏を持ち直し、未だ魔力を発揮し続けるフル・ホルダーとその後ろにある三角形型魔法陣を見つめる。
 魔法陣は終わる事を知らないかのように、その勢いを緩めず回り続けている。
 チャ=ワンとカルベチアが隠れている巨大茶碗を確認しようとするのだが刃が避けているフル・ホルダーと違い、完全に無数の刃に囲まれてしまっていてその姿が見えない。

「あひゃひゃひゃひゃひゃ!! ここがジョーカー様特性戦闘空間『神経衰弱』内部だって事忘れてないよね~!?」

 その時、黒焦げアフロから漸く戻ったジョーカーの笑い声が響く。
 同時に巨大茶碗と結界の真下にあるトランプが一斉にひっくり返り、図面をあらわにして光り出す。
 シャラが結界の範囲を足場にも広めようとするも時既に遅し。魔法は発動されてしまう。
 トランプからボンボンボンボンッと爆発が起こり、巨大茶碗内部と結界内部に響き渡る。
 一つの爆発の威力こそたいした事ないものの、何度も何度も足元で爆発されてしまえばこちらの防御が持たなくなってくる。

「きゃああああ!!」
「シャラちゃん!」

 爆発に耐えながら必死でハープを鳴らしていたものの、爆発に耐え切れずシャラはハープを手放してしまう。
 かろうじて耐えているソプラノがシャラを助けようと手を伸ばそうとした矢先、結界にひびが入った。
 結界はそのひびからどんどん割れて行き、最終的には崩壊した。
 結界崩壊と同時に無数の刃が三人目掛けて襲い掛かり、その身をずたずたに切り裂いていく。
 巨大茶碗もまた内部での爆発に耐え切れず、粉々に砕け散って内部に避難していたチャ=ワンとカルベチアを弾き出してしまう。

「その身で味わえ! 残酷且つ冷徹な刃の吹雪を!!」

 フル・ホルダーが五人の防御が解けたのを見計らい、鎌を勢い良く掲げる。
 三角形型魔法陣は回転の勢いをより激しくなり、魔力を高めていく。
 比例するように刃は五人をそれぞれ囲むように集まっていき、その身を塵にしようと一斉に斬りつけようとする。
 万事休すかと四人が思ったその時、カルベチアが時計をつかんで叫んだ。

「時間硬直! 対象:戦闘空間『神経衰弱』!!」

 すると、無数の刃が全て止まった。
 刃だけではない。チャ=ワンも、ローレンも、シャラも、ソプラノも、フル・ホルダーも、ジョーカーも、魔法陣も、全てが止まっている。
 動いているのはカルベチアただ一人。
 カルベチアは翼を羽ばたかせ、その身が止まった刃にぶつかっていくにも関わらずフル・ホルダー目掛けて急速接近する。
 傍まで近づくとカルベチアは針を両手で持ち、フル・ホルダーの正面まで行くと針先を勢い良く彼女の左目へと突き刺した。

「そして、時は動き出す」

 カルベチアが解除の言葉を口にする。
 止まっていた戦闘空間『神経衰弱』の時間が、動き出す。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 同時に針が左目に突き刺された強すぎる痛みにより、フル・ホルダーが大きな悲鳴を上げた。
 合わせて彼女の背後に展開されていた三角形型魔法陣も消滅。空間内部を銀で染まらせていた刃も一緒になって全て消滅した。
 刃から開放され、全身に切り傷を負いながらも四人はフラフラながらもどうにか体勢を整える。

「い、一体何が起きたで、ござるか……?」
「カルベチア、だよ。あいつ、時止め、やり、やがった……!」

 困惑するチャ=ワンにローレンはフル・ホルダーとカルベチアを見つけ、状況を把握する。
 時を操るのは本来非常に難しいものであり、能力そのものが特化していない限り使用する事は出来ない。
 幸いにもカルベチアは分断特異型だった為に行えたのだが、本来彼の力量ではこのような広範囲の時間硬直は無謀にも等しい。出来て精々物体をいくつか止める事ぐらいだ。
 それなのにカルベチアは大規模な時間硬直を行い、フル・ホルダーに大きな一撃を入れた。
 自分の力量以上で能力を発動させる。それ即ち、寿命を削ると言っても過言ではない。

「これで、一人……潰したっ!!」

 能力の反動から来る重度の疲労に耐えながら、カルベチアは勢い良く針をフル・ホルダーの左目から抜き取る。
 血飛沫がカルベチアの顔面につくけれど、羽と時計の力で周囲を視認出来る彼からすればたいした問題ではない。
 すぐに距離を取ろうとカルベチアが後退しようとするが、フル・ホルダーが左手だけで鎌を持つと右手に無数の刃を纏わせ、手と融合した槍に変化させるとカルベチアの顔面目掛けて突き入れた。
 体力も削られ、正面にいたカルベチアは避ける間も無くフル・ホルダーによる槍の突きを正面から食らってしまう。
 フル・ホルダーの槍がカルベチアの体を貫通した。

「操りの道化師……排除完了!!」

 フル・ホルダーは左目の痛みを堪えながら、槍をカルベチアから引き抜く。
 血が吹き出る中、カルベチアは物言わずその場に崩れ落ちた。

「カルベチア!!」

 目の前で倒れたカルベチアを見て、ローレンが叫ぶ。だがカルベチアからの返答は無い。
 死んだ。フル・ホルダーによって、殺されてしまった。
 そう理解するのに、時間は掛からなかった。

「フル・ホルダアアアァァァァァァァ!!!!」

 ローレンは怒りのままに叫び、鋏を二つ召喚して両手に持って走り出す。
 フル・ホルダーは血が溢れ出る左目の痛みに堪えながらも、右手を元に戻して両手で鎌を持ち直して怒鳴りつける。

「お黙りなさい! 私は任務を果たすだけ。すぐに後を追わせてあげますので、焦らないように!!」

 そう言って接近してくるローレン目掛けて鎌を振り下ろす。
 ローレンは二つの鋏をクロスさせ、鎌を防ぐとそのまま押し返す。
 押し返されてフル・ホルダーの体勢が揺らいだのを見逃さず、ローレンは右手の鋏で勢い良く斬りかかる。
 だがフル・ホルダーに当たる直前で巨大なトランプ(ハートのエース)が出現し、ローレンの攻撃を防がれる。
 トランプの模様は輝き、ローレン目掛けて巨大な火の玉が衝突しそのまま一緒に吹き飛んでいく。
 ソプラノが素早く歌を歌い、巨大な水の塊を出して火の玉を鎮火させてローレンの下へ走る。
 一方でフル・ホルダーはジョーカーに目線だけ向け、尋ねる。

「ジョーカー、残りの始末出来ますか?」
「ここは撤退した方がいいんじゃないの~? こいつ等はともかく、二人ほどこっちに接近してるのさっきから感じてるし」
「何!?」

 ジョーカーの思わぬ言葉を聞き、フル・ホルダーは驚愕する。
 一方でチャ=ワン達はその二つがタービィとシアンだと推測し、まだ勝機はあると希望を持つ。
 ジョーカーは両者の様子を気にする事無く、話を続けていく。

「あぁ、それと空から面倒なの来てるよ。大国防衛隊五番隊隊長のコーダ」
「なっ!?」
「こいつ等だけなら殺せるかもしんないけどさ、続けて他の連中と戦うのは俺様は嫌だよ。それもよりによって防衛隊の隊長格となんて自殺行為にも程があるしね」

 大国防衛隊五番隊隊長コーダ。
 その名前を聞き、フル・ホルダーは苦虫を噛んだ表情になる。
 確かにここで残りの四人を殺すのは出来るかもしれないが、続けて起こるであろう戦闘では敗北する可能性が非常に高い。
 それならば一度撤退し、体力を回復する事に励んだ方が良い。
 フル・ホルダーはジョーカーの案に賛成する事にした。

「分かりました、一時撤退します」
「オッケー。そんじゃ面倒ごとにならない内に逃げよっか! あひゃひゃひゃ!!」

 ジョーカーが笑い声を上げると一同を包んでいたトランプの球体が消えて、元のコンビニ屋根へと戻る。
 フル・ホルダーは片手で鎌を持つと、空いた手でジョーカーをつかんで素早くこの場から去っていった。

「……危機一髪でござったか」

 チャ=ワンは飛び去った二人を見て、半分安心半分悔しい気持ちで呟く。
 本音を言えば切り捨ててやりたかったのだが、フル・ホルダーとジョーカーによって出来てしまった傷が深くてあのまま戦闘していれば殺されていた可能性が高い。
 現にカルベチアがフル・ホルダーに大きな一撃を与えたものの、返り討ちにされて殺されてしまっている。
 死したカルベチアの方に目を向ける。血を無数に流しながら、その場に倒れている。

「カルベチア殿、すまぬでござる」

 チャ=ワンは刀をしまい、両手を合わせる。
 一番同行していたローレンは今、ソプラノによって治療されている真っ最中だ。大怪我を負っていなければ、きっと真っ先に駆け寄っていただろう。
 仲が良いかどうかは分からないが少なくとも悪い仲ではなかったから。
 ちらりとシャラにも目を向けると、彼女もまた体をカルベチアに向けて目を閉じて両手を合わしている。
 大国を騒がせた危険人物とはいえど、今共に戦った仲間に冥福を祈るのは当然の事。
 チャ=ワンとシャラ、同時に祈るのを終わらせたその時、下から二つの声が聞こえてきた。

「おーーーい! チャ=ワーーーーン!!」
「シャーーーラーーー!! きーこーえーるー!?」

 名を呼ばれた二人が気づき、屋根から下を見る。
 そこには黒焦げと化して最早見る影も無い元ダイダロスの山に囲まれたタービィとシアンの姿があった。

「タービィ! 無事でござったか!!」
「シアンちゃん! 良かった、生きてた……」

 それぞれ親友の姿を確認し、ホッとするチャ=ワンとシャラ。
 周囲のダイダロスから見て、タービィのボムで吹っ飛ばしたのが確認出来る為漸く一安心出来る。
 緊張の糸が切れ、その場に座り込む二人。

「……どうやら逃げられてしまったようですね」

 その時、上空から声が聞こえてきた。
 その声を聞いて屋根上のチャ=ワン達と地上のタービィとシアンが見上げると、コンビニに向かって降下してくる複数のカービィを見つけた。
 注目されているのをスルーして、カービィ達はコンビニの屋根に降り立つ。
 一人は一言で言うならばカービィ版飛行機。一人はそのカービィ版飛行機に乗っていた緑のインカムに似た装飾品をつけた黒い青年。
 そして最後の一人は、四対の羽を持つ特徴的な耳が生えた水色のカービィ。

「まぁ、あなた達が無事だっただけマシですけどね」

 大国防衛隊五番隊隊長コーダは生き残っている彼等に対し、そう言った。



次回「キング・ダイダロス」







  • 最終更新:2014-05-28 00:11:27