第二十五話

 辺りを闇夜が支配し、悪夢都市に静けさが宿る。
 防音魔法でも備わっているのか、東エリアで行われている激闘の音は聞こえてこない。
 北エリアのスーパーマーケットにも、西エリアのコンビニにも、獲物がいるのに徘徊する死霊達は近づこうとしない。
 否定の魔女か死霊の王が命じているのかは分からないけれど、休息を必要としている彼らにとってはありがたい。見張りを一、二人程度で立ててはいるものの、それでも休みたいという思いの方が強かった。
 一人を除いて。

 北エリアのスーパーマーケット内部。
 そこでは避難している者達が床にダンボールを敷き詰め、布団代わりにしていて眠っていた。寝心地は悪いものの硬くて冷たい床に比べればまだマシだ。
 電気は全て切っており、時折見える三日月の明かりだけが唯一の光となっている。その為、眠りの妨げになるなんてことはない。
 悪夢都市の一日目がやっと過ぎようとしていた真夜中の事だ。
 一人離れたところで横になって眠っていたウェザーの頭に直接声が聞こえてきた。

『おい、チャンスだぞ。起きろ』

 オルカとは違う男性の声だ。声こそは若いけれども、その荒々しい口調と低くしている音程が台無しにしている。
 起こされたウェザーは重い体を起き上がらせ、横に置いてあった眼鏡をかけながら言う。

「……誰だよ」
『トレの部下の一人。それよりも早くやんねぇのか? ほとんどの連中が寝てるし、チャンスだぞ?』

 その言葉を聞いて、ウェザーは寝ぼけた頭を振ってから辺りを見渡す。
 パッと見た限りでは自分を除いた全員が眠っている。アカービィとログウはスーパーマーケットの屋根に上がって見張り中なので二人はいない。
 自動ドアの方では地上の見張り担当であるセラピムとフーがいるものの、二人とも眠気に負けてしまったのか瞼を閉じている。
 目が暗闇に慣れ、誰が何処にいるのか把握できてきたのと共に自分の目的を思い返す。
 何故ここにいるのか。何故チャンスなのか。何故トレヴィーニの名前が出てきたのか。
 そんなもの、たった一つしかない。……己の手でナグサに苦しみを与える為だ。
 大国に惨劇を与える否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガンを蘇らせておきながら、グリーンズから逃げ出したナグサにその罪を分からせる為に、罰を与える。それが、ウェザーの望み。
 本城でおきた様々な出来事を思い出し、ギュッと右手を強く握り締める。するとその右手の中に浮かび上がるように血染めのナイフが出現する。
 出発前、ホロから渡された武器だ。ホロ曰く「さつがい、かくじつ」らしい。
 この武器がどんな意味を持っているのかは知らないけれど、ナグサに確実に罪を思い知らせる事が出来るのならば何だって構わない。
 ナイフを握り締め、眠っているナグサへとゆっくり近づいていく。
 ナグサは帽子と眼鏡を取って穏やかに眠っている。さっきまで会議に参加していたから、疲れていたのだろう。ミルエの事も心配していたが眠気の方が強く、負けてしまっている。
 その傍らにはツギ・まちとちるが一緒になって眠っている。人形に睡眠欲なんてあるのかと疑問に思うものの、今の状況には好都合だ。
 ウェザーはナイフの柄を逆さに持ち、ナグサに向ける。狙いをナグサに定め、いつでも振り下ろせるようにと両手でしっかりと柄を握る。
 ゆっくりと深呼吸し、体の中に走る焦りを徐々に抑えつける。
 落ち着け。落ち着くんだ。最初の一撃で大打撃を与えないとバレてしまう。口を封じないといけない。二撃目からは連打でもいい。最初の一撃が重要なんだ。
 狙いを定める。確実に相手の行動を止める場所に狙いを定める。
 頬に汗が流れる。ナイフを握る両手も汗ばむ。胸の鼓動が煩くなっていく。
 怖い。
 思い浮かんでしまったその思いに、ウェザーは左右に首を振って否定する。
 何が怖いんだ。僕がやるのは、正しいことなんだ。ここでやらなかったら、意味が無いんだ。覚悟を決めろ、ウェザー!!
 ウェザーは自分にそう言い聞かせ、意を決してナグサにナイフを振り下ろす。
 眠るナグサに刃が突き刺さる寸前でウェザーは咄嗟に目を瞑る。

 直後、横からすごい勢いで飛んできた何かがウェザーの握っていたナイフを奪い取った。

 ウェザーは驚き、飛んできた何かを思わず凝視する。
 その口に血染めのナイフをくわえた何かはというと、真っ赤な瞳と紫色の体が特徴的なシンプルな蛇に類似した奇妙な存在だった。
 何時の間に出現した、と困惑する中で何かはペッとナイフを吐いてその辺に捨てると露骨に嫌そうな顔で不満を口にする。

「まずっ! めっちゃまずっ!! あんなん喰ったら腹壊すどころの騒ぎじゃない!!」

 喋れたのか、これ!? と思わずびっくり。
 いや、それよりも一体これは何だ? こんなもの、一体どこにあったんだ?
 いきなり出現した何かに頭が追いつかず、困惑するウェザーを他所に新たに二つの声が反応する。

「センター、うっせーぞー」
「そんなに不味いの、そのナイフ?」
「そりゃもう壊滅的に。あの魔女関係だから予想はしてたけど、ここまで酷いとは思ってなかった。毒越えてるよ、あの不味さは。レフトとライト、どっちでもいいから位置変わってくんない?」
「俺、左足担当がいい」
「僕、右足担当がいい」

 自分を放っておいて会話を始めちゃう何かと二つの声。
 ウェザーは混乱しそうになりながらも二つの声が聞こえる方に顔を向かせる。
 その方向にいるのは、何時の間にか起き上がってクスクスと妖しい笑みを浮かべているフー・スクレートだった。
 良く見るとナイフを奪った何かとフーの帽子は繋がっている。彼の両足に描かれた顔に類似した模様の口がケタケタ動いている。
 ここでウェザーはやっと気づくことが出来た。
 彼の悪趣味な帽子や両足の模様は笑っているように見えたんじゃない。実際に笑っていたのだ。“己の意思を持って”笑っていたのだ。
 その宿主であるフーは薄ら恐怖を与える笑みを絶やさず、ウェザーに話しかける。

「それがキミの判断なんだね。でもさぁ、本当に正しいと思っているの?」
「……何が言いたい!」
「すぐに自分の口で言う羽目になるよ」

 己を睨みつけてくるウェザーに動揺せず、フーはマイペースで言う。
 直後フーの真横からウェザーの体を後ろから水色の光に帯びた不思議な縄が縛り上げた。
 ウェザーはいきなり出現し、己を縛り上げた縄に驚きながらも慌てて飛んできた方向を見る。
 そこには虹霓の先端から水色の光を帯びた縄を出し、ウェザーをしっかりと見据えているセラピムの姿があった。
 その周囲に眠っていた筈の者達が次々と起き上がっていく。
 そんな中でフーは予想通りと言わんばかりの口調でこう言った。

「だってセンターの不味いコールで皆起きちゃったもん。さっきの大声は酷いにも程があるよね」
「そんなに言うなら喰ってみなよ。世界の不味さ伝説の歴史的大更新といってもおかしくないぐらいのウルトラ級だったんだからさ」

 センターがフーの文句に言い返すものの、フーはどうでもいいので無視。
 一方でクレモトはウェザーを眺めながら棒読み口調で驚いたように言う。

「雰囲気から見て何かやらかすのは予想してたけど、まさかナグサ君殺害だったとはね。これはたまげたものだよ」
「……クレモトさん、めっちゃ棒読みなんすけど。もしかしてこの展開予想してました?」
「ぶっちゃけるとかなり最初の時点で」

 絵龍の指摘に頷き、あっさり暴露するクレモト。絵龍、思わず呆れる。

「ウェザー君……」

 セツはとても悲しそうな表情でウェザーを見ている。
 その視線に耐え切れず、ウェザーはセツから顔を背ける。

「殺すの? ナグサ、殺すの!?」
「どうしてですか! ナグサ君の後輩っていうのは嘘なんですか!?」
「~~~!!」

 ポチとちるとツギ・まちがウェザーに向かって叫ぶ。
 耳を塞ぎたいと思うけれども、セラピムによって拘束されてしまっているから無駄なこと。

「……一体どうして」
「さぁね。ただ憎しみの大きさは今でも凄い伝わってくるけど」

 マリネが黙ってアクスの前に立ち、彼女を守れる体制になっている。
 アクスはただ困惑した表情でウェザーを見つめている。ケイトはウェザーの憎しみを読み取り、呟く。

「……ウェザー」

 そして、ナグサはウェザーを見つめていた。
 その瞳から感じる思いは困惑と失意と怒りと哀しみと、本当に様々な複雑な思い。

 見るな。
 自分を見るな。
 その目で見るな。
 そんな哀れむような目で、自分を見るな!!

 ウェザーの心にナグサへの恨みと憎しみが蘇る。
 ウェザーはナグサの目に耐え切れず、大声を上げた。

「そんな目で、そんな目で見るな!! 魔女を復活させて、クウィンスさんを見捨てやがった張本人がボクをそんな目で見るんじゃねえええええええええ!!!!」

 魔女復活の単語を聞き、知らなかった者達がいっせいにナグサを見る。
 何故それを知っているんだとナグサが驚愕する。
 だがウェザーはそれを無視して叫ぶ。己の思いをぶちまけるかのように叫び続ける。

「ナグサ兄さん、あんたは悪魔だ。悪魔なんだ! 悪魔の説教なんて受けるものか!! 魔女を蘇らせておいて、逃げ出して、挙句の果てにはクウィンスさんを見捨てて魔女に心を売らせてしまった!! その結果がこれなんだ。この惨劇なんだ!! 何万人もの死者が出た。あんたのせいだ。サザンクロスタウンがナイトメアシティに変貌したのは全部あんたのせいなんだ!! あんたが、ナグサ兄さんがモーガンを……トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガンを蘇らせなければこんな惨劇にはならなかったんだよ!! 償え。死んでその罪を償え。この最低最悪の糞野郎がッッッ!!!!」

 ウェザーの叫びはスーパーマーケット全体に響き渡った。
 怒涛の勢いと共に乗せた恨みと憎しみのその叫びに、誰も何も言い返せなかった。けれども理解してしまった。大国防衛隊隊員とその関係者だけでなく、魔女の大国襲撃の詳細をラルゴから教えられた者達全てが理解してしまった。
 ウェザーはそれほどまでに追い詰められてしまっていたのだと。
 飛燕に敗北してしまい、クウィンスが魔女に心を売ったと知ってしまい、ラルゴには切り捨てられてしまいナグサが復活の真犯人だと誰かに告げられてしまい、歪んでしまったのだと。
 何の解決にもならないというのに、ナグサを憎まずにはいられないほどに傷つけられてしまったのだと。

「……ウェザー」
「聞きたくない! あんたの声なんて聞きたくない!! 死ね。死んぢまえ。この世に生きる事を否定してやる! さっさと死にやがれ!!」

 ナグサの声すらも拒絶し、ウェザーは叫ぶ。死ねと叫ぶ。己の憎しみのままに叫ぶ。泣き叫ぶ。
 それは哀れな子供の駄々にも見えた。だけども誰も責めようとしなかった。誰が死ねと泣き叫ぶことしか出来ない傷つけられた哀しい子供を責める事が出来る?
 もしかしたらこの中には出来る者もいるだろう。けど誰もしようとしない。可哀想と思っているのか、それともやる意味が無いと思っているのかは分からない。
 ただ、今のウェザーに安易な言葉をかけても無駄だとしか分からなかった。
 誰も言葉をかけれなかったその時だった。

「……死ね、ってそう簡単に言っていいものじゃないですよ」

 セツが、口を開いたのは。
 ウェザーはそれを聞いて、馬鹿にしたような顔で怒鳴りつける。

「……は? 何言ってるんだよ、お前。それ以外にどうしろっていうんだよ。ナグサ兄さんがトレヴィーニをこの世に蘇らせたんだぞ! ナグサ兄さんのせいで惨劇になったんだぞ!! こんな罪、死ぬ以外にどう罰することができるんだよ? お前にはそれが分かるのか。分かるのか!?」

 セツは首を左右に振り、ウェザーをしっかりと見据えながら己の思いをぶちまける。

「分かりません。けど! ナグサさんが死ぬ理由にはならない!! 魔女を蘇らせたから殺せ!? それでどうにかなるわけないでしょうが!! それに、後悔する。ウェザー君が死ぬまで後悔する!!」
「するもんかっ!! してたまるものかっっ!! それともボクが後悔するって断言できることでもあるのかよ!?」
「大国を相手にクウィンスさんを助け出そうとして傷ついたウェザー君が……ナグサさんの死の重さに耐え切れるっていうんですか!!」

 声が枯れてしまいそうなぐらいの叫び声をあげて反論するウェザーだったが、セツの叫びに一瞬言葉を詰まらせた。
 脳裏に不安が走る。もうあの頃には戻れないんじゃないかという不安が走る。
 憎んでいる。恨んでいる。殺してしまいたい。だけどそれは心の底から思っている事なのだろうか?
 ウェザーの心が揺さぶられる。己の矛盾に揺さぶられる。
 だがウェザーは無理矢理ナグサへの怒りと憎しみを呼び起こそうとしながら、セツの叫びを駄々をこねる子供のように拒絶する。

「……うるさい。うるさいうるさいうるさい!! 何で、何でそこまでして止めるんだよ!!」
「友達になりたいからです!!」

 セツの答えは単純明快だった。
 ウェザーは目を大きく見開いて、セツを凝視する。
 セツはウェザーを見つめていた。その目から「助けたい」「救いたい」「殺さないで」といった想いがひしひしと伝わってきた。
 ウェザーは理解できなかった。
 出会った当初からセツが友達思いなのはセレビィの事もあって良く知っていた。先ほどの会議でユニコスがキング・ダイダロスに乗っ取られたと聞いた時は凄いへこんでいたのも見たし。
 そもそも自分達は偶然出会って成り行きで同行していただけで、仲良しじゃなかった筈だ。
 赤の他人とまでは言わない。でも友達とまではいえなかっただろ? それなのに、一体どうして? どうしてボクと友達になりたいなんて、今言うんだ?

「僕は……ウェザー君が悲しむ事にはもうさせたくないんです」

 セツは一転して今にも泣き出しそうな顔をして、呟く。
 ウェザーは何を言えばいいのか分からなかった。ただ、心が痛かった。
 周囲の者達が黙って見守る中、ナグサがゆっくりと口を開き、ウェザーに尋ねた。

「ウェザー。僕は大国で起きた事はニュースでしか知らないし、さっきラルゴさんから聞いた話でも一体何があったのかまでは把握しきれていない。……だから聞くよ。君が立って歩けないぐらいに傷ついていたその時、本当に魔女達にしか縋りつく事が出来なかったの?」

 その言葉を聞いて、ウェザーはハッとする。
 ラルゴに切り捨てられ、精神の傷が深くなっていたその時現れたのはトレヴィーニの部下であるホロ。ホロはウェザーに手を差し伸べた。ウェザーはその手をとった。
 その時、ホロが差し伸べた道しか無かったのだろうか? ホロしかいなかったのだろうか?
 違う。己の横には、セツがいた。
 ラルゴの無茶苦茶な判断によって同行する羽目になったとはいえど、彼は自分同様置いていかれた。セレビィやユニコスの事もあって傷ついていて、それに追い討ちをかけられていた筈だった。
 だけどセツは、自分のようにはならなかった。だけど、自分と共に来た。何故か?
 答えは簡単。フラフラで立つのがやっとな自分を正しく支える為。魔女を支えにして歩こうとしている自分を止める為。

 ウェザーの瞳から、涙がこぼれた。

 ウェザーはやっと自分が何をしようとしていたのかちゃんと理解できた。
 己自身の手で兄と慕っていたナグサを殺そうとしていたのだと。己の真の望みを亡きものにしようとしていたのだと。
 ウェザーの望みはナグサに苦しみを与える為、殺す事じゃない。
 ウェザーの真の望みは平和な時を戻したかっただけ。図書館で三人で談笑する時を取り戻したかっただけなのだ。一年前は日常と思っていた最も尊重すべきその時を未来にも続けたかっただけなのだ。
 その為に飛燕に戦いを挑んだんじゃないか。ラルゴの誘いに乗ったんじゃないか。クウィンスを救い出す為に本城まで行ったんじゃないか。
 それを裏切りで心に傷をつけられたって理由で、ナグサへの逆恨みに変えてしまった。
 最も憎むべき否定の魔女の掌の上で踊らされながら、ナグサを殺そうとしていた。そんな事をやっても、何の解決にもならないというのに。

「……ごめんなさい」

 ぽつりと、ウェザーの口から謝罪の言葉がもれる。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!」

 ウェザーは己が犯そうとした罪を受け止め、泣きながら謝った。ナグサに対する殺意はもう無かった。
 謝るウェザーを黙って見ていたセラピムはホッとした顔になり、彼を縛らせておいた縄を消す。
 縄が消え、ウェザーはその場にへたり込む。
 ナグサとセツが彼の傍まで駆け寄る。
 ウェザーは駆け寄った二人に抱きつき、謝りながら泣いた。二人はウェザーを宥めながら抱きつかれたままでいた。

「良かった……。本当に良かった!」
「うん! 良かった良かった!」
「♪♪♪」

 ちる、ポチ、ツギ・まちが喜びの声を上げる。

「……絵龍ちゃん、泣いてる?」
「いや、えと、その……リアルでこういうの見ると初めてでして」
「それならそれはとても幸せな事だよ」

 その光景に感動して涙を流す絵龍に対し、クレモトは微笑む。

「なぁ、フー。これはどうだったの?」
「まさか予想してましたーって言わないよね?」
「アンダーの能力で二人の心読み取ってたからといっても、未来まで読めるわけじゃないっしょ?」
「想像にお任せするよ」

 両足と帽子の装飾品の疑問に答えず、マイペースなフー。

「綺麗な友情パワーだねぇ。まぁ、俺とマイハニーはそれ以上を……」
「馬鹿。今は空気読んで黙ってよ」
「同感。羨ましがるのは別にいいけどさ」

 マリネが少々空気読めない発言をしかけたものの、アクスとケイトに注意されてしまった。

 真夜中の騒動が終了しようとしたその時、自動ドアの外をセラピムがふと見ると共に上で見張っていたログウが大慌てで降りてきた。
 外の光景を見たセラピムは驚愕しながらも一同に振り向き、ログウは大急ぎで一同に駆け寄ると同時に切羽詰った声を上げた。

「「ダイダロスの軍隊がこっちに向かってきている!!」」

 ダイダロスの軍隊と聞き、いっせいに一同が自動ドアの外を見る。
 かなり離れているものの、それは肉眼で捕らえることが出来てしまった。
 鋼の鎧兜を身に纏い、その手に槍を持った無数の軍隊が。己達に向かって行進してきているダイダロスの軍隊が。

「うそおおおおおお!!!??」
「こんな時に攻めるか、普通!?」
「戦略としては間違ってないよ。性格ものすっごく悪いけどね!」
「それよりも急いでここから離れよう! あの数だと全滅される!!」

 ダイダロスの軍隊に驚愕しながらも、一同はやってくる危険を回避する為に逃げ出す準備を行う。
 その時センターによって放り投げられていた血染めのナイフが突然宙に浮き、その刃から真紅の衝撃波を出してナグサとセツをウェザーから突き飛ばす。
 ウェザーや一同が驚き戸惑う中、血染めのナイフはチャンスと言わんばかりに再び真紅の衝撃波を出してウェザーを自動ドアまで弾き飛ばす。
 弾き飛ばされ、自動ドアに背中がぶつかってしまいその場に崩れ落ちるウェザー。
 セラピムがウェザーに駆け寄ろうとするものの、血染めのナイフが間に入ってきてセラピム目掛けて真紅の衝撃波を出して彼女を壁まで弾き飛ばす。
 血染めのナイフの行為にフーは何かを察したのか、ナイフによる衝撃波攻撃が来る前に自動ドアからすぐさま離れる。
 自動ドアの前にウェザーしかいない状態になると血染めのナイフは光の粒子となって消えていった。
 背中を強打しながらも、痛みにこらえながらウェザーは立ち上がって皆の下に戻ろうと顔を上げる。



 直後、ガラスが割れてウェザーの額を銃弾が貫いた。



 血塗れた銃弾は床にめり込んで止まる。
 ウェザーは額から血を流しながら、再びその場に崩れ落ちた。
 あまりにも呆気ないその死の瞬間を見て、ナグサは悲鳴にも似た叫びを上げた。

「ウェザアアアアアアアアアア!!!!」

 ウェザーからの返答は、無い。
 当然だ。突如として上空から飛んできた銃弾によって、ウェザーはたった今殺されたのだから。

 ■ □ ■

 北エリア上空。
 サイレンサー付のスナイパーライフルを下に見えるスーパーマーケットに向けたまま、その人物はディミヌ・エンドから渡されたエアライドマシンのワープスターに乗っていた。
 その人物は合図が出された為、計画通りに発砲した。合図が起きたら、自動ドアの前で一人だけ立っている奴を撃ち殺せという命令を実行した。
 誰だったかは良く確認しなかったものの、女神である否定の魔女の命令に比べればどうでもいいことだ。
 後はキング・ダイダロスとモザイクの指示により、戦闘に手馴れた者がダイダロスの軍隊を率いて襲撃するだけ。
 西エリアも手段こそ違うだろうが、今頃ダイダロスの軍隊が押し入っている頃だろう。
 だけどその人物からすればどうでもいいことだ。彼女に与えられた最重要任務はたった今、終了したのだから。

 質問:その人物はどういう人物?
 第一解答:アノ+カスがどこのエリアにいるかは把握できても、詳しい位置が分からなかった人物。
 第二解答:どんなに遠く離れた場所だろうが、どんなに足場が悪かろうが、正確に敵を撃ち殺せる人物。
 第三解答:ウェザーの「ナグサに苦しみを与える」という願いを叶えるのに最も適した人物。
 総合解答:否定の魔女に心を売り渡してしまった、ナグサとウェザーの恩師クウィンス。
 まとめ:クウィンスがウェザーを撃ち堕とした。

 ■ □ ■



第二十五話「あなたを撃ち堕とした日」終了。


 

  • 最終更新:2014-05-28 20:32:56