第一話「トレヴィーニ」

旅立ちは風に乗って


 黄金の巨大竜巻が一つの大陸を覆っていた。
 絶対的な力に数多くの災害が生まれていく。だけど人々にとっては風が止んだ後の事を恐れていた。
 黄金の風の出現。それ即ち、否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガンの復活なのだから。



 否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガン。
 そう名乗った目の前の彼女にナグサは己の目と耳、いや今現在起きている事そのものを疑った。

「嘘、だろ……?」
「何故このような状況で嘘をつかねばならん。それに起きた事は思考や理解が置いてけぼりになる程の滅茶苦茶なカオスではない。ナグサが妾を復活させた、それだけのことではないか」

 震えた声をこぼすとトレヴィーニはあっさりと否定し、容赦なく事実を叩き付ける。
 益々ナグサの頭の中が真っ白になっていく。
 畏怖を、焦りを、不安を、後悔を感じ取り、グチャグチャに混ざっていく。混ざっていく感情は何と言えばいいのか分からない。絶望よりも深く暗い感情だ。

「……ナッくん、大丈夫?」

 表情がどんどんと沈んでいくナグサを心配したミルエは顔を覗き込む。だけどナグサは聞こえていないのか、顔を俯かせている。その様子を見たトレヴィーニは小さくため息をついた。

「妾を目覚めさせたぐらいでそこまで落ち込むか、普通?」

 その言葉にナグサは小さく反応し、ぽつりぽつりと返していく。

「ぐらい……じゃないよ。僕は、覚えているんですよ……?」
「妾の行った遊びの事か。貴様等は世界大戦などと大袈裟に呼んでおるみたいだが」

 遊び。
 否定の魔女からすれば世界大戦など、遊びに過ぎないのか。ナグサは百合のように白く美しく、だが不気味で恐ろしい彼女の言葉に少しの憤怒と大量の畏怖を感じてしまう。
 トレヴィーニは扇子を口に当て目を閉じ、過去を振り返る。

「しかしあの時代は本当に良かった、今でもハッキリと瞼の裏に浮かんでくるよ。領土と支配を巡る小国同士のぶつかり合い。血で血を洗う悲鳴と咆哮が止む事が無かった殺戮の戦場。圧倒的な力と兵力を持つ自我を手にした機械。戦士達を翻弄させた不可解且つ不可思議な魔法。弱小民族の領土を得る為だけの皆殺し。生まれてすぐに死んでいく哀れな赤子、幼子達。一人殺したら人殺し、百人殺したら英雄、万人殺したら神。それ故に英雄と神が多く生まれていった。大地は荒野と化し、町は廃墟と化し、生ある者はあっさりと死体と化していく。死と血肉と本能に包まれた殺戮と戦慄の時代。これ程素敵な時代は存在しない。例えるならば――至上の極楽だな」
「ふざけんなっ!!」

 過去に酔いしれていくトレヴィーニの言葉に、ナグサは咄嗟に大声で怒鳴った。
 その言葉にトレヴィーニは怒りも驚きも感じていないのか、ただ目を開いてナグサを見つめるだけ。
 出来たばかりの真珠のように清んでいて、己だけを映す白の中でも一際目立つ赤色の瞳に吸い込まれそうだと一瞬思ったが、ナグサはすぐに首を左右に振ってトレヴィーニに叫ぶ。

「極楽なんかじゃない! 地獄だ! 地獄以外に何がある!! 何時死ぬか分からず、怯えるしか出来ない事の何処が極楽だ!!」

 精一杯に叫ぶけどその声は凄く震えていて、目尻には涙が溜まっている。どう見ても強がっているのは明らかだ。
 だけどトレヴィーニの非道すぎる言葉をただ黙って聞いている事は出来なかった。あの恐ろしい時代の中、運の良い事に生き残れたからこそ、あの惨劇をこんな楽しそうに言われて黙っているわけにはいかなかった。

「ナッくん……」

 ミルエはナグサの悲壮な叫びを聞き、彼の名前を呟く事しか出来なかった。
 一方のトレヴィーニはというと驚きもせず、震えていた。明らかに恐怖とかそういったものじゃない。彼女は声を押し殺している。
 何の為にと思った次の瞬間、トレヴィーニは耐え切れなくなったのか大声で笑い出した。

「ぷ、くく、くふ、くふふふ、ふははははははははははは!!!! そうだ、そうでなければならない!! 妾にただ怯えるだけの男などいらん! 妾が欲しいのは度胸と勇気、それに見合う力を持った男よ! 己のちっぽけな好奇心と笑われた事によるちっぽけな意地により否定の魔女を蘇らせた男よ。妾を目覚めさせた責任をとってみせよ!! 貴様の度胸と勇気と力でなぁ!!」

 そう言って笑う彼女は肉食獣、否、魔王だった。
 真珠と思った丸い瞳は鋭くつりあがった鷹の目となり、けれども扇子を当てる口は隠れて見えない、だからこそ鷹の目を余計に際立たせる。美女と捕食者の顔、両方が宿るそれは魔王・魔女という表現が相応しかった。
 狂っている。これが、否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガンなのか。
 ナグサは普通はありえない感覚・考えを持って、嬉しげに笑うトレヴィーニを見て、そう感じ取ってしまった。
 一通り笑い終えるとトレヴィーニは扇子を口から離すとすぐに穏やかな笑みを浮かべる。

「それならば幾分かハンデをやらんとな。ここで戦ってもつまらんし、妾の風を先ほど大陸全土に広げたばかり。妾の力は何よりも優れている、その気になればワンサイドゲームが出来る。だがそれではあまりにも一方的過ぎるしつまらんにも程がある。だからこそ妾は暫く何処かに消えようぞ」
「消えて、何をする気?」

 何かやらかす気満々のトレヴィーニにナグサはミルエをかばうように前に出て問い詰める。恐ろしいという思いは消えていないが、向こう側に戦意が無いのならば逆に冷静になるべきだ。
 トレヴィーニはあっさり答えた。

「第二次世界大戦」

 その言葉にナグサもミルエも目を見開いた。
 第二次世界大戦。それ即ち、再び地獄を繰り返すと言う事。再び死者を増やす事。再び悪夢を見せ付ける事。再び孤独を生み出す事。やっと統一した大国を破滅に導く事。
 トレヴィーニは二人が口を開くよりも前に、口を開く。

「それが嫌ならば妾を止めてみせよ。小さなお前達が妾を倒してみせよ。こういう遊びはライバルがいないと楽しくないからな」

 最後は子供と全く変わらない無邪気な笑みを浮かべる。次の瞬間、何の前触れもなく魔女は消えた。少しずつ消えていったわけでもなく、光と共に消えたのではなく、本当に唐突に消えたのだ。
 同時に部屋に吹いていた黄金の風はピタリと止み、どさどさと宙に浮いていた本やら軽いものが落ちていく。

「あだっ!?」
「ひゃう!」

 ナグサ、魔道書の角がおでこに直撃。ミルエ、枕が頭に直撃。ミルエはともかくナグサは痛い。
 魔道書の直撃にナグサがおでこを抑えてのたうち回る。ミルエが必死に「いたいのいたいのとんでけー!」と言ってくれるけど、痛いものは痛い。
 さっきのシリアスムードから一転してきたかと思ったその時、勢い良くドアが開き、二人のカービィが入ってきた。その際、大きな音が響いた為、ナグサとミルエが振り向く。

「~~~!!」
「はぁ、はぁ……な、ナグサ君無事ですか!?」

 そこにはツギ・まちとクウィンスがいた。
 ツギ・まちはミルエを見つけるや否やすぐさま駆け寄っていき、クウィンスに至っては息切れを起こしていて肩で息をしてしまっている状態だ。
 ナグサは思わぬ訪問者に驚きながらも慌てて彼女に話しかける。

「く、クウィンスどうしたの!? すっごい疲れてるみたいだけど……」
「当然ですよ……! あの風の中、図書館からここまで走ってきたんですから……!!」

 そう答えるクウィンスにナグサは先ほど、「風を全世界に広げた」というトレヴィーニの言葉を思い出す。
 どうやらこの部屋は止んだものの、他の場所はまだ暴風状態なのだろう。その証拠に廊下から黄金の風が吹いている。消えるならばせめて風を止めろ。

「まっちん、どーしたの? え、黄金の風がいきなり吹いて大変だった? しかもこのお部屋のドアが開かなかった?」

 一方でミルエはツギ・まちから事情を聞いていた。喋れない彼にどうやって事情を聞いているのかは分からないが。
 あたふたと両手を振るツギ・まちにミルエは軽く頷きながら翻訳していく。

「ラジオをつけたら大国全土で風が吹いているニュースでいっぱい……?」
「そうです。先ほど本城にいる友人に電話したところ、世界規模で黄金の風は発生しているのです。もう何処のニュースでも流れていますよ。あの否定の魔女が復活したと」

 それに答えるのはツギ・まちではなくクウィンス。台詞(?)を取られたツギ・まちはご機嫌斜めになったのか、ハムスターのように頬を膨らませる。が、すぐにミルエに頭を撫でられたので機嫌が良くなった。
 可愛らしいやりとりを他所に、ナグサはクウィンスに神妙な顔でたずねる。

「そんなに酷い状況なのですか?」
「はい、色々なものが飛んで飛んで飛びまくっていましたよ。先ほど空飛ぶ大きな茶碗を見かけましたし」
「ち、茶碗? 何でそんなのが……」
「ちなみに中身付でした」
「良くこぼれなかったな、おい!!」

 クウィンスの余計な付け足しにナグサは条件反射と言ってもいいぐらいの裏手ツッコミを入れた。ツッコミどころずれてるけど。
 クウィンスはナグサのツッコミをスルーし、警戒した様子で問う。

「ところで……否定の魔女は?」
「好き勝手ほざいてから消えた。ハンデをくれてやるから自分を倒してみろってね」

 だから今ここにはいない。
 ナグサはそう付け足しながら、自分に直撃した魔道書を拾う。さっきまでトレヴィーニと一緒に浮いていたというのに、今はただの本と変わらない状態だ。
 もしかして角に当てたのは魔女の嫌がらせじゃないだろうとな、とナグサが思ったのと同時に、クウィンスはいきなり口を開いた。

「……三人ともさっさと旅立ちの準備を。魔道書はここに置いていってください」
「「へ?」」
「?」

 クウィンスの発言の意味が分からず、三人は首を傾げる。それを見たクウィンスは少し呆れながらも説明する。

「この風が止み次第、こちらに大国の使者が来ます。大国の友人と電話している真っ最中に風が吹き始めましてね。しかもよりにもよって事情をあらかた話した後」
「……それってつまり?」
「図書館での銃撃戦とミルエが魔道書を保持していた事を話してしまいました。それと大国で最も有名な占い師の予言に『魔女を復活させるのは少年』というものがあったようなのです。これがどういう意味か分かりますか?」
「トレヴィーニと対峙したばっかだから十分すぎるほどに」

 つまり魔道書を盗んだミルエとツギ・まち、不本意にも否定の魔女を蘇らせてしまったナグサも大国に狙われる可能性が高いということだ。大国は世界大戦の勝者であり、六年の時が経っていてもその実力が衰える事は無い。寧ろパワーアップしているとも聞く。
 否定の魔女を封印する時に生き残った実力者達はまだまだ現役。色々なニュースで活躍しているのをたまに見る事があるぐらいだ。……勝てる気がしない。
 だからこそ、クウィンスは真剣な顔つきで話を続けていく。

「だからここから離れてください。そして、責任を取ってください」
「責任?」
「はい。あなた達は否定の魔女を復活させてしまった事に対する責任です。責任の取り方は唯一つ。人々を納得させる方法で否定の魔女を再び封印する事です」

 その言葉にナグサは一瞬目を見開くが、すぐに納得してしまった。
 当然だ。誰も二度目の惨劇を望んでいない。誰も否定の魔女の蘇りなど望んでいない。否定の魔女が復活した事実は黄金の風によって全ての人々が知っている。ならそこから来る心理は何だ? 決まっている。復活させた罪人を裁け、それ相応の罰を与えろという強大な怒りだ。
 それが起きる前に、それを目の当たりにする前に自分達は否定の魔女を再び封印しなければならない。ナグサは深く決意する。

「分かった。なら本城と城下町には行かない方が良い?」
「……今の段階ではそうですね。それよりもマナ氏を探す方が宜しいかと」
「まなし? 誰それ?」
「魔女封印の手段を誰よりも早く解明し、それを実行した人物です。元は大国本城の魔術師でしたが今は本人曰く隠居生活を行っています」

 否定の魔女封印を行った魔術師マナ。大国本城に行くのが危険な今、彼に出会い再封印を行う事がベストな選択だ。
 だがナグサはクウィンスの言い方が少し引っかかっていた。

「あの、一つ聞いていい?」
「何ですか?」
「……探すって、つまりその人の場所、分かってないって事と見ていい?」
「はい。でもご安心を。手がかりとなる人物は複数存在しています」
「うわぁ、すっごい手間がかかりそうな旅になりそうだ……」

 返ってきてほしくなかった答えにナグサは一気に気落ちする。自分が起こしてしまった事態とはいえど、出来れば楽に済んでほしいのだが世の中そう上手くはいかないようだ。
 そんなナグサを見て、クウィンスは優しい微笑を浮かべて元気付ける。

「大丈夫。確かに否定の魔女は驚異的存在ですが、決して勝てない相手ではありません。私達カービィが大国に纏まる事が出来たのがその証拠です。だから自分と自分を信じてくれる人を信じて進みなさい」

 優しいその言葉に、ナグサは己の中に溜め込まれていた不安と恐怖が和らいでいくのを感じた。
 クウィンスは自分よりもずっと大人だ。言うべき事はしっかり言い、フォローも忘れない。傷つけたままにはしない優しい人。世界大戦の時、何度彼女に救われたことだろう。思い返すとキリが無い。
 己を励ましてくれた彼女に、ナグサは礼を言う。

「ありがとう」
「どういたしまして。……それでは話も纏まった事ですし、早々に旅立ち準備を」

 そう言ったクウィンスにナグサ、ミルエ、ツギ・まちはしっかりと頷いた。

 ■ □ ■

 思ったよりも準備に時間はかからなかった。
 ミルエとツギ・まちは一応旅人である為手馴れているし、ナグサも本当に必要最低限なものだけを持っていく事にしたからだ。
 ナグサの部屋以外はまだまだ風が吹いているが、吹き始めた時に比べるとかなり弱くなっている。ただしあくまでも屋内の話であり、家そのものは外の暴風でガタガタと揺れている。一歩でも外に出てしまうと確実に吹き飛ばされてしまうだろう。だがそれは逆に好都合だ。今旅立てば行方不明ということでごまかす事が出来るし、クウィンスも口裏を合わせてくれる。
 ナグサにとっては弟分に話していないのが気がかりであるものの、その辺はクウィンスがどうにかすると言ってくれた為、彼女を信じる事にした。
 四人は裏口に集まり、何時でも出発する体勢になっている。クウィンスはダミー本の表紙を開き、その中から地図と紙をナグサに渡す。

「ナグサ君、これを」
「地図はともかくこっちの紙は?」
「魔女封印時に活躍した方々の中でもマナ氏と特に仲が良かった人達をピックアップしました。それぞれ何処に住んでいるかは既に書いています。……と言っても大半が大国本城にいる為、探すのには苦労がいるでしょうけど」
「……それでも全員じゃないんだよね」
「はい。ハッキリ言ってマナ氏は秘密主義者らしいので情報が得られるかどうかは分かりません。……だけどそれでもあなた達は行かなければいけません」

 クウィンスはナグサをしっかりと見つめながら言い切った。ナグサは強く頷く。

「うん。行かなきゃいけない。……否定の魔女を復活させた責任を取る為に」

 そう言ってナグサは地図と紙をリュックの中にしまい、ミルエとツギ・まちに振り向く。

「二人とも、良い?」
「何時でもオッケーだよ~!」
「!」

 ミルエとツギ・まち共に元気良く答える。
 ナグサは二人の答えを確認すると、勢い良く裏口の扉を開く。直後、黄金の暴風が一気に屋内へと入ってきて四人へと襲い掛かる。全員一瞬壁に吹き飛ばされそうになるものの何とかその場に踏ん張り、壁にぶつかるのを防ぐ。
 ミルエはゴーグルを目につけると隣に立つツギ・まちに問う。

「まっちん、何時もの行ける!?」
「!」

 ツギ・まちは力強く頷く。その表情は自信に満ちている。それを見たミルエは明るい笑顔を浮かべて頷くと、ナグサに振り返って手を伸ばす。

「おっけー! そんじゃ、ナッくん行こう!!」
「うん!!」

 ナグサはミルエの手をしっかりと握り、勢い良く頷いた。
 ミルエはすぐにもう片方の手をツギ・まちの背中から突き出ている棒キャンディもどきをつかむ。同時にツギ・まちが暴風吹き上げる外に向かって飛び出していった。
 そのまま黄金の風に乗って天高く上がっていく。ナグサの家なんかよりもずっとずっと天高く。どんどんと空へと飛んでいく。風が三人を上から上へと吹き上げていく。その最中、ツギ・まちの体はどんどん大きくなっていく。風船が膨れていくかのようにどんどん大きくなっていく。
 あっという間にツギ・まちはナグサの家と同じぐらいの大きさとなり、ナグサとミルエは彼の背中にしがみつく形となった。

「す、すごっ! ツギ・まちどーなってるの!?」
「まっちんは自分の体を自在に操る事が出来るのだー!!」

 ツギ・まちの巨大化にナグサが驚く隣で、ミルエは嬉しそうに解説する。ツギ・まちもそれに合わせて勢い良く片手を上げる。体そのものは動かしていないので二人に衝撃は無い。
 仲良しな二人にナグサは和むもののそれは一瞬。空を飛ぶ中、暗い面持ちになって二人に謝罪する。

「……ごめんね。巻き込ませちゃって」
「へ? ナッくんどーしたの? 悪いの……ミルエなのに」
「だって僕が余計な事をしなかったら……」
「気にしてないよ」

 暗い顔をするナグサに対し、ミルエは首を横に振る。そして極上の笑顔でナグサにこう言った。

「それにミルエね、ナッくんともっと仲良くなりたいの」

 ひまわりのように明るく可愛いその笑みとある意味とんでもないその台詞にナグサの顔が一気に赤くなる。が、すぐさま顔を左右に振り、慌てながらこう言った。

「か、勘違いしないでね! 僕はただ魔女を復活させてしまった理由で旅出たのであって、君に対して変な感情は持っていないから! だから変な勘違いしないでよ!? 分かった!?」
「ほえ?」

 あぁ、何て分かりやすいツンデレ。でも伝わってない。
 ツギ・まちは己の背中の上にて行われているやりとりを聞きながらそう思ったのであった。

 ■ □ ■

大国の戦士達


 大国本城内部に吹き荒れていた黄金の風はほぼ止みかけていた。
 そのおかげで城下町の住民の避難も安全となり、防衛隊全隊の活躍もあって最悪の事態は免れた。ただし損害は免れておらず、かなり酷い事になっているエリアも多々存在している。しかも住民の何人かは暴風によって飛んでしまい、そちらの救出活動もしなければならない。
 しかもその暴風、黄金の風を起こした原因は復活した否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガン。風が止み次第、速攻で否定の魔女問題にも目を向けなければいけない状態なのだ。
 一気に数多くの問題を抱える事になった大国の皇帝と防衛隊は今、必要最低限の人数のみ玉座の間にて会議を行っていた。

「黄金の風は屋内こそ止み始めたものの、屋外は逆に勢いを増しています。今現在外にいるカービィに避難警報を出していますが、既に飛んでいってしまった者もいます。この様子では最低でも三時間、最高で半日以上は続くと思われます」

 書類を手に持ちながら現状説明を行うのは黄緑色のケープを被った薄い緑色のカービィの飛燕。
 雑用係が他の者達に同じ書類を渡していく。書類は分厚いものの中身は全て否定の魔女に関する情報だ。当然その中に黄金の風についての事も書かれている。
 飛燕の説明を聞き、先端が四つに分かれて装飾品のついた帽子と目を隠す仮面を被った女性ルヴルグはうんざりした様子で呟く。

「まだまだ風に振り回されそうだな」
「でも避難は完了していますし、当面の問題は障害物の排除と行方不明者の捜索。その後の問題は当然……彼女しかいません」

 ルヴルグの呟きを聞き取ったのは色とりどりの幻想的な翼を持ち、大きな羽のような耳が特徴的なコーダだ。
 コーダが言った「彼女」という言葉に反応するのは背に刀を吊るしているイブシだ。

「問題は否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガンだけじゃない。奴を蘇らせた馬鹿を見つけ出す事も重要だ」
「ん? ミルエ・コンスピリトじゃないんですか?」

 イブシの言葉を聞き、首を傾げるのは羽の生えた帽子を被ったアカービィだ。アカービィと同じように他数名も首をかしげている。
 彼等に説明を入れるのはイブシではなく、ベェラだ。

「ネビュラの予言では少年が魔女を復活させるとありましたわ。それに先ほど電話でクウィンスから聞いたところミルエは彼女の知り合いに保護されているらしいですし」
「知り合い、といいますと?」

 角の生えたカービィのユニコスが首を傾げる。

「ミルエを保護した人物ですわ、もしそれが少年ならばその者が復活させた可能性もありますの。ですが誰か聞く前に互いに切ってしまいました」
「うわ、本末転倒」
「いきなり黄金の風が吹いてきて電話どころじゃなかったのです。ってか職務サボって昼寝して、挙句飛ばされかけたあなたには言われたくないのですが」

 ウォルスのコメントにベェラは説明を付け加えてからすぐに言い返す。言い返されたウォルスは何も言えなくなり、黙り込む。

「情報も確かに必要ですが、防衛隊はあくまでもこの大国防衛を優先するもの。この場合ベェラの判断は正しいですよ。それを本末転倒と言い切るのはまだまだ未熟と言う証拠だと私は思いますが?」

 続けてコーダがウォルスに厳しい口調で言う。ウォルスは益々何もいえなくなり、顔を俯かせる。毒舌二名と相手して勝てる自信は無い。
 一同は何時もの事だと軽く流しながら、本題へと戻る。イブシは両手を組み、簡単にこれからの事を纏める。

「風が止み次第、否定の魔女捜索と魔女復活の犯人捜索だな。飛燕、おめー犯人特定出来るか?」
「当然。クウィンスは今東南に位置する町の図書館勤務だからその周囲を調べてみるよ」
「あ、僕も手伝うよ。情報を出すなら得意だし」

 情報通である飛燕が得意げに答える。それに続くのは現在実体化しているコンピュータープログラムのZeOだ。この二人に任せておけば犯人の特定は容易であろう。
 イブシは二人の申し出を聞き、軽く礼を言ってから次の指示を出す。

「ありがとよ。んじゃミルエ・コンスピリトとツギ・まち両名の探索も一緒に頼むぜ。間接的にとはいえど、魔女復活に加担している。魔道書を盗んだ張本人だからな」
「分かってるよ、イブシ隊長」
「あ、そういえば黄金の風が吹いてる途中で何でも屋から一つ連絡が入っていました。話してよろしいでしょうか?」

 イブシの指示に飛燕が答えた隣で、雑用係として呼ばれていたアメルが手を上げる。イブシが「いいぞ」と答え、一同が彼女に注目する。アメルは軽く会釈すると話し始める。

「何でも屋のラルゴ氏からの連絡ですが『ミルエの追跡を行う。良い助手を拾ったので無理矢理同行させている為、前回のようなヘマはしない。犯人捕まえたら2500万Od宜しく』となっておりました」
「に、にせんごひゃくまんおだ!? 何でそんなベラボォにたっかい請求を!」
「それがあの何でも屋だ。腕はあるがその分高額請求なんだ」
「どこのBJ?」
「というか助手を拾ったって、それ思い切り誘拐じゃないか?」

 あまりの高額に零式が思わず声をあげ、ホワイトが冷静に付け加える。アカービィとユニコスは連絡内容についツッコミを入れている。
 一方でベェラはアメルに視点を合わせ、凄い真剣な顔で確かめる。

「……アメル、ラルゴとの連絡はまだ出来ますのよね?」
「あ、はい。向こうが切ってさえいなければ」
「なら、後ほど値下げ交渉します。……2500万Odも払ってたまるものですか」

 最後に小さく呟いた言葉は、この場にいる隊長格全員の心を代弁してくれた。確かにこんなアホみたいな値段、普通は払ってやろうとは思わん。
 だがしかしそれを聞き取った上で、訂正した人物がいた。

「別に構わん。その程度の額ならばな」

 そう言った人物に一同は一斉に体を向ける。
 玉座に座り、今まで会議を黙って聞いていた最高責任者であり大国皇帝――エンペラー。彼は言葉を続けていく。

「2500万Od程度ならば払える額。それをわざわざ値下げする必要性は無い。……それよりも早くこちらが保護すれば良い事でもあるしの」
「……あー、なるほど。こっちがミルエとツギ・まちと犯人捕まえてしまえば、払う意味ありませんね」

 コーダがうんうんと頷きながら納得する。確かにそっちの方がはるかに早いし、面目もつぶれない。
 だが飛燕はその点に関しての問題点であるミルエとツギ・まちについて話す。

「ですが陛下、ミルエ・コンスピリトは大戦のあの事件では銃器狂、銃の戦乙女と呼ばれるほど活躍している上に、あの人の血縁。ツギ・まちはグルミィが関わっている人形です。二人を捕まえるというのなら、生半可の者では無理ですよ」
「その点に関してはお前達の中から数名出したいと思う。……構わんか?」

 エンペラーの問いかけに全員頷く。
 もとより一般兵如きでどうにかなる相手でも無いし、隊長格が行った方が早い。それに隊長格は大戦で活躍した“英雄”なのだ。負ける姿の方が考えられない。
 頼もしい彼等にエンペラーは満足そうに頷くと、勢い良く声を上げて命令する。

「一番隊隊長イブシ、副隊長アカービィ。二番隊隊長飛燕、副隊長零式。三番隊隊長ベールベェラ。四番隊隊長ホワイト、副隊長ユニコス。五番隊隊長コーダ。六番隊隊長ルヴルグ、副隊長ウォルス。プログラムZeOに命ずる! 否定の魔女と魔女復活を行った犯人、及び魔道書強奪を行ったミルエ・コンスピリトとツギ・まちの位置を特定。後者三名は確実に捕獲せよ!! 手段は諸君等に任せるが決して殺すな!! 尚、現在不在の三番隊副隊長シルティ、五番隊副隊長レイムにも連絡を怠らずに! それでは解散!!」
『了解!!』

 エンペラーの指示を聞き、彼等は一斉に玉座の間から出て行く。雑用係として呼ばれたアメルもまた同じように出て行き、己の所属する部隊に戻っていった。

「……否定の魔女よ、今度こそ貴様の望みかなえてやろう」

 全員がいなくなったのを見計らい、エンペラーは一人呟いた。




次回・第一章<人形屋敷>




 ■ □ ■

次回予告

「おぉ、大きなお屋敷ー!」
「何か不気味すぎて入るのに躊躇するんだけど……」

 ナグサ一行が最初にたどり着くのは大きなお屋敷。とっても不気味なお屋敷。

「怖がらなくていいよ。ただ夜中は色々な意味で歩き回らない方が良いよ?」

 屋敷の家主の不気味な忠告。家主そのものも奇妙な外見をしているから、余計に恐ろしい。

「……早く、ここから逃げて。お願いだから」

 屋敷の何処からか聞こえてくる不思議な声。




  • 最終更新:2014-11-08 18:39:30