第二十六話「北の砦の攻防戦」


 東エリアを除いた生き残りのいる全エリア:武装したダイダロスの軍隊が進行中。
 進行目的:生き残り達が立てこもっているスーパーマーケット、コンビニ、ハイドラパーツ管理室に侵攻し、一斉皆殺し。

 ディミヌが展開させている三つのモニターから見えるそれぞれのエリアの状態を眺め、キング・ダイダロスはくっくっくと含み笑いを浮かべる。

「悪いけどテメェ等のお休みタイムほど攻めやすい時は無いのよ。お涙頂戴友情劇が終わるまで待ってやったんだからよぉ、今度はこっちのターンになってもいいよなぁ? 答えは聞いてねぇけど」

 ユニコスの肉体を媒介にして蘇ったその姿はとても禍々しく、その表情も悪魔と呼ぶに相応しかった。
 キング・ダイダロスは戦争狂であるものの、戦闘狂ではない。だからこそ、彼らの中で最も勝利を望んでいるのだ。その為ならばどんな手ごまでも使用する。
 そんなキング・ダイダロスの横でホログラムとして現実に姿を現しているディミヌが呆れたように毒を吐く。

『……さすがは馬鹿殿。こういう事になると悪の大魔王ですぅ』
「戦略家といってほしいな。俺は他の連中と違って、確実に勝てる手段をとっているだけに過ぎないんだからよ? それにだ。こんな作戦如きで終わるような連中じゃねぇ。お前のとったサザンクロスタウンのデータさえ間違っていなければ、連中はこの危機を脱する手段を確実に持っている筈だ」
『ありますけど、本当にその可能性だって信じてるんですか~?』
「あぁ。チェス盤をひっくり返して考えた結果のひとつがそれだ。そうでなかったら、あいつ等全員お陀仏なだけ! 俺にとっちゃそれでも構わないぜ? 俺の悪魔ミルエ・コンスピリトが絶望に陥るならば何でもいいからよぉ! ひゃーはっはっはっは!!」

 下品な笑い声を上げる魔王、キング・ダイダロス。
 ディミヌはその姿に表面上は呆れるものの、実際は何も思わなかった。思ったことをあげるとすれば「トレ様、これはいいのかな?」ということぐらいだ。
 キング・ダイダロスはすぐに笑うのをやめ、モニターに映る三つの軍隊に向けて勢い良く指示する。



「死して尚、戦う宿命にある食の欲に飢えたダイダロスの軍隊よ! テメェ等の唯一にして偉大なる王が命令を下す!! 一匹残らずぶっ殺せええええええええええ!!!!」



 その言葉が合図になったかのように、三つの軍隊が侵攻する速度をいっせいに速めた。


 ■ □ ■


 たった一つの銃弾によってウェザーの命が散った数秒後、鋼の鉄兜に身を包んだ死霊の軍隊が速度を上げて、スーパーマーケット目掛けて一直線に走ってきている。
 ひとつの銃弾によって自動ドアが割れて崩れてしまった今、立てこもるという手段はもう使えない。
 その時、屋根の上で見張りを行っていたアカービィが飛び降りてきてスーパーマーケットの前に立ち、ダイダロス達に体を向けて大剣を構える。
 背中を一同に向けたまま、彼はセラピムに問う。

「セラピム補佐官、結界魔法陣を描けるか?」
「描きます! 少々時間がいりますけど間に合わせます!!」
「ならそれまで俺が時間を稼ぐ!」

 セラピムの返答を聞き、アカービィは勢い良く答えると大剣に炎を宿しながら単身ダイダロスの軍隊へと突撃する。
 その姿を見て何人かはギョッとし、アクスがその心の声を代弁した。

「ちょ、あの人死ぬ気!?」
「大丈夫だよ。……寧ろ同情するのは向こうの方なんで」

 ログウは平然とした余裕で答えた後、両手を合わせながら半ば同情めいた口調で呟く。
 直後、ダイダロスの軍隊の前線が炎に包まれたのを一同は目撃した。続けてアカービィが見ている方が爽快になるぐらい、すごい勢いでバッサバッサとダイダロス達を切り倒していくのが見える。
 当然ダイダロス達も槍で反撃しようとするもののそれよりも速く飛んで避けられ、アカービィが横に大きく振った大剣からの巨大な炎のカッターによって吹き飛ばされていった。
 いくら武装しているとはいえど普通のダイダロス達からすれば炎は天敵だ。しかもそれを操っているアカービィは炎との融合型である為、ダイダロス化させようにもさせられない強敵である。

「俺の身に宿った炎よ! この目に映る邪なる存在を燃やし尽くす為、その勢いを増しやがれ!!」

 大剣に宿った炎の勢いがさらに強まり、炎は意思を持ったかのように剣から伸びていってダイダロス達を飲み込んでいく。
 アカービィは大剣から出てくる炎にある程度ダイダロスを飲み込めたのを確認すると、大剣を炎ごと勢い良く引き上げる。そして攻撃がまだ行き届いていない別のダイダロスの集団めがけて振り下ろす。強い衝撃が双方に襲い掛かり彼らの命を消していき、その際に炎が周辺にいた者達にまで燃え移る。
 それでも尚まだまだ進行してくるダイダロスの軍隊。一体どこに保存していたのだと言いたくなるぐらいの多さだが、アカービィはそれに怯む事無く大剣と体を軍隊に向けて勢い良く叫ぶ。

「全員揃って燃やされたいみてぇだな。……来いよ、特別扱いや差別なんてせず一人残らずここで滅ぼしてやるからよ!!」

 その姿、大国防衛隊一番隊の副隊長を名乗るのにふさわしいものであった。
 ダイダロスの軍隊は進行を止めず、尚且つターゲットをアカービィに絞っていっせいに突撃する。
 アカービィがダイダロスの軍隊の気を引いている間に、セラピムは虹霓の先を天に掲げると詠唱を唱えながら巨大な円を描く。

「私の相棒、虹霓! 今、お前の力を仲間を護る為に解放する!! 死と死を連鎖させる残酷で哀しい死霊にならぬよう、私達を包み込め。優しく力強く包み込め! けれども外敵を決して入れる事無かれ!!」

 セラピムの詠唱に答えるように虹霓は自我を持ったかのように円の中に複雑な文様を高速といってもおかしくない速さで描いていく。
 円付近にまず読み取る事が出来ない文字の螺旋を描きあげ、その中央部分に迫るように五芒星を描くとそれぞれ五つの三角形の中に更に複雑な文様と文字を正確にすばやく描きあげる。
 魔法陣を完璧に描き終わったのを確認するとセラピムは虹霓の先を魔法陣の中心にチョンとつける。
 すると魔法陣から広がるように半透明の巨大な結界が発動し、アカービィ除く北エリア一同をスーパーマーケットごと包み込んだ。
 セラピムはそのままの体制で、すかさず一同に指示を送る。

「これでかなりの間、もたせる事ができる! その間に脱出、反撃などの手段がある者は即効準備を行ってちょうだい! 可能ならばアカービィ副隊長の補佐を!!」
「え、結界の中から外に攻撃できるんすか!?」
「大国防衛隊副隊長補佐官の出した結界が防御一直線だったら本末転倒。防御も出来て攻撃も出来なきゃ意味が無いんだよ」

 絵龍はその答えに驚愕する。
 結界魔法は本来外敵からの攻撃を防ぐものであり、結界内部から外側へ攻撃することはかなり高度な技に入る。それをセラピムはやってのけた。
 偽トレヴィーニのモザイク戦では共にやられてしまったものの、今はこうやって戦士として相応しく凛々しくそこに立っている。
 これが大国防衛隊副隊長補佐官の実力だと絵龍は思い知る。
 自分もそれに負けないよう、彼女の指示に従って戦わなければと意気込む。

「……って! 自分、遠距離攻撃できないんすけど!?」
「それじゃ今やっておこうか」
「へ? 何を?」

 クレモトの唐突な一個を聞き、絵龍は首をかしげる。だがクレモトは答えず、彼女の額に右手を置くと力を込める。
 突如絵龍の全身が燃え上がるような衝撃が襲い掛かる。一瞬だったものの絵龍を怯ませるには十分なものであり、絵龍はしりもちをついてしまった。

「い、今の何すか?!」
「何って能力開放だけど? 僕、他人の眠っている力を引きずり起こすという突然変異能力者だからね。今必要だと思って、絵龍ちゃんの中で眠っていた力を起こさせてもらったの」
「はああああ!?」

 クレモトの滅茶苦茶な説明を聞き、絵龍は驚きの声を上げた。
 動物型の能力者じゃなかったの? ってかスーパーマーケットに入る前は爪使って元気にダイダロス狩りやりまくってなかった!? ってーか自分の中に眠ってた力って何よ、マジで!!
 こんな感じで内心大混乱中の絵龍。
 クレモトは絵龍の右肩(カービィにあるのか?)をポンッと叩くとにっこり笑ってこう言った。

「無双ガンバ☆」

 ムカッときた絵龍、反射的にクレモトの顔面にスマッシュパンチをぶちこんだ。
 スマッシュパンチをもろに食らってしまい、クレモトがやや後方に吹っ飛んでいくけど絵龍は無視して、自分の出したスマッシュパンチから推測する。
 いくら自分が魔法格闘家とはいえど、スマッシュパンチといったコピー能力は使用できなかった筈。それならば自分の目覚めた能力はコピー能力系統。
 すーはーと深呼吸し、精神を統一させる。己の中に眠るコピー能力を確認する。ファイター、ボム、ハンマー、ミラー、プラズマ、トルネイド、ストーンの七種類が確認できた。
 ぶっちゃけ多い。分断型にしてもコピー能力の種類が多すぎる。何でこんなにあるんだと困惑する。だけどここで発想を転換させる。自分はエネルギー型と言われていたが今、クレモトによって能力が引きずり出された。エネルギー型から突然変異に変わるのは良くある事。それならば己のもそれに値するものだと考えれば何の違和感も無い!
 第一ここでうだうだ悩んでいる暇は無い!!
 絵龍はごちゃごちゃ考えるのをやめると、その手にハンマーを出現すると勢い良く回転しながら外に見えるダイダロスの軍隊めがけてぶん投げる。

「女は度胸! 爆裂ハンマー投げええええええええ!!!!」

 その技は勢い良く己を回転させ、その勢いと共にハンマーを敵目掛けて投げる一撃必殺ともいえる技。
 ハンマーは原型が見えないぐらい高速回転し、ダイダロスの軍隊へと突撃して複数にぶつかって怯ませていく。
 それを見たアカービィは詠唱を唱えてハンマーに炎を宿して威力を挙げさせる。炎が宿ったハンマーは勢いを止まらせること無く次々と吹き飛ばしていく。ただし肝心の炎に耐え切れず、途中で燃え尽きてしまいましたが。
 それでも異常なまでの攻撃力を秘めた爆裂ハンマー投げに絵龍は目玉が飛び出そうなぐらい驚き、ナグサが分析しながらも驚きを隠せずツッコミを入れた。

「自分スゲェ!!」
「ぶ、分断通常型の突然変異……! 普通、あんな爆裂ハンマー投げはできないって!!」

 一体何やったんだ、クレモトとツッコミを入れたくなったナグサであった。
 ちなみに彼は何をやっているのかというとセツと共にウェザーの死体を担ぎ、中央部分まで避難していたのである。ナグサは能力の関係上、セツは前線で戦闘中のアカービィのこともあって戦闘には参加できないのだ。ついでだが気絶しているクレモトはアクスのでっかい注射を食らってる真っ最中である。
 その光景を見たログウもナグサと同じ見解をし、絵龍に話しかける。

「ねぇ、ボム使える!?」
「あったのは確認したっす!」
「それじゃ協力してっ!!」

 ログウは両手を勢い良く合わせ、すぐにコンビニの床に押し付ける。
 すると彼の触れた部分を中心に小さな電撃が走り、そこからカービィ大の大砲を五つ出現させる。発射部分の大きさから推測すると普通にカービィ一人が入れそうだ。
 絵龍は大砲を見て、ログウの作戦を即座に理解するとカービィサイズのボムを出すと一番近くの大砲に入れる。
 すると大砲はガコンと傾き、自動的にダイダロスの軍隊に標準を合わせると入れられたボムを発射した。発射されたボムはダイダロスの軍隊にぶつかり、一部の兵を吹き飛ばす。
 吹き飛んだ敵を見て絵龍とログウは互いに顔を見合わせ、ニヤリと笑みを浮かべる。その笑みは悪戯を思いついた生意気坊主に似ていた。
 そのままの勢いで絵龍はボムを次々と五つの大砲にぶちこんで発射させていき、次々と敵を吹き飛ばしていく。

「味方に当てんじゃねええええええええ!!!!」
「「すいませんっしたーーー!!」」

 ただしボムそのものや爆風がアカービィを巻き込み、彼にダメージを与えちゃっているようだ。
 それでも攻撃手段としてはかなり有効である為、平謝りしたら即攻撃再開。当然何度かアカービィに当ててしまったのは言うまでも無い。
 一見快調そうなボム大砲を眺め、フーはぼそりと呟く。

「でもこの攻撃、彼女の体力がどこまで持つのかなぁ……?」
「不安なら援護すればいいんじゃね?」
「いや、ボクは非常要員として暫く待機するつもり。切り札は最後までとっておくものでしょ?」
「面倒なだけじゃん! こんな事態でもフリーダムすぎるよ、フー!!」
「ってか自分で自分を切り札っていうか、普通!?」

 センターの指摘に平然と答えるフーにライトとレフトが反論するけど、フーは無視。
 しかしフーの呟きはもっともなことだ。能力だろうが魔力だろうが酷使すれば、その分体力を奪われてしまう。
 今でこそ快調だが、このまま長期戦になれば絵龍の体力が尽きて攻撃担当が再びアカービィのみになってしまう。そうなったらフーが動かなければならない。
 他のメンバーは現在の状況での戦闘では使えない。遠距離攻撃を使える者が少なく、接近戦になってしまう者ばかりだからだ。ダイダロス相手では無謀すぎる。
 早々に脱出しなければと誰もが思う中、唐突に絵龍の携帯電話が鳴り出した。現在ケイトが所持している為、当然彼が出る。

「はい、もしもし」
『北エリアと西エリア、聞こえてますか!? こちら地下のフズです!!』

 かなり切羽詰ったフズの声が電話越しに聞こえてきた。
 それを聞いてケイトは咄嗟に向こうも攻められていると判断する。

「そっちもダイダロスの軍隊が来ているの?」
『はい。ってか北も西も地下、生き残りのいるエリア全てにダイダロスの軍隊が襲い掛かってます!』

 西エリアと地下もここ同様にダイダロスの軍隊が襲っている。それを聞いてケイトは驚くものの、すぐに表情を歪ませる。
 寝こみを襲うのは戦略的に間違っていないものの、ここまで多くの駒を使って攻めてくるとは相変わらずキング・ダイダロスの性格は悪い。
 今頃どこかで高みの見物をしているだろうキング・ダイダロスを憎々しく思いながらも、ケイトはフズの続く報告を聞く。

『今、アノとカスがエアライドマシンの射出準備を行っているんですけど間に合いそうにないんです!!』
「生き残り全員分、用意できないってこと?」
『はい! 時間を稼ぎたくても、ラルゴさんの魔法とカタストロさんのパワーだけじゃもう扉がもたないんです!! こっちにハイドラパーツがあるといえど、肝心なところで発動しないし……!!』

 フズの声を聞いているだけでも焦りと不安が伝わってくる。
 エアライドマシンの射出が間に合わず、脱出の為の手段が曇りかけてきている。ただでさえ今はダイダロスの軍隊が襲いかかろうとしているところ。一秒でも速くこの危機を脱さないといけないのだ。
 だけどどうやって? 何か策は無いのだろうか……!
 ケイトは携帯電話を握る力を強め、思考を走らせる。

 その時結界が大きく揺らぎ、スーパーマーケットが振動した。

 いきなりの振動に何が起きたとケイトが驚きを隠せないまま、顔を上げる。
 同時に攻撃と振動の解析を行い終わったログウが顔を青ざめて皆に報告する。

「りょ、量産型キューピッドの大群だ! 量産型キューピッドが爆弾をここに落としていってる!!」
「嘘、ここで空襲!?」
「向こうにディミヌ・エンドがいるからって性格悪いにも程があるぞ!!」

 空襲発生と聞き、アクスとマリネが声を荒げる。その時再びスーパーマーケットに振動が襲い掛かる。量産型キューピッドに爆弾を落とされたのだ。
 結界があるからスーパーマーケット自体の大破はないものの、伝わってくる衝撃はひどくてボム砲撃が出来ないし、中にいる者達も上手く動けない状態にされてしまっている。
 ナグサはバランスを崩しそうになりながらも、結界を固定し続けているセラピムに叫ぶように尋ねる。

「セラピム! 結界持たせられる!?」
「もたすよ!! けど、そんなに長くは……!!」

 セラピムは言い切りながらも、表情を辛そうに歪ませる。彼女の両手を良く見ると虹霓をつかむ掌から血がにじんでいる。
 それを見て結界がかなりやばい状態だと察したフーは己に宿る四つの魔に即座に指令を送る。

「アンダー、センター、レフト、ライト、魔力開放! 結界補助開始!!」
「了解した」
「あいよー!」
「いくぜー!」
「いくよー!」

 指令を出されたアンダー、センター、レフト、ライトはそれぞれ常人じゃ聞き取れない詠唱を行い、セラピムの出した結界に張り付くように四つの三角形型魔法陣を東西南北に出現させて結界を強化させる。
 フーもまた己の足元に三角形型魔法陣を出現させ、自身も結界を強化させる。
 だが再び空襲攻撃が行われ、スーパーマーケットに振動が襲い掛かる。その振動を感じ、フーは表情を歪ませる。

「うわ、これ思ったよりキツッ……!」
「お願いですから持たせてくださいよ!?」
「~~~!!」

 ちるとツギ・まちの二人がフーの呟きを聞き、冷や汗をたらす。
 ここで結界が破れてしまったら、爆風がもろに自分達に襲い掛かってくるのは明白。それゆえセラピムとフー達にがんばってもらわなければ大変なことになるのだ。
 それでも空襲はやまず、スーパーマーケットの振動は続いていく。
 ダイダロスの軍隊もボム砲撃が来なくなったのをチャンスとみなし、アカービィの出す炎を恐れずに次々と猛突進していって己の前に立ちふさがるアカービィを己等の中に飲み込ませて攻撃の手段を無理やり無くさせる。
 その光景を見てしまったセラピムは顔を青くし、アカービィの名前を叫ぶ。

「アカービィくんっっ!!」

 その思いに比例するように結界が揺らぎ出し、空襲による振動がさらに酷くなる。しかもついにスーパーマーケットの一部が耐え切れず、その一角が崩れ落ちてしまう。
 それを感じ取ったフーは四つの魔からすれば日常では決して見られないだろう必死な表情でセラピムに怒鳴る。

「馬鹿! ここで結界揺らがすな!!」
「ご、ごめん!」

 セラピムは慌てて謝り、結界を再び固定させる。
 だが一瞬の隙を見逃さなかった空襲部隊による攻撃が続き、再生しだした結界を更に傷つけていく。
 一同の砦となっているスーパーマーケットが端からどんどん崩れていく。爆発の衝撃によって天井の一部が崩れ落ちる。

「セツ! 破損部分を凍らすことできる!?」
「やってみます!!」

 ナグサに言われ、セツが崩れ落ちた部分を補強する為に氷で覆っていくものの爆発の衝撃と振動が酷くて氷にもひびが入っていく。セツはひびの修復も氷で行うものの、攻撃の方が酷くて破損箇所が増えていく一方だ。
 あまりにもやばい状況下の中、ナグサはドラグーンパーツを取り出して掲げる。ドラグーンパーツは独りでにセラピムのところまで飛んでいくとその身を発光させ、結界を大幅に強化させる。
 その時、ダイダロスの軍隊が強化された結界にいっせいに突撃してきた。何時の間にか用意していたのか、巨大な丸太を複数の者が協力して掲げて結界に何度も何度もぶつけている。
 空襲攻撃は勢いこそ弱まったものの、ダイダロスの軍隊の方向とは逆方向から爆弾を次々に落としていっている。
 あまりにも激しすぎる攻撃の振動により、しりもちをついた絵龍は声を上げた。

「せ、戦国時代になってねーっすか!?」
「少なくとも今の僕等にとっては戦国時代だよ! だがここまで近ければ……!!」

 ケイトは携帯電話をツギ・まちに押し付けると一気に結界の傍まで行き、眼前に見えるダイダロスの軍勢に対して左目にかけられた呪術であり、特異能力「分子分解」「原子構築」を開放する。

「空來凛守! 対象:奴等の鎧兜。変更:鉄の処女!!」

 すると先頭の列にいたダイダロスの兵達が鎧兜の中からいっせいに血を出して倒れ出した。その際に丸太のバランスも崩れて、地面に大きな音を立てて落ちる。
 鉄の処女<アイアンメイデン>というのは内部に無数の棘と針がある棺桶型拷問器具の一種であり、現実では絶対関わり合いたくないモノだ。
 ケイトは己の能力によって鎧兜の内側をその鉄の処女と同じ代物に変え、己の目に映るダイダロスを一斉に片付けたのである。
 だがそれで終わる筈も無く、ダイダロスの軍隊は動かぬ仲間を踏み台にして突撃を再開させる。何体かは丸太を持ち直し、再度結界破壊を続ける。
 マリネはすぐそこまで迫ってきた軍隊のギリギリまで接近し、ハンマーで勢い良く一体吹き飛ばす。吹き飛んだその一体により、後方にいた数体も続けてバランスを崩す。
 その際に運が良かったのか丸太を持っていた者の一人にも当たり、丸太を再び地面に落とす事が出来た。しかもその際に兵士が三、四体つぶれた。

「麗しき乙女達を恐怖に染めた罪、思い知ったか!!」
「口動かしてる暇があるなら戦え!!」

 ガッツポーズをするマリネにケイトが怒鳴った。
 その二人に続くようにポチが前に出て、その口から勢い良く火炎放射する。その大きさはかなりのもので、先頭の列どころか後方三列ほど巻き込むことが出来た。ただしアカービィほどの威力は無く、向こう側を熱で苦しめさせた事と鎧兜を熱する程度に終わってしまったが。
 それを見たナグサは崩れ落ちた氷を慌てて吸い込み、アイスをコピーするとポチの横に並んで口から勢い良く冷凍放射する。ポチ同様先頭だけでなく、後方三列ほどの範囲に響いた。
 熱せられた後に急激に冷やされ、鎧兜は耐え切れずにひび割れて崩れ落ちていって中のダイダロスが露出する。
 それを見たケイトはクナイを、マリネはカッターを、絵龍はプラズマニードルを、ダイダロスの弱点である右目目掛けて的確に投げて確実に滅ぼしていく。
 ダイダロスの軍勢に対する攻撃はポチとナグサが鎧を剥がして、ケイト・マリネ・絵龍がすかさず右目を潰していくという形となった。
 勢いこそ弱まったものの、まだ続いている空襲に関してはセラピムが生み出し、フー達とドラグーンパーツによって強化された結界でどうにか防いでいる。
 破損部分に関してはセツが氷で補強し、手の空いたログウが己の能力を使って出来る限りの穴をふさいでいく。
 クレモトは漸く気絶から目覚めると攻撃組のもとに行き、その爪を異様なまでに鋭く伸ばして露出したダイダロスの右目を潰して加勢する。
 アクスは回復要員である為、後方で待機。ちるとツギ・まちは出来る事が無い為、携帯電話を耳にあてて連絡係を行う事にした。といっても地下からの連絡は無く、どうなっているのかが全くわからない。
 その時、携帯電話からフズの切羽詰った声が唐突に聞こえてきた。

『も……もう地下はもちません! 出せる限りのエアライドマシンを射出し、ウチ等は脱出します!!』

 直後、通信が途絶えた。その声を聞き取ったちるとツギ・まちは顔を青くする。
 だがちるはパニックになるのを抑えつけ、一同に向かって報告する。

「地下がやられちゃったよぉ! その際にエアライドマシン射出されたー!!」

 その言葉を聞きながらも、一同は己の役割を緩める事無く無言で理解する。
 脱出できるかどうかを考えている暇は無い。今はただこの砦に襲い掛かってくる悪夢の軍隊を防ぎきることしか考えられない。
 その時、ダイダロスの軍隊が一斉に退却を開始した。我先にと離れていく軍隊に一同が驚き戸惑う中、フーと共に結界を支えていたアンダーがいきなり声を上げた。

「フー、魔力反応を感知した!」
「めちゃくちゃでっけー!!」
「しかも一個じゃなくてトリプル!!」
「北と南東と南西の空中三方向から一斉に行くみたい!!」

 続けてレフト、ライト、センターが己等の感知した魔力反応について簡潔に説明する。
 それを聞いたログウは補給していない部分の穴からわずかに見える空から、魔力が感じる方向に目を向ける。そこには小さくだが、キューピッドの姿があった。
 キューピッドを確認したログウは即座に解析して一同に報告するが、これから発動する技を解析して一気に顔を青くする。

「解析完了! 強化型キューピッドの改良版で今から来る攻撃の内容は……な、ナインライトブレイカー最大貯めバージョン!?」
「何その某白い悪魔の必殺技っぽいネーミング!!」
「威力も某白い悪魔並だよ! 下手したら全滅エンド間違いなしの代物だし!!」
「いらんところでパロせんでえぇわ、ボケェェェェェ!!」

 ログウの補足を聞いて、絵龍は疲労のせいでイライラしているらしくツッコミの勢いが凄まじい。
 某白い悪魔はともかくとして、全滅エンド間違いなしと聞いたセラピムとフー達は己の魔力を最大まで引き出して結界を強めていく。
 同時に北・南東・南西の空中三方向にて巨大三角形型魔法陣を出していた三体のキューピッドが、一斉に九色の光が輪廻のように絡み合った巨大魔砲撃<ナインライトブレイカー>をスーパーマーケット目掛けて発射する。
 発射された魔力だけでも一気に全員の肌が逆立ち、思い知ってしまう。直撃したら確実に死ぬ、いや、塵ひとつ残らず消えてしまうと。
 三つのナインライトブレイカーが今、スーパーマーケットへと直撃しようとする寸前だった。

 東から光速のように飛んできた物体によって一瞬の間で三体のキューピッドが切り刻まれたのは。

 魔法発動者が消えた事により、ナインライトブレイカーが三つとも直撃する寸前で消滅した。その分の魔力が外に放出され、衝撃波となって襲い掛かるものの結界は防ぎきる。
 それよりもいきなりナインライトブレイカーが消えた事が不思議でたまらない北エリア一同。
 一体誰が食い止めた? あんな一瞬の間でどうやって?
 頭の中が混乱していく中、空中からエアライドマシン「ウィングスター」に乗った二人のカービィがスーパーマーケットの前に降り立つ。
 その内一人がスーパーマーケット内部に体を向け、両手を合わせて謝る。

「ごめ~ん! みんな、遅れちゃった!!」

 羽飾りのついた緑の帽子と白銀の拳銃を持っているものの、ハートマークが特徴的なその顔はミルエ・コンスピリト本人だと主張していた。
 ナグサは一気に表情を明るくし、ミルエに話しかける。

「ミルエちゃん、無事だったんだ!」
「無事だよっ。ナッくん達は?」
「たった今九死に一生を得られたところ! そっちの人がやったって見ていい?」
「うん!」

 ナグサはもう一人の人物に目を向けながら尋ねる。ミルエは力強く頷いた。
 もう一人の人物は刃こぼれが全く無い虹色の剣を持ち直しながら、一同に振り向く。
 星飾りのついた紫色の帽子を被り、漆黒の髪を持つ白の体色を持つ男性だ。
 その男はかつて「希望の勇者」と呼ばれていた人物に類似しており、一同、特に大国防衛隊隊員は驚きを隠せなかった。

「希望の勇者!?」
「か、格好は違うけど……あの剣、本物っすかぁ!?」
「でも希望の勇者は否定の魔女によって存在否定されたんじゃなかったっけ!?」

 そう、ログウの言うとおり希望の勇者と呼ばれた架空 空はトレヴィーニによって否定されている筈だ。
 だが目の前にいる男は架空 空と類似していて、尚且つその手に持つ剣も同じ品物のように見える。これで驚くな、と言わない方が無茶である。
 唯一驚いていないポチはハムスターのように頬を膨らませ、男性に怒る怒る。

「ソラ、助けに来るのが遅いよ!」
「すまん、ポチ。これでもかなり急いだ方なんだ」
「僕、死ぬかと思ったんだよ!」
「だからすまんって言っている。さて、ここでひとつお願いがしたいんだがいいか?」
「え? どんな?」
「いい加減空を飛ばないか、ポチ」

 ソラのその言葉を聞いて、ポチは一瞬キョトンとするもののすぐに良い笑顔を浮かべる。

「うん、飛ぶ!」

 直後、ポチの体が眩い光に包まれながら巨大化していく。
 巨大化するにつれて光に包まれた球体から長い首が伸びていき、その両手足もシンプルなものから鋭すぎる太い爪が生えた三本指の太く力強い腕へと変貌する。翼も比例するかのように巨大化していき、結界を押し壊すぐらいの勢いで広がっていく。
 セラピムとフーは同時に魔法を解除して、結界を解く。その際にドラグーンパーツは地に落ちるものの、セラピムがちゃんと拾う。
 結界が解けた途端、あっさりとスーパーマーケットを巨大化で内部から破壊するとポチは己を包んでいた光を解き、その姿を現す。
 純白の毛に全身を覆われ、緑色の巨大な翼を広げ、とても立派で太く力強い両足で地面を踏みしめている。その頭部は球体時同様飛行帽を被っており、角と錯覚しそうな長い耳がはみ出している。飛行帽の下から見えるその顔は西洋龍そのもの。



 ポチは、巨大なドラゴンへと姿へを変貌させた。



 次回「空中大激戦」に続く。


 

  • 最終更新:2014-05-28 00:14:32

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