第三十六話「旅人のクゥと一休み」


 三日月島にて生還者達が泊まっているホテル。その内の一室――ナグサの部屋。
 そこでは救出されたシアンと彼女の奪還に関わった九名、それから途中から加わったケイト。そして、ナグサに会いに来たといった謎の旅人クゥが円を描くような形で集まっていた。
 誘拐犯との戦闘に関して全てを聞き、クゥの目的なども聞いた実質的まとめ役ナグサはクゥに顔を向けて言う。

「……とりあえず君が否定の魔女の部下でも誘拐犯の一味でもなく、ただ純粋に僕に会いに来たということは分かった。でもってシアンちゃんとダム・Kを助けたのも、放っておけなかったからというのも分かった」
「やっと信用してくれて助かるよ」
「君が何者なのか、証拠を持って話してくれればもっと信用するけどね」
「証拠無しで信じてくれたじゃん」
「君が無実だって事は君の自信が口にしてたからね。今は信じる事にさせてもらうよ」

 見た感じでは穏やかに話しているものの、ナグサとクゥは両名共に腹を探り合っているように見える。少なくともナグサはクゥの本心を見抜こうとしている考えが見え隠れしている。
 確かにいきなり現れ、シアンとダム・Kの危機を救ったクゥは不可思議な存在で警戒するには十分だ。
 クゥ本人は否定の魔女とも誘拐犯の一味とも無関係と断言しており、シアンから聞いた情報から察するに少なくとも後者の関係者ではなさそうなのも明らか。
 だがどこまで真実かどうかは分からず、クゥに関しては議論がループしてしまうばかりだ。
 このままでは拉致があかないと今まで黙って眺めていたナースがため息をついて、口を挟む。

「ナグサ君にクゥちゃん。疑い合うのは良いけど話が進まないわよ?」
「あ、すみません」
「はーい」
「とりあえず今までの話を纏めちゃいましょう? ミラリムちゃん、お願いしてもいいかしら?」
『了解したのだわ』

 そのまま指揮権を握ったナースが話を進める為、赤薔薇状態のミラリムに声をかける。
 赤薔薇は紅茶を飲み終え、皿の上にカップを置くと指を立てて軽く回す。すると薔薇装飾がされた魔法の鏡が出現し、鏡の表面には三人のカービィが映っていく。
 一人はタービィ達が戦った二つのバンダナで身を隠し、眼鏡をかけた無口そうな青色の男。
 一人は灰色の髪を生やし、右目に包帯を巻いているけど子供っぽさを残した顔の吸血鬼。
 一人は大きなお椀を頭に被り、背中に刀を背負ったどこかチャ=ワンと似た面影のある侍。
 最後の侍の姿が出てきた時、チャ=ワンの表情が一瞬複雑そうなものになるものの悟られる前にすぐに戻す。
 それに気づかなかったナースはどっからか取り出してきた棒で鏡に映った三人を指していく。

「まずは各自戦った相手の分析。まず私達が戦ったのは骨を操る能力を持つ無口眼鏡。ミルエちゃんとケイト君が戦ったのは子供っぽさが残る吸血鬼、名前はギンガ。でもってでっかいお椀で移送してたのはチャ=ワンに似た夜明国の生き残り、名前はオ=ワン。これらが同組織の可能性は非常に高く、尚且つ否定の魔女関係者ではないのは全員分かっているよね?」
「うん!」
「はい!」
「(こくこく)」
「それらから統合すると出てくるのは骨の能力者が口にした「反乱軍」という存在。オ=ワンは魂を操るカーベルの歌を知っているシアンちゃんが必要と言っていたし、ギンガとの繋がりもあるのは証言でハッキリしている。……この事から敵対勢力が増えてしまった」

 順番に仲良く頷いていくミルエ、ちる、ツギ・まちの後に続くように、ナグサがナースの続きを話していく。
 シアンは己の名前が出てきた事により体をびくつかせるものの、タービィが彼女の背中をさすって宥めさせたので深呼吸しながらもすぐに落ち着いた。

「三つにか?」
「いや、四つ。天空王国スカイピアの情報はクレモトさん達から聞いてるし、ヘッドライン覗いてみたら案の定スカイピアの事で大騒ぎになってたよ」

 オリカビヘッドラインはテレビ・ラジオ・インターネッドなどを使い、大国全体に最新ニュースを送っている大規模な情報会社だ。
 それだけでなく大型掲示板も営んでおり、色々な方向性でにぎわっている。ここでの反応を参考にしている企業も数多く存在しているぐらいだ。
 ナグサは繁華街にあるネットカフェを使用し、オリカビヘッドラインをアクセスしてココ最近のニュースを調べた。そこで判明したのは八百年前存在した天空王国スカイピアの復活とレッドラムが水晶漬けにされたという二つの衝撃的なニュースであった。(サザンクロスタウンが悪夢都市化している大ニュースはこの身で味わった為、スルーした)
 後者に関して口にしないのはレッドラムの守護担当の一人であるドンの一人娘がミルエだと発覚した為。今、ここで下手に口にして彼女を傷つけるわけにもいかない。
 それよりも重大なのは復活したスカイピアの方だ。ナグサもこの国についてはどれほど危険な国なのかも良く知っている。
 話を聞いていたケイトはナグサの言った四つの勢力について簡単に纏める。

「つまり現在勢力は否定の魔女打倒を目論むナグサ一行、第二次世界大戦を目論む否定の魔女一派、魔女復活の混乱に乗って帝国を乗っ取ろうとする反乱軍、八百年前と同じなら地上征服を企んでいるだろうスカイピアの四つ。今回の件で僕らは魔女一派だけでなく、反乱軍とも敵対しなければならなくなった。そして否定の魔女が関わっているだろうスカイピアも放っておく事は出来ない」
「うん。その件も含めて本城に行く時は交渉しようと思ってる……って待った。ちょっと待った。何でナグサ一行なんだ?」

 ナグサがケイトの纏めに同意した直後、おかしな部分に気づいて指摘する。
 すると誰もがナグサに振り向いて「何言ってんだこいつ?」と言いたげな目をした。全員から凝視され、ナグサは自分が変なこと言っちゃったのかと困惑する。でも自分は当然の疑問を口にしただけであり、特におかしなことを口にした覚えは無い。
 そんなナグサに対し、痺れを切らしたのか一同が一斉に口を開いた。

「ナッくん、自分の行いに自覚なし!?」←ミルエ
「!? ?!」←ツギ・まち
「ツギ・まちが人形屋敷とサザンクロスタウンの活躍を忘れたのかと怒ってるよ!」←ちる
「今まで話を纏めたり、冷静にナビしたりしてたのはどこのどいつぜよ?」←タービィ
『私が貸してあげた鏡からちゃんとナビしてたのだわ』←ミラリム
「軽トラで空を飛んだり、魔女に喧嘩を売る者はお主以外におらんでござる」←チャ=ワン
「……否定の魔女復活の真犯人でありながら、否定の魔女を倒すと本人に言い切った人が何言ってるの?」←ケイト
「大体その年であの人数を纏め上げたりしてるんだし、十分リーダーの素質ありよ」←ナース
「要するに、あんたがリーダー」←シアン
『以下同文』←ダム・K
「大体そうじゃなかったら、直々に来ないって……」←クゥ

 一斉に言い切られ、ナグサ撃沈。
 どうやらナグサ以外の彼等にとっては物凄い今更の話で現時点でのリーダーはナグサしかいないようだ。
 大国防衛隊のコーダさんとかいるだろ! 他にも仕切れる人たくさんいるだろ!
 内心ツッコミをぶちかましたい気持ちだったが人数も多いし、話も進まない為あえてスルー。何か負けた気がする。

 ■ □ ■

 ナグサ達がシアン誘拐事件の事について話し合う中、クゥは一人思う。
 なんとまぁ、面白い運命の人々なのだろうと。
 皮肉な事に全てを否定する力を持った黄金と純白の闇と謳われる破壊の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガンが織り成した事実から出来た道筋とはいえど、彼等はそれに挫けず歩いていっている。
 始まりはダイダロスで満ちてしまったサザンクロスタウンなのだろうか?
 始まりは否定の魔女を裏切ってしまった勇者の女への復讐からなのだろうか?
 始まりは一筋すぎる想いから物の怪と化した少女のお屋敷なのだろうか?
 いいや、違う。 始まりは空間の神イクステオと時間の神レガナ=ノキトが呟いていた。
 クゥはその時の事を思い返す。

『『運命の打開者が銃の戦乙女と壊れた図書館で出会った時が、この物語の始まり』』

 ソレに対し、クゥは世界大戦の時では無いのかと問うた。

『いいや、違う』
『あの戦いは既に終結している。少なくとも否定の魔女本人にとっては世界大戦という名の物語は一度完結している』
『だからこの戦いは新たなる物語。否定の魔女が待ち望んだ新たな戦いの物語』
『クゥ。この事から君に一つの事を願おう』

 それは何でしょうか。

『運命の打開者に問うてほしい』
『その思いは決して揺らがないものなのかと』

 つまり、ナグサを彼に会わせればいいのですね。

『『そうだ』』

 分かりました。すぐに三日月島へと向かいましょう。

 そう答えて、クゥはここまでやってきた。
 ただその最中で誘拐事件の真っ只中に遭遇し、しかもその誘拐事件を通じてナグサに遭遇できるとは予想外だった。
 否定の結界を簡単に無視できるマナ氏越しに探してもらおうと思っていた為、手間が省けた。しかも彼がどういう人物なのかもこの会議を通して読み取る事が出来たし、色々と調べる為の時間も消えた。
 ならば後は会議が終わったのを見計らい、ナグサに自分の本題を伝えて彼に後を任すだけだ。
 その間は幾つか気になる事も聞いておこう。
 クゥは会議後の事を考え終わると、ただこの会議が進んでいくのを黙って聞いていった。



次回「ナグサ・イン・フォギーワールド」

  • 最終更新:2014-05-29 18:28:39

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