第三十二話「ナグサとトレヴィーニ」


 窓から入ってくる眩い日光が明るく照らすのは西洋の王族かと連想してしまいそうな豪華な一室。
 部屋の中央には蝶の模様が描かれた金色の丸いテーブル。その上には紅茶が入れられた銀色のティーセット。
 テーブルを囲むように数名の顔が無い召使達が微動もせず、ただ主の命令を待ち続けている。
 そのテーブルに座って、ただ席を立ってしまったお茶会の主を黙って待っているのは三人。
 その内二人は否定の魔女を封印した魔道書を盗んでしまった張本人。
 その内一人は魔道書の封印を解いてしまい、否定の魔女を蘇らせてしまった張本人。
 そしてこのお茶会を提案した主は、

「すまんな。キング・ダイダロスの後始末をしていたら遅くなってしまったよ」

 否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガン張本人。
 どんなに小さな穢れも受け付けない純白の美貌と花嫁衣裳を身にまとい、真紅の瞳がその白さをより一層引き立たせる。
 その美しさは無数の花束や数え切れないほどの宝石、金品なんかでは絶対に勝つことなんて出来ない。否、どんなに己の美しさに自信があろうとも彼女を前にしてしまっては自分が無意味だと自覚してしまう。
 それほどまでにこの魔女は美しすぎる。彼女がそこにいるだけで、人々は心を奪われてしまうぐらいに美しすぎる。
 けれども美しさだけではない。彼女のその美貌の裏側には何者も太刀打ちできないほどの魔力と事象を歪ませる「否定」の力が存在している。
 その力は神々でさえも傷つけられてしまうぐらい、世界大戦で災厄の事件を起こし続けられてしまうぐらい、それほどまでに強すぎて酷すぎて人々の心にトラウマを植えつける。
 だからこそ否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガンは封印されていた。
 しかし、お茶会を共にする三名によって彼女はこの世に舞い戻ってきた。

「そのついでに他の幻想空間も見に行ってきたが、ここを除いて全て完了していた。残るは妾と汝等のみだ。ナグサ、ミルエ・コンスピリト、ツギ・まちよ」

 トレヴィーニは席につきながら、己が招いた客人三名――ナグサ達に言う。
 その報告を聞いたナグサはトレヴィーニに確かめる。

「早いのは幻想空間によって時間の流れが違うから?」
「そうだ。ここは一番時間が遅いからな、のんびりできるものだよ」
「個人的にはしたくない」
「ナッくんと同じく」
「(こくこくこく)」

 トレヴィーニの軽口に対し、ナグサがキッパリ言い切ってミルエとツギ・まちが同意する。
 その様子を微笑ましそうに眺めながら紅茶を一口飲む魔女。
 優雅に皿の上にコップを置き、トレヴィーニはさっきとは打って変わって真剣な顔つきで三人を見渡す。

「さて、妾が汝等をこのお茶会に招いた理由は貴様等の意思を聞きたいからだ。つまらぬ理由ならば、即刻この場で存在を否定しよう」
「意思……?」
「そうだ。貴様のようなちっぽけな存在が、この否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガンと敵対する意思。そしてその目的だよ」
「それはお前を目覚めさせたのが僕の責任だから……!」
「違うな。それはクウィンスが貴様に命じた事であり、貴様個人の目的ではない」

 ナグサが答えるけれども、トレヴィーニはキッパリと否定する。
 あまりにもハッキリ言われてしまい、ナグサは咄嗟に言い返せなかった。
 トレヴィーニはナグサの返事を聞かず、静かに言葉を続けていく。

「ナグサよ、妾は貴様の答えが知りたいのだよ。妾は貴様が敵対するに値する男かどうか知りたいのだよ。……それとも何か? 妾のしもべと化した女の戯言に従うだけの馬鹿者だというのか?」
「クウィンスを侮辱するな!!」

 クウィンスを侮辱する発言を聞き、ナグサは勢い良く机を叩いて怒鳴り込む。
 怒鳴ったナグサをミルエとツギ・まちが慌てて宥める中、トレヴィーニは驚きも怯みもせず、再び紅茶を飲みながら平然とした様子で挑発する。

「妾のしもべを侮辱して何が悪い? 心弱き娘を侮辱して何がおかしい?」
「お前、いい加減に!!」
「ウェザーを殺した張本人を侮辱して何がいけない?」
「……え?」

 トレヴィーニの最後の発言を聞いて、ナグサは耳を疑った。
 クウィンスが、ウェザーを殺した張本人……?
 嘘だと思った。確かにラルゴから聞いた大国への襲撃事件の際にクウィンスはトレヴィーニ側に裏切ったと聞いたし、ウェザーもそれに関わっている事も知っている。
 それでも、それでも、真実だと思いたくなかった。
 だがトレヴィーニはナグサの心中を無視し、ハッキリ言い切った。

「キング・ダイダロスが口にしていただろう。ウェザーを殺したのはクウィンス自身だとな」

 それを聞いて、全員が散り散りになる寸前の事を思い出す。
 確かにキング・ダイダロスが言っていた。ウェザーを殺したのは恩師でもあるクウィンスだと。
 あまりにも残酷すぎる事実にナグサは憤怒と悲しみが一気に湧き出てきて、テーブルにかけられたクロスを力強く握り締め、血がにじむぐらい唇を噛み締めながらトレヴィーニを睨みつける。
 その光景にトレヴィーニは挑発もせず、ただ紅茶を飲むだけ。
 ナグサが怒りをぶつけようと立ち上がって口を開こうとしたその時、ツギ・まちが勢い良くナグサの背を引っ張っる。
 引っ張られたナグサはそのまま反動で椅子に座ってしまうどころか、勢いがつきすぎて椅子ごとこけてしまう。
 召使の一人が椅子を直し、後頭部を派手に床にぶつけて痛がるナグサを別の召使が起こそうとするもののミルエが椅子から降りてナグサの前に行って手を差し伸べる。
 ナグサはミルエに気がつき、彼女を見つめる。ミルエはにっこり笑って手を差し伸べている状態だ。
 その笑みを見て、ナグサはキョトンとするものの言いたい事に気づいたのか軽く深呼吸してから彼女の手をつかんで立ち上がる。ナグサが立ち上がると二人は共に己の椅子に戻る。
 未だ返事を待ち続けるトレヴィーニに対し、ナグサは漸く口を開く。

「一個質問する。……キング・ダイダロスの助言が無くても、ウェザーを殺す気だったのか?」

 ナグサは落ち着いたのか先ほどの荒ぶる様子は無い。
 トレヴィーニは質問に答えるだけだ。

「そうしないと使えない駒だったからな。それに妾に対する敵対心も強いし、不安定すぎたのだよ。だから……オマケ程度にな」
「オマケ?」
「本命は氷の鬼神だったのだよ。しかしホロが忍び込む際、色々とバレた後だからプランを変更したわけだ。増倍の魔女の能力についてもう少し調べてみたかったのだが、それも今では過ぎたこと。今は貴様に精神的ダメージを与えられたから不満は無いさ」
「……! ウェザーはそんな事の為に……!!」
「妾は貴様の意思を知りたいからこそ、殺したのさ」

 再び怒りがこみ上げてくるナグサに対し、トレヴィーニはどこからともなく白の扇子を出現させると勢い良くナグサに向ける。
 そのまま否定の魔女は己を蘇らせ、尚且つ敵対する彼に向かって問い詰める。

「問おう、ナグサよ! このトレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガンをどうしたい!! 殺したいか、滅ぼしたいか、封印したいか! 妾が奪った命の仇をとる為にか、無数の心を壊した者を殺す為にか、人々を救う為にか、貴様の思うがままに答えてみせろ!!」

 同時に否定の魔女から無限に溢れ出る黄金の魔力。
 その魔力が出現した途端、この部屋から三人に空気が全て無くなった感覚に陥る。視点が定まらなくなる。全ての方向から重力がかけられていく。吐き気がしてくる。頭痛がしてくる。考えるのが苦痛になっていく。
 自分だけじゃない。部屋にヒビが入る。召使達が風船のように割れていく。テーブルが歪み出す。ライトが点滅する。この空間が壊れていく。
 他ならぬ否定の魔女トレヴィーニの手によって。
 ナグサは一刻も早くこの苦しみから解き放たれる為、答えようとして口を開いたその時だった。

 トレヴィーニの眉間に銃弾が撃ち込まれたのは。

 銃弾を喰らったトレヴィーニは椅子から滑り落ち、床に倒れこむ。
 同時に黄金の魔力も消えて、空間が一気に安定する。全ての損傷は消え、召使も復活する。
 ナグサとツギ・まちはまともに息が吸えるようになって一安心しながらも、大胆にもトレヴィーニを撃った張本人であるミルエに顔を向ける。
 ミルエは煙が先端から漂わせる白銀の拳銃をトレヴィーニの座っていた場所に向けながら、倒れこんでいる否定の魔女に向かって問いに答えた。

「先にミルエが答えるよ。……ミルエはナッくんが大好きだから一緒に行く。ミルエはナッくんや皆を傷つけるお前が大嫌いだから、滅ぼす! だからその煩い口と魔力を暫く閉じてろ!!」

 ミルエは心底嫌悪した顔と口調で倒れたトレヴィーニに怒鳴りつけると拳銃をおろしてナグサに顔を向ける。
 いきなり撃ったミルエにナグサはまだ困惑している。
 そんなナグサに対し、ミルエはにっこりと子供のような笑顔を浮かべて元気付ける。

「否定は阻止しましたっ!」
「はぁ?」
「だってさ、アレって誘導だったじゃん。ナッくんの答えを聞きたいからってあんな急かし方は無いよね」

 にこにこ笑って説明するミルエにナグサは確かにと納得する。
 先ほどのトレヴィーニのやり方では確かに命の危機があったものの存在否定される可能性があった。
 あの状況下では仕方ないだろ、と言いたくなるけれどそれはあくまでもナグサの立場だから言えること。トレヴィーニは魔力を放っただけであり、そんなものは一切関係ない。
 だから下手な答えを出していたら、トレヴィーニの機嫌を損ねて消されていただろう。
 あんな状態の中、トレヴィーニに銃弾をぶちこんだミルエに感謝しながらもやっぱり凄いと思うナグサ。自分一人だったらまず最初の時点で消されていただろう。
 ミルエは空いた左手でナグサの頬に触れ、微笑みかける。

「ナッくん、焦らないで。魔女の言葉に揺さぶられないで。……ミルエとまっちんが一緒にいるから、安心してナッくんの本当の意思を見つけて」

 その後ろからツギ・まちがナグサの頭を帽子越しに撫でてくる。
 二人ともナグサを元気付けてくれているのが分かる。
 何よりも恐ろしい存在である否定の魔女が相手だというのに、二人は全く恐れる事無く堂々としている。
 その姿にナグサは心が落ち着いていく。己の本当の答えを導いていけていく。

 どうして自分はミルエとツギ・まちと一緒に旅に出たのだろうか?
 それはクウィンスに責任をとれ、と言われて否定の魔女封印を目指して旅立ったから。
 だけど今はどうだ。今の己の気持ちはどうだ。クウィンスに言われたから、トレヴィーニ再封印を目指すのか。
 しかしトレヴィーニはそれを許さない。いや、もしも封印出来たとしても今回と同じように蘇ってしまうかもしれない。そうなってしまったら、未来に押し付けてしまうだけになってしまう。
 そうなってしまえば前回の世界大戦や、今回のように無数の死者が出てしまうだろう。傷ついていく人々が絶たなくなるだろう。悲しみに嘆く人々が増えていくだろう。愛しい人ともう会えなくなってしまうだろう。
 己の大切な人であるクウィンスの心が折れてしまい、トレヴィーニが蘇った事による連鎖反応でウェザーが死んでしまった以上、最早封印するだけでは意味が無い。
 自分が蘇らせてしまった災厄の象徴である否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガンはこの世に存在してはいけない。彼女が少し動いてしまえば、無数の人々が死んでいってしまう。
 誰かにとって大切な人々が、自分の大切な人と同じように散ってしまう。
 そんなのは――もう嫌だ!

 ナグサは己の本当の答えを導き出し、トレヴィーニに体を向ける。
 トレヴィーニは何時の間にか椅子に座っていた。銃弾を喰らっていた筈なのだが全くの無傷。先ほどと全く変わらない態度で扇子で己を仰ぎながら、ナグサの言葉を待っていた。
 少し深呼吸をした後、ミルエとツギ・まちの二人を交互に見る。ミルエとツギ・まちは強く頷く。
 ナグサは二人の肯定を見てから、トレヴィーニと向き合って答えを口にする。

「僕の目的は責任を負う為にトレヴィーニを滅ぼす事。僕がトレヴィーニ、お前を復活させてしまったせいで無数の死者が出た。セントラルタウンとサザンクロスタウンの両方でどれだけ傷つき、死んでいったのかは僕には検討もつかない。だけど、これだけは言える」

 相手は絶対なる力を秘めた純白の花嫁衣裳を纏う否定の魔女。

 けれどもナグサは全く恐れる事無く、彼女を勢い良く指差して戦いの啖呵を切る!

「否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガン! お前はこの時代で絶対に滅ぼしてやる!! お前を蘇らせてしまった僕がお前を滅ぼすことで、全ての責任を背負ってやろう!!」

 己の同行者達に支えられ、物語の引き金となった男の目は真剣そのもの。魔女を滅ぼすと硬く決意し、それは決して揺るがない!!

 その啖呵を受けた否定の魔女トレヴィーニは驚きも怯みもせず、大きな笑い声を上げる。
 そのまま命知らずにも程がありすぎる戦いの決意をしたナグサに対し、笑いながら問い詰めていく。

「くくくく、ははは……はーはっはっはっはっは!! ならば問おう。ちっぽけな貴様に何が出来る!? 大国を滅ぼせてしまう力を持つ否定の魔女相手に、貴様のような存在が殺せるというのか!!」
「殺せないよ!!」
「何?」

 ハッキリと言い切ったナグサにトレヴィーニは思わず聞き返してしまう。
 ナグサは軽く首を左右に振り、己の非力さを認める。だがそれでもトレヴィーニを滅ぼす為の手段は考え付いており、その決意と手段をぶちまける。己が見つけ出した己の真の目的と共に!

「否定の魔女を滅ぼすのは僕一人じゃ無理だ。だけど否定の魔女に滅んでほしいと思うのは僕だけじゃない。大雑把に言ってしまえば大国に住まう者全てがお前の滅びを望んでいる! だからこそ僕は否定の魔女に対抗しよう。その為にこの大国から無数の仲間を手に入れ、確実にトレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガンの命を奪い取ってやろう! このオリジナル・カービィ大帝国に住まう否定の魔女の滅びを望む者達の代表として!!」

 まるで夢のような話。誰もがトレヴィーニに対する恐怖を抱いているというのに、なんと無茶苦茶な考えなのだろう!
 しかしナグサは本気でそれを実行しようとしている。
 無数の命を傷つけ、散らせていく否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガンを確実に滅ぼす為に、大国の力を借りようとしている。
 あまりにも愚かで単純で、けれども最も手っ取り早いその手段を聞いたトレヴィーニは満足そうに笑う。そしてすぐさま立ち上がり、ナグサに扇子を向けながら己も同じように言い返す。

「そうだ、それでこそ妾と戦う道を選んだ男だ! ナグサ、貴様はたった今から妾が愛するに相応しい男となった!!」

 トレヴィーニが愛する対象は、本気で戦える相手と認めたということ。
 八百年前に存在し、現在に蘇ったスカイピアの戦士ジスのように。
 世界大戦時、唯一否定の魔女と同等に戦うことが出来た魔術師マナ氏のように。
 たった今、否定の魔女は目の前の男が己の好敵手だと、己が愛するに相応しい者だと、新たに始まった戦物語の宿敵だと認めた!!
 トレヴィーニは扇子を軽く動かし、ナグサ達三人の前に小さなモニターを出現させる。
 モニターに映っているのは二対の塔だ。天まで届いてしまいそうなぐらい高い両方の塔に時計がついており、その間には巨大な鐘が設置されている。
 トレヴィーニは扇子を口元に当てながら、ナグサ達に試練を与える。

「ナグサよ、貴様にチャンスを与えよう。どうせこれから貴様等はドラグーンとハイドラの残りのパーツを集めるのだろう? なら、妾はドラグーンパーツがあるタワー・クロックにクウィンスを送り込む。……クウィンスを救える一世一代のチャンスだ。否定の魔女を滅ぼすと言った以上、妾に心を奪われた恩師を救ってみせるぐらいの力量を見せてみろ!!」

 その言葉を聞き、三人は思わずお互いの顔を見合った。全員思い切り驚いていた。
 まさかトレヴィーニ本人からクウィンスを救い出すチャンスを与えられるとは思っていなかったのだ。否定の魔女は裏切り者を嫌い、その報いを与えるならば周りの都合なんぞ一切無視して破滅を与えるとも聞いている。
 それなのに一体何故このようなことを?
 ナグサは冷静を装い、とんでもない事を口にしたトレヴィーニに尋ねる。

「へぇ? 裏切り者は嫌いじゃなかったのか、トレヴィーニ」
「それは己の意思で裏切った者に限るさ。あの馬鹿なベールベェラと違い、クウィンスは妾が誘導させたもの。それにこのようなギャンブルの対象にわざわざ怒ってどうする?」
「相変わらずムカつく言い方をするな。……だがギャンブルなら、僕の得意分野だよ」

 あ、認めた。
 ナグサの得意分野発言を聞いてミルエとツギ・まちは場違いにもそんな事を思ってしまった。
 トレヴィーニもその発言を聞き、笑みをこぼす。

「それはそうだろうな。恐らくこの大国、いや世界全体を見渡しても呪い人形の精神的地雷踏みまくって傷つけられまくっても生きていて尚且つ懲りずに地雷踏みまくったけど結果的に勝利し、軽トラを使って空を飛んでも無傷でこの地に降り立ち、終いには危険人物のオルカと戦って傷だらけの瀕死寸前だったというのにトラックに跳ねられても死ななかった強運過ぎる男なんぞ貴様ぐらいしかおらんだろう」
「……なんで人形屋敷の件知ってるんだよ」
「あぁ、覗いてたから。でもそれとこれとは関係無いから気にするでない」

 ナグサのどこかずれてるツッコミも軽く返したトレヴィーニは出現させていたモニターを消して、紅茶を飲む。
 全て飲み干し、空となったコップを皿に置くとトレヴィーニは小さくため息をついて目をゆっくりと閉じていく。
 それに合わせるかのように、壁が消える。床が消える。召使が消える。テーブルと椅子が縮んでいき、窓が大きく開かれて黄金の風が何も無い無の空間を黄金で包んでいく。
 椅子が消えても尚、その場に浮かされているナグサ、ミルエ、ツギ・まちの三人は少し困惑しながらもトレヴィーニを見つめる。
 トレヴィーニはゆっくりと目を開きながら、扇子を優雅に動かしながら告げる。



「お茶会は終了だ。新たなる愛しき宿敵達よ、この妾を退屈させるな。そして今度こそ否定の魔女の命を奪ってみせろ」



 その顔は――今まで見てきた純白の魔女の姿の中で、最も美しいと感じられた。

 次の瞬間、黄金の風が三人を包み込んで小型の竜巻となり、唯一残った窓へと次々に飛んでいく。
 竜巻から聞こえてくるわめく声にトレヴィーニは煩いと思わず、ただ歌うように呟く。

「――否定してやろう。ナグサの中にある偽りの記憶を否定してやろう――」

 その呟きは、己が認めた愛しき者に送る未来に通じる歌。
 歌を送られた張本人であるナグサに「否定」が通じると共に、一つの言葉が彼の脳裏に蘇る。

『僕が飛燕になればいい』

 それは――十年前から続いてしまっていた、過ちと偽りの引き金。




 ■ □ ■



 黄金の竜巻に捕まった三人は気がついた時、どさどさと三人揃って何かしらのシートの上に落ちた。

「んにゃぁ!?」
「(ぶみゅっ!)」
「ぐほぉ!!」

 上からミルエ、ツギ・まち、ナグサの順番で落ちた為、当然ナグサが一番ダメージでかい。その証拠に潰れた蛙の声が出た。
 その声を聞いたのか、三人とは違う男性が彼等に振り向いて姿を確認すると一同に向かって叫ぶ。

「ミル公達が戻ってきたぜよ!!」

 それを聞いて、複数名の声が内部に響き渡る。
 ミルエとツギ・まちに降りてもらい、ナグサは落下と衝撃で痛む体を起き上がらせながら周りを見渡す。
 規則正しくたくさん並んだシートに細長い丸を連想させる屋内――どうやら、ここは飛行機の中のようだ。良く見るとシートには既に散り散りになっていた筈の仲間達が座っている。
 その時、右斜め前のシートからぴょこんとちるが飛び降りてきて三人に駆け寄って心底嬉しいと言わんばかりの笑顔でナグサに飛びついてくる。

「おっと!」
「ナグサ君、ミルエさん、ツギ・まち! 無事だったんだね!!」
「~~♪♪♪」
「ちるちゃんも無事でよかった! ねぇ、ミルエ達で全員揃ったの?」

 ナグサが受け止める隣でツギ・まちとミルエが頷き、再開を喜ぶ。
 その際ミルエが出した質問に答えるのはちるではなく、飛行機内部で宙を浮いている娘……何故かこの中に混ざっている不揃の魔女ノアメルトだ。

「とりあえず全員だよー! 詳細を話している暇は無くなってきてるから、さっさと出発した方がいーよー!」
「でもトレヴィーニの結界は!?」
「ノアの矛盾で南方向のは消してるの~!」
「し、信用してもいけるの……?」
「今は味方、と本人が言っていましたよ。彼女は物語を最高の形で終わらせる為なら、必要最低限の協力は惜しまないって申し出てくれましたので」

 ノアメルトをいまいち信用できないナグサに対し、横から誰かが口出しする。
 ナグサ達が振り向くとそこにはコーダがシートに座って手を振っていた。四人は即、目をそらして近くの席に座り込む。ちるはツギ・まちのもとに行き、ツギ・まちと一緒に座る。
 全員がシートベルトを着用し、いつでも発信可能状態となると同時に豪鉄のアナウンスが内部に響く。

『アイアイサー! それじゃ出発するから皆、しっかり捕まっててよ。ドラグーンパーツとハイドラパーツ使って、一気に三日月島まで行くから!!』

 同時に飛行機のエンジンが点火し、飛行機にあるまじき猛スピードで滑走路を駆け抜けていく。
 当然内部にいる一同にもその衝撃が伝わっていき、あまりの強さに数名が声を上げてしまう。シートが無ければ全員が後部へと吹き飛ばされているぐらいだ、無理も無い。
 それでも尚、飛行機は加速していく。内部に積み込まれたドラグーンパーツとハイドラパーツは強く強く発光し、その力を飛行機へと注いでいく為により一層飛行機のスピードが上がっていく。
 最早ジェット機レベルの速さで飛び立とうとする飛行機――否、飛行機そのものと化した巨大豪鉄はタイヤをしまいながら叫ぶ!

『豪鉄、一世一代の大飛行……いぃぃぃぃっきまぁぁぁぁぁぁぁぁぁっす!!!!』

 同時に飛行機状態の巨大豪鉄は滑走路から大空へと飛んだ。
 トレヴィーニが出したサザンクロスタウンの結界はノアメルトの矛盾によって一時的に脱出方向のみ消されている為、何の障害も無くあっさりと一同を乗せた巨大豪鉄はあっという間に大空の向こうへと飛んでいき、その姿を消した。

 ■ □ ■

 同時に滑走路に各自の手段で転送してきた否定の魔女の配下達が出現するも、時既に遅し。一同を乗せた飛行機モードの巨大豪鉄が飛び立った事により、滑走路は無人と化していた。
 何も見えない大空を見上げ、一同がどうなったか察したオルカは地団駄を踏む。

「くっそ! 取り逃がした!!」
「ディミヌ! 連中の足取りつかめるか!?」

 ユニコス状態のキング・ダイダロスはモニターを使って顔を出しているディミヌに素早く尋ねる。
 だがディミヌからの返答は追うのは不可能、でもってとんでもない事実であった。

『言われなくてもやってますよ、馬鹿殿! で、でも……つかめてもスピードが異常すぎて把握しきれませ~ん!! あの人面飛行機、飛行機じゃなくてジェット機ですよ~!!』
「な、何ぃ!? おいおい、ハイドラパーツしか連中持ってないんじゃなかったのかよ!? ドラグーンパーツを持ってたのは確かセラピムって娘っ子だろ! その娘はスカイピアのジスに連れ去られたんじゃなかったのか!!」
『……残念ながら彼女からその力を感じることは出来なかった。恐らくノアメルト卿が奪い取ったんじゃないのだろうか? 今、彼等に肩入れしている不揃の魔女ならありえなくはない。彼女の能力は私達の主である閣下と似て非なるもの。使われてしまったら、その時点でこちらの負けだ』
「チッ! あのロリゾンビ、余計な真似をしやがって……!!」

 キング・ダイダロスが怒鳴りつけるものの、モザイクの冷静且つ一番可能性の高い推測を聞いてキング・ダイダロスは舌打ちする。
 その一方でディミヌは豪鉄達を追えないと判断する中、モニターの中でため息をつく。

『でも個人的には滅茶苦茶びっくりです~。あんな無謀にも程がある作戦で脱出するなんて……』
「むこう、のあ、ぱーつ、ある。ふかのう、かのう、した」
「それに加え、物質変換能力を使える能力者もいたのではないのでしょうか? それならば豪鉄が飛行機になるほど巨大化したのも頷けますよ」
『ログウと黒脚ケイトのこと? ノアメルトがいるとはいえど、無茶しすぎです~!!』

 ホロとクウィンスの推理を聞いても尚、ディミヌは頭を抱えて泣きそうな顔で頭を抱えながら声を上げる。
 その会話を隣で聞いていたジョーカーは意味が分からず首を傾げる。

「あひゃ? どゆこと?」
「……何となく理解できましたけど、これはディミヌが泣きそうになるのも無理は無いですね」

 色々なところを包帯で巻いている痛々しい姿のフル・ホルダーが呆れ半分驚き半分と言った様子で呟く。どうやら彼女は作戦の全貌を話から読み取ることが出来たのだろう。
 しかしジョーカーはそれでも意味が分からない為、解説を頼む。

「フル・ホルダー、分かったんなら解説してくんね?」
「分かりました。……多分これを聞いたらジョーカー、さすがのあなたでもふざけんなって叫びたくなるでしょう」
「???」

 頭に?を浮かべるジョーカーを他所に、フル・ホルダーは全員に聞こえるようナグサ達の脱出作戦について己がまとめた上で説明していく。

 今回、生き残った彼等が行った脱出手段は凄いシンプルなものだ。
 ドラグーンパーツとハイドラパーツから発せられるとんでもないエネルギーを使い、ログウとケイトの物体を分解させて再構築させる物質変換能力(簡単に言うと錬金術)を上昇させて飛行機と豪鉄を合体させる。
 合体が成功して、飛行機モードの巨大豪鉄の中に生き残ったメンバー全員が搭乗。
 全員搭乗後は再びドラグーンパーツとハイドラパーツの出番。この二つのエネルギーを存分に発揮させ、巨大豪鉄に分け与えさせる。
 それによってパワー全開を振り切るぐらいのエネルギーを得た巨大豪鉄で一気に三日月島まで飛んで脱出するというものだ。
 ぶっちゃけあまりにも無茶苦茶で無謀すぎる作戦なのだがトレヴィーニによる散り散り選定作戦と不揃の魔女ノアメルトの介入もあり、脱出準備組はトレヴィーニ側からの妨害を全く受ける事が無く、いくつかの不安部分はノアメルトの矛盾(協力理由:途中で墜落なんてオチはつまらない)によってどうにかなった為、無事に脱出する事が出来たのである。

 そこまで聞いた否定の魔女配下達の心の声は――

『トリプルチート(ドラグーンパーツ、ハイドラパーツ、ノアメルト)は反則すぎるだろーが、常識的に考えてッッッ!!!!』

 ――である。全くもってその通りである。

 まぁ、どんなに無茶苦茶だと不満をたれてもナグサ達に逃げられた事に変わりはない。
 この結果を受け入れようと配下達が落ち着きを取り戻す中、穏やかな黄金の風が滑走路に吹いた。
 その風に気づいた一同が一斉に風の集まっていく部分を凝視する。
 そこには既に己等の主である否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガンが扇子を広げて、そこに立っていた。

「貴様等、何を遊んでいる」
「いや、ナグサ達に思い切り逃げられたのは良いのかよ!」
『折角のチャンスでしたのに~!!』
「……なぁに、今回で終わるわけではない」
『といいますと?』

 オルカとディミヌの意義に対し、トレヴィーニは扇子を閉じながら答える。
 返答を聞いたモザイクはその意図がつかみとれず、尋ねる。
 トレヴィーニは己の配下達を見渡した後、楽しみで仕方ないと言わんばかりの魔女特有の笑みを浮かべてこう言った。





「これから物語は更に面白くなるということさ」





第三章「サザンクロスタウン」終了




 
 ■ □ ■



否定の魔女第二部予告



 ――新たに絡み合う、運命の糸――

「トレヴィーニを滅ぼすというのならば、私と関わらないわけにはいきませんね」
「あなたが……マナ氏」
『ってかサザンクロスタウンから脱出してたの!?』
「はい、私がマナ氏です。さてと六年前の最終決戦についてお話しましょうか。色々と突っ込みたいでしょうが、その辺は置いといてくださいな」
『自分無視ですかい』

 ――マナ氏の言葉から知らされる六年前――



 ――蘇ってしまった最悪の古代王国――

「どんなに時が経とうとも、俺達の目的は変わらない。だから……愚劣なる地上の民よ。スカイピアに歯向かう事を止めろ」
「残念ながらそれは出来ない相談だよ、ジス」
「……そうか。何時の時代でも貴様等の愚かさは変わらないということか」
「いいや、それは違う。……スカイピアが馬鹿すぎるだけだ!!」
「!! そこまで言い切るとは……、ルヴルグ! 死ぬ覚悟は出来ているのか!!」
「それはこちらの台詞だ! 『神の為の剣<エデル>』の長ジスよ!!」

 ――空中王国を相手に、大国防衛隊が立ち上がる――



 ――鎮魂歌の名を持つ街に集う反乱軍――

「私達は今の大国に従えません。……私達は私達の手で本当のカービィ達の国を作りたいのです」
「だからこそ、その邪魔をするというのならば……容赦はしない」
「話は理解出来たな? チャ=ワンと狐の小娘よ」
「ヨウイン殿……!」
「意味わかんないよ。今、否定の魔女が蘇って大変な事になってるんだよ!?」
「だからだよ。否定の魔女が蘇っているからこそぼくもシズクも輝もヨウインもユピテルもネイビーも……ううん、反乱軍全体が動くの」
「……そうか。ならこのチャ=ワンがその陰謀を阻止しよう」

 ――彼等が望むのは本当の王国――



 ――時を司る塔の中、二つの緑が運命に導かれて再会する――

「どんなに珍妙な空間に飛ばされようとも、私の任務には何の支障もございません」
「……クウィンス」
「飛燕、あなたは私を捨てたのです。私を殺そうとしたのです。だから……私もあなたを殺します」
「それは君の憎しみからか?」
「いいえ、あなたの罪に対する罰です」
「そう、か……」

「駄目だ、クウィンス! 駄目だああああああああああああ!!!!」

 ――過去と今が絡み合い、未来に紡がれる糸は見つけ出せれるのか――



 ――深い深い海の底に眠るのは、何か――

「な、なぁ、フー……。海底神殿の前にいるのって……」
「どう見ても龍だね。それもかなりでっかいの」
「すっげー綺麗な笑顔で肯定するなよ!?」
「カービィ十体ぐらいは丸呑みできちゃいそうなぐらいでかいじゃん、あいつ!!」
「ねぇ、アンダー。あの龍、どんなのか気づいてる?」
「「「って無視すんなー!!」」」
「……気づいてはいる。龍が何者なのか、そして海底神殿への潜入が如何に困難か」
「うん、それならいいの。……あの龍は八百年前の象徴だってことに気づいていればね」

 ――八百年前の象徴たる「龍」とは、何か――




「妾を……退屈させないでくれ……」




 ――純白の魔女が呼び起こす物語のページが次々とめくられていく!




「ようこそ、三日月島へなノ!」
「僕、ルク! そんでもってこっちは夏湯だよ!」
「あ、どうも……」

『とりあえずマスターの不幸は続く、という事は確定されちゃったわぁ』
『……マジっすか?』
『大マジ』
『……普通の生活に戻らせてえええええええええええええ!!!!』

「ソプラノちゃんファンクラブ会員№86いっきまあああああああす!!!!」
「……歌の嬢ちゃんよ。ファンってーのはこういう連中ばっかぜよ?」
「ううん、熱狂的なだけだと思う。まぁ、この状況に関しては感謝するけどね」

「一体どーなってるんだってヴぁ!?」
「あはははは! こあめっちとヴぁヴぁヴぁのあんたの相性が超悪いのよ~! そ~んなことも分かんない地上の奴と戦うなんてシエル、こあめっちに同情しちゃうな~」
「なら、たたかって」
「……言われてるぞ、お前」
「う、うっさい! 戦えばいーんでしょ、戦えば!!」

「……スーラさん。海底神殿内部にパーツがあると仰られたようですが俺の聞き間違いでしょうか?」
「いいえ、残念ながられっきとした事実。マナ氏がそこに隠したのは確認済みですわ」

「こ、この塔……どこまで高いの?」
「エレベーターは無いから自力で上がらなきゃいけないからね、これ」
「上るのなら能力は各自自由に使ってもいいことになってるんで安心してください!」
「セツよ、それはホバリングでしか飛べない僕に死ねと言っているようなものだぞ」



 タワー・クロック、スカイピア、レクイエム、ブルーブルーの四つの都市を巡る大冒険!



 果たしてナグサ達は否定の魔女を滅する事が出来るのだろうか――!







 否定の魔女第二部、新スレにて近日スタート!!







 ★不揃の魔女からのお願い☆

「この予告は本当か嘘か分からないから気をつけてね♪」

















  • 最終更新:2014-05-28 00:17:22